2024.12.19
システムの穴を運用でカバーしようとしてミス多発… バグが大量発生、決算が合わない状態から業務効率化を実現するまで
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山極壽一氏(以下、山極):さて、過去から振り返って今の問題を分析していただきましたけれども、今、我々がなすべきことは何なのかについて。山折先生、お考えがあればどうぞ。
山折哲雄氏(以下、山折):今、真鍋さんのお話が出てびっくり仰天しました。やはり先覚者は見えないところでお仕事をされているんだなと痛感したんですが。感情、情緒、言葉の問題が出ましたよね。
それに関してちょっと私は専門外で、素人考えと言われるかもしれませんが、京都に縁のある数学者に岡潔さんという方がおいでになる。私は前から岡さんのエッセイや文章が好きで、ずっと読んでまいりました。
その岡さんが、今から半世紀ぐらい前に、文芸評論家の小林秀雄さんと長時間の対談をしていて、その中で「20世紀は物理学の時代だ。だけどその物理学がやったことは何か。自分は2つだと思う」と言っているんです。
「1つは破壊だ」と言うんですね。物理学は原子爆弾と水素爆弾を発明したわけですから、それは破壊に違いない。もう1つは、「機械的操作」という言葉を使っています。「科学や技術は物を創造なんてしていない」と言うんですよ。「葉緑素1つ作れないじゃないか」と。「物理学はクリエイトなんてぜんぜんやっていない」と。
破壊と機械的操作。例えば遺伝子の研究から脳科学の研究、霊長類の研究に至るまで、全部がこの機械的操作なわけですね。生命の創造というところには行っていない。これにはびっくりしましたね。ノーベル賞の歴史には、輝かしい光もあれば影も、負の遺産もある。だからノーベルはあの賞を設立したという原点の問題ですよね。
山折:これに関して、岡さんは晩年になって、「人間はいったい成長のどの段階で1という概念、数字を発見するのか」という問題に取り憑かれるんですね。お孫さんが数人おいでになりますが、誕生してからの成長の過程の記録を克明に取られたようですね。
その結果、赤ん坊というのは18ヶ月前後で全身運動をするというんですな。個体差があるだろうと思いますが、だいたい1年半くらいですね。それで、全身運動をした時に子どもは1を発見すると。言葉としては岡さんは言っておりませんけれども、私はそれは同時に、全体を発見することでもあると解釈しています。1と全体を発見するのが1歳半だと。
1歳から2歳にかけての時期は、深層心理学や他の諸科学でも非常に大事だということが、いろんな仮説で出ています。これは直観ですよ。数学者がまったく論理の世界に生きておられるかというと、岡さんという数学者は直観、そして情緒を重視するようにだんだん言われるわけです。
人間は誕生して1年とちょっとの段階で、「自立」という感覚を言葉以前の問題として体得し、同時に環境、宇宙との一体化ということを感受していたという。
そう考えると、物理学の世界や数学の世界はいろんな広がりを持ちます。全体を含めてのメタ科学技術という考え方が、先ほど山極さんがおっしゃった問題とスーッとつながっていくんじゃないかと思いまして、言葉を差し挟ませていただきました。
山極:すごくおもしろいことだなと思いました。ゴリラと人間の子どもの成長の仕方を見てみると、人間の子どもは成長が遅いにも拘らず、1歳半か2歳くらいで乳離れをしちゃうんですね。ゴリラの子は4歳くらいまで乳離れをしない。ゴリラの子が乳離れをする時は、もう永久歯が生えているから、大人と同じものが食べられる。これはすごく合理的なんです。
人間の子は、6歳までは乳歯ですよね。だから本来ならばお母さんのお乳を6歳まで吸っていていいんだけど、1歳から2歳の間で乳離れをしてしまう。そうするとその子は、お乳以外のものを食べなくちゃいけないから、いろんな人たちと食物を与えられながら育つわけですね。
そうすると、山折先生がおっしゃったように、お母さんを独占するわけではない。お母さんには次の子どもも生まれますから。そうすると、そこで1と全体という社会性を自然に身につけることになる。それが人間の子どもが他の類人猿の子と違うところで、まさにそこで認知がどんどん上がってくるわけですよ。
