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これからの時代をつくるZ世代のWisdom(全3記事)

若い世代の投票率が低いのは「不勉強だから」ではない 能條桃子氏が「U30のための政治メディア」を立ち上げた理由

テクノロジー時代のウェルビーイングを考えるマインドフルネスの国際カンファレンス「wisdom 2.0 Japan」が開催されました。今回は、「これからの時代をつくるZ世代のWisdom」というテーマで行われた、Zホールディングス・Zアカデミア学長 伊藤羊一氏と、U30のための政治メディア・NO YOUTH NO JAPAN代表理事 能條桃子氏の対談の模様をお届けします。「Z世代」と呼ばれる今の若い世代は、社会に対してどのような問題意識を抱えているのか。本記事では、能條氏がデンマークへ留学した理由と、そこで得た「活動」に対する気付きが語られました。

「Z世代」が社会に対して抱く深い問題意識と取り組み

荻野淳也氏(以下、荻野):テーマは「これからの時代をつくるZ世代のWisdom」ということで、お話を進めていきたいと思います。ではご登壇者のお2人をご紹介をさせていただきます。

能條桃子さん。NO YOUTH NO JAPANの代表を努めてらっしゃいます。1998年生まれ、現在慶應義塾大学の大学院1年生です。若者の投票率が高いデンマークの留学をきっかけに、2019年4月に政治の情報を伝えるInstagramアカウント「NO YOUTH NO JAPAN」を立ち上げて、1週間でフォロワー1万5,000人を集めていらっしゃいます。

現在約60名のメンバーとともにジェンダーと気候変動に関心を持ちながら、参加型デモクラシーのある社会を作っていくために活動を続けてらっしゃいます。まもなく団体から『YOUTHQUAKE U30世代がつくる政治と社会の教科書』を刊行予定でいらっしゃいます。

そして伊藤羊一さん。Zホールディングス・Zアカデミア学長、そして武蔵野大学アントレプレナーシップ学部長でいらっしゃいます。日本興業銀行、プラスを経て2015年にヤフーに入社されました。現在Zアカデミア学長として、Zホールディングス全体の次世代リーダーシップ開発を行ってらっしゃいます。そして2021年4月から、武蔵野大学アントレプレナーシップ学部の学部長に就任されました。

書籍の代表作として、52万部超のベストセラー『1分で話せ』、そして『Free,Flat,Fun』なども刊行されています。では羊一さんと能條さんにご登場いただきたいと思います。よろしくお願いします。

伊藤羊一氏(以下、伊藤):よろしくお願いします。

能條桃子氏(以下、能條):よろしくお願いします。

荻野:今日はお2人ともお忙しい中お時間をいただきまして、どうもありがとうございます。今日はどんなセッションになっていくのか私も楽しみにしているんですけれども、私は今年のWisdom2.0でこのテーマで話したいなと思っていまして、テーマありきなところがあります。

その問題意識としては、もしかしたら「Z世代」という切り口もステレオタイプなのかもしれないんですけれども、とはいえ最近の能條さんの世代を拝見していると、なにか軽やかに、でも深い課題意識を持って社会に対して取り組んでいる方々が多いなと感じています。

上の世代が行動を変えられない「無意識の常識」という前提条件

荻野:私は今48歳ですけども、私世代やその上の世代の方々とかは「無意識の常識」という前提条件の中で、逆にいつの間にか気づかないうちに苦しんでいたり、行動が変えられないところがあるんじゃないかなと思います。

特に古い大企業の中でいうと、「あともう数年経つと定年だ」となると、どうしても人間というのは守りに入ってしまって、なかなか変えられない、変わらない。そんな企業風土や社会風土があるんじゃないかなと思っております。

そういった我々世代の雰囲気を、能條さんの世代がどう見られているのか。どんなところが「おかしいな」とか「ここを変えていかなきゃいけないな」と思うのか。そのあたりを直感的に感じて、より良い社会をつくっていこうとされているんじゃないかなと。そこでこんなタイトルセッションを開かせていただきました。

それで羊一さんにお願いをしたんです。お話をしている時に「羊一さんってこの前、武蔵野大学の学部長に就任されたな」と思って、今のZ世代に関わっていらっしゃるので「Z世代で誰かいませんか?」と聞きまして。何名かおっしゃっていただいた中で「能條さんはちょっとWisdomっぽいんじゃないの」と言っていただいて、能條さんにお声がけさせていただいたという流れになっております。

伊藤:僕自身は54歳ですけどね、下手したらZ世代の3倍くらい生きています(笑)。

荻野:そうですよね。能條さんが我々のお嬢さんでもおかしくないような世代です。ということで、3人で楽しくセッションを進めていきたいと思っております。

能條:よろしくお願いします。

伊藤:よろしくお願いします。

荻野:よろしくお願いします。

若い世代の投票率が低いのは「不真面目・不勉強」だからではない

荻野:能條さんは今NO YOUTH NO JAPANで活動されていますけれども、まずはどんな活動をされていて、その活動のきっかけとなった気づきとか出来事とかがあれば教えていただけますでしょうか?

