2024.10.01
自社の社内情報を未来の“ゴミ”にしないための備え 「情報量が多すぎる」時代がもたらす課題とは?
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前田:今日はせっかく呉さんがいらっしゃっているので、さまざまな地域の事例をお話しいただければと思います。
呉:そうですね。伝統工芸や伝統的な技術を基にした産業って、いろんな地域にいろんなジャンルがあって、そしてだいたい苦しんでいる。
最近の例で言うと、三陸花火(岩手県陸前高田市)という新しい花火大会が元気を出しているのをご存じでしょうか? 花火大会って、長岡とか大曲とか有名なものがいろいろあると思うんですが、普通はだいたいタダじゃないですか。お金を払って花火を見るという概念はないですよね。
なので、地域の企業や全国から花火職人の方々も集まるんですけど、すっごくぎりぎりのお金でやっているんですよ。露店、的屋の人たちが儲かるというよくわからない構造になっていて、みんなほぼボランタリー(任意)というか、ほとんどお金にならない。
だから、後から入ってくる花火師の後継もあんまり増えないんですよね。だって儲からない産業だし、これから人口が減っていったらどんどん花火大会自体が減っていくじゃん。マーケットはシュリンクするよね。
呉:この間三陸花火に行ったんですが、有料なんですよ。チケット制で、一番高いチケットは花火を見るだけで20万円する。別に会場の敷地からちょっと離れればタダで見れるんですが、お金を払う代わりにすばらしい体験ができるんですよね。
20万円の人は、なんとこたつに入りながら花火を見上げられるという(笑)。これは完全にインバウンド向けにテストで売ってみたらしいんですが、台湾人の方が1人買っていて。
これまでタダでやっていたものだって、ちゃんと価値を作れば売れるんですよね。ちなみにビジネス的には、高単価にするとか、そもそも有料にすることがチャレンジなんです。
花火師側の目線で言うと、だいたい日本全国の有名な花火大会は出る煙火店が決まっていて、「審査員もこういう人が審査します、だからだいたいこういう人が勝ちます」「70歳ぐらいで一流」みたいな(笑)。めっちゃ世代が上なんですよ。
職人の世界でそうなっちゃうのは仕方ないとは思うんですが、30歳、40歳でもまだまだ若手扱いで、コンペティションの場に出られない構造らしくて。
普通の大会だったらすごくレギュレーションが決まっているんだけど、三陸では演出の仕方も自由で、音楽をがんがん流してもいい。すごく若手の花火師がどんどんチャレンジできるということで、門戸をめっちゃ広げているんですね。
それによって、これまで自分の腕を試せなかった花火師たちも試せるし、新しい表現も追究できるので、「花火大会以外でも花火って売れるよね」という話を若い人たちはするんですよ。
呉:もちろん、伝統産業は技術の承継や保全もすごく大事なことだと思うんですが、「今の時代にどういうものが受け入れられるんだろう?」とか、新しい売り方を考えられるのって、すごく当たり前なんですが若い世代だと思うんですよ。
なので、いかに若い世代にチャンスを提供できるか。「伝統産業を生き延びさせたい」といっても、もし仮に課題があるんだとしたら、そこしか突破口はない。だけど、どんどん若い担い手は減っているんだから、危機を感じるべきじゃないかなと思っています。
地域の方々のプライドの源泉は、地域で長年培ってきた伝統産業になることが多いんですが、さっきの小原さんの資料で言うと、第一層目はたいていどの地域にもあるんですよね。(地域によって)全部違うんだけど。
僕はそれを「土地の記憶」という概念で受け止めているんですよ。「この地域は歴史的にこういう人たちがいて、こういう産業をやって、こういう土地の記憶を受け継いできているから、そこには必ず何かがあります」「それを価値化しましょう」という時に、記憶って誰かが使えないと価値にならないんです。
(セッションの)タイトルが「今ある資源の価値を見つけ、伝えること」ということですが、資源は土地の記憶の中に眠っています。
