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吉岡秀人氏・青島矢一氏・米倉誠一郎氏による鼎談(全4記事)

特急電車で行った、最後の温泉旅行で見せた満面の笑顔 旅行から戻って他界した末期がんの幼児が、家族に望んだこと

四半世紀にわたるミャンマーでの無料診療などその無私なる姿勢が注目され、『情熱大陸』ほかメディア出演も多い小児外科医の吉岡秀人氏が、一橋大学一橋講堂で行われた「ソーシャル・イノベーション・セミナー」に登壇。本記事では、一橋大学イノベーション研究センターの青島矢一氏や一橋大学名誉教授の米倉誠一郎氏との鼎談の模様をお届けします。吉岡医師が考えるアウトプットの重要性や、病院関係者に求める意識改革など、さまざまなトピックスを語りました。

吉岡医師が、サポート希望者に望むこと

米倉誠一郎氏(以下、米倉):さあ、高校生に負けずに質問どうですか? じゃあ、そこの。

質問者2:大変おもしろいお話をありがとうございました。残念ながら私は、医療関係者ではないんですが、今日はすごく刺激を受けました。医療関係者ではない我々がサポートできることは何があるのか。やっぱり寄付でしょうか? 他に何かあるのか、ぜひ教えていただきたいです。

吉岡秀人氏(以下、吉岡):はい、ありがとうございます。寄付ももちろんありがたいですから、それはそれでやっていただくとして。自分の技術がもしあれば、それを……。今、IT関係の人だけではなくて、すごくいろんな方たちが協力してくれるようになりました。

始めた頃とは、組織の形態や中身がまったく違っているんです。特に、医療者以外の人たちが、比較的優秀な人もたくさん集まってくるようになりまして、その人たちと一緒にやっていくんです。

むしろ、実際に活動を見て体験してもらって、何ができるかを自分で提案してもらったほうがうまくいくと思います。こちらから提案するのに合わせるよりも、自分ができることを自分でヒットさせていってもらうほうが、絶対にいいです。

だから、一度現場や事務局に来てみるのが一番いいかなという気はします。

米倉:ジャパンハートにすぐ連絡してください。「私はこれができる」「これがやりたい」。たぶん却下されます(笑)。

吉岡:見に来てもらって。今カンボジアはほぼ隔離なしで入れますから、行って帰って来られますので、もしあれだったら行ってみる。講演会ではいつも、もうちょっと時間があったら、実際カンボジアの小児がん病棟とつなぐんです。そして子どもたちを見てもらうんですけど、今日は時間がないのでやめたんです。

そういうのも実際、自分の目で見ていただいて。小さい子どもたちが一生懸命戦ってる姿を見て、その中で自分が何ができるかを考えてもらうほうがいいと思います。

米倉:ワッチェ病院、僕も行きましたけど、実際に行くとやっぱり感動しますよ。

貯金通帳の残高がどんなに増えても、人生は変わらない

米倉:じゃあ、マイクをここの方に。

質問者3:本日はありがとうございました。米倉先生主催の「世界元気塾」に入塾させていただいている、京都の経営者です。(吉岡)先生の本『救う力』に「アウトプットを大切にする。排泄はとっても気持ちがいい」というような言葉も書かれてるんですが、いつ頃からこういう考え方をされているのか。

さっきのお金の話でも、「お金は貯め込むより使う」。普通の人は本当に怖いと思うようなことを、そうでない感性でおっしゃっているので、お聞かせいただければ。

吉岡:僕はいつも言うんですけど、貯金通帳にいくらスタンプが増えても、金額が増えても、人生は何も変わらない。やっぱりお金を使った時に初めて人生が変わるので。

日本人は貯めることがすごく好きなんですよ。お金だけじゃなくて、勉強とかセミナーとかも大好きじゃないですか。でも、アウトプットする人はあんまりいないんです。だから、人生が変化しにくいと思うんですね。

僕の理屈的には、「息吐け」といつも言うんですね。「もし最高に新鮮な空気を吸いたければ、今ある状態から吸うんじゃなくて、まず全部吐け」と言うんですよ。それが一番最高の息を吸えるじゃないですか。

