2024.10.21
お互い疑心暗鬼になりがちな、経営企画と事業部の壁 組織に「分断」が生まれる要因と打開策
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林篤志氏(以下、林):では最後に発起メンバーの1人でもある、YAMAPの春山慶彦さんの自己紹介をお願いします。
春山慶彦氏(以下、春山):春山と申します。よろしくお願いします。僕は今YAMAP(ヤマップ)という事業をやってます。山のmapをもじってYAMAPです。2013年に起業しました。
今、僕らのビジネスの土俵は登山とか、いわゆるアウトドアになります。なぜ登山やアウトドアで起業したかというと、僕は常々「日本社会の最大の課題は、体を使っていないことにある」と思っているからなんですね。
直接的な起業のきっかけは2011年の3.11です。震災と、やっぱり原発事故をどう受け止めていいのか。未だになかなか整理がついていないです。
結局、今の日本社会は風土や自然から離れてしまっている。頭でっかちに社会を作りすぎてしまったがゆえに、地方と都市のバランスが悪くなっています。また、食料自給率も、エネルギーの問題もなかなか解決しない。
ただ、農業・漁業・林業といった第1次産業は、どうしても参入するにはハードルが高くて。だから、登山とかアウトドアみたいな回路で、都市と自然をつなぐことにしたんですね。「自分たちも自然の一部である」と気づくきっかけを、登山を通して社会に提供できたらいいなと起業をしました。
だから、YAMAPの企業理念は「地球とつながるよろこび。」です。登山を、「地球とつながれるよろこびの回路」と捉えて事業をやっています。「人類軸」と「環境・山軸」の両軸で、「人が幸せになること」と「環境が豊かになっていくこと」をつなげていく事業を本気で目指しています。
「人のウェルビーイング」と「地域や山・環境のウェルビーイング」はつながっていると思っていて。日本的な風土では「里山」「里海」がそれに近いのかなと思っています。
YAMAPの現状を申し上げると、アプリのダウンロード数が今320万件を超えていて、国内の登山アプリとしてはナンバーワンのシェアになっています。
YAMAPの特徴を簡単に申し上げます。
「携帯の電波が届かない山の中でもスマホで現在地がわかる」というツールの部分と、「『山での記録』『山の楽しみ』などをコミュニティで共有できる」というコミュニティの部分があります。この、「ツール」と「コミュニティ」をワンストップで提供しているのがYAMAPの特徴です。
春山:YAMAPは昨年「DOMO」というポイントシステムをリリースしました。僕らはこれを「循環型コミュニティポイント」と名付けているのですが、今回のWEのテーマに合うので取り上げたいと思います。
具体的には、山に行くとDOMOが貯まって、DOMOポイントを使うと植林や登山道整備などの支援ができるんですね。これが山の再生につながります。「山で遊ぶ人が増えることで山が豊かになる世界」を作りたくて、このDOMOポイントを実装し、1年が経ちました。
「利他的な行為をした時にもらえる」とか、通常のお金やポイントとはちょっと違う価値軸をおいています。一番の違いは、3ヶ月で腐る設定になっているところなんですね。
貯めてもしょうがないんです。そもそも、貯めても山の再生事業にしか使えない設定でポイントシステムを作っています。
14のプロジェクトがあって、具体的には熊野古道の近くの登山道整備をしたり、植林事業をやったり、YAMAPのユーザーさんと一緒に事業を展開しています。
2013年創業で、社員数が今90人ぐらい。福岡と東京に事務所があるベンチャー企業です。今日ご登壇のみなさんから、本を含めていろんな刺激をいただいています。今日はどうぞよろしくお願いします。
林:ありがとうございました。じゃあここから約1時間半、ノンストップでいきたいと思います。みなさんの自己紹介の中に、掘り下げていきたいと思ったものが何点かありました。
まず伊藤穰一さんの文化レイヤーの話はすごく興味深いので、2つ目のトピックとして取り上げたいと思っています。
