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増えゆく世界のデジタルノマド長期滞在旅行需要をどう獲得するか(全3記事)

コロナ禍でも売上増の「勝ち組企業」Airbnb、止まらない快進撃 世界的トレンド「ノマド」は、日本でも“民主化”できるのか

新型コロナウイルスによって国際観光がストップし、2019年には4.8兆円あった市場が消滅したことで、インバウンド業界は遭遇したことのない嵐の中にいます。今回のインバウンドサミットのテーマは「日本の底力」と題し、観光の枠に囚われない日本が持つ底力、可能性を多様なメンバーによって議論しました。本記事では「増えゆく世界のデジタルノマド長期滞在旅行需要をどう獲得するか」の講演の模様をお届けします。

パンデミックの中でも「勝ち組企業」となったAirbnb

柴田啓氏(以下、柴田):では、始めさせていただきたいと思います。よろしくお願いします。僕から少し前提のお話をさせていただいたあとに、今日集まっていただいたみなさんにいろいろとおうかがいしたいなと思っております。

まず前提としまして、世界の旅行業界でAirbnbの成長が止まらないという、1つの大きな現象があります。ここのところずっと、テクノロジー企業の株価が軒並み大きく下がっているんですが、それが始まるここ最近までの間、Airbnbの株式の時価総額は長い間世界最大の時価総額を記録していたんですね。

これはやっぱり、旅行業界の中では大きなできごとでした。みなさんも聞いたことがあると思うんですが、Booking.comを持ってるBooking Holdingsという会社がそれまでは時価総額最大で、世界で最大の旅行会社だったんです。

Airbnbをコロナ前の2019年対比で見ると、売上と予約総額ともにコロナ前の80パーセント増という、驚異的な成長を遂げたと公表されております。このパンデミックの中でも連続成長を遂げられたAirbnbは、旅行分野における、世界でも有数の「勝ち組企業」になったと言ってもいいんじゃないかなと思っております。

言い換えると、コロナ禍においても世界では民泊の需要が非常に大きく拡大したということじゃないかなと思ってます。このトレンドは、Airbnb社のグローバル・ディストリビューション・パートナーをやらせていただいている、私どもが運営する「Trip101」のデータを見てもはっきりしています。

アメリカを中心に伸び続ける「民泊」の需要

柴田:手前味噌で申し訳ないんですが、Trip101は世界の旅行先や民泊を含む世界の宿泊施設を厳選して、世界の旅行者さんにおすすめさせていただいているメディアです。

ちょうど先月2021年の決算を終えたところで、僕らのサイトを通じたAirbnbの旅行の予約総額は、2019年比でなんと3.7倍もの規模になることができたという、非常にありがたい結果だったんですね。直近2022年の1~3月でも、我々のサイトを通じた予約総額が前年比で約2倍に伸びていまして、成長がさらに加速しています。

これもありがたい話なんですが、Similarwebというサイトで世界のWebサイトの視聴率データが公開されているんですが、Airbnbの世界のパートナーサイトの中で(Trip101が)3本の指に入ることもできました。手前味噌な話で申し訳ないです。

何が言いたいかというと、最大市場はアメリカなんですが、アメリカを中心に世界で民泊予約の需要が爆速で伸びてるんじゃないかなと、毎日感じています。

僕らのデータを見てもわかるんですが、世界での民泊の力強い成長の源泉は何なのかを考えると、おそらく欧米を中心にした「旅行者の長期滞在化現象」じゃないかなと思ってます。

去年、実はAirbnbはけっこう驚く発言をしたんです。彼らの扱ってる全宿泊予約のうち、なんと2割が28泊以上になったという衝撃的な発表をして、世界を驚かせたんです。直近の彼らの決算発表をもう一回見たんですが、28泊以上の長期滞在予約は、彼らにとって最も早く成長しているビジネスになったということです。

世界規模で発生した、デジタルノマドの民主化現象

柴田:この「長期滞在」というのが、世界の観光旅行業界のものすごく大きな成長の源泉になっているんじゃないかということです。

ちなみにAirbnbは、今年の5月に「過去10年における最大の変化」と彼らが呼んだ新機能のリリースもしています。その中の1つの目玉としては、長期滞在ユーザーに向けた「Split Stay」という新しいサービスも打ち出しています。

ほかのオンライン旅行会社さん、または旅行会社さんとは違って、「長期滞在」に対して大きくコミットしてるということがよくわかりました。

長期滞在旅行者は、世界では「デジタルノマド」とも言われております。デジタルノマドというのは、まさしく「旅先を転々としながら自由に働くワークスタイルを持つ人」という定義じゃないかなと思っています。

