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著者対談企画〜 「パーパス」から始まる新しい経営のあり方〜(全5記事)

「お父さん、コートをたくさん持ってるからSDGsじゃないよね」 親の消費に影響を与える、小中学生の“SDGs警察化”

昨今、メディアでもよく目にする「パーパス=(社会的存在意義)」。この「パーパス」をテーマとした本の著者である佐々木康裕氏(『パーパス 「意義化」する経済とその先』)、永井一史氏(『これからのデザイン経営 ―常識や経験が通用しない時代に顧客に必要とされる企業が実践している経営戦略―』)、そして齊藤三希子氏(『パーパス・ブランディング〜「何をやるか」ではなく「なぜやるか」から考える〜』)による登壇イベントが、11月1日に開催されました。本記事では、近年でパーパスのトンマナに現れた変化や、日本におけるパーパス推進に影響を与える外的要因などが語られています。

Takramディレクターで、ビジネスデザイナーの佐々木康裕氏が登壇

平原依文氏(以下、平原):では最後に佐々木さんから自己紹介をお願いします。

佐々木康裕氏(以下、佐々木):佐々木康裕と申します。よろしくお願いいたします。みなさんの自己紹介がレベルが高すぎて、僕はどうしようかなと思っているんですけども。いろんな活動をやっているので、一通り自分が何をやっているかを紹介させてもらおうかと思います。

ふだんはTakramという会社で働いています。Takramは東京、ロンドン、ニューヨーク、そして今絶賛立ち上げ中なんですが上海にもオフィスがあり、自分たちのことを「a global design innovation studio」と呼んだりしています。

基本的にビジネスやプロダクト、サービスとかを立ち上げたいクライアントの方と一緒に、世の中にまだないものをゼロから作っていくサポートをさせていただいています。僕はビジネスデザイナーとして、ビジネスとクリエイティブをつなぐ活動をしています。

ありがたいことに本を出す機会に何度か恵まれまして、2020年に『D2C』という本を出させていただき、2021年にはまさに『パーパス』という本を出させていただきました。

その他にもクリエイティブ的な考え方みたいな『感性思考』という本も出させていただいています。あとは、僕の知人がエンジニア出身の起業家にしか出資をしないベンチャーキャピタルをやっていて、そのサポートをさせていただいたりとか。

あと、永井さんの横でこういうことを言うのは恐縮なんですけども、グロービスさんという日本で一番大きなビジネススクールで「デザイン経営」という授業を持たせていただいたりしております。今これは絶賛授業中で、年に1回3ヶ月の授業があるんですけども、明日第3回の授業があるという感じですね。

あと、先月、中川政七商店の中川政七さんと、主に大企業ではなく、例えば工芸をやっている企業さんのビジョン作りのお手伝いに特化した会社を2人で立ち上げました。Takramをやりながらなんですけども、「PARADE」という活動をちょうど始めたところでございます。

海外メディアの観察を続けるうち、「お金にならないこと」への企業の尽力に気づく

佐々木:僕のパーパス歴はこの中では浅くてですね(笑)。せいぜい3年ぐらいしかないんですけども。僕は「Lobsterr」という、世界中のメディアを読んで「これはもしかしたら未来の変化の種じゃないか」というものをキュレーションして、毎週無料で発信する活動をやっています。

アメリカで言うと「ニューヨーク・タイムズ」や「ウォール・ストリート・ジャーナル」を読んだり、イギリスで言うと「ガーディアン」や「エコノミスト」を読んだり、フランスとか、アフリカとか、南米とかいろいろなメディアを見ながら、今世界で何が起きているのかを見る活動をやっているんですけども。

その中で、企業が「何かお金にならないことをがんばってやっているぞ」みたいなことに気付き始めたんですよね。ブランドとのつながりが大きいもので言うと、例えば「Black Lives Matter」とか。ちょっと前で言うと「#MeToo」なんかもあったんですけども、最近で言うと気候変動とかですよね。

そういうところに莫大な投資とブランディングリソースを注ぎながら、自分たちの会社が何者かを社会と接続しながら定義付けしようとしている姿がとても印象的で。

それがすごく目立ってきたのが2019年ぐらいかなと思っているんですけども。気候変動とか人種とかジェンダーとかばらばらに見えたものを横糸でつなぐと、何か企業活動が「パーパス」というものに駆動されていると。「パーパス」っていうキーワードが浮かび上がってきた感じですよね。

本には挙げられていないんですけども、最近の企業が取り扱う社会活動って、気候変動がだんだん一巡してきて、メンタルヘルスとかそういうものをいろんな企業が扱うようになってきているんじゃないかなと思っています。

「利便性の代償」=「資源や環境への負担」は、許されない時代へ

佐々木:みなさん、前振りをするみたいな流れになっているので(笑)。僕もさせてもらうと、企業が「パーパス」に取り組むのは必然だなと思っています。もちろん「自分たちがイノベーションを起こさないと」という内発的な動機もあるんですけども、大きな3つのドライバーがあると思っています。

