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Session 8【宇宙×法律】 ルールがない宇宙でのルールメイキング(全3記事)

世界が進める宇宙開発で「ルール」が曖昧になる理由 弁護士が考える、ルールを作る側の難しさ

日本橋にて、「宇宙の仕事」をテーマにしたイベント「HELLO SPACEWORK! NIHONBASHI」が開催されました。今回は、「ルールがない宇宙でのルールメイキング」をテーマに、弁護士の岩下明弘氏、星諒佑氏、YouTuberで京都大学法学部在学中の日野湧也(わっきゃい)氏が登壇したセッションの模様をお届けします。今まさに議論の最中である、宇宙に関する法律。本記事では、宇宙開発において明確なルールを作ることの難しさが語られました。

打ち上げ能力がない国も、宇宙のルールメイキングに参加する理由

日野湧也氏(以下、日野):いち法学徒として気になることがありました。先ほどCOPUOSの参加国が、100何か国とおっしゃっていましたが、技術的にも経済的にも宇宙活動に直接的に参加・貢献できる国は、数えるほどしかないですよね。

例えば、ISSに調査チームがあるのも、本当に両手で数えられるぐらい。じゃあ、そのルールメイキングに関わることができる他の100何か国は、同じように権限があるのか。それとも、直接的に宇宙活動に貢献できている比重の高い国のほうが、大きな権限を与えられているのでしょうか? そこが気になりますね。

星諒佑氏(以下、星):すごく重要な視点です。打ち上げ能力を持っている国は限られているわけですよね。なので、そういった国は諸々の条約やルールに入っていくんです。

アルテミス計画(2024年までに有人月面着陸を目指し、2028年までに月面基地の建設を開始するというNASAプロジェクト)なんかもそうかもしれませんが、入っていくだけのインセンティブがあります。他方ではもちろんそうでない国のほうが多くて、そうした国は実際に入っていないわけですよね。

少し話がズレますが、冒頭で「月協定」というものがありました。宇宙5条約のうちの1つです。これ、批准国が非常に少ないんですよ。なぜかというと、すごくざっくり言うと、「月の資源が何か得られたら、みんなで分配しましょう」ということになっていて、そうなると打ち上げ能力や探査能力を持っている国はおもしろくないわけですよね。それで(月協定にはあえて)入らないという現象が起きていたりします。日本も批准国ではありません。

西村真里子氏(以下、西村):なるほど。だから月の表に行ったり、裏に行ったり、いろいろとみんなやっているのか、なんて思いながらお話を聞いていました。星さん、ありがとうございます。

:とんでもないです。

ビジネスと安全性のバランスを保つ「宇宙活動法」

:次ですが、日本の話をしようと思います。まず今日取り上げたいのは、「宇宙活動法」です。一言で言うと、ビジネスと安全性のバランスを取っている法律です。

先ほど申し上げたとおり、宇宙条約上、「民間を監督し、許可制度を整えよう」という建付になっています。だから、それに応えるのと、あとルールを明確にする。例えば「こういうプロセスを経て、ロケットを打ち上げてくださいね。人工衛星を打ち上げてくださいね」とすれば、民間事業者がリスクを読みやすくなり、参入していきやすくなるんですよ。なので、産業振興の意味合いもあります。

他方で、事故が起きた時どうするんだというルールもあります。「第三者損害賠償」というもので、事故が起きた場合のルールも定めています。これ、おもしろいことに、最終的に政府が持ってくれるんですね。

例えばロケットを打ち上げた時に、ブースターが民家に落ちてきましたと。それで損害を受けた時には事業者に対して「責任を取れ」と請求していくわけですよね。もちろん、宇宙保険などもあるんですが、その事業者が保険で賄えないということになったらどうするのか。そういう時は、最終的には政府が持ってくれるようになっています。

政府目線からしたら、「最終的に私たちがケツ持ちするんだから、事前に審査させろ」ということなんですね。

国際的な責任を負うか負わないかは、国家の判断による

日野:時事ネタと言うほどの時事ネタでもないんですけど、数ヶ月前に中国の人工衛星が地球上に落ちてきて、他の国に衝突するかもしれないということがあったじゃないですか。

今の話だと、中国政府は責任を持たなきゃいけないとしつつも、その姿勢を見せていなかったわけですよね。あれは、たまたまインド洋でしたっけ? に落下したと言われていますが、例えばそれが地上だった場合には、同じように解釈されるということですか?

