2024.12.19
システムの穴を運用でカバーしようとしてミス多発… バグが大量発生、決算が合わない状態から業務効率化を実現するまで
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前田大介氏(以下、前田):先ほどバスの中でお聞きして「あっ」と思ったのが、ここ最近はコロナでワーケーションだなんだと言ってますが、実は小原さんはコロナ前から「旅館をオフィスにしようという」構想ををすでにお持ちだったことがすごく大きいなと思ってまして。そこの原点の思想を、もうちょっと教えてもらってもいいですか?
小原嘉元氏(以下、小原):9年前に36歳で旅館に戻って、1年間で地域文化のこともようやくわかるようになって。自分の職種が「旅館経営者」であるのはもちろんなんですが、「2万坪の土地の管理人」が自分の職種だと思ってます。
私がこの旅館の身を預かって、60歳まであと15年やれるとしたら、あと15年は私がすべての決裁権者なので自由にやらせてもらえる。正直、(スライドの)第三層の事業とプロダクトの最終成果物は「なんでもいい」と思ってるんですね。
祖父から続けてきた旅館が最適化しているので、そこは主戦場としてしっかり稼ぐんですが、それではない右のほうには特にこだわりはない。お茶のことで知り合ったWeb製作会社で、日比谷花壇の子会社のイノベーションパートナーズが第1社目の入居企業なんですが、そこの社長が大の温泉好きで。
2019年の初めぐらい、寒い時に風呂に入っていて。「小原さん、ここに自分のオフィスがあったらおもしろくないですか?」「いいですよ」という話からスタートしたんですね。それが(プロジェクトとして)実り始めたのが2019年の夏ぐらいです。
小原:創業開始がコロナとドンピシャ重なったので、日本人最初の感染者が1月16日で、我々は3月5日に調停式を結んでるので、45日でできるわけがないんですが、どのメディアにも「若社長がすごいことをやり始めた」と書かれていて。
「いや、違うんです。コロナと関係なくやってるんです」と、3社目ぐらいまでは言ってたんですが、「コロナで大変だからやるんですよね」って(メディアの取材者)全員が言うんですよね。「いや、そうじゃないんですよ」と言って、「こいつ、すごくややこしい社長だな」と思われたくなかったので、もう今は「もちろんですよ」としか言ってません。
呉琢磨氏(以下、呉):メディア的には、そっちにしたほうが記事にしやすいんですよね。
前田:メディア対応あるあるですよね。最後は「もういいや」ってなってくるんですよ。
(一同笑)
小原:実際、それも確かにくだらないこだわりなので、(取材されるのは)助かってるのは助かってるし、今日呼ばれているのもそういうことだと思うので。
前田:なるほど。ありがとうございます。第三層に巻き込んだティーツーリズムの農家さんの一部は、第四層まで外部に作ったのがすごいなと思うんですが、その話はまた。
前田:(スライドの)この図もいいですよね。みなさんそれぞれのお仕事や暮らしの中で使えると思います。折井さんも、第三層のところでプロジェクトをいろいろやってこられたんだと思うんですが、そもそも第一層に歴史があって、第二層になった。
折井宏司氏(以下、折井):そうですね。うちは下請けだったわけですが、私が幼い頃は町に非常に活気があって、町の周りには銅器に携わるせがれたちも多くて、だいたい同学年の30パーセントぐらいはそういう業界の人間たちだったので、すんごい活気があったんです。
私も小学生までは、「将来の夢」という課題では自社の工場を絵にしたり、作文にしたり、テーマにしていたくらいです。その後だんだんませてきて、中学生、高校生になって、結局は東京へ行ってしまいましたが、バブルが弾けたと。
私はたまたまコンピュータ屋さんにいたので、コンピュータ屋さんはバブル崩壊後にどんどん業績が良くなったわけですね。そういう世界を見た時に「もう伝統産業はダメだな。帰りたくないな」という思いと、「自分は3代目である」という思いから、結局は自分で決断して戻ったわけです。
そこで目の当たりにしたのが、この売上の落ち込みようでした。「やはりこのままじゃダメだ」「問屋さんに頼ってちゃいけない」ということで、自らも売るものを作りたいと思ったんですね。
それと同時に、いろんな人を巻き込んでいきたいということで、ターゲットを変えようと思いました。私が帰ってきた頃は、まだ下請けとして干支の置物や壺に色をつけてたんですが、たぶんこのマーケットはだいぶ(ターゲットの年齢層が)上の方々なんだろうなと思ってましたし、確かにそうでした。
折井:じゃあ、実際に若い人たちが「伝統工芸っていいものだ」「買いたい」と思っているかというと、そうでもないんですね。仕事をさせていただきながら、三越とか髙島屋さんで売られる日店の作家さまの高価な干支の置物とかも着色をやっていたんですが、実際に若者がそれを欲しいかといったら、そうでもない。