今、人間の認知レベルは5のレベルと言われています。猿は1のレベルです。相手が自分をどう感じているかだけなんですね。これを「共感」と言います。類人猿になると、認知レベルが2、3ぐらいまでいきます。3というのは、相手がどう感じているかを、自分がどう感じているかを相手が知っていること。それが3のレベルなんです。
4、5は、実は映画を観て楽しめるレベルなんです。自分は観客であって、他のA、B、Cという登場人物がどういう行動をしているか、あるいはどういう言葉をかわしているかを見る。そして、何を思って何を意図して彼らが騙し合ったり、協力し合ったりしているかというドラマを理解できる認知能力が、4、5なんですね。
これを持っているからこそ、人間は想像という能力を発揮して、世界をさまざまに解釈できるところまで至ったわけですね。
山極:それがさっき河瀨さんがおっしゃったように、技術が行き過ぎてしまって、人間はアバターを使ったり、あるいはアニメを使ったりして、今やバーチャルの世界の中でドラマを演じられるようになっている。それは人間のリアルな世界を、相当飛び越えることになってしまっていると思うんですけど、そのあたり、映画を作っている河瀨さんとしてはいかがでしょうか。
河瀨直美氏(以下、河瀨):私が近々するインスタレーションは、「未来から見た過去を表現する」というのが全体のテーマなんですけど、自分の映画の世界は未来を描いている気がしているので、私が過去を想像すると「今」になるんですね。
今を変えるというよりは、未来に自分が行ったつもりになって、そこの世界がどうあればいいかを想像すると、今が自然と変わってくれるというか。未来を変えると、過去である今現在、私たちのいる「ここ」も変わるんじゃないか。
それは、つまり記憶の問題なんですけれども。人々のつらい過去とか、人類の汚点みたいな過去があったとして、もしかしたら未来のためのものだったかもしれないと思った時に、それは起こるべくして起こった、学ばなければいけない過去なのかもしれない。
未来はどうあるべきか。もしくは、どうしたいか。そういう単純なところに私たちの心が寄り添っていれば、自然と私たちは今、何をしなければいけないかがわかるのではないかと思うんですね。
そして、単純に私は母親でもあるので。自分の体内から生まれてきた乳飲み子を我が手に抱いた瞬間に、私自身がこの子を守ってあげなきゃいけないと思ったのと同時に、私がこの子に守られているんだなという感覚もあったんですね。
彼らが活き活きと安全だと思える世界にするためには、彼らに感覚を与えてもらうことで、私たちが変えていかなきゃいけないものがあるんじゃないかと思います。
私の子どもは息子なんですけれども、例えば夕日がとってもきれいな日がありましたと。手をつないで、もしくは抱っこをして「きれいだね」とひと言声を掛けるだけで、彼らはきっとそれを美しいと思うだろうし、その温かみを感じて「幸せだな」という感覚になると思うんですね。
河瀬:そういう本当に小さい単位のつながりみたいなものが、現代社会の中では置き去りにされているようで、核家族と言われる小さな家族でさえも、ぜんぜんバラバラの時間を過ごしていて、ただ1つ屋根の下に暮らしているだけでしかないというか。
会話がなければ共にご飯を食べることもなかったり、ましてや触れ合うことなんてほぼないという生活の中で、もしかしたら人間性みたいなものが幼い時代に育まれないまま、ただ体だけが成長して、心や感覚が成長しない人々が増えていくと、この世界は、先生方が言われたようなとても大切な感覚を失った人々だけが残っていってしまう。
情報だけが私たちの中に入り、コントロールされたところに存在せざるを得ないというか、喜びや悲しみや悔しさも含めた感覚が自分たちの中に存在できないような、感情のリミットが本当に狭くなっていくんじゃないかと思えてしまって。
なので、私自身の映画の中では、喜怒哀楽の何かしらの表現は絶対にするんですけど、それは生き物や万物から与えられるものでありたいと思って描いている感じです。
山極:確かに私もこの新型コロナウイルスによって、随分気付かされたところがあると思うんですね。それは「共鳴」という問題です。我々は生きるためには共感が必要なんですが、共感というのはもともと身体の共鳴から起こっているわけですね。
