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FUSION of life 生き方のイノベーションと、都市のカタチ。(全3記事)

先進諸国と日本の違いは、企業が従業員に与える「柔軟性」の量 リンダ・グラットン氏が説く、アフターコロナの真の問題点

未来の課題解決型まちづくりを推進する、千葉県柏市の「柏の葉スマートシティ」。未来と都市を語り合うオープンイノベーションフォーラムである、柏の葉イノベーションフェス2021が開催されました。今年のテーマは「READY FOR FUSION?」と題し、国内外から各界の著名人が登壇。イベントのオープニングトークでは、組織論学者のリンダ・グラットン氏の講演が行われました。アフターコロナの私たちの生活は一体どこへ向かうのか、その行方とは。

パンデミック後の10年間、私たちの生活はどうなるのか

森まどか氏(以下、森):最初のテーマを語っていただくにふさわしいゲストとして、ロンドンビジネススクールの教授で、人材論・組織論の世界的権威のリンダ・グラットンさんをお招きしております。

リンダ・グラットンさんは、世界20ヶ国に翻訳された『Work Shift』に代表される、人事・組織活性化のエキスパートであり、イギリスタイムズ紙の選ぶ「世界のトップビジネス思想家15人」の1人に選ばれていらっしゃいます。

そんなリンダ・グラットンさんに、人生100年時代の今、個々人が「ライフシフター」となり、互いに融合することをサポートし、また新しい価値やイノベーションの創造を促す新たな都市づくりの方向性について提起いただこうと思います。それではお迎えしたいと思います。リンダさん、こんにちは。

リンダ・グラットン氏(以下、リンダ):今日はこのような重要なテーマについてお話する機会をいただき、本当にありがとうございます。これからの10年間をどのように生きていくかを考える上で、私たちが考えなければならない本当の問題について、少しお話したいと思います。

というのもパンデミック以後、みなさんが日本での「今後10年間の生活」に備えているはずだからです。暮らし方、働き方、そしておそらく愛し方さえ形作ってしまうだろうトレンドについて、お話しします。

世界で最も高齢者人口が多く、世界で最も長寿な日本

リンダ:日本は自動化・ロボット化で世界をリードしています。ロボットや人工知能などのテクノロジーが、私たちの働き方のすべてを変え、多くの仕事が自動化されるでしょう。しかし同時に、特にデジタルスキルを必要とする多くの新しい仕事が生み出されるでしょう。

実際、2030年には世界中で最大5,000万人の雇用が創出されるという見方があり、デジタル関連の仕事が生まれます。だからこそ、スマートシティは非常に重要なのです。スマートシティは、これらの新しい都市を建設する起業家を生み出すクラスターになるからです。

もちろん、私たちの働き方や暮らし方を変えているのはテクノロジーだけではありません。人口動態も大きな役割を果たしています。日本のみなさんは、世界のどの国のどの都市よりもよくご存じだと思います。

日本は世界で最も高齢な人口を抱えていますが、誰よりも長生きで、100歳まで生きることも十分に可能なのです。それはなんて素晴らしい贈り物なのでしょう。「長生きする」とは何かと言うと、人生100年を生きることができる喜びです。多くの社会では、人々は以前よりも長く生きています。しかし日本のような社会では少子化が進み、高齢化が進んでいます。

高齢者が都市で生活するほうがいい理由

リンダ:それを健康的に実現するにはどうすればよいか、焦点が当てられています。しかし、もちろん長生きして少子化になると、日本のみなさんやイギリスの私たちのように、人口の総年齢が上がります。だからこそ長生きする人が増えると同時に、一般的な人口の年齢も上がっていくのです。

そこで私たちは、スマートシティについて考えています。平均的には高齢化していて、若者だけでなく私のように、60代、70代、80代、90代、あるいは100年代の人たちにも適した暮らし方を実現するには、どうしたらよいのでしょうか。

思い出してほしいのですが、現在12人に1人が65歳以上の高齢者です。2050年には世界の6人に1人が65歳以上の高齢者になると言われています。世界で高齢化が進んでいるのは日本だけだと思われていますが、そうではありません。2050年には、中国の4億人が65歳以上になると言われています。

