2024.10.01
自社の社内情報を未来の“ゴミ”にしないための備え 「情報量が多すぎる」時代がもたらす課題とは?
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天野妙氏(以下、天野):あともう1つ、(男性育休の)取得率が上がってくる企業が抱える問題について。それこそ、マミートラックならぬ「ダディートラック」と言うらしいんです。
男性育休取得率120パーセントという企業さんもお手伝いしているんですが、(取得した社員が)けっこうダディートラックに入っていて、悩まれているようです。これ、女性たちがこれまで経験した苦労を男性たちが辿っているとも言えると思います。
今までマイノリティ女性が我慢してきたことが明るみに出てきたわけですが、「男性も育休だ!」と、気持ちや勢いや気合いだけではなくて、制度の改善に手を付けないといけない。マジョリティである男性が(育休を)取っていくことで変わっていくのではないかなという期待も込めて、男性も同じなんだよとお話したいなと思いました。以上です。ありがとうございます。
大岩央氏(以下、大岩):ありがとうございます。小室さん、いかがでしょう。
小室淑恵氏(以下、小室):そうですね。質問もチャットにたくさんいただいて、「誰が休んでも回る職場はどうやって作るんですか?」というご質問をいただきました。実は、まさに大企業も中小企業もそこが最も肝なところです。
イメージとして、今までは、1人の屈強なプレーヤーが最初から最後まで走りきってトライ、というプレイスタイルでみんなやっていたんですけれども。もうそんなドリームチームを作ることができないので、パス回しの美しいチームになって、以前以上のトライ数が決まって、アウトプットはむしろ増えてしまうというやり方になります。
実際に2,000社コンサルティングして、ざっくり言うと平均して25パーセント残業が減って、業績は上がっているんですね。なので、人が休んでもパス回しの美しいチームになると、実際にはより少ない人数と時間で以前以上の成果を上げることができるわけですよね。
小室:その時の最大のポイントは、パスが落ちないように情報が共有されていることが大事です。働く時間や場所とかが、すごくずれてくるんですね。早い時間、遅い時間、在宅勤務、オフィス勤務と、いろんなふうにずれてきた時に一番のネックになるのが、いつも出勤していて24時間仕事体制の人です。
(そういう人は)大抵、自分の仕事の情報を自分の袖机に“秘伝のタレ”みたいに入れていて、人に見せない。それを継ぎ足し、継ぎ足し仕事をして、他の人よりも情報を持っていることによって、自分のほうが評価が高いことに喜んでいる。
こういう仕事の仕方をしている人が職場に1人でもいると、その人がボトルネックになって、短時間の人たちはその人に「情報をちょうだい」と言いに行かないといけないので、短い時間の人は「いつも雑用しか振られない、仕事の成果の低い人」みたいな扱いになってしまう。
つまりネックになっているのは、この「時間外(労働)がいくらでもできる、ブラックボックス型で仕事をする人」なのです。この人に焦点を当てて、「働き方を見える化・共有化しないと、あなたはもう評価しないよ」としていくことによって、実は職場全体の生産性やモチベーションも上がります。
そういうマネジメント自体を変えることが本当は肝で、さらに「情報を共有しなさい」と言うだけでは共有されないのが実情です。なぜかというと、情報は、大抵共有したら怒られるものもあるから、なるべく怒られないために全部ブラックボックスにしておくという癖が、みんな付いているんですね。
小室:つまり上司が叱責型だと、「大抵の仕事は伏せてやっておいたほうがいい」と学ぶものです。なので、マネジメントスタイルを叱咤激励ティーチング型から傾聴承認型のコーチングスタイルに変えて、心理的安全性を高めるようなマネジメントをマネージャーが1回学び直さないといけない。
つまり、今まで習ってきたマネジメントスタイルを1回アンラーンして、新しいマネジメントスタイルを学び直す、この飛び移りをしないといけない。職場でマニュアルを作ったからみんなが共有するというものではなくて、やっぱりトップのチームのリーダーの姿勢がすごく大事ですね。