能條:ありがとうございます。みなさんはじめまして、NO YOUTH NO JAPANという団体の代表をしています能條桃子と申します。私がやっているNO YOUTH NO JAPANは、2019年の7月から活動をしていて、今3年目を迎えています。

2019年の7月に参議院選挙があって、そこで「若い世代の投票率を上げたい」という活動からスタートしました。そもそも今の日本の20代は投票率が3割くらいと言われているんですけど、若い世代が不勉強とか真面目じゃないから投票率が低いのではなくて、そもそも「選挙にどうやったら行ったらいいの」とか、「どういう候補者を選んだらいいの」とか情報がわかりにくいなと思っていて。

選挙だったり政治だったり社会に関する情報を、Instagramでわかりやすく解説するというところから活動を始めました。今はずっとInstagramの運用をしていたり、他にも地方選挙の投票率を上げる活動をしたり、政治家の人とインスタライブをして政治家側にも変わってもらおうと働きかけたりといったことをしています。

もともとこの活動を始めたのが大学3年生の時だったんですけど、当時自分は大学を休学してデンマークに留学していました。デンマークの同世代が「何かやったら社会を変えられる」とみんなが思って活動していたんです。

あと、ちょうど留学中にデンマークの国政選挙があったんですけど、投票率が80パーセントを超えていて、学校生活の中でも当たり前のように「自分はここに投票する」とか「前回あそこに入れたけど失敗したから今回は絶対入れない」とか、自分の感情と一緒に選挙とか政治とかを話しているのが当たり前で。

日本でもこういう世界になったらもっと変わっていくことがいっぱいあるんじゃないかなと思って活動を始めました。

荻野:ありがとうございます。

インターンを通して感じた「若い人が候補者の周りにいない」問題

伊藤:ちなみに寄付も募集しておりまして、僕が言うのも変なんですけど、今日NO YOUTH NO JAPANのサイトを見ていたら「寄付募集中」と書いてあったので、僕も会員になりました。

能條:ありがとうございます。ボランティアで活動しているんですけど、デザイナーさんとかにはお金を払っていて、なので寄付してくださっている方に支えられてやっております。今日メールを見ていたら「あれ、伊藤さんが寄付してくださっている」と思って、しかも月額サポーターになってくれていて、本当にありがたいです。

荻野:みなさんもぜひお願いします(笑)。私もInstagramは拝見していて、とってもわかりやすいですよね。今の現状とか社会課題とか若者の考え方とか、それから政治とか投票率というところが本当にわかりやすくイラストで出されています。それから、この前のドイツ大使館の方とのインスタライブ。

能條:見てくださいましたか、ありがとうございます。

荻野:本当にいろんな切り口から勉強させていただいています。そもそも能條さんがデンマークに行ったきっかけは何かあったりするんですか?

能條:表向きの理由は、2017年の衆議院選挙があった時に、選挙候補者の事務所でたまたま2週間インターンをして、候補者のSNS運用をしていたんですね。でもぜんぜん若い人に届かなくて。もともと大学で社会保障を勉強している中で、「なんでこんなに現役世代だったり若い世代とかに給付が回らないんだろう」という問題意識がありました。

総選挙のインターンをしてみて、「そもそも若い人が候補者の周りにいないから、政治が若い人に向いていないんじゃないかな」という漠然とした問題意識を持って、じゃあ逆にうまくいっている国はどこだろうと思った時に、北欧の国で若い人の投票率も高いというのでデンマークを知ったということがあります。

本音では、既定路線からちょっとずれたかった

能條:それが表向きの理由ではあるんですが、正直どちらかというと、就職活動をしたくなかったんです。社会に対する漠然とした問題意識は持っているけれども、ただ何をしたいのかもぜんぜんわからないし、でも大学3年生の夏になるとサマーインターンが始まって周りの友だちはみんなエントリーシートを出していて、すごく進んでいるように見えて、逃げたくなりました。

それで1年休学をしてどこか行こうと思った時に、国連の幸福度ランキングでもデンマークは上位に入っていて。当時は、社会が「自分はこうあるべき」と焦らせてきて、やりたいことがわからないのに進まなきゃいけない気がするし、親も有名な会社に入ったら当然喜ぶだろうし、そういうのを叶えてあげたいような気もするし……という葛藤もあって、それでデンマークに興味を持ちました。

荻野:正直に話していただきましてありがとうございます(笑)。

伊藤:「逃げたくて」とおっしゃっていたけど、出会うべくして出会ったところはあるんじゃないですか? そうでもないですか?