ちょっと矛盾に感じましたので、やはりターゲットも変えていかなきゃいけない。時代が変わって売れなくなってきたらまたゴリ押しで売っているという、この地場の流れも見えてきました。
当時まだ30歳前後でしたが、僕ら世代、または僕らの結婚した子どもの世代たちも「かっこいいな」と思ってもらえるかたちに、伝統工芸や今ある資源も少しずつ変えていくべきなんじゃないかなと思い始めたことが、私の場合は「新しいものにチャレンジすること」になっているわけです。
前田:すばらしいですよね。結果メディアにも出ることになって、今は全国から需要がある。伝統工芸って、従事者が減ってるという課題があったと思うんですが、逆に折井さんところには全国から若い人が集まってるとお聞きしました。
折井:そうですね、おっしゃるとおりです。当時私は26、27歳で帰ってきましたが、30歳までに家業をすぐに継いだ人たちは、実はみんな辞めていってるんですよ。それが懸命だと思います。私は異端で、業界の習わしもわかってなかったので、勝手なことをして新しい分野でなんとかなるようになったんですが。
折井:(一般的に)みなさんはどうしたかというと、「この仕事を息子も一緒にやっていても、将来ご飯が食べられなくなるから」「たぶんV字回復しないから、30歳前に生涯勤める会社に勤めなさい」と、転職を促してるんですね。もちろん土日とかはお父さんのお手伝いをしてたと思いますが、そういう時代でした。
今では考えられないんですが、能作さんも同じ時期、約20年前からいろいろと独自なことをされたんです。能作さんもうちもそうですが、うちは12年前からやっと社員が入るようになってきまして、おっしゃるとおり全国から(就職希望者が)来てくれてますね。
前田:すばらしいことですよね。今、ご自身のことを「異端児」とおっしゃっていましたが、小原さんも一時は「異端児」か「異分子」と呼ばれたことがあると(笑)。異端児・異分子が、こういった新しいものを作っていくことは往々にしてあると思います。
じゃあ、ティーツーリズムの話を。先ほど「新しい日常」という話をされましたが、異分子である小原さんが入ってきて、茶農家さんや茶商にまで影響が出ているということで、その話を少しお願いしてもいいですか。
小原:2016年には、旅館の経営もある程度自分でできるようになりました。
小原:企画書はビジュアルブックで、文字は1文字も書かずに写真だけを20枚ぐらい並べて共通言語化しています。自社であれば、「もうこれ以上でも以下でもないものをやる」でズドーンと現場に落とすんですね。当然社員はすべてクエスチョンマークから始まるんですが、最近はなんとなく数が増えました。
それと同じようなものを、肥前吉田焼の作家さんとお茶農家さんと作っています。例えば、東京の例えばインターコンチネンタルとか、マンダリンオリエンタル東京とかと提携しています。最初、茶農家さんはマンダリン オリエンタル 東京のことをオレンジだと思ってました。
(一同笑)
小原:「新しいみかん?」みたいな。バカにするとかじゃなくて、本当にそのレベルなんですよ。畑に従事して、お茶を作るのが本業なので。
今でもそうなんですが、嬉野の旅館のラウンジでお茶が飲めるところは、お茶の産地なのに(メニューの)一行目が「コーヒー500円」なんですよ。うちも6年前までそうでした。
かたやお茶農家さんが「継ぎたくねえ」とか、町をあげての壮大なコントしてるわけです。一番でかい旅館のフロントのラウンジで、1行目が「コーヒー500円」で、お茶がタダなんです。何かがずれてるわけじゃなくて、そのとおりお茶が売れない。一生懸命茶葉だけを売っていたという、そこからのスタートなんですね。
先ほどのビジュアルブックを作って、有志メンバーで「旅館と温泉と肥前吉田焼を使った新しいことをやろう」「助成金を1円も使わず、全員手弁当でこれをやる」と言ってスタートしたんですね。Facebookのメッセンジャーの50人ぐらいのスレッドで、朝から晩まで、おはようからおやすみを繰り返すことで連帯感を増していったんです。
小原:吉田焼とかリーデルのグラスで提供して、最初は1杯のお茶が800円だったんです。お茶農家さんは、ドリンクにしてお茶を売る経験を誰もしてないんですね。夏祭りとかで、700ccぐらいで100円というめちゃくちゃな単価設定で売っていた。
呉:マーケットの相場観がないんでしょうね。
小原:さすがにタダじゃまずいから、生ビールを入れるような容器にお茶を入れて夏祭りで100円で売るとか、せいぜいドリンクはそれくらいなんですよ。これまではリーフとティーパックにして売ることしかしてないんですよね。
(ティーツーリズムを始めて)最初は1杯800円で売ったんですが、お茶農家さんは「おいどんのお茶が800円になるわけなかろうもん」「(そんな金額で売ったら)100パーセントお客さんから怒られる」と。