1つは金融の変化ですね。今は基本的にESG経営をしないと投資を受けられない状況になっているので、やらない選択肢はないということ。あと、消費者の価値観が大きく変わってきたことも無視できないかなと思っています。

そして、気候変動をはじめとした社会課題ですね。Allbirdsという、アメリカでとても人気のあるパーパス・ドリブンの企業があるんですが、そこのCEOと話をしたら、「もうこれをやらないと地球がなくなっちゃうからね」と言っていてですね。

だから、もう「地球がないとビジネスどころじゃないよね」みたいな感じで。「気候変動に対応するのは基本的に前提中の前提だ」みたいな話だったので、こういう3つのドライバーが企業をパーパス経営に向かわせているんじゃないかなと思っていますね。

消費者の価値観の変化とか、スタイルからスタンスへとか、現在の自己じゃなくて未来の他者の満足を求め始めているとか、すごくおもしろい変化があるなと思っていて。あと、消費の中心がミレニアル世代/Z世代になってきているのも見逃せない状況かなと思っています。

企業活動の目的は人間中心で、僕はそれを素晴らしいと思っていますが、例えば裏側でサプライチェーンにすごく負担をかけているとか、すごく水や電気を使っているとか。その代償として利便性が成立すというのは、これからは許されなくなってくるんじゃないかなと思っていますね。

あと、ちょっと前はディスラプティブ(破壊的)なシリコンバレー的ビジネスが求められていたと思うんですけども、優しいビジネスが求められるようになってきているんじゃないかなと思いますね。

「ちょっとアウトロー的なクールな感じ」に変わってきたパーパスのトンマナ

佐々木:みなさんお詳しいと思うのであれですが、「パーパス」は20年ぐらい前から言われているんですよね。僕はここ数年の大きな変化としては、「パーパス」が、「統合報告書にちょっと載っけておくか」みたいな(企業の)周辺でやる活動じゃなくて、企業のブランディング活動・事業活動のコアに位置付けないといけない感じになってきたというのが大きな変化だと思っています。

あと、「パーパス」とか言うとちょっと生徒会長的なトンマナになっていたと思うんですけど。もっと「全員でやっていこうよ」とか、何ならちょっとアウトロー的なクールな感じで言う感じになってきたなと思っていて。

これも2020年前後以降の大きな「パーパス」を巡るコンテクストの変化かなと思っていて、このへんをみなさんとディスカッションさせてもらえればと思っていました。前振りなので、これぐらいにしておきます。よろしくお願いいたします。

平原:ありがとうございます。佐々木さんは先読み術があるんですかね。私が聞こうと思った質問をプレゼンで出しちゃって、「何聞こう、何聞こう」って今正直悩んでおりました。お三方、ありがとうございました。ちょっと無茶振りしていいですか。

(一同笑)

平原:今お三方がプレゼンをしてくださって、何かお互いのプレゼンを聞いて、聞いてみたいこと、あるいは物申したいこととか、「これはちゃうやろ!」と思うこととかってございますか? じゃあ、永井さんから。

永井一史氏(以下、永井):正直言ってないですね。

(一同笑)

やっぱり「パーパス」が大事だということで集まっている3人なので。ただ、僕も、今回のトークにあたって本を読ませていただいたんですけど、特に「パーパス」と「ミッション・ビジョン・バリュー」の整理とかって、僕もよく聞かれるんですよね。

正直言って、そこはいろんな流派があって難しいじゃないですか。「ビジョン」を最上位概念に置いたりだとか、「パーパス」や「ミッション」みたいな。中川(政七)さんとかは「パーパス」って言葉は使わないで「ビジョン」って言われますよね。

大切にしている部分は変わらないんだけれども、流派によってちょっと定義の仕方が違うかなというのは気になって。そこらへん、齊藤さんにもうかがってみたいなと思いました。

齊藤三希子氏(以下、齊藤):ありがとうございます。

「未来に対して何を残していくか」を無視した企業活動は難しくなる

齊藤:では、我々の経営理念の4要素をご説明していきたいと思います。経営理念には4つの要素が必要だと思っていて、それは「ミッション」「ビジョン」「バリューズ」そして「パーパス」だと思っています。

わかりやすいところからいくと、「ビジョン」は将来のなりたい姿や成し遂げたい世界。自分たちのこともあれば世の中のこと(もある)。とにかく未来のことだと思っています。

一方で、今に注目して、なぜ存在するのかに対する答え、存在意義、存在理由というのが「パーパス」だと捉えています。「ミッション」は、「パーパス」と「ビジョン」を実現するために行うべきことで、「バリューズ」はそのための行動指針と捉えています。

「4要素」と言ったのがポイントで、企業さんによっては先ほどもおっしゃったように「パーパス」と「ミッション」が一緒になっているとか。スターバックスなんかは典型的なんですけれども、(創業者の)シュルツさんは「パーパス」と言っているけど、会社としては同じことを「ミッション」で掲げていたり。