それを『プレイングマネジャー 「残業ゼロ」の仕事術』という本に詳しく書いたので、ぜひ読んでいただければと思います。やっぱり、心理的安全性研修みたいなものを管理職に徹底してやること(が大切です)。
それから、IT投資を惜しまずに見える化・共有化しようという時に、「クラウドがいっぱいです」「共有がいっぱいです」というわけにはいかないので。ちゃんとクラウドを潤沢に用意をして、どこからでもパスを受け取って走れる体制を作ること、そのあたりをちゃんとやっていくことが大事かなと思います。
今回の『男性の育休』という本にはやり方まで書けなかったので、『働き方改革』という本のほうを読んでいただければと思います。「カエル会議」と「朝夜メール」という手法でやっています。
あと、ご質問いただいた中で1個だけ答えたいと思ったのが、「育休を取ったけど、ゴルフへ行ったり髪を染めたやつが多いよ」というご質問がありました。本当によく聞くんですよね。
それは、なぜ男性が育休を取るべきなのかということを、ちゃんと学ばずに育休に入ってしまったことが大きな要因です。そういう問題が起きるからこそ、父親学級は大事ですねと思いました。以上です。
大岩:ありがとうございます。先ほどお話に出たダディートラックについて補足させていただきたいんですけれども、マミートラックといって、子どもを産んだ女性が補助的な仕事に回されたり、昇進が望めない。あるいは、いわゆる傍流と言われる仕事に配置されたりすることをマミートラックと言います。
育休を取ったり、家庭を優先する男性社員が、その男性版のダディートラックに実際に入ってしまうのではないかという心配が、最近すごく言われている話です。
山口先生に最後にお聞きしたいんですが、男性育休先進国の事例で、男性育休が一般的に普及している欧米諸国などではダディートラックについてはどう考えられているか、お聞きしてもよろしいでしょうか。
山口慎太郎氏(以下、山口):実は、海外でダディートラックはほとんど問題視されていません。もちろんメディアなんかで、特別な事例として「こんなのがあるよ」という取り上げられ方をしたことはあるんですが、ちゃんとデータを取ってみると、それが頻繁に見られるような現象であるとは確認されていません。
所得に対する影響ですが、2~3パーセント程度収入が減ることがあるということがわかっています。「収入が減ったら2~3パーセントでも困るよね」と感じるかもしれないんですが、分析によるとこれは主に残業時間の減少なんかによるものであって、本人がある程度以上に納得感のある選択の結果なのではないかなと(思います)。
残業するのではなくて早く帰ろうと。結果、残業代はもらえないんだけれども、家族といい時間を過ごせたからそれでいいやと。(減少の)数字もそれほど大きくないので、問題ないのかなと言われています。
山口:あともう1つ。おもしろいことに、会社で、個人の働きを他の社員との比較によって評価される部分はあるわけですよね。だから、生産性は落ちていないんだけど、他の人より出来がよくないように見えたら、収入を下げられてしまう部分はあるかもしれません。
自分だけが育休を取っているような会社になってしまうと、その人はある意味、ペナルティのようなものを受けてしまう可能性はあるわけです。ところが、みんなが育休を取ると全員の相対的な順位が変わらなくなるので、そういった給料に対する悪影響もなくなっていくことが知られています。
したがって、育休が珍しい時期では目立ってしまって、悪意のある上司に捕まってしまう、評価を下げられてしまう、ということも避けられないかもしれないんですが、一定以上に世の中で育休を取る人が増えてくると、そういうことも起こりにくくなるかなと楽観的に捉えています。
大岩:ありがとうございます。調査によると実は影響はあまりなかったということは、意外と私たちが心配し過ぎだという面もあるのかもしれませんね。非常に勇気付けられるお話でした。ありがとうございます。
少し(時間を)オーバーしてしまいましたが、男性育休そのものの解説から、社会的な影響、そして現場のマネージャーや人事がこれからやるべきことについて、非常に多岐にわたって勉強になるお話をいただきまして、ありがとうございました。
