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パネルディスカッション(全4記事)

働く男性が感じる「社会全体の風潮」からのプレッシャー 匿名掲示板に寄せられた、ダイバーシティとキャリアの「モヤモヤ」

女性が「一歩踏み出すきっかけ」を与える活動を行うLean In Tokyoは、Facebook社COOのシェリル・サンドバーグ氏が立ち上げた団体Lean Inの日本地域代表団体です。今回の国際男性デー記念イベントでは、当団体が行った「男性が職場で感じる『生きづらさ』とDE&I推進に関するアンケート」の調査結果をもとに、誰もが生き生きと輝ける社会を目指すために必要な考え方について議論が行われました。本記事では、男性ゲスト2人がなぜダイバーシティ推進に取り組むのか、その理由を語りました。 ※前の記事(調査結果編)はこちら

ライフワークでDE&I活動に取り組む理由

司会者:それではさっそく、登壇者の紹介とゲストのパネルディスカッションに入らせていただきます。ここからは、Lean In TokyoのイベントチームメンバーのAyakoさんにファシリテーターをしていただきたいと思います。どうぞよろしくお願いいたします。

小山綾子氏(以下、小山):よろしくお願いいたします。ここからの進行を担当しますLean In TokyoのAyakoと申します。本日は豪華なゲストを交えて、今回の調査結果について、また最終的に「DE&I推進」が、社会にとって、企業にとって、なぜ必要でどうしていくことが求められているのかということを議論できたらと思っております。よろしくお願いいたします。

それではゲストのお2人をお呼びしたいと思います。栗原さん、田中威津馬さん、よろしくお願いいたします。

栗原健輔氏(以下、栗原):よろしくお願いいたします。栗原です。

田中威津馬氏(以下、田中):よろしくお願いします。

小山:お願いいたします。ではまずおひとりずつ、自己紹介をしていただきたいと思います。はじめに栗原さんからお願いしてもよろしいでしょうか。

栗原:よろしくお願いします。ご参加のみなさんはじめまして。デロイト トーマツ グループでパートナーをしております、栗原と申します。本日はよろしくお願いいたします。簡単にスライドに私の経歴を書かせていただきました。

実は私、ふだん人事はまったくやっておらず、本業は公認会計士として会計監査業務に従事しております。このDE&I活動は完全に私のライフワークのようなかたちで、本業とは別に取り組ませていただいています。

会社の制度で2012年からシンガポールに駐在させていただきました。そこでの経験も、自分が今DE&Iに取り組む1つの原因にもなっているかなと思います。

妻や娘たちに、このままの日本を残していきたくない

栗原:私の家族構成なのですが、フルタイムで共働きをしている妻と2人の娘がおります。いわゆる家庭ではマイノリティってやつですかね(笑)。会社では周囲に男性が多い一方で、家に帰れば女子・女性が多数の環境のため、男女比率的には、いわゆる“会社ではマジョリティ、家ではマイノリティ”という状態になります。

子どもが生まれてから、家事育児を妻とシェアをして半々でやっており、例えば週に2回お迎えに行って、ご飯を作って食べさせて、宿題を見て、お風呂に入れて、寝かせて。そこから仕事が残っていれば、またパソコン開けてという、ママさんたちが普通にやっていらっしゃることを自分もやってみたら、こんなに大変なのかとまあ驚きまして。

当時、働き方改革で業務時間削減だと言われていた中で、「全然現場はそんなことになってないぞ」というところに、まず疑問をもったというのが1つ、私自身がつらくて、疑問をもったというのが1つです。

妻は産休育休で数年間、会社のキャリアが少し私より遅れることになりました。私と妻とは高校の同級生でして、高校、大学と同じ社会に出る準備をしてきたはずなのに、いつのまにかそうやってキャリアの中で差が出てしまった。少しモヤモヤしているところがあって、今は妻にも目一杯キャリアをがんばってもらいたいなと思っているところです。

また、私には娘が2人います。みなさんご存じかわかりませんが、今の日本のジェンダーギャップランキングは、世界146ヶ国中116位です。下から数えたほうが断然早い。こんな状況で、もし娘たちが将来大人になったときに、「パパ、なんで日本のジェンダーギャップランキングはこんなに低いの?」「なんで日本の女性活躍推進はこんなに進んでないの?」と聞かれたら、「パパたちがサボったからだ」と謝るしかないなと思い、悲しくなりました。

今の自分に何かできることはないのか。今の自分の置かれている環境を変えたい、あるいは妻や娘たちに、このままの日本を残していきたくないな。そんな思いがあって、今、男性の側からもダイバーシティ推進活動、女性活躍推進活動を進めていったほうがいいんじゃないかといった活動をさせていただいています。そのような中で今回、このようにお声がけをいただきました。今日はよろしくお願いいたします。

経営戦略であるDE&Iは、男性が一緒に取り組まなければ進まない

小山:栗原さん、ありがとうございます。ちなみに、実務としてDE&Iの推進を担当されているわけではない中で、具体的にどのような活動を社内外でされていらっしゃるかもうかがってもよろしいですか?