ところが、河瀨さんがおっしゃられたように、身体に触れ合うこともできない。それが禁止されたソーシャルディスタンスを取らなくてはならないような状況で、なかなか共鳴しにくいわけですね。
頭で共鳴しても身体で共鳴できないと、なかなか涙もこぼせないし、笑えない。オンラインではそれが叶わない。しかも、自分の一番大切な人が亡くなるという、今際の際に立ち会えない事態が起こっている。これは人間性にとって、とても大変な事態じゃないかという気がいたしますけどね。
山極:生老病死をずっとおっしゃっておられる山折先生としてはどうお思いになるでしょうか。
山折:特に日本社会の人々のほとんどは、都市を中心に盛んに移動しますよね。日常生活とは「移動する生活」と言ってもいいくらい。そして、それはだいたい水平移動ですよね。ところが、たまに山に登って、森の中をくぐり抜けて頂上に行くと、先ほど河瀬さんが言われた過去、現在、未来の時間の流れが逆流し始めるんですよね。
つまり頂上に近づくにつれて、野性的な世界が見えてくるし、原始的な苦しみが襲ってくるし、ハッとして下界を眺めると都市がきれいに見えるんですよね。この垂直の落差が、時間を未来から現在、過去へと遡らせてくれる。
日本人だけじゃないと思いますが、現代人はだんだん垂直移動ということを忘れ始めている。一方で、登山ブームが相変わらずあるわけで、一時的にも垂直移動への憧れや衝動が人間を襲うと。これで何とかバランスを取って来たわけですけれどもね。
だから都市、あるいは都市の暮らしを相対化するためには、垂直の目線が必要だろうと。そうすると先ほど言ったように、未来から現在へ、過去へと時間が逆流し始める。今お話をうかがって、それは今日の地球の状況を見直すいい機会かなと思いましたね。
山極:確かに映画というのは、未来を作る。アメリカ映画をよく例に聞かれるんですけれど、だいぶ前に黒人の大統領が映画の中に登場しているわけですよ。それがオバマ大統領につながる。ただ、女性の大統領は登場しない(笑)。実際、未だに女性の大統領がいないんですけど。
そして、まさに今度の新型コロナウイルスが流行り始めた頃、私が頭に描いたのは『猿の惑星』でした。
河瀨:ああ。
山極:『猿の惑星』という映画は、1960年代に上映されたんですけど、6ヶ月間宇宙旅行をして、宇宙時間ですから700年後の地球に戻ってみたら、言葉のしゃべれない人間がチンパンジー、オランウータン、ゴリラに飼われていたというね。彼らは言葉をしゃべっていたという皮肉な映画なんですが、その原因がウイルス感染症だったと後でわかるんです。
ウイルス感染症の免疫をつけるのと引き換えに、人間は言葉を話す能力を失ってしまうんですね。もともと免疫を持っていた類人猿は病気にはかからない。だけど、アルツハイマー病の試験をしていた1頭のチンパンジーが、突然変異を起こして言葉を理解し、言葉をしゃべれるようになる。
その子孫が増えて、結局類人猿は言葉をしゃべれるようになるんですね。そうした逆転現象が起こる。未来を予想しているとは思えないけれども、私はこのウイルスが人間に何か罰を与えているような気がしてしょうがないですね。
今、飛行機がどんどん減便されて、温室効果ガスが少なくなったおかげで、中国やインドの空が晴れてきれいになったとかね。あるいは川がきれいになったという話が、あちこちで聞かれます。だから、人間活動が減退することによって、地球が少し健康を取り戻し始めているのではないか。
今、スマートシティで、現在のいろんな問題を情報通信技術やさまざまな科学技術を使って解決し、効率よく便利に快適にすると考えているけれど、まず未来を予想して、そこからバックキャスト(目標となる未来を想定し、そこを起点に現在を振り返って今何をすべきかを考える方法)で時間をかけて、そこに到達するのはどうしたらいいのかを考えなければならない。
その時、さっき河瀨さんがおっしゃられたように、我々の身体や心が今の科学技術の発展についていっていない。だから、科学技術を先行させて我々がついていくよりも、我々自身が考える幸福な社会をまず提示して、どうやったら科学技術が適用できるかを考えていかなければならないと思うんですね。
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