一般的な調査によると、高齢者が都市で生活するほうがいいとされています。それは、接続性が高いために利用可能なサービスがあるからです。

日本では今、スマートシティでの生活を通して、何歳になっても健康的に暮らせる方法を世界に示す機会を得られます。人々は、日本がどのようにしてそれを実現しているのか、どのようにして生涯を通じて健康的に暮らすことができるのかを示してくれると期待しています。

夫婦共働き世帯の増加で、変化するコミュニティの在り方

リンダ:しかしもちろん、私たちの生活や仕事の仕方を変えているのは、自動化や人口動態だけではありません。家族の中で起きていることもあるのです。今、世界各地で家族にも同じようなことが起きています。

私が生まれた1950年代には、私と母と父の写真があったかもしれません。父はキャリアを持っていて、母は介護をしていました。しかし1970年代になると、女性が働くようになりました。

もちろん、ほかの国と同じように日本でもそうでしたが、多くの女性は子供を産むと労働市場から撤退してしまいました。現在、日本の多くの家庭では、男性も女性も母親も父親も働いている状況に移行しています。

両方が働くことで、コミュニティの力関係も大きく変わります。働いている人たちは、より柔軟な働き方が必要であることを知っているからです。このことは、私たちの生活にどのような影響を与えるでしょうか。私たちの生き方にどんな意味があるのか、いくつか提案してみましょう。

1つ目は、長生きすることで生き方を変えられる可能性が増えることです。私たちはある意味で、いつでも可能性を持った自分を持っています。スキル、人脈、友人、アイデアなどのプラットフォームを持っており、そのプラットフォームから飛び出してさまざまなものになることができます。

「ソーシャル・パイオニア」の考え方は、人生のどの段階でも新しい方法を模索することができます。伝統的な生き方に従わなくてもいい、さまざまなストーリーや物語を持つことができるのです。

人生100年時代、場合によっては80歳まで働き続けることも?

リンダ:長生きすると、「フルタイムで教育を受け」「フルタイムで仕事をして」「フルタイムで引退する」という、3段階の生き方は不可能になりますからね。100歳まで生きるとしたら、70~75歳、場合によっては80歳まで働くことになります。

日本の多くの人々の働き方を考えると、80歳まで働くことははほとんど不可能なことのように思えます。私たちは新しい働き方、新しい生き方を見つけなければならず、そのためには都市が重要な役割を果たすことになるでしょう。

「マルチステージの人生」とはどのようなものでしょうか。例えば、最初は仕事をする。しかし3ヶ月の休暇を取って、イギリスやイタリア・ローマを見に行ったり、100年後のニューヨークを探検したりすることができるかもしれません。

そろそろ「自分のビジネス」を始めてみてもいいかもしれませんね。世界的に見ても、20代よりも50代の方が起業して成功する確率が高いと言われています。起業家になるには、何歳からでも始められます。

フルタイムの仕事とパートタイムの仕事の両方をこなしながら、自分の好きなことをしたり、コミュニティで働いたり、近所でボランティア活動をしたりするポートフォリオライフを築きたいのではないでしょうか。

健康的に生きるための4つのポイント

リンダ:このようにCOVID-19以前は、「マルチステージの人生」が生き方に影響を与えるとはあまり考えていませんでした。しかしCOVID-19以後、世界の多くの国で人々は新しい機会を求めています。実際に英国では、現在50パーセントの人が新しい仕事を探していると言われています。英国ではCOVID-19から抜け出し、比較的普通の生活を送っているからです。

「なぜ私はこのような生活をしているのだろう」「なぜ私は違う人生を送ることができなかったのだろう」と、自問しています。COVID-19の経験は、ほかの生き方があることを教えてくれました。これは非常に重要な教訓ですよね。というのも、100年生きるなら健康的に生きていきたいものです。

ジャガーはとても美しい車です。見たことがある方もいらっしゃるかもしれませんね。2台とも同じ時期に製造されたもので、年齢も同じです。しかし、片方は手入れをして大事にしていたのに、片方はそうしませんでした。

