2024.10.21
お互い疑心暗鬼になりがちな、経営企画と事業部の壁 組織に「分断」が生まれる要因と打開策
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松浦道生氏(以下、松浦):(松田)文登さんから自己紹介をお願いしてもよろしいですか?
松田文登氏(以下、松田):株式会社ヘラルボニーの松田と申します。拠点は岩手の本社と東京の2つで、双子で会社を運営しております。私が岩手、もう1人が東京を担当しています。日本全国の障害があるアーティストの作品をさまざまなモノ・コト・バショに落とし込んで、障害の概念を変えていく会社です。本日はどうぞよろしくお願いいたします。
松浦:文登さん、今日はよろしくお願いします。それでは笹川社長、自己紹介をお願いします。
笹川祐子氏(以下、笹川):イマジンネクストの笹川と申します。私は北海道の出身で、30歳を目前に東京の事業家にヘッドハンティングされて上京しました。当時はインターネットの黎明期ということで、パソコン・インターネット関連の人材派遣事業と教育事業を創業いたしました。創業から25年の中で、上場の準備やリーマンショックなどいろんなことがあって、今年の1月に上場企業に全株式を譲渡売却しました。
今は売却した派遣会社の顧問をしながら、イマジンネクストの経営をし、ライフワークとしてシングルマザーや子ども食堂の応援をしたり財団に関わったり、いろんな活動をしております。今日はどうぞよろしくお願いいたします。
松浦:笹川社長、今日もよろしくお願いします。じゃあ文登さん、画面共有をお願いします。
松田:7~8分いただいて、どういった会社なのかを簡単にご説明させてもらえればと思います。日本全国にはアートに特化した福祉施設が多くあって、そのうちの30以上の社会福祉法人さんとアートライセンス契約を結ばせていただいています。アーティストの作品を通じて、さまざまな「モノ」や「コト」、「バショ」に落とし込んでいる会社です。
目的としては、「障害」に対するイメージが変わって、一人ひとりが尊重される未来を作っていきたいなと思っています。障害のある方は、世界を見ると10億人以上、日本には約936万人いて、知的障害のある方はそのうち約109万人だと言われています。
(スライドを指して)こちらがビジネスモデルです。ヘラルボニーが、アートデータを管理させていただき、いろいろな事業を通して、共創パートナーさまからお金をいただきます。それを福祉施設やアーティストに直接還元するモデルを作っています。北海道から沖縄まで、全国の福祉施設とライセンス契約を結んでいます。
松田:最近では海外の福祉施設とも連携が強まってきています。障害のある方の月額の平均賃金は、例えば就労継続支援B型の場合で約16,000円です。ヘラルボニーは、その現状をアーティストから根本的に変えるチャレンジをしています。
ここで(ヘラルボニーが契約している)アーティストのご紹介です。(スライドを指して)この方は小林覚さんといって、字と字をつなげてしまうという強烈なこだわりがあるアーティストです。(スライドの)右側は『数字』というタイトルで、このように「9」「4」「2」「8」「7」などをつなげながら描いています。
(スライドを指して)これはJRさまと連携したプロジェクトです。実はこれ、「釜石線70周年記念銀河ドリームライン」と字をつなげながら描いています。海外では現時点で高い評価を得ているアーティストもいて、その作品をクラフトジンの商品パッケージとして採用していただきました。
次に、この方は、お父さんが大工で自宅に図面が転がっていたこともあって、平面図や乗り物などに色を塗っている感覚で、40年以上ずっと同じ作風を描いているそうです。その方の作品で地元の駅舎をラッピングして彩ることもやっています。私たちは、「才能は、披露してはじめて才能になる。」と思っていて、ヘラルボニー側から才能を披露する場をどんどん作り上げていきたいと思っています。
(事業としては)大きく分けて「ファッション」「インテリア」「ライセンス」の3つを軸にやっています。ファッションの部分ではクオリティを徹底することでブランディングをして、それを社会にアウトプットする自社ブランドを持っています。支援や貢献の文脈じゃなくて、「これが欲しいから買うんだ」という購買行動そのものをヘラルボニーから作っていくチャレンジをしています。