だけど、それでも肺の中に、機能的残気量というものがあるんですよ。どういうことかというと、全部息を吐いた時に、まだ空気が20パーセント肺に残っているんです。僕らの体の仕組みと世の中の仕組みは比較的、相似形にできている。おそらくガーッと使ったつもりでも、20パーセントぐらい残るんですよ。

だから僕は、一番良い空気を吸って健康になりたければ、息を吐くべしと言う。まあそれは体の関係から言っているんですけど、僕は何でもそうだと思っているんですね。

あるいは、例えばここで僕が弓を引くとか、ボールを遠くに投げる必要がある時に、本当は飛ばしたい方向と逆に弓を引くじゃないですか。あるいは、ジャンプも飛びたい方向と逆にしゃがむじゃないですか。遠くに行くためには、必ず逆のベクトルが1回いると思うんです。

本当は人生を変えたいから、学ぶんだけど、弓を引きすぎたら弦が切れる。しゃがみすぎたら飛べなくなる。助走もつけすぎたら、もう疲れて飛距離が落ちるじゃないですか。

それと同じことが人間の体の仕組みでもあるわけだから、弓の弦が切れるギリギリのところを見極めて。引きすぎたら飛ばないし、引き戻されたら距離は落ちる。自然に離れるポイントを自分の中で自覚しながら、遠くへ飛ばすことですね。絶対に世の中はアウトプットに意識を向けておかないといけない、という感覚です。

質問者3:ありがとうございます。

米倉:なるほどね。確かに吐かなきゃ吸えないですよね。

重度の脳腫瘍で闘病中の小さな子が、最後に家族に望んだこと

米倉:これが最後の質問ですが、元気よく手が挙がった、そこの方もあとでいきたい。じゃあこちらからお願いします。

質問者4:本日は貴重なお話ありがとうございました。昨年、ソーシャル・イノベーション・スクールで学ばせていただいた卒業生です。吉岡先生のお話を聞いて、涙ボロボロで最後質問できなかったのですが、今回は質問させていただきます。

先生のお話の中で、もう助からないと思った方に対しても「麻酔が来るまで待つように」と言葉を返されたというお話があったのですが。先生は難しい症状の方に対して、何を気にかけて言霊を出されているのでしょうか?

吉岡:僕、今おっしゃった話をしたかどうかちょっと覚えてないんですけど(笑)。

米倉:そうやってちょっとごまかしたっていうのかな。麻酔が来たら手術をやるね、と。

吉岡:ああ、その話ですね。命を助けても、「なんで助けたんだ」「もう死なせてくれ」と言う人はいっぱいいるんですよ。だけど、逆に亡くなってもすごく感謝して、幸せだったという人もいる。結局人間は、心が満足して、救われていないと、肉体だけ助けても意味ないんだな、とわかってきたんですね。

で、こんな小さい子がね。がんの子で、ひどい脳腫瘍です。どんどん進行が早くなって、薬なんかまったく効かないんですよ。でも、何とか特急という列車がどこかそのへんを走っているらしくて、その子が「それに家族で乗りたい」、「それで温泉に行きたい」と言うんです。

小さい子なんですよ。そう言って、特急に乗ったんですよ。帰ってからすぐ亡くなりましたから、それが最後の旅行になったんですけど。その2歳か3歳の子が、おばちゃんやおじちゃん、その子のきょうだい、お父さんお母さんも含めて、一緒にいるのを横から見ていて、すごいニコニコしていたらしいんです。

たとえ亡くなる子どもでも、そんなに小さい子どもでも、家族が自分のせいで大変な思いしてるってわかるんですよね。だから、その家族が本当に幸せになってるとか、よろこんでるって、実はすごく大事なことです。

やっぱり家族の一員というか、人間同士、家族同士がつながっている。だから、病気がたとえ治せなくても、家族を大切にするとか、家族によろこんでもらうって、本人が直接できなくても、実はすごく大切なことだと理解してるんですよ。