実はこの「デジタルノマド」という言葉は、別に新しい言葉ではなくて。パンデミックの前までは、最近インフルエンサーと言われている人たちやクリエイター人たちなど、一部の限られた職業の人たちのみがデジタルノマドとして世界中を旅しながら仕事をされていらっしゃったんです。

今日もそうですが、コロナのパンデミックによっていろんな仕事がリモートでできるようになり、世界規模で一気にリモートワークが広がったことによって、一部の人たちだけじゃなく、さまざまな職種の人たちへと(デジタルノマドが)広がったんじゃないかなと思います。

僕が思うに、今回は世界規模でデジタルノマドの「民主化現象」が発生したんじゃないかなと思ってます。まさに地球規模で、たくさんの人たちが仕事しながら暮らすように旅する生活を始めたんじゃないかなと思ってます。

日本のインバウンド観光の大きな課題

柴田:前置きが長くなっちゃって申し訳ないんですが、日本のインバウンド観光にとって、この世界規模での大きなトレンドを取り込んでいくことは非常に重要かなと思ってます。なぜならば、海外から長期滞在旅行者を取り込むということは、旅行者1人あたり、1滞在あたりの消費額の大幅な増加が見込めると思うんです。

さっき観光庁の長官さんもおっしゃっていましたが、どうやって消費額を増やすかは1つの大きな課題だと思います。あと、滞在が長期化することによって、間違いなく旅行者の滞在先が地域へ大きく広がると思うんですね。

もっと言うと、飛行機などによる旅行中の移動も減ると思うんです。そうなると、環境へのインパクトでも期待できるんじゃないかなと思っていて。いろいろと考えれば考えるほど、(長期滞在旅行は)日本の観光にとって良いこと尽くしだと思うんですね。

このような背景のもと、今日はキーパーソンにお集まりいただきました。まずは、国内における大手民泊およびバケーションレンタルの最大級のプラットフォームを運営されていらっしゃる、楽天LIFULL STAYの代表取締役の太田宗克さん。よろしくお願いします。

太田宗克氏(以下、太田):よろしくお願いします。

柴田:お二人目は、ウィンターシーズンにおける日本のインバウンドのデスティネーションとしては、おそらく世界で圧倒的なブランド力を持ってらっしゃるであろう、北海道のニセコの町長を務めていらっしゃいます、片山健也さん。よろしくお願いします。

それから、サヴィーコレクティブの代表で、ワーク・ライフが融和した新たなトラベルスタイルの実現を追及していらっしゃる、浅生亜也さん。実は僕と一緒に、トラベルとテクノロジーをテーマにした国際会議の「WiT JAPAN & NORTH ASIA」というカンファレンスを運営しています。

浅生亜也氏(以下、浅生):よろしくお願いします。

柴田:よろしくお願いします。この3人をお迎えして、増えゆく世界のデジタルノマドによる長期滞在旅行需要を日本がどうやって獲得すべきかについて、これから議論させていただきたいと思います。

日本最大級の民泊サイト「Vacation STAY」

柴田:ということで、まずはみなさんに自己紹介してもらいたいんですが、事前に2枚のスライドを用意していただいております。1枚目はご自身の事業や自治体、お仕事についての話。もう1枚は、ご自身がデジタルノマドライフとしてどんなことをされてらっしゃるのかについても触れていただきたいなと思います。じゃあ、太田さんからお願いします。

太田:ありがとうございます。ご紹介いただきました、楽天LIFULL STAYの代表を務めております、太田でございます。弊社楽天LIFULL STAYは、「おウチ見つかる、ホームズくん」のLIFULLさんと共同で立ち上げたジョイントベンチャーでございまして、マジョリティは楽天が持っているんですが、大きく2つの事業を展開しております。

1つは、Airbnbさんのような民泊の予約・仲介事業。我々は「Vacation STAY」というブランドを展開してるんですが、今は約10万弱のお部屋をご登録いただいていて、おそらく日本でも最大クラスのサイトになっているんじゃないかなと思っております。

こちらも今、非常に伸びておりまして、パンデミック前の2019年から比べると、同じく3倍ぐらいの成長を遂げているサイトでございます。

もう1つは、楽天のブランドを冠した「Rakuten STAY」。我々が監修する民泊施設を自分たちで監修して、物件の運営を行っております。すでに今、全国で30ヶ所以上に展開をしています。我々のほうで予約サイトを運営しつつ、自分たちのブランドの民泊施設も運営していると。この2つの事業を大きく展開しております。

デジタルノマドということで、もともと私はパンデミック前には1週間同じ国にいることがなくて、ずっと違う国を転々としながら仕事していたんです。今は柴田さんと同様でシンガポールを拠点に、最近は隔週で日本とシンガポールを行き来しているような生活です。