誰が価値を表現するのかと言うと、今そこにいる人が表現する以外、絶対にできないんですよ。農家さんも土地の記憶を受け継いで表現している人で、旅館やサービス業をやっている方も表現している人。そう思うと、今日会場にいらっしゃっている方は、正直あんまり若い人がいないなと思っていて(笑)。
若い人たちが土地の記憶を受け継ぐ側なので、その人たちにどれだけ密度の濃い記憶をパスできるか、それがすごく幸せな暮らしにつながっているかを支援する。それができていない地域は、正直外から見てもたぶん魅力がないだろうなと思っています。若い人たちがどんどん活躍できるような権限委譲をできるといいな、と言いたかったです。
前田:ありがとうございます。
前田:まさに今、富山県が大きく抱えている課題だと思います。その点でいくと、折井さんは若い世代がチャレンジしている伝統産業の最新鋭を行っている会社ですが。
折井:そうですね。小原さんがおっしゃっていたことは非常にわかって、新しいブランディングをされて、付加価値を価値にされたわけですよね。
私は両方をやっていて、古臭い伝統工芸の高いものをカジュアルにしようと、名刺入れや時計、インテリア用品だったり、カジュアルなものにに落とし込みました。壺や置物だと何十万円するものを、単価を安くして数千円で買えるものにしました。
着色工賃で言うと、今まで着色工賃は大きさで決まっている感があったんですね。「3寸の仏具は何百円」とか、なんとなく業界の平均単価があるんですが、うちはたぶんその50倍ぐらいの単価で着色工賃をやっているんですね。
置物だと鋳物で付加価値がついて何十万円になるけど、私の作品の時計は何千円なので「安いね」と言われます。だけど私のやっている建築部材は、アートワークにすると1メートル角の作品で50万円ぐらい。一般的な建築部材は1平米7万円以上なんですね。シートだと数千円で1平米あると思うんですが、(通常の着色も)両方やっています。
前田:「今ある資源をどう伝えていくか」ということで、私の中のキャッチコピーは「伝統工芸をかっこよく」と「新しいを普通にしていく」なんですね。今までだったら儲からなくて辞めていくところも、見方を変えれば価値が生まれる。
うちもお客さんに若い人たちがいますが、最近では「Oriiブルー」という言葉が横行していて。ありがたい話なんですが、クレープを食べている女子高生たちが「これって『Oriiブルー』じゃね?」と言っている会話を、イベントとかで聞くようになってきたんですね。
前田:「『Oriiブルー』じゃね?」って。
折井:ええ。でも、本当にそれで良かったなと思っていて。私も伝統工芸士の端くれですが、見せ方を変えながら、「Oriiのおじちゃんは、本当はちゃんとした伝統工芸士でこういうこともやっているんだね」というバックボーンを、その子たちにもわかっていってもらえばいいのかなと思っているんですね。
前田:ありがとうございます。若いスタッフと若い顧客層をクリエイトされているということで、すごいですね。とはいえ、伝統産業の中でのさまざまなしがらみやチーム作りでの軋轢があったと思うんですが、そのへんはどうですか?
折井:能作さんも全国区で有名になられていて、よく昔から講演会でも言っておられたことなんですが、私たちがやってきたことは美術工芸、仏具の下請けでした。でも、能作もOriiもインテリア用品とか別のジャンルで新しい販路開拓ができたんですね。
折井:銅器業界の長老の方が、表舞台では私たちにも「いや、能作くんや折井くんはがんばっているね」と言ってくれているんですが、私たちが全員入っている業界にある方が匿名でファックスをされたんですよ。
「行政は能作やOriiとかをバックアップする。だから、もっとこの銅器業界が悪くなる」というふうに、匿名でファックスを流されたおじいちゃんがいましてですね。おじいちゃんは(ファックスの仕様をよく)わかってなくて、表紙に片仮名でファックス番号とかが全部書いてあったんです。
(会場笑)
前田:バレちゃいましたね。
呉:これは良くない。それはコンペティションのほうの「競争」なんですよね。
折井:ですよね。そのおじいちゃまも気づかれて、「ごめん。やはり妬んでいた」と謝られて、能作社長は「いやいや」と。「僕も自分のところと能作さんで何かタイアップしてやりたい」ということで、仏具の世界ではありますが、今は一緒にやっておられます。