「医者が一番上」の意識を変える

米倉:はい。じゃあ最後の人。最後ですから、良い質問をしないと相当問題ですよ(笑)。

質問者5:吉岡先生、今日は本当に貴重な講演ありがとうございます。

吉岡:ありがとうございました。

質問者5:実は私、10年前に『情熱大陸』を拝見しており、「いや、すごいな」と本当に感動したことを今でも思い出します。お目にかかれて本当にうれしく思います。

私は、分野としては産婦人科ですけれども、管理栄養士を職業としています。やっぱり口蓋裂のお子さんを見ると、「あ、栄養が絶対的に根っこにあるんだな」という感情が湧いてくる。それから、栄養士のセクションでいくと、オペ後の管理とか補液のところが、医師に委ねられているところがまだまだ多くて。専門の栄養士を作っている現場もあると思います。

先生はその最前線にいらっしゃる中で、栄養の分野で、何か貢献ができそうな部分とか、感じられていることがあったら教えていただきたいです。

吉岡:そうですね。ビタミンの不足で口蓋裂や口唇裂になると言われています。例えば、がんの子どもなんて栄養どころか、給食が出る病院がないんですよ。みんな家族が自分で作るか、そのへんで買ってくるか。だから、他の国でも、抗がん剤をしている子なんか、普通にそのへんで買ったものを食べて死んでいるんですよ。

だから、この病院は栄養センターを併設して、栄養管理をしているんです。そういうことを当たり前にしていくのを、栄養の人にはぜひしてほしいと思ってます。

もう1つは、日本の医療現場の問題ですけど、栄養科も、看護師さんたちも、薬剤師も、すべての科が対等ではないんですね。やっぱり医者が一番上にいるという意識があるんですよ。

そこをいかに対等に、近づけていけるか。要するに、医者は治療者なんだけど、コーディネーターでもある。例えば、1人のがんの子どもに対して、栄養士が集まり、看護師が集まり、リハビリの人が集まり、薬剤師も集まって、チームで治療方針を決めていくのが、正しい姿だと僕は思っているんですよね。要するにそういう感じで、医者のステータスを落とすのではなくて、ちょっと作り変えていかないといけない、とは思っています。

トイレ掃除のおばちゃんも駐車場の交通整理のおじさんも、みんな対等

吉岡:それからもう1つ、僕は1人で始めたので、糸1本から自分で買いに行かないといけなかったし、本当に苦労したんです。その時に僕が1つだけわかったのは、結局どんな病院に行って良い外科医がいても、トイレを掃除するおばちゃんがいないと回らないんだな、ということです。駐車場で交通整理をしてくれるおじさんがいないと、どんなに良い外科医がいても病院は成立しないとわかったんです。

だから、「それはもう対等なんだ」という観点です。「どんな仕事ですか?」と聞いたら、トイレ掃除のおばちゃんたちが、「何々病院で掃除して、みなさんが健康になるお手伝いをしています」と言えたら本物だと思っている。

経営者の人たち、トップの人たちは、それをやらないといけないと僕は思うんです。それは院長の、医者の役目です。だから、医者たちにそういう意識改革をしていかないといけないと思ってます。

それが特に、社会全体のためになるので。ふだんからそういう方向に発言をしていくようにされるといいと思います。

米倉:はい、ありがとうございました。みなさん。25年前、たった1人でスタートして、今度第2病棟まで建つ。我々は伊達に賢いですから、できない理由は1万でも2万でも3万でも、いくらでも挙げられるんですよね。ただ、僕が今日一番印象に残ったのは、先生が言われた「やると決めたら知恵が出る」。

日本が今忘れているのは、さっきの高校生の質問ではないですけど、直感に働いて動いてみる。そうすれば、いろんな力が集まってくるということを、僕は吉岡先生の話を聞く度に思います。

我々も確かに微力です。でも、無力ではないので。1歩でも何かをやれば、きっと大きな成果に結びつくということを、今日は吉岡先生に感じさせていただきました。本当に忙しい中……明日行かれるんですか? 明々後日。またカンボジアに戻られるそうです。さっきの青年は即ジャパンハートに電話をして、行くように。

ということで、先生ありがとうございました。

吉岡:ありがとうございました。

(会場拍手)

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