長生きするためには、できるだけ健康でありたいと思うのは当然のことです。100年生きて、60歳で病気になって、30年も40年も病気で過ごすなんてことは誰も望んでいません。そのためにはどうすればいいか、私たちはみんな知っています。思い出してみましょう。

その1、運動をする。毎日1万歩を歩く。その2、健康的な食事をする。その3、1日8時間の睡眠をとること。そもそも「健康」だけでなく、「幸せになりたければ」ですね。そして4番目は、友人関係や家族、コミュニティを重視することです。

これはパンデミックの際に多くの人が学んだことでもあります。通勤時間がなければ、もっと健康的な生活ができることに気づきました。近所を散策したり、子どもと一緒に過ごす時間を増やしたり、運動をしたりできるのです。私は一日に1万歩を歩くようにしています。健康維持のためにはとても重要なことですが、時間はかかります。

日本企業に足りていないのは「従業員に柔軟性を与える」こと

リンダ:だからこそ私は、パンデミックに興奮しているのです。パンデミックのおかげで、私たちは仕事のやり方についてこれまでとは違った考え方をする機会を得ました。『ハーバード・ビジネス・レビュー』に記事を書き、実際に表紙を飾りました。今年の5月にご覧になった方もいらっしゃると思います。

私は富士通と一緒に仕事をし、アドバイスをしていたのですが、彼らはパンデミックのロックダウンの最初の週に、6万人の人々をオフィスから自宅に移しました。富士通ではオフィスを共同生活の場として再構成するとともに、自宅に近いオフィスで働く機会を提供しています。

言い換えれば、私たちは「仕事を再発明する機会」を得たのです。なぜなら、日本は一般的に「従業員に柔軟性を与える」という点で、ほかの先進国に比べて遅れていたからです。というのも、日本は他の先進国に比べて従業員への柔軟性の提供が遅れており、子育てをしながら働く女性に大きな悪影響を与えていたからです。

だからこそ、在宅勤務やオフィス勤務など、働く場所や時間に柔軟性を持たせた生活をするチャンスがあるのです。

現在の英国では、2〜3日はオフィスで過ごし、2〜3日は自宅で過ごすのが一般的になっていくと思います。だからこそ、近所付き合いが非常に重要になってきます。近所付き合いがあれば、お互いをよく知ることができます。家で仕事をすると、近所の人たちや地域の人たちとより多くのつながりを築くことができます。

長時間労働よりも大事なのは「より賢く」働くこと

リンダ:また私たちは、そのような長時間の仕事をする時間について考える機会もあります。世界中の企業が、「生産性を高めるためには長時間働かなければならないのか?」と自問しています。その答えは「ノー」です。しかし長時間ではなく、より賢く働かなければなりません。

最後に、コミュニティの持つ重要な力を思い出していただきたいと思います。私はスマートシティについての講演を依頼された時、とても興奮しました。というのも、これからの時代はコミュニティや近隣地域に目を向けるようになると思うからです。

都市は、私たちと同じような人たちとつながり知識を探求する上で、重要な役割を果たすことができるのです。都市には同じような考えを持つ人々が集まり、ビジネスを始めるための真のクラスターになり得ます。

しかしそれだけではなく、人とぶつかり合い、自分とは違う人と出会うことで探求していく場所でもあります。通りを歩けば誰かと出会い、コーヒーショップに行けば他の人と出会うように、新しい組み合わせが生まれる場所でもあるのです。ですから私たちには、仕事のやり方を変え、生活のやり方を変える大きなチャンスがあると思います。

:リンダさん、ありがとうございます。冒頭では自己紹介を兼ねて、リンダさんが『LIFE SHIFT』でも書かれていた、人生100年時代になった今、どのように生きていくことがいいのか、どのように人生を考えたらいいのか。その時にマルチステージで生きることの大切さを、今のプレゼンテーションでもお話いただきました。

そして私たちはコロナパンデミックを迎えたわけで、そこで価値観の変化があったわけですよね。今のお話の中でも、コミュニティの大切さや、どうやって都市を作っていくことがいいのか、社会はどうあるべきかにも触れていただきましたが、この後1つずつお話をうかがっていきたいと思います。今日はどうぞよろしくお願いいたします。

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