栗原:私が(DE&Iについての)思いを持っていたら、J-WINさんという女性活躍推進を進めるNPOさんの研修に参加する機会をいただきまして、そこでやっていたのが、男性ネットワークという活動でした。

J-WINさんは女性活躍推進を中心にやっていらっしゃるんですけど、女性活躍推進を加速させる、女性にがんばってくださいと働きかける取り組みと、もう1つ「男性も協力してください」という新たな分科会を、数年前に立ち上げられまして。そこに私も参加させていただきました。

男性ネットワーク研修の中でJ-WINの内永会長がおっしゃっていたのは、「今やダイバーシティ推進は企業の経営戦略ですよね」と。「趣味で、ボランティアでやっているんじゃなくて、企業が生き残るためにダイバーシティ推進が必要だと、経営戦略の1つとして取り組んでいるんですよね」。

「そうだとするならば、ポジションと予算をあげて女性をリーダーにして、女性を押し上げる施策をつくって、『あとはよろしく』とマイノリティの女性の人たちにお願いしていても、それはなかなか進みませんよ」と。

「マジョリティである男性であるあなたたちが一緒になってリードしなかったら、企業における経営戦略なんて進みませんよ」とおっしゃっていたのを聞いて、雷に打たれたように「それはそうだよな」と。「マジョリティは自分たち男性なのだから、男性が一緒になって取り組まなかったら、進むわけがない」という思いに至りました。

このように私の考えを変えてくれたJ-WIN男性ネットワークですが、J-WINに参加している間だけ「ふむふむ、勉強になったな」と思っていて、研修が終わり会社に戻って何もしなかったら、「男性もDE&Iを一緒にリードすべき」という考え方は社会の中で広がっていかない。

そこでデロイト トーマツ グループでも同じような活動をさせていただけないかということで、J-WINさんに「自分の会社の中にも同じネットワークをつくらせてください」とお願いをして、今、社内で男性ネットワークという同じ名前の活動をさせていただいております。

実はついこの間、無事に1年目の活動が終わりまして、今はJ-WINさんにご相談し、弊社だけでなく他の企業におけるダイバーシティ推進の施策の1つとして、こういった活動を取り入れていただけないかという話を進めている状況になります。

小山:ありがとうございます。個人で感じた問題意識を、まずは業務外のところで学び、刺激を受け、それを自分の職場にも持っていって広げて、企業や社会に影響を与えていく。この活動は、まさに私たちLean In Tokyoもやっていることなので、今回の「男性も巻き込んでいく」という観点で活動してくださっている方がいらっしゃるのは、改めて心強いなと思って聞いておりました。ありがとうございます。

のちほど詳しくおうかがいできたらと思います。よろしくお願いします。

栗原:よろしくお願いいたします。

「超伝統的日本企業のアップデート」をテーマに活動

小山:では続いて、NTTドコモの田中威津馬さんにお願いしたいと思います。ご本人のリクエストにより今日は「威津馬さん」とお呼びしていきたいと思います。では威津馬さん、お願いいたします。

田中:よろしくお願いします。ご紹介ありがとうございます。NTTドコモの総務人事部で育成担当をやっております田中威津馬(たなか・いつま)と申します。よろしくお願いします。珍しい名前ですので、「威津馬」と社内の全員に呼んでもらっておりまして、今日もそれで通させていただきます。よろしくお願いします。

個人的な話、私も2児の父です。ラグビーが大好きな男の子2人をもつ父でございまして、夫婦共働きフルタイムで仕事をしながら、仕事と家庭の両立を考えながらやっている立場です。

経歴でいうと、もともとは帰国子女でして、高校が中国の香港、大学がイギリス。大学院には、社会人になってから留学させてもらったんですけど、スペインのバルセロナでした。

いろんな世界を見てきて、そこでのお国事情とか、いろんなダイバーシティ&インクルージョンの現場を、友だち関係の中で学んできました。今日はそんなことも踏まえながら、「日本のここっておもしろいよね」という話ができたらな、なんて思っています。

私自身はもともと通信のエンジニアで入社しまして、昨年から人事の仕事をしています。育成担当ということで、直接弊社のDE&Iの施策とかをいじってるわけではないんです。今日はどういう立場で来たのか、これからお話しさせていただきます。