1つ目は、やはり「テクノロジーとの距離」みたいなところは、たぶん共通していて、けっこう大きなテーマになっていくと思うんですね。宮台さんも以前取り上げていらっしゃいましたが、ブータンの話があります。ブータンは数年前まで「世界で最も幸福な国」としてけっこう尊敬されていた。
でも、ここ数年の調査によると、その評価がかなり大きく落ちてしまったと。その評価軸自体も詳しくはわからないんですが、その要因として「スマホとSNSの普及があった」と言われたりしています。
一方で、小川さんの著書にある重慶大厦(チョンキンマンション)のタンザニアの商人たちは、いわゆるSNSとかWhatsAppとかを柔軟に使いながら、ある種インフォーマルに自分たちの「居心地の良さ」や「暮らしやすさ」を獲得している気がするんですよね。それを「幸せ」と呼んでいいのかわかりませんが。
つまり、システムやテクノロジーみたいなものに対して、我々はどういう距離感で接していくのか。どのように活用していくことが、自分たちの生存戦略につなっていくのか。「みなさんが考えるテクノロジーとの距離感」「どんなテクノロジーをどのように使うのか」など、大きなテーマから掘り下げていきたいと思います。
林:まず宮台さん、口火を切っていただいてもよろしいでしょうか。
宮台真司氏(以下、宮台):はい。もともと技術というものは、(マルティン・)ハイデガーによれば「負担免除」なんですね。例えば身体的に空手の訓練をすれば、今までできなかったことが軽い負担でできるようになるわけです。そこに道具も入ってくると、道具を使った免除になります。
その後、道具の界隈がある種自己増殖した結果、僕らがテクノロジーと呼ぶ界隈に広がっていって。一方で、それがブラックボックスになっていくという流れがあるということですよね。
それとは別に、「システム」と「生活世界」というユルゲン・ハーバーマスに由来する分け方があります。これは実は完全な二項対立なんです。なぜかというと、動機付けによって分けられているからです。
例えば、システムは損得感情でかかわる個体、個人、individualsのことですよね。それに対して、生活世界は損得感情ではなくて、ある種の内発性に従って動くと。つまり、「システムは法に従って動く」「生活世界は掟に従って動く」と言えると思います。
さっき林さんが反システム化という言葉を使いましたが、もともとシステムや生活世界を併存していく流れは不可逆です。これからも不可逆に進む。なぜかというと、遺伝子に問題があるからです。
まず我々には「近道をする遺伝子」があります。なぜかというと、そのほうが獲物がたくさん獲れて、その分疲労しないで済むからです。最近の考古学の研究でも、フローティング、誘導段階の最大の死因は殺害だったことがわかっています。それは、集団行動に逆らう人間を次々殺していったからですよね。つまり、我々は孤独になると免疫力が落ち、なおかつもちろん死にやすくなる。
それだけじゃなくて、人に見られるとか、ケアとかキュアを受けることがないと、人は精神的に狂っていく。そのように、事実上、遺伝子上で設計されているんですね。
宮台:ところで、この「孤独を恐れる遺伝子」と「近道をする遺伝子」「安全・便利・快適を求める遺伝子」というのは、中長期的にはバッティングします。なぜかというと理由は簡単で、「安全・便利・快適」はビジブル、目に見えるんです。ところが孤独はごまかせるんですね。2つのごまかし方があります。
1つは、「自分は孤独なのではなくて、周りが敵意に満ちているから防衛しているんだ」という自己合理化によってごまかす。もう1つは、「孤独の感情を退屈に変換して、刺激によって埋めること」によって、少なくともしばらくの間は孤独を感じないで済む。
したがって、簡単に言うと「孤独はすぐには顕在化しない」んです。なので、「安全・便利・快適」を求めているうちにどんどん孤独になって、気がついたら孤独死ってことです。日本では、ご存知のように在宅死のうちの4分の1が孤独死です。
孤独死の8割以上、9割近くが男性です。所得にはあまり関係がない。今、孤独死の半数以上は60歳未満です。タワマンに住んでいても孤独死します。20代の大学生でも孤独死します。単純にSNSが途切れた時、もう誰もリアルに訪(おとな)うものがいない。そういう存在は孤独死をします。