:岩下先生、「宇宙損害責任条約」とかの話になりますよね。

岩下:そうですよね(笑)。基本的には地上の無辜(むこ:罪のない)の人に対する損害は、過失の有無に関わらず、原因を作った人が賠償責任を負うというのが国際法上のルールになっています。それに従ってやる・やらないというのも、国家の判断ではありますよね。

日本もそうですが、ルールを作っていくにあたっては宇宙条約上のいろいろな責任を考えなければいけなくて、国際的な責任を負うのか負わないのかという判断をしなければなりません。また、産業振興と公共安全のバランスをどう取っていくのかという国内法的な判断も求められているわけです。

「国際法上の判断」と「国内法上の判断」というものがあって、ルールが作られていく仕組みとなっています。

「明確なルール」と「曖昧なルール」それぞれのメリット・デメリット

西村:今のわっきゃいさんの疑問に似ているのですが、YouTubeを視聴してくださっている方からもご質問をいただきましたので、読み上げますね。「世界の宇宙開発がどんどん進んでいく中で、ルールが曖昧だと国同士の対立の原因になったりすると思うのですが、どう思われますか?」。

今のわっきゃいさんの話もそうですよね。もしもどこかの国の、例えば日本に落ちてきたら「これってさ」みたいに言いたくなりますよね。このご質問、星さんいかがでしょうか?

:そうですね。ルール一般の話になるかもしれませんが、二面性があると思っています。もちろん確固としたルールがあれば、どういった場合にどんな責任を負うかなど明確になるのでトラブルも予防できます。また、もしトラブルが起きたとしても、処理が明確になると思うんですね。

でも、ルールをいっぱい作ってがんじがらめにすることが、果たしてどうなのだろうかというのも、私は雑感として持っていたりします。

ルールメイキングと言いますが、ルールを作るにはそれなりの理由や背景事情があるわけです。それが抽象的なままルールを作ってしまうと、どうしてもルールメイカーの自己満足になりかねないんですね。

ルールが複雑化すると、「ユーザーからみてどうなんだ」となるので、バランスが難しいと思っています。これが回答になっているかわかりませんが、確かに、おっしゃるような一面もあると思います。

地球上の国同士のトラブルは、どうケアするのか?

西村:宇宙のルールが曖昧だと、地球上の国同士の対立にもつながりそうですが、それに対するケアはされているんでしょうか? 岩下先生、いかがでしょうか。

岩下明弘氏(以下、岩下):そうですね。一応、国家間のルールは条約で作っていくわけですよね。条約であったり、2国間、ないしは3か国以上の協定によって、いろいろ国家間の取り決めをしていくんですね。

事故があった時どうするのかという意味では、最低限のルールは作られています。条約というものは、それに署名をして批准をすることによって、加盟国になっていくわけですが、じゃあ加盟していない国はどうなるのか。そういった問題が出てくるので、今後議論されていくんだと思います。

西村:わっきゃいさん、大丈夫ですか?

日野:そうですね。今のところ、まだそういう事象が起こっていないということですよね?

西村:そういうことですよね。起きてから「どうしようか」と対応することによって、どんどんルールができてくるのかなと。合っていますか? 

:そうですね。だいたい(笑)。そういうことだと思います。

西村:星さん、他に何かありますか?

:最後、一言だけ。(スライド)下に「宇宙資源法」とありますが、これは最近できた日本のルールなんですね。「宇宙資源の所有を認める」というルールができました。

この所有は無制限というわけではなくて。宇宙活動のロケットの打ち上げの許可、人工衛星の管理の許可を申請する時に、事業計画を付けるんですね。この事業計画に沿って取得された宇宙資源については、取得できるというルールが整備されています。今月末(2021年12月23日)に施行されることになっています。

「宇宙に届く建造物」を建てたら?

西村:ありがとうございます。さて、みなさんもここまででいろいろ質問が出てきたと思うんですが、ここからはみなさんを代表して、わっきゃいさんがいくつか質問を考えてきてくださっています。それをもとに、何となくモヤモヤしながらもルールを作っていくというブレストに入っていきたいなと思います。わっきゃいさん、どれから行きますか?