今は育成担当という立場なんですけれども、幅広いことをやっています。テーマは「超伝統的日本企業のアップデート」ということで、制度から、キャリア開発の支援から、あとデータの活用とか、コロナになってリモートワークが広がっているところで、どうやってリモートワークで仕事を回していくのかとか、さまざまなところを担当しています。

男女関係なく、少子化の中で労働力の確保が企業課題に

田中:やっぱり1つに、「自律的キャリア」が大きなテーマになっています。今までキャリア開発っていうと、わりと「女性のキャリア開発支援」の文脈で語られることが多く、弊社の中でもそういう取り組みが多かったんです。でも今は男女関係なく、これからは会社に言われたままキャリアを築いていくんじゃなくて、みんな自分たちでキャリアを棚卸しをして考えようと弊社では発信しています。

本来、会社でイノベーションをどんどん起こして、会社を成長させていく。そして働いていただいている社員の方々も、熱意をもって仕事に取り組んでいただける。(そんな環境を作る)にあたっては、自分が好きで得意なこと、「こんなことやってみたい」と思うことに、その情熱をぶつけていただくのが一番いいだろう。と。

その結果、それが会社の成長につながって、さらにそれがまた社員の方々の成長の機会につながってという循環が起きたらいい。そんな思想で今、研修体系からキャリア開発の支援に(取り組んでいます)。DE&Iとか特段うたってないんですけど、もう男女関係なく、一人ひとりがキャリアに向き合おうという、そんなメッセージを日々出しています。

制度もさまざまな支援をしていて。弊社は伝統的に、昔からDE&Iとかダイバーシティ推進の文脈で(経営を行っています)。先ほど栗原さんからご紹介もあったと思うけれども、「ダイバーシティ経営」が会社の大きな1つの使命です。

そういうトップメッセージ等々も出していながら、今までは女性向けの支援が多かったんです。なぜ女性向けが多かったかというと、女性の管理職を増やしたいとか、そういうKPIが国からも出てくる流れがあったからです。でも、そもそも男女関係なく少子化なので、労働力を確保していかなきゃいけない。そんな会社目線の話もある。

こういう文脈はありつつも、でもやっぱりジョブ型で、リモートワークで、みんながみんなの特技を持ち寄って、掛け合わせてイノベーションを起こそうよということで、企業文化を刷新しているところです。そのキャリアの開発に私がメインで携わっています。

得意も経験もバラバラだからこそ「全員がマイノリティ」

田中:どういうキャリアが社内にあるのか、どんどん情報開示を進めたり、上司・部下の間でキャリア面談をやって、キャリアについて考えようと取り組んでいます。

また、キャリア面談では救えない部分については、先輩社員や国家資格のキャリアコンサルタントを持っているような方々に拾っていただいたりしています。

共通しているのは「あなたは何がしたいの?」っていう問いかけをベースに、「私、ほんとは何がしたいんだろう?」って一人ひとりに内省していただくこと。私は、いかに全員で考えていただけるかというところをやっています。

これが結構おもしろくて。好きなこと、得意なこと、通ってきた道、経験が全員バラバラなんです。「全員がマイノリティですよね」と。そんなメッセージを発信しています。キャリアコンサルタントもなかなか大好評で、満員御礼の状態がずっと続いています。

あと、なんで特段ダイバーシティをやっているわけではない私がこんな話をしに来ているのかというと、私は社員向けの施策をやっているんです。お客さまの声、(すなわち)社員の方々の声も聞かないと何も考えられないじゃないかと思い、社内で匿名の掲示板を作りました。いわば社内で、キャリアテーマの「2ちゃんねる」みたいなものを作ったんですよね。

そうすると、いろんな声が上がる上がる。匿名なので、お給料の話から福利厚生から、ダイバーシティの問題も「女性のほうが逆に優遇されているんじゃないか」「男性が生きにくい」という声も、バンバンバンバンあがってきました。今日はいくつかご紹介できたらなと思っています。

その声をワードクラウドでまとめてみました。これは去年の時点かな。

真ん中の縦に「ない」。やっぱり何かが「ない」と感じている方々が多い。逆に「できる」とかいうのもあって。いろんなキャリアの中での生きにくさの声が見えますね。

(去年のこの時期に)リモート制度とかが新しく入ったので、リモートワークでの働きやすさに関する話とか。この「もらえ」は何なのかちょっと謎ですけど。みんな、何か欲しいと思っているのか。

小山:謎ですね。「もらえる」とか?

