2024.10.10
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オモコロ編集長 原宿さんが導き出した板挟みとの向き合い方(全1記事)
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原宿氏(以下、原宿):本日のテーマは、題して「板挟みになりたくないけども、板挟みは大事だよなぁっ」です。みなさんも板挟みになることはあると思いますが、日常の中でどんな板挟みになっていますか?
僕はオモコロで記事づくりをしていて「話を聴くこと」がすべての基本だと実感します。インタビュー記事では相手の話をもちろん聴かなければいけませんし、ライターから企画が上がってきた時はライターが何をしたいのか話を聴かないと始まりません。
一方で「傾聴」はくせ者でもあります。なぜかというと、傾聴を意識すると板挟みになりやすくなるからです。僕自身も性格的なものもあって、今までけっこう板挟みになってきました。人の話を聴けば聴くほど気が付く点が多くなり、対立した意見に挟まれてしまいます。
対立した意見を「どっちの言うこともわかるな」と思っていると、自分が間に挟まれてどっちつかずの状態になる人がいるのではないでしょうか。
今回はそんな「板挟み」について話します。
みなさんも日々板挟みと戦っていると思います。僕も板挟みになったことがありまして、それはマンション理事会の場面でした。僕はオモコロ編集長の傍ら、マンション理事会の理事長を2期連続でやっておりました。
分譲マンションに住んでいると、持ち回りでマンション理事を1年やることになります。理事会は大体土日なので、月に1回貴重な休みをつぶさなければなりません。
例えば「マンションの設備が老朽化しているからなんとかしなければならない」「駐輪場のルールを守っていない人がいるがどうやって注意しようか」「大規模修繕工事の予算をどうするか」など、すべてマンション理事の人たちが決めています。
管理会社に管理を丸投げしているマンションもありますが、そうすると高い工事でもリスク回避のためにバンバン発注しちゃうので、結局みんなが毎月支払う維持管理費や修繕費が高くついてしまいます。
なので自分たちで考えてやった方が長期的に見ると良いよねということで、うちのマンションでは、歴代の理事の方たちがそういった自治を積極的にやってきたようです。そんな環境で2期理事長をやっていました。
僕はマンションの理事をやりたいとはまったく思っていませんでしたが、住民の義務なので諦めてやりました。さらに役職決めの時にくじで理事長を引いてしまいまして、もう完全なる不可抗力で理事長をやりました。
「理事長」というと私立の学校の理事長のようにすごく権力があるように聞こえますが、マンションの理事長は正直何の権限もありません。
何をするかというと「傾聴」です。みんなが住んでいるマンションのことを決めるので「みなさんどれくらいマンションを修理したいですか?」「駐輪場は足りていますか?」「照明は切れていませんか?」と傾聴しまくります。御用聞きみたいなものですね。
そんな感じでみなさんの意見を聴いて、吸い上げて、合意形成をします。賛成も反対もありますが、その中でちょうどいいアイディアを作って合意形成をするというのが理事会です。
そんなにもめるようなことはないのですが、住民の立場によって利害が分かれるテーマがたまに出てきます。よく例えに出されるのはエレベーターの話で、一階に住んでいる人はエレベーターを使わないのに、上の階と同じだけ修繕費を積み立てるのはおかしくない?とか。
あとは美観なんかも人によって違うので、定期清掃はもっとやるべきだとか、いや、今のままでも十分に綺麗だ、とか。そういう感覚のズレで互いの意見が食い違うことも、人間ですからけっこうあるんですね。
こういった「どっちもそれなりに正しい」という意見を調整して落とし所を探るのって、面倒でややこしいですが、マンション理事会に参加することで、僕はこういう細かい部分こそ対立する意見の両方をつぶさに聞かなくてはいけないと思うようになりました。
『なぜ君は総理大臣になれないのか』というドキュメンタリー映画がありますが、これは立憲民主党の小川淳也議員に密着したものです。この映画の中で「政治というのは51対49なんです」という言葉が出てきます。どっちの意見もそれなりに正しいけど、最終的には51対49でも決定して前に進まなければいけない。それが政治だということです。
最終的には多数決で51の意見に決まるけれども、少数派である49の意見もちゃんと「傾聴」して、どうにかこうにか前に進まなければいけない。そういうギリギリの選択を繰り返して成り立っているのが、今の社会なんだなと。
僕はマンション理事をやるまで、そんなことは一切思ったことがありませんでした。「もう多数決でいいじゃん。多い方にすればいいじゃん」みたいに適当に考えていましたが、板挟みになっている人が対立する意見をまとめ上げて少しずつ社会は前に進んでいっていることを、マンション理事会という小さな決めごとの世界を通して実感しました。
なので、意見を言う人よりむしろ、板挟みになっている人が物事を前に進めるキーマンなのでは?と思います。僕は「板挟み」という言葉にすごくマイナスイメージを持っていましたが、世の中の大事な問題には常に板挟みになっている人がいて、そういう人が立っている場所にこそ、社会が抱える重要な課題があるのではないかと思うようになりました。
この授業をやる前に、イチローさんが板挟みについて話していたとディレクターの方から聞きました。「一流の人がみんなの悩みを解決する」という趣旨の動画だったのですが、その中でイチローさんが板挟みになることについて語っていました。
「イチローが話しているならそれが正解だ」と思って見てみたら、イチローさんは「解決策はないです」とハッキリ言いました。イチローがないと言うくらいですから、解決策はありませんよね。イチローさんは「自分の経験にしていくしかないですよ」と言っていました。そりゃそうだ。
みなさんは板挟みにどう向き合えばいいと思いますか?