日野:あとでみなさんからの質問も受け付けたいと思うんですけど、まずさっきからずっと気になっている「宇宙ってどこからか?」。高度何キロメートルからが宇宙なのかが定義されてないと言っていたじゃないですか。

でも日本の民法207条では、土地所有権で「上にも下にも限りなくその人の土地である」と定められているわけですよね。宇宙空間の定義がないのであれば、宇宙空間に入ったとしてもその人の土地とみなされるのかどうか。

極端な例で言うと、宇宙に届くような建造物を作った場合でも、どこまで法で保護されるのかが気になります。

西村:どうでしょう。星さん。

:なるほど。その建造物がどこに固定されているかにもよると思うんですが、「航空法」があるんですよね。300メートル未満を飛ぶ場合は制約がされるという意味では、土地の所有権も上下に及ぶとは言っても、ある程度は制限されている。土地の所有権が制約される時は明確には書いていないんですけれども、航空法の制約はあります。

宇宙空間がどこからどこまでというのは、確かに悩ましい話です。なかなか定義することは難しいんですけれども、純粋に「どこからどうみても宇宙空間だよね」というところを飛んでいる以上は、問題ないわけですよね。

ただ土地に関係するかわからないですけど、これが宇宙飛行といえるのかどうかという微妙なところを飛んだ場合は、ある程度解釈というか議論があるのかなと思います。どうですか? 岩下先生。

岩下:なかなかこの立場つらいですよね(笑)。

西村:すいません。いろいろと無邪気に聞いちゃいますけれども。

岩下:勉強になります。おもしろいですよね。今の星さんに補足するならば、我々がここに所有権を持って、自分の家の土地に「これは私の所有者です」と言うためには、そもそも国がその土地を管理していて、国の「領有しています」ということが前提なんですよね。

さっきの星さんのスライドにあったように、宇宙空間は天体で、その他宇宙空間は国家による領有が禁止されているので、領有できないわけですね。国が領有できないものを私人が領有することはできない。

事実上、専有状態として管理できるとしても、それが所有権という法的な権利があるのかというと、ない。そういった整理の仕方かなと思います。 

月面で事故を起こした場合、どの国の法律で裁かれるかは「契約による」

日野:では次の質問に行きます。「月面で事故を起こしてしまった場合、どこの国の法律で裁かれるんでしょう」という質問です。

西村:確かにそうですよね。月面ローバーとかチャレンジとかいろいろと起きていますから、こういうの起きそうですけども。どうなんですか?

:これもやはり非常に難しいというか、いろいろ変数があると思っていまして。月面ではどこの法律が適用されるのかというルールはないので、これからの議論になってくるところです。

月面ローバー同士の衝突がありましたが、例えばローバーをいくつか相乗りをして、いくつかローバーを月面に送った時は、同じところに着陸するのでローバー同士が衝突する可能性ってあるわけですよね。

そうなった時にどうするかというと、おそらく「契約による」が一番近しいのかなと思うんですよね。着陸船の業者とローバーの事業者との間の契約で、「トラブルが起きたらどこどこのルールで処理をしましょう」と謳っていくのが筋というか、一番直接的なところかなと思います。

もしそういうものがなく、例えば関係のないところのローバー同士がぶつかった場合。これも非常に悩ましいんですけれども、1つの仮説としては、被害者側のオペレーションをやっていた国の法律で裁かれることになるのかなと思っていたりしますね。

既に商品としてある「宇宙保険」

西村:先ほどの星さんのスライドの中で、保険も出てきているという話もあってすごく興味深いなと思ったんですが、この月面の事故にも適用されるような内容の保険なんですか?

:サービスによると思うんですが、確かに宇宙保険というものが商品としてすでにあります。

西村:すごい。

:今のところオーダーメイドです。宇宙保険で保険金を出すケースがレアケースなので、交通事故や生命保険などと同じように考えられない。大数の法則が働かないというか、そもそもデータがないので、オーダーメイドになるんですよね。なので、月面での事故もカバーするという保険商品だったらそうなると思います。

西村:それって、既存の保険屋さんがやっているんですか?

:既存の保険屋さんです。海外の保険屋さんとの協力しながらというのもありますが、事実としては既存の保険屋さんがサービスとして提供していますね。

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