能條:そうですね。たぶん半分半分です。調子がいい時は「何か自分にできるはずだ」と思っているからこそ、他の友だちと同じように就職活動をして、好きな企業を見つけて選ぶのではない方法を探そうと思っていて。

「前に踏み出す原体験」のようなものを求めていたという時もあれば、「私には何もできない」と思って、とりあえず「既定路線から逃げたい」じゃないけど……私の人生を振り返ると、今まで中学校を卒業してからいい高校に入りいい大学に入りという、大人がいわゆる「いい」ということにすごくはまって生きてきたので、ちょっとずれたい気がするというのもありましたね。

荻野:そのあたりを能條さんのお歳で感じるのがすばらしいなと思って。僕がその感覚に気づいたのは、40歳手前でしたからね。

伊藤:本当に、僕も3年前とかですよ。このイベントに能條さんが出られたらいいんじゃないかと思った理由がそこにあります。

「叡智」は「悩みながら一人ひとりが織り重ねていくこと」

伊藤:「マインドフルネス」とか「ウェルビーイング」という考え方は、人それぞれ違うと思うんだけど、僕はそこから何を考えているかというと、アップダウンする感情があって、こっちの感情もこっちの感情もって、(自分の感情を)ぐるぐる回しながら、でもやっぱり自分の生きたいように生きていくと意思をもって、マインドフルネスの活動や瞑想を通じてウェルビーイングに向かっていくという流れがあると思っていて。

うまく言語化できないんだけど、僕が能條さんの話を最初に聞いた時に、「こっちもあるし、こっちもあるし、半々だよね」という流れで、この「回転」を生む感覚が、荻野さんが考えられているマインドフルネスの考え方とフィットしているんだろうなという感じがあったんですよね。

もう1つ、Wisdomという言葉についてなんですけど、これは「知」とか「叡智」とか「知性」とかじゃないですか。僕は大学教育を始めるようになって、そこらへんの知とか叡智にものすごく興味関心を持って考える中で、要は「悩みながら一人ひとりが織り重ねていくこと」が「叡智」だと思っているんです。問題意識を持って、知って、考えて、対話しながら行動していく、表現していくという。

それはよくよく考えてみるとNO YOUTH NO JAPANの活動そのものじゃないかと。だからこれは「知の活動」であるという感じがしたんですよね。そこがすごくフィットしているなと思いました。

荻野:ちゃんと課題意識を持って自分自身を振り返って、どうしようかと考えながら、でもなにか直感で感じられて行動していくところがまさにマインドフルネスっぽいと僕も感じていたりもします。

完璧な計画を作るのではなく、まずは小さくはじめてみること

能條:それはデンマークで気づきました。デンマークにいる時にNO YOUTH NO JAPANを立ち上げたんですけど、それまでは、完璧な計画を作ってからそれを実行するフェーズがあると思っていて。

大学生活を通じていろんなところにNPOでインターンしてみたりベンチャーで働いてみたり、いろんなものを見て「自分の計画を作れるようになろう」という気持ちでいろいろ見ていたけど、デンマークに行った時に完璧な計画なんていうものは存在しなくて、むしろ「自分はこれをやってみたい」と思ったら小さく始めてみて、行ったり来たりしながらちょっとずつ広げていくほうがやりやすいんじゃないかと思ったんです。

私に向いているのはそっちだろうなと。いくら完璧な計画を作ろうと思っても出来上がらないし、粗だけがどんどん見つかって動けなくなってしまうからこそ、まずはとにかく小さく始めてみたほうがいいというところは感じました。留学中にプロジェクトマネジメントの授業を取っていたので、そこでの気づきでもあったかもしれないです。

伊藤:違和感のある行動からいったん降りてみる。それで気づくために自分で考える。そして気づいて、行動すると。これを回していくんだけど、なかなか難しい点がいろいろあるよねという中で、小さくいっぱい回すとだんだん「おお!」みたいに見えてくるという。こういうサイクルはすごくあると思っていますね。

社会の転換点にいる今、「変われない」とは言っていられない

伊藤:これがある人は動けるし、逆にどうやって動いたらいいかわからない方もすごく多いと思うんですよね。だからこのカンファレンスに出ている人は、なにかしらその「回転」に意識を持たれている方なんじゃないかなという。

荻野:その回転と、どうやったらその回転の波もしくはサイクルに乗れるのかなというところにも興味関心があるんじゃないかなと思いますね。特に僕たち世代で言うと、なんとなくいい大学に入ってそこそこ出世コースなのか、そこそこいいキャリアに乗っかっていく。

でも時代が変わっていっているし、この先自分のキャリアは違う方向のほうがいいんじゃないか、でも家のローンもあるしお子さんはもう進学しなきゃいけないしというところで、なかなか動けなくなってしまうということも周りで多々あるんじゃないかなと感じるんですよね。

伊藤:現実的にそういう部分はあるかもしれないけど、今の話を聞いて「いや、それはもう無理でしょ」という社会ではなくなっているんですよ。

荻野:そうなんですよ。

伊藤:やっぱり、本当に今転換点に来ているんじゃないかなという感じはしますよね。

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