仏具という世界は、いまだに主従関係とかいろいろ大変なところがあるんですが、私たちは違うところに販路を築けて、これから新しいジャンルとしてまた本当の伝統工芸を見てもらえるようにどんどんしていくべきだと思っています。
折井:一応高岡は伝統工芸の銅器の町なんですが、東京や大阪へ行くと、「ああ、スズ。これって高岡の能作だよね」と言われるんですよ。スズの本家本元は大阪錫器だったり、福井もそうだったり、東京もそうなんですね。でも実は今、高岡のほうが有名になっていて。(歴史的には)まだ20年も経っていませんよ。
伝統工芸はもともと継承していくもので、大事に残していかなきゃいけない。私もそのために伝統の技や着色体験を工場見学で披露したりして、ビジネスでは成立していませんけど継承しつつ、新しいことをしていくことも大事なんじゃないかなと思っています。
前田:ありがとうございます。能作さんの名言が「伝統とは革新の連続である」。今の文脈からいくと、地域の同業者や組合があるのかわかりませんが、旅館の中で突き抜けたことをやっていらっしゃって苦労したこととか、一方で乗り越えてみんなでやっていることがもしあればお願いいたします。
小原:ティーツーリズムは3業種なので、旅館業の私からすると、お茶農家さんのいざこざや業界の基準とかは痛くもかゆくもないので、単純に土足で入っていく感じですね。
前田:(笑)。なるほど。
小原:いわゆる100年戦争をし続けた限りを尽くしていらっしゃるので、土足ぐらいで行かないと。根回しとか、バランスを取るとかでは、いいネゴシエーションでもまったく通用しないレベルまで傷んでいるので。単純に土足で行って、ぶん殴られようが何をしようが、そこから事件を起こして事を動かすでいいんですよね。
小原:旅館って、我々の親世代だと血みどろの……。よく田舎の旅館だと、自分の旅館が儲かってない時に女将さんが町内を1周して、他の旅館の客室の電気が付いてなかったら安心する、みたいな。
前田:(笑)。へえ、そうなんですね。
小原:逆に、客もいないのに全部電気を付ける女将さんとかもいたりとか、そういう時代なんですね。見えの張り合いみたいな。
一方では、それはそれですばらしいエネルギーだなと思うんですね。何かしら意味があるからやっているんでしょうから。97~98パーセントは否定ですけど、1~2パーセントでは「それほどの情熱があるのはすごいな」と思います。
前田:なるほど。
小原:幸い旅館業は、我々世代は丸くなっていて仲が良いんですよね。だから非常にやりやすかったです。
ただ、土足で入っていったものの、まだお茶業界に関してはけっこう軋轢がありますね。さっき折井さんとも言っていたんですが、そりゃあボトムアップで行ったほうが市長たちや産業の重鎮の方々も喜ぶし、我々若手も別にボトムが上がることを否定することはないのでいいんですが。
それより先に、僕らの時代は三層構造の第一層がしまえる時間のほうが早くなっているタイミングに差し掛かっているので、残念ながら(ボトムアップは)できなくて。トップラインを上げるということを、今はまだやっている途中です。
小原:とはいえ産業のバランスとか、3つの文化のどこか1個が消えたら、絶対に31件の旅館は全部つぶれると思っています。だから、うちの宿の2万坪よりも(三層構造の)下に行けば行くほど大事なんです。バランスを取りながら、それぞれのいざこざを解消しないとプレイヤーは増えないんですよね。
トップラインでやるのは非常に簡単で早いですし、圧倒的スピードで物も成果も出て評価もされるんですが、それはそれで今度はマンネリ化してきます。
限られた少ないプレイヤーを増やすには、もう少ししっかり知恵を絞りながら。ただ、たぶん非常に評価もしているんですよね。さっきの「嫉妬していてごめんね」みたいな。だから、そこからいかないといけないんでしょうね。
前田:なるほど。
小原:それをまだやれていないので、どういうアプローチでやっていくか。
前田:これからですね。
小原:あまり行儀が良くないので、ちょっとどうなるかわからないです。
前田:(笑)。ありがとうございます。
前田:呉さん、そろそろまとめに入りましょうかね。今日は佐賀と高岡の2人のプレイヤーに来てもらったんですが、東京のクリエイターやメジャープレイヤーから見て、こういった地域の動きをどう捉えられているのか、また今後についてもお話ししてもらってもいいですか。