大岩:最後に登壇者のみなさまから、ひと言ずついただいてもよろしいでしょうか。山口先生、天野さん、小室さんの順にいただければと思います。よろしくお願いいたします。
山口:本日は聞いてくださり、どうもありがとうございました。男性の育休は会社にとってもメリットがありますし、本人やご家族にとってもメリットがあるのはもちろん、社会全体も良くすることがありますので、ご自身が当事者であったら自信を持って取っていただきたいと思いますし、会社もぜひサポートしていただきたいと考えています。
大岩:ありがとうございます。天野さん、お願いします。
天野:私、いつも最後にこれをご紹介しています。男性の育休って何かというと、社会課題の連鎖的解決に貢献する「レバレッジポイント」だということです。レバレッジポイントとは、ちょっとの力で押したら、テコの原理でものすごく大きなパワーを発揮するというものです。
今日のテーマは「少子化」ですが、これは、男性の「育休」が「家庭進出」につながって、産後うつ、長時間労働、女性活躍、ひいては少子化の改善など、今の日本に横たわるいろんな社会問題の解決につながり、最後はみんな幸せになるものですので、ぜひご自身が(育休を)取る。パートナーが取る。同僚が取る。部下が取る。上司が取る。ぜひ賛成していただけたらなと思います。以上です。ありがとうございました。
大岩:ありがとうございます。小室さん、お願いします。
小室:さっきもマミートラックの話があったんですが、先日、21世紀職業財団調査結果を見ていてすごく悲しい結果になっていました。「マミートラックから復活したきっかけは?」という問いに対して、「ちょっと残業を増やすようにしました」という回答だったんですね。
「『残業に対応できます』ということを、自分から上司に言っていくことによって、復活できたんです」。それじゃ駄目じゃない! と思ったんです。時間外(労働)ができるという人がスタンダードであり、そっちの方向に戻していくという方法でしか、解決できなくなってしまっているのが現状です。
小室:このまま男性も同じように、「やっぱりごめん。職場での状態が悪くなっちゃったから、もう1回残業させて」なんて妻に頼んで、「お迎えは週1回くらいしか行けないや」と言って、それを優先していく人生になってしまう。
「なんでこの国が少子化なの?」と考えた時に、現在育っている子どもたちが自分の両親を見て、「結婚は苦しそう」と思うからですよね。
「うちの両親、ずっと喧嘩してるじゃん」「どっちがやるの? どっちがやるの? って、もう俺、生まれちゃいけなかった?」と思うくらいの状況で毎日育った人が、「結婚しろ」と言われても、「結婚したくなるような夫婦関係が送れる国にして」というのが本当のところで、小手先の施策で出生率は上がらないし、結婚も増えないと思っています。
今、多感な時期を過ごしている子どもたちが、「うちの両親は幸せそう。お互いに信頼しあっている」と思えるような状況を作れるかどうか。これは夫婦の性格の問題ではなくて、企業が過剰に時間を奪うことによって、夫婦の中で「どうするの? どっちがやるの?」と、いさかいが増えるわけです。
そこを規制しないで、「少子化対策にお金だけばら撒こう」みたいなことは違うんだよ、ちゃんと全体を設計してよ、今の子たちが幸せだと思える両親の労働環境にしてよと全力で思います。ありがとうございました。
大岩:ありがとうございました。弊社の話になってしまうんですが、弊社の創業者の松下幸之助が「企業は社会の公器」と言っています。
公器とは、「公」の「器」と書くんですけれども、社会の公器ということは、その会社で働く一人ひとりの社員や、社員の家族に対しての義務がある。そういった人々の幸せまでも考えられる企業が、真に社会に対して貢献できる企業なのかなと感じました。
本日は山口さん、天野さん、小室さん、非常にためになるお話、そして考えるヒントとなるお話をいただきまして、ありがとうございました。これにて閉会とさせていただければと思います。PHP総研ブックフォーラムは不定期で引き続き開催してまいりますので、ぜひこれからもご注目をいただければと思います。あらためまして、本日はありがとうございました。
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