我々は要素としてはこの4つがあると思っているけれども、会社ごとになじむスタイルがあるので、表現の仕方はそれぞれ違ってていいんじゃないかなと思っています。

永井:ありがとうございます。納得しました。

齊藤:佐々木さんのお考えもぜひおうかがいしたいなと思います。

佐々木:そうですね。けっこう言葉の定義が難しいなと思うんですよね。「ミッション・ビジョン・バリュー」も、ちょっと順番を入れ替える方とかがいてですね。

この定義論は、あまり生産的な議論にならないかもしれないと思いつつ、一応僕なりの整理で言うと、これまで「ミッション・ビジョン・バリュー」、よく「MVV」と言われてたりしましたけども、それを定めようというのがすごく多かったと思うんですよね。

今おっしゃっていただいた内容や、永井さんがおっしゃっていたポイントも一緒かなと思うんですけども。「私が」じゃなくて「社会が」とか、よく「IからWe」とか言ったりしますけども。

「俺がこうしたいんだ」という内的衝動に突き動かされる会社ってたくさんあると思いますが、やはりこれからは社会性、倫理性とか、自分たちが未来に対して何を残していくかを無視して活動することは、非常に難しくなってくるなと思っています。

「パーパス」という本の中では「小さな船」と「大きな船」と書きましたが、どちらもいいところはあると思うんですけども。自分たちだけじゃなくて、ステークホルダー全員、取引先の方、従業員の方、地域の方、株主も含め、そういった方々とある種開かれた感じで、一緒に何か目標を作っていくようなかたちですね。そういったかたちを「パーパス」と僕は呼んでいます。

近江商人の「三方よし」と「パーパス」の類似点

永井:お二人も書かれていたし、僕も本で書いたんですけど、やっぱり「三方よし」の話があるじゃないですか。結局、関係のスコープというか束を拡大しているのが「パーパス」だと思うんですよね。

だから、売り手よし、買い手よし、世間よしの「世間」まで、この場合だったら地球やステークホルダーだと思うんですけど、そこまで広げて考えるのが「パーパス」で。それが自分視点じゃなくて、ちょっと社会側視点だったりするところだと思うんですけど。そこが違うのかなと思います。

平原:今まではけっこう、利己的な考えが中心だったと思うんですけど、これからは利他にもっともっと着目してやっていく感じですかね。ありがとうございます。

ここ数年、特にこの1、2年でかなり日本において「パーパス」を掲げる企業も増えてきて、「パーパス」っていうワードも浸透してきたのかなと思います。エスエムオーは10年、11年くらいずっと「パーパス」に取り組んできて、「急に来た」みたいなのがあるなとは思うんですが、なんで今「パーパス」が日本の社会において、あるいは経営において重要視されているんでしょうか。

なぜ今ここまで「パーパス」が注目されているんでしょうか。じゃあ、佐々木さん、どうぞ。

佐々木:僕は残念ながら、多くの日本の企業に構造的な問題もあるかなと思うんですけども。わりと外的影響を受けやすいなと思っています。何か大きな変化が起きる時は、自分たちがというよりは外から求められるような状況にならざるを得なくなって、ドライブされることが現実としてすごく大きいと思うんですけども。

日本におけるパーパス推進に影響を与える外的要因

佐々木:先ほどちらっと紹介させていただきましたけれども、ちょうど2018年に世界最大の資産運用会社のBlackRockの代表のラリー・フィンク(Larry Fink)という方が、「もうESGをやらない企業には投資しない」と言って。実際石油メジャーとかに取締役を送り込んで、彼らの取締役の再任を阻んだりし始めています。

株価が下がっちゃうとか、大株主からプレッシャーを受けちゃうといったものに駆動されたところが少なからずあると思います。あと、消費者の価値観変動は先ほどもちょっと触れたとおりで。

僕は子どもがいないのでわからないんですけども、最近小学生とか中学生ぐらいのお子さんがいる方と話をすると、娘さんとか息子さんがSDGs警察化していると聞いてですね。「お父さん、コートをたくさん持ってるからSDGsじゃないよね」とか言われると言っていて。

小学生とか中学生って消費の主体ではないんですけども、そういうかたちで親とかに影響を与え始めているのがすごくおもしろいなと思っています。お父さんは格好いいスポーツカーに乗りたいけど、「娘に顔向けできないな」みたいなね。そういうのってこれから増えてくるんだろうなと思っています。

あと、やっぱり気候変動ですね。日本はまだ気候変動のインパクトにそんなにさらされていないんですけども、ヨーロッパやアメリカの友人と話をすると、ヨーロッパでは熱波でたくさんの人が亡くなったり、サンフランシスコでは山火事が日常茶飯事だから、天気予報の中に煙の濃さみたいなのが入って、「今日は煙がなくて晴れ渡ってていいな」みたいな感じです。

そういうかたちで、生活に気候変動がどんどんどんどん絡んでくると、企業の活動もそういうものに絡めてやるほうが、消費者の支持を集めやすいということも出てきているんじゃないかと思っていますね。なので、社会問題と消費者の価値観と金融側の変化、3つのドライバーが後押しをしている面もあるんじゃないかなと思っております。

平原:ありがとうございます。

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