僕の向き合い方をお話ししますと、板挟みの立場になることは、課題に真剣に向き合うチャンスでもあるなと思っています。両者の意見を聞いて「三方よし」のアイディアを生み出すチャンスがそこにはあるんじゃないか。
僕は、板挟みになる人って、態度がはっきりしないどっちつかずの日和見主義者ではと思っていましたが、実はすごく戦っている人だと思います。引き裂かれた価値観の間で、どうしたらいいのか日々考えて、奮闘している。板挟みってスゴイ!と、畏敬の念を抱くようになりました。
政治学者の中島岳志さんが著作の中で「保守とは永遠の微調整である」と繰り返しおっしゃっていましたが、何かを守るというのは何かを変えるということだと僕もメディア運営を通して日々感じています。
それはガラッと大きく変えることではなく、元からあったものをメンテナンスして少しずつ時代に合わせていくことで、受け継がれてきた伝統をも守り続けていく。対立する意見を調整する板挟みの人は、まさにこうした理想的な変化のために戦う人ではないかと、僕は板挟みに対して非常にポジティブなイメージを持つようになりました。
他にも中島岳志さんが本で書かれていた「アウフヘーベン」という言葉がありますが、意味は「対立する考え方があった時にその物事より高い次元で答えを導き出す」です。日本語では「止揚(しよう)」といいます。「止めて揚げる」ですね。
板挟みの人がやろうとしているのはまさにこれだなと感じました。そう考えると、自分が板挟みの状態になっていても、「今、重要な課題がこの場所にある」とやる気が出てきたりもしました。だからと言ってアウフヘーベンが簡単にできるということではないのですが、板挟みに対してそういう前向きな捉え方もできるのではないかと思っています。
だからもっと世間は板挟みの人に注目してもいいのではないかと、自分が板挟みになってみて思いました。そして、板挟みの人の視点に立って物事を考えることが、課題を解決する上で重要なことだと思います。「今、ここの価値観が相容れないんだなあ」ということは、板挟みの人が一番実感できるわけですからね。その人の目線になって、問題を一緒に考えられるといいですよね。
大勢の人がつながることで世の中が複雑化してきて、なかなか白黒はっきりつけられる問題というのは少なくなってきたように思います。goodかbadだけで評価できるような単純な世の中ではなく、多くの問題はグラデーションで、どちらかに偏った正解というものはなかなかないと思います。
インターネットやSNSを見ていると「お前は批判派なのか擁護派なのか」という二項対立で議論しているようなことがありますが、世の中は常に変化の途上なのだから、どっちか片方の結論が即座に正解! ということはあり得ないのかなと思います。どちらかと言えば、まさに板挟みの場所に立って考え続けなければいけない、51対49のギリギリの選択をしなければならない問題の方が多いのかなと。
ただそれだと話としておもしろくないんですよね。確かに何かをバッサリ切って「こっちだ!」と主張する方が盛り上がります。なので、最近はむしろ刺激の少ない「つまらない話をしていく」ほうが大事かなという気がしています。おっさんになっただけ?
オモコロなんてタイトルのサイトをやっていてこんなことを言ってても説得力がないんですけど、これからは逆に「つまらなさ」にどんどん注目していきたいですね。僕に任せていたら気がついたらツマコロになっちゃうかもしれません。怖いですね。
「解決不能だわ!」という問題も世の中にはけっこうあると思うんですが、今日の僕の話を聞いて、ストレスフルな板挟みになっている方が、少しでも状況を前向きに捉えられたら幸いです。
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