呉:でも、当たり前ですよね。産地にはモノが大量にあるじゃないですか。そういうものが希少な価値の場所に運んでいけば、当然価値は上がるわけで、それが市場原理ですよね。だけど、産地の人たちはお茶が一番豊かな状況しか知らないから、価値がめちゃ低いんですよね。
持っていくところに持っていけば価値が上がる体験をしないと、相場観が生じないと思うんです。「おいどんの茶が(そんなに高値で売れるわけない)」となっちゃう。
小原:最初は1杯1,200円ぐらいで売りたかったんですが、折り合いをつけて800円になりました。「旅館の会場を使うんだから、300円とか200円ではできない」と押し切ったんです。
小原:それと同時に、土を作るところからお客さんの前でセレモニーをしてサーブしたりと、「茶農家が淹れることが価値がある」ということを作り上げました。
3日間のイベントは、20席だけで7時間しか営業しないのに、1日140人ぐらい来て25万円ぐらい売上が上がるわけですよ。3日間で70~80万円稼いで、「高い」という声は1人からもないし、3日間来るお客さんとかがいるわけですね。しかも、嬉野市民で。
前田:すごいですね
小原:たぶんそれが最初の成功体験になっていて、「自分たちがお茶農家である」ということの価値を一番最初に体感できました。旅館経営者数名と、酪農家、嬉野市役所職員、茶農家の奥さん、吉田焼の作家の窯元の人とか、40~50人がその時間を体験して共有できたので、「これはいけるんだろうな」という手応えがありましたね。
2016年の8月31日前後にスタートして、いまや(お茶1杯当たり)1万5,000円まで。
前田:800円、1,200円から、1万5,000円まで行ったんですね。
小原:だから、旅館をやっていてちょっとつらいんですね。うちの宿泊平均単価が1万5,000円ぐらいなんですが、だいたい今ぐらい(14〜15時)からチェックインが始まって、明日の朝の11時ぐらいまで身を預かる。夕食を出して、朝食を出して、仲居が走り回って1人1万5,000円。だけど、お茶農家が茶畑で1時間お茶を淹れるだけで1万5,000円ですよ。
前田:すごいことですね。
小原:でも、やればやるほど「何なんだろうな」と思いながら。
前田:(笑)。
呉:でもそれって、お茶農家さん単独では絶対にできなかった売り方じゃないですか。
呉:Webで検索していただいたら公式サイトが出てくるんですが、NewsPicksの「Re:gion」で、僕が考えた思いの丈をステートメントに書いているんですね。
そのキャッチコピーが「競争から共創へ」。漢字が違うんですよ。最初の「競争」はコンペティションの競争で、2個目の「共創」は、共に創る「コ・クリエーション」。地域内で競争している場合じゃないと思っています。
ブランドは地域で共に創って、地域が一体となって、嬉野だったら3つの価値(温泉、お茶、肥前吉田焼)ですよね。
「ここは俺たちの場所なんだ」というのを地域全体で創りにいくからブランドが生まれて、全体の価値を上げられるという構造になっている。たぶん1社では無理なんじゃないかなと思っているので、ティーツーリズムはすごくうまい仕組み。
旅行やツアーにすることによって、一次生産者からサービス業の方まで一緒に体験を作って、全体で勝つというパッケージにできている。しかもそれが個別にも売れるっていう、すごく上手な地域の価値の上げ方のモデルだなと思います。
小原:生産物はたぶん全部いけるんですよ。みかん農家さんとかも、1本の木をオーナー制度にしてみかんを売ったり。この間「桃は落ちる時が一番おいしいけど、落ちたら出荷できない」と聞いたので、落ちる音だけを一晩中聞く「桃泊」というグランピングを1泊100万円とかで売ればいいんじゃないか、とか。
前田:(笑)。なるほど。貴重な体験価値として。
小原:桃農家として、いわゆるレストランとの最後のデセールのペアリングみたいな。先ほどの流すのとショコラティエも、まさにドンピシャだと思うんですね。だから第五層目はたぶんサロンみたいなことになるのかなと思います。
前田:なるほどね。
小原:たぶん、全生産物でいけると思うんですよね。
呉:コミュニティ的なことですよね。
前田:参加者のメモ量がすごいのと、目がきらきらしている方がいらっしゃる。
小原:我々もフルオープンソースなので、書類も全部お渡ししますし、「このグラスはどこで買えるの?」とかもすべて開放しているんですよ。
前田:すばらしいですよね。
小原:よければ、ですが。
前田:ありがとうございます。
小原:我々に何か役割があれば。
前田:今ここにいるメンバーみなさんで、それぞれの素材をちゃんと昇華すれば、どこでもやれることはあるよということですよね。
小原:絶対にあると思います。
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