これは「SNSとは何なのか」という、さまざまな統計の問題でもあるわけです。例えば、人々はSNSにどんどん可処分時間を使いますが、何かあった時に相談したり、困った時に助けてもらう人間関係として、SNSやインターネットに期待をする人は1割いるかいないかという程度なんですね。つまりその程度の弱いつながりしか存在しない。それゆえにどんどん孤独死していく。
宮台:それはそれとして、今申し上げた遺伝子の矛盾もある。だから、このテックというものは、もちろん「安全、便利、快適」「近道をする」ことに資するわけだけれども、使い方を誤ると我々の社会性を、生活世界を、人格や身体性を破壊することが起こる。
だからそうならないように、今申し上げた意味での「悪いテック」と、そうではない「良いテック」とを区別していく必要があるということです。
例えば良いテックとしては、今僕らがこうやってインターネット上でコミュニケーションしているのはなぜかということを考えてみる。すると、コネクティビリティという意味で、テックを無視することは当然できないわけですよね。
さらに、我々はいろんなサプライチェーンの上に、生活を成り立たせています。これを手放すことって、もはやできないですよね。そういうことを含めて、「テック全体をいかに良いものとして我々の味方につけていくのか」っていうことがポイントになるわけです。
その時にやっぱり、準拠点というか準拠枠になるような明確な参照点を作っておく必要がある。それが「動機付け」という問題ですね。
僕は性愛のワークショップもやっているし、最近はYMCAで、与島という四国の無人島でのキャンプ実践もやっています。その部分では、春山さんに近いのかもしれません。それはある種、僕の経験からも「心身の耐性がない者は、利他的に振る舞うことができない」ということがわかっているからなんですね。
なので、これはある種の身体性の醸成です。心身をビルディングするための実践を、かなり早い頃からやっていかないと、まともな共同体を作ることができない。それをしないままテックを使えば、我々の意図がどうあれ、必ず悪い方向で使われてしまう。
ということで、テックがうまく働くための条件を、あるいはパラメーターを、十分に見極めてコントロールしていくことが必要だと思います。以上です。
林:今宮台さんが「身体性の回復が、テクノロジーをうまく使えるかどうかというところに入りゆく」とおっしゃいましたが、まさにYAMAPはそこの共存を目指していると思います。春山さん、実際はどうですか?
春山:ちょっと婉曲的な説明になるかもしれませんが、僕は位置情報が自分の脳というか、身体でつかめるのであれば、スマートフォンもGPSもいらないと思っているんですね。
つまり山に行った時に、自分で位置情報がつかめて、リスク管理ができて、無事に下山する力があるのなら、地図もGPSもいらないと思っています。
昔は星を見て自分の位置を知り、航海していましたよね。もともと人間には、知識と道具の使い方によって、また自然を読む力によって、位置をつかむ力があったと思うんですね。
それが紙の地図からカーナビになって、今はスマートフォンのGoogleMapsになったと。それで、地図を読む力が衰えてしまった。
テクノロジーがいいとか、アナログの地図がいいとか、カーナビがいいとかそういうことじゃなくて、「自分の能力をわかった上で、きちんと道具を使いこなす」ということが、僕はすごく大事だと思っています。
そして、それがある程度、身体的に、自分の能力として獲得できたら、道具を手放すのも1つの知恵だと思うんです。そうじゃないと、道具に使われてしまう。あるいはカーナビみたいに、山に行っているんだけど、実は「山に行かされて歩かされた」みたいな逆転現象が起きる。
だからやっぱり自分の感性で、きちんと自分の位置を把握して、自分の歩いているアクティビティ自体を深く楽しめているのか見極めること。そこらへんの感度とセットで、テクノロジーを見極めないといけないと思っています。
具体的に、登山に置き換えるとそういうイメージを持ちました。
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