田中:(笑)。「〇〇してもらえるんでしょうか?」とかかな。「これだと支援もらえるんでしょうか」とか、いろいろあるんだとは思います。そんなのも含めて、きっと背景にある生きにくさがいっぱいあるのかなって思います。

ということで、私が何者か、どんな取り組みをしているかという紹介でした。よろしくお願いします。

男性の職場の「生きづらさ」は会社によって違いもある

小山:ありがとうございます。栗原さんも威津馬さんも、具体的なお話をしていただいているので。Lean In Tokyoでイベントレポートを必ず公開していますので、それぞれのゲストの2人のキーワードなどまとめの共有をしてまいります。ぜひそこでキャプしていただけたらと思います。

おふたりのディスカッションに入る前に、先ほど威津馬さんからおっしゃっていただいたアンケートについて、今回この取り組みをするにあたって、威津馬さんにゲストの依頼をした際に、ドコモ内で私たちLean In Tokyoがとったアンケートと同じものをとっていただきました。その結果の考察について、先におうかがいしてもよろしいでしょうか。

田中:はい。大枠はほぼ同じような結果だったんですけど、おもしろい違いが出てるところだけピックアップしてお話しさせていただきます。

内側の円が、Lean In Tokyoさんのアンケート結果で、外側の円が弊社ドコモでとった結果です。140人くらいからアンケート回答が取れました。

「生きにくさを感じますか?」の質問で、顕著な違いが青色のところです。頻繁に生きにくさを感じる割合がすごく少ない。全国の半分くらいでしょうか。逆に、たまに感じることが多い。それ以外はあまり変わらない。

「まったく感じない人」はちょっと少ない感じなので、なんかみんな絶妙なモヤっと感を感じているというのが、顕著な違いです。

あと「生きづらさの要因」の1位で書いてくれたものの数の割合ですけど、「昇進に対して野心的」なのは一緒でした。これは弊社の中でも、そういう声とか文化があると私自身も感じているところです。それに対して、私は生きにくいとは思ってなかったけれども、プレッシャー的なものを感じている方が多いというのも一緒ですね。

2番目の「収入が高く安定な仕事」っていうのが、うちは低くて。たぶんかなり安定している企業であることが要因である気がしました。逆にこの「ストレスのかかる業務」「危険な業務」、このへんが上位にあがってきましたね。弊社の場合、通信のアンテナに登ったり、いろんな作業があったり、現場のお仕事が結構あったりするので。

私はもともと国際系の仕事だったので、海外のへき地に行くんです。一番へき地はどこだったかな? 南アフリカ出張は大体男性をアサインするので、そんな生きづらさがあったりするのかなと。

誰からも言われていないのに感じる“ヌルッとした気持ち悪さ”

田中:あと「長時間労働」「休日出勤」。次点が「転勤しないといけない」なんですけど、アンケートだけで見ると転勤は次点なんです。でも先ほどお話しした社員向けの匿名掲示板で日々声と向き合っていると、転勤の話がいつも出てきます。

弊社は全国にネットワークをもっていて、全国に拠点があるので、転勤が多く、そのモヤモヤの声はすごく多いなと感じます。でも、男女は関係ないかな、という気もしています。男女ともに相談の声が私に届くので、たまたま高く出たというだけで、みんな感度が高いだけ。男性特有か? といわれると、ちょっとわかんないですね。

「プレッシャーは誰から感じますか」でいうと、ここはほぼ一緒でした。「社会全体の風潮」がトップです。この「社会の風潮」については、私が今日みなさんと一番議論したいなと思っているテーマです。「社会の風潮」ってなんですか? というところですね。

これ、私がこのアンケートを見ていて、“ヌルッとした気持ち悪さ”を感じたところです。誰からも明確に言われているわけではない。けれども空気感的に感じている。その正体の謎を、Lean In Tokyoのアンケートを拝見したり、弊社のアンケート結果の中で感じました。とくに弊社のほうが高く出たんですよね。「なんか気持ち悪いな」というところで、あとで議論をさせていただければと思っています。

あと「男らしさが求められないとしたら、何がうれしいか」のところもほぼ一緒でした。自分らしい生き方、ワークスタイル、私生活を重視した時間の使い方とかがありましたね。

「変わらないと思う」っていうのが意外と高くておもしろかったんです。弊社ではリモートワークを前提とした働き方とか制度がすでにできていて、だいぶ浸透しているんです。私もほぼ100パーセント家から働いているので、もともと育児と仕事の両立やフレックスがだいぶできている、恵まれた環境なんです。なので確かに、あまり変わらないかもしれないなと、個人的に思ったりしています。

このへんがいくつか顕著な違いだったので、ご紹介させていただきました。

小山:威津馬さん、ありがとうございます。こうやって企業ごと、組織の特長によって感じてることが違うのは至極当たり前ではあるものの、あえて視覚化されることによって、いろんな問題提起ができるなと、とてもありがたく思いました。ありがとうございます。

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