今は全国の百貨店を中心に販売をしていて、ついこの前まで日本橋三越本店の1階でも出店していました。支援的な文脈ではなくアーティストとしてちゃんと羽ばたいていく未来を作っていくことが必要かなと思っています。
インテリア(の事業)も今は非常に加速してきております。例えば来年度にヘラルボニーが内装を手がけるホテルがオープンするんですが、ここに泊まることによって障害のあるアーティストにちゃんとお金が流れていく新しい仕組みを作っていこうと思っています。
松田:それ以外にも「障害者アート」と聞いた途端に支援や貢献の文脈にのりすぎるところがあったりするので、弊社で盛岡にギャラリーを開設しております。
盛岡では「障害者アート」の文脈ではなく、「障害=欠落ではない」という思想を体現していく場所として機能していこうとしています。東京・京橋でも10月15日から(ギャラリーが)オープンするので、あとでお話させてもらえたらうれしいです。
(ライセンスの事業では)2,000点のアート作品とライセンスが根幹になっております。(スライドを指して)例えば、トゥモローランドさんでハンカチ(のデザイン)として展開していただきました。
地ビールで日本一になったベアレン醸造所さんにラベルとして展開していただいたり、パナソニックさんのオフィスをアートで彩ったり。ヤマハさんと一緒に「車椅子をもっとファッショナブルにしていこう」とスポークカバー(車椅子用のホイールカバー)を作ったりしています。
他には「アートなサバ缶」も作りました。賞味期限が長いのでインテリアとして機能して、本当に困った時にすぐ手に取れるというコンセプトです。あとは、プロバスケットボールチームのユニフォームとして採用していただいたり、「ナナちゃん人形」という名古屋にある6メートル超えの人形のワンピース(のデザイン)を担当させていただいたりもしています。
また、建設現場の囲いそのものをアートで彩りソーシャルミュージアムにしてしまうプロジェクトも、いろいろな企業と連携をしながらやっています。掲出期間が終わったあとも、(作品を)ゴミになってしまうのではなく、ターポリンという非常に強い素材を使うことによって、アップサイクルされてアートバッグ(かばん)になるのです。
松田:設立の原点としては、私の4歳上の兄が先天性の知的障害を伴う自閉症で、小さい頃から兄に対して「かわいそう」と言われることにすごく違和感を感じていました。リスペクトが生まれるアートの世界との出会いを多く作っていくことで障害のある方のイメージや概念を変えていけるんじゃないかと思い、こんなこと(ヘラルボニー)をやっています。
会社名の「ヘラルボニー」には兄が7歳の頃に書いた謎の言葉をそのまま借りました。兄に「ヘラルボニーってどういう意味なの?」と聞くと「わからない」と言うんです。障害のある方たちが心ではすごくおもしろいと思っていても、なかなか社会には通じていないことを言語化していける、そういう会社でありたいと思います。
会社のミッションは「異彩を、放て。」です。僕らはあえて、障害のある方たちについて、「“普通”じゃない、ということ。」という一文を入れております。ただ、「それは同時に、可能性だと思う」の一文も入れています。障害のある方たちを「異彩」と定義して全国各地に放っていくことで、障害のイメージや概念が変わり、アートに限らず一人ひとりが尊重される社会になっていけばいいなと思っています。
今はスタートアップの文脈で、本当にいろいろな企業と連携を進めながらがんばっております。今までは「共創」のかたちで、一緒にビジネスを作るチャレンジをしてきました。今後は、「障害=欠落」というイメージそのものを、ヘラルボニーが変えていくチャレンジをしていこうと思っています。少し長くなってしまいましたが、以上となります。
松浦:文登さんありがとうございます。この後は笹川社長にバトンタッチできればと思っております。よろしくお願いします。
笹川:私は、松浦さんからゲストナビゲーターのお話をいただいて、ヘラルボニーさんの会社概要を拝見しました。すごい会社があるんだ、こんなすばらしい若い起業家がいるんだと知らなかったことを大変恥ずかしく思い、感動しています。今日は本当に光栄に思っております。
松田:こちらこそありがとうございます。
笹川:土曜日に美容室でいろんなものを見ていたら、夕方に麻布十番のレストランでいろいろなコラボをやっていて、弟さん(株式会社ヘラルボニー 代表取締役社長 松田崇弥氏)のトークイベントがあったので、御社の研究をさせていただくにあたって、さっそく行ってきたんですよ。
松田:ありがとうございます。うれしいです。