充実した設備で、手ぶらで行っても暮らせる民泊

太田:日本にいる時は、自分たちが作った「Rakuten STAY」に泊まっておりました。最近は「民泊」もいろいろな定義になってきたんですが、基本的にはキッチンがついていて、食器類もついていて、バーベキュー設備もあったり。物件によってはプライベートの半露天風呂や足湯もつけさせていただいます。洗濯乾燥機もついていて、手ぶらで行っても暮らしていけるような物件のしつらえにしております。

これは日光宝殿の施設なんですが、上にプロジェクターがついているので、寝転がりながら巨大スクリーンでNetflix等々を見たり。お仕事もそうですし、観光地の中にあったり、温泉を楽しんだり、仕事をしながらいろんな周辺環境のコンテンツを楽しんで、日本に行くのが楽しみになるような生活を続けさせていただいております。

今日はいろいろとお話しできることを楽しみにしておりますので、どうぞよろしくお願いいたします。

柴田:よろしくお願いします。それでは次は片山さん、お願いします。

片山健也氏(以下、片山):ニセコ町長の片山です。よろしくお願いいたします。私たちの町では、これからの観光・リゾート地は「環境」だと思っていて、ゼロカーボンを含めて徹底的に取り組んでいます。

今、私たちの町には海外のみなさんもたくさんお住まいになってますが、環境や景観や子育てにものすごく魅力を感じていただいて住んでいる状況です。地球環境負荷をとにかく徹底して排除する町、みなさんがエコロジーを楽しんでいただく癒しのリゾート、そんなことを目指してまちづくりを進めてます。よろしくお願いします。

今はもう一般的で、みなさんもシーカヤックはやられていますが、なかなか日本にシーカヤックがない頃にカナダから輸入しました。北海道の海とか、特に知床は本当に思い出がありますが、5日間かけてキャンプをしながら回ったりしていました。

もともと山登りとかが大好きなものですから、本来は合わない職を選んでしまって(笑)。とにかくがんばってます。よろしくお願いします。

柴田:(笑)。すてきですね、よろしくお願いします。

時間にも場所にも囚われない「デジタルノマド」という選択肢

柴田:では浅生さん、お願いします。

浅生:ありがとうございます。今日はよろしくお願いします。サヴィーコレクティブ、並びにPerkUP株式会社の浅生亜也です。もともと私は20年ぐらいホスピタリティ業界で投資、開発、企画、そしてオペレーションまで一気通貫でいろんなことを経験してきました。

現在サヴィーコレクティブでは、ホテルとリゾート、それからもう少しホスピタリティの外縁にあるライフスタイルの中でも、今話題のワーケーションの施設の企画・運営をやっています。

PerkUPという会社はコロナ禍で立ち上げたんですが、法人やチームのチームビルディングの合宿・研修、そしてワーケーションを一括で手配をするOTA、コワーケーション.comを運営しています。

今日のテーマでもあるノマドのように、働くスタイルの選択肢が増えるということは、つまりは場所にも、それから時間にも囚われない生き方ができるわけですよね。

もちろん子育てや介護とか、人によってのライフイベントやステージはあると思うんですが、仕事がけっこうな「足かせ」というか、軸となっているライフスタイルを送ってる人はすごく多いと思います。それが自由になることによって、非常に豊かな日常を提供したいという思いがあります。

持論なんですが、豊かな日常があふれる地域は、人が「行きたい」というモチベーションが起こるなと思っていて。

「住む」疑似体験ができることが、長期滞在のメリットの1つ

浅生:さっき柴田さんがおっしゃった「住まうように旅をする」という言葉があるように、「住む」という疑似体験をしたいのが長期滞在のモチベーションかなと思っています。そういうロジックから、豊かな日常であふれる日本をつくることをビジョンに事業をしております。

私のノマド体験をお伝えをすると、けっこうノマド歴は長くて15年くらいやっています。前職のアゴーラ・ホスピタリティーズという会社を1人で作って、その頃から「ノマド社長」と言われていて、あちこち行って仕事をしていました。万年ノマドです。

それと、2016年からは軽井沢との二拠点生活をしていて、今日も軽井沢から参加しています。2008年に『NIKKEI The STYLE』の表紙を飾ることになりまして(笑)。こんな感じでテラスで仕事をしていたり、「軽井沢で始めるシームレスライフ」なんて言われて、二拠点生活の分野ではあちこちからご取材をいただいています。

今、会社でも誰一人としてオフィスに出社する者はいなくて、全員リモートです。なのでコロナ禍においても、私たちは誰も日常が変わることなく、非常にシームレスに事業を続けていくことができたなと思っています。ということでみなさん、今日はどうぞよろしくお願いいたします。

柴田:よろしくお願いします。

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