呉:そうですね。僕は2年ぐらい前から「これからは『地域』なんだ!」と1人で叫んで地域取材を重ねているんです。
背景としては、東京のおもしろい人たち、特に若いプレイヤーや若い起業家、若いクリエイターとか、東京で一定成功したビジネスリーダーたちが「お金を稼ぐだけじゃなくて、もっと社会的に意義あることをやりたい」と、いろんな地域に行って新しいことを始める動きがコロナ前後ですごく増えていて。
僕はそれが一番おもしろい。東京の新しいビジネスよりこっちのほうがぜんぜんおもしろいし、地域のほうがフロンティアだと思って見始めています。
一部のトッププレイヤーだけが地域に行くので、「来てくれたらラッキー」みたいな。例えば「誰々の出身地に来てくれました」とか「来たらラッキー」だと、本当に運任せじゃないですか。
幸いなことにコロナでリモートワークがめちゃくちゃ加速して、特に東京のIT企業だと「どこに住んでもいいよ。通勤するんだったら飛行機代も出すわ」という、すごく太っ腹な人たちが増えています。
呉:国もそれを後押しするかのように、デジタル田園都市国家構想の施策の中では、東京で働きながら地域で暮らせるとか、地域の企業で働きながら東京で暮らせるとか、住む場所と働く場所が分離できて、いいとこ取りができる時代なんだというのを押し出そうとしています。
なのでここから先は、別に地方に住んでもらわなくても、東京のいいプレイヤーと関われるかたちがすごく加速していくと思っています。なので、関係人口1,000万人というのはすごく現実的というか、ぜんぜん難しくない。
だって、みなさんが10人ずつ新しい友だちを作るだけで達成できるので、ぜんぜん大したことない目標なんじゃないかなと思うのと同時に、ただ友だちになるだけじゃ長続きしないので、どうやって関わってもらうのかを考える必要がある。
「富山でやるとおもしろい」「この地域でやるからこそ意味があるプロジェクト」とか、何らか続くものを作っていくことがすごく大事かなと思っています。
ちょっと偉そうなことを言わせていただくと、「ウェルビーイング」という言葉。確かに都会のビジネスパーソンからすると、「興味ある。最近それが超大事だと思っているんだよね」という人がいっぱいいると思うんですけど、逆にみなさんはどうですか?
「ウェルビーイング」と言われて、自分なりのウェルビーイング観とか、自信を持って「これが富山のウェルビーイングだと思う」って言えることがありますか?
関係人口の人たちに「このウェルビーイングがいいよ」と言えない人たちとは、一緒にウェルビーイングを作れる気がしないじゃないですか。なので、他の県や他の地域に流れて行っちゃうと思います。
呉:「自分たちはこうなんだ」という旗を掲げた時に、その地域を構成しているコミュニティのみなさん一人ひとりが、目標を信じられているとか、大事だと思っていることを自分なりに言葉にできることはすごく大事です。
これからは、それができている地域に、関係人口やビジネスパーソンとか、いろんな地域から「関わりたい」という人が増えていく流れが来るんじゃないかなと思っています。質問の答えとして正しかったですか?
前田:ありがとうございます、完璧です。さすが編集長。時間になりましたので閉めたいと思うんですが、今日は「今ある資源の価値を見つける」ということで、今の時代の話と「土地の記憶」という話がありました。最近は「土地のアリバイ」という言葉も聞きまして、やはり「土地の記憶」「土地のアリバイ」はすごく大事だなと思っています。
そして小原さんには、みなさんも今後の仕事にも活用できそうな四層構造をご紹介いただきました。富山県民が(地域の歴史や伝統を)自慢しないことはけっこうまずいと思っていまして、ちょっとでもいいから今ある価値を伝えていく、言語化する。
そして関係人口1,000万人というのは、奪い合うものではなくてシェアするものだと思いますので、とにかく発信をして、自慢して、誇りを持ってしゃべって、今日集うみなさん×10人・100人と関係人口を作っていけたらと思います。明日から何か1つでも実践していただければと思います。
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