笹川:生のお話を聞いて、ますますファンになりました。いろいろお聞きしていきたいと思います。まず、障害者に対して支援・貢献しなきゃという上から目線ではなく、障害という1つの特性を持つ人間がアーティストとして活躍できる。
「障害のある方を支援しなきゃ」という今までの私たちの社会の常識とは真逆の世界観を持って、社会に挑戦していく取り組みについてもう少し聞かせていただけますか。
松田:私は社会人2年目ぐらいの時に初めて障害のある方のアート作品を見ました。その時に、障害うんぬんには関係なく単純に感動を覚えたんですね。ただ、ネットで「障害 アート」と検索をかけると、あまりにも支援的な文脈にのりすぎることに、なんかすごく違和感を感じていて。私としては単純にアーティストとして評価されるべき作品だという気がしていました。
私の兄も昔は「障害者」の枠で生きているところがあって。そこにもすごく違和感みたいなものを感じていました。障害のある方がアーティストとして羽ばたいていく未来、アートに対するリスペクトが続いていく世界を作る。
それによって、障害がある方とのタッチポイントが増えて、最終的には僕の兄が1人で歩いていたとしても、障害のある人だから話しかけられないなんてことがなくなるきっかけになるんじゃないかと思ってやっていました。
笹川:ありがとうございます。今までの社会常識をひっくり返されるようで、私はずしんと(衝撃的に)思いました。すばらしい取り組みですけど、アートと障害のある人はそもそもビジネスとして成り立つのか。いろんなところから疑問が出るんじゃないかと思うんですけど、いかがですか。
松田:確かにすごくありました。「ビジネスとして成り立つのか」と一番最初に言ったのは自分の父です。父はずっと銀行員をやってたので、そもそもこのビジネスモデルでお金が借りられるのか(と懸念を示す)父を説得するところからのスタートでした。
障害のある方たちが、アートだけでやっていく場合、納期を全部守るのは、人によってはかなりハードルが高いと思います。アートデータをライセンス化するビジネスなら、ただ1つすばらしい作品があれば、それを自分たちがアーカイブ化して、IP・著作権を管理することによって、ずっと運用していくことができるという、サステナブルな仕組みなのではないかと考えています。
例えばキャラクターの著作権を使うと、キャラクターに対する使用料が入ってくる。アーティストの作品が使われることによって、ずっと収入が入るモデルなら、当事者の収入が上がって幸せにつながり、障害の概念も無理なく変えていけるんじゃないか、と(父に)伝えていました。
笹川:そっか、お父さまは銀行員だったんですね。融資を受けてこの事業を始めて、創業3年でガッと急成長、急拡大されてきて、応援する方がたくさん増えてらっしゃると思うんですけど。それでも創業当時にはお金のご苦労なんかもありましたか。
松田:確かに何度もお金が切れそうになる瞬間はありました(笑)。1年目は、作りたい世界や未来があっても、なかなか実例がなかった。その実例を作るまではやっぱり非常に苦労しました。
「障害のある方のアート」になった途端に、企業のただのCSRの一部になってしまう。どちらかというと、アートに対してお金を払うんじゃなくて、むしろ「使ってあげている」感覚で話される方も非常に多かったです。
アートとしての価値や、使ってもらう理由付けをちゃんと設計するまでの1年間は苦労しました。なかなか商談が取れず、打ち合わせのスペースに入れてもらえないような瞬間は多くありました。
笹川:そうですか。だけどお金と人の苦労が経営者を鍛えて大きくしていくので、そういうことをみなさん経験しながら歩まれてるんだと思います。ヘラルボニーが起こしたいものは、そもそも障害者支援、社会貢献の文脈とは違う、障害に対するイメージのパラダイムシフトだとおっしゃっているわけですね。
松田:そうですね。私たちは「障害者」はこの世に1人も存在しないと思っていますが、「障害者」が先行してしまうところもあったりします。1人の「アーティスト」としてフォーカスを当てて、「○○さん」(という存在)が先行して、その先にある障害が、「絵筆に変わっていく」という文脈にしたいと思ってます。
一人ひとりの目線が下がるんじゃなくて、本当の意味で同じ立ち位置でフラットに見ていけるような世の中になった時に、自分たちの目指す社会は成立するのかなと思っています。
笹川:すばらしいです。
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