2024.10.01
自社の社内情報を未来の“ゴミ”にしないための備え 「情報量が多すぎる」時代がもたらす課題とは?
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コロナ禍以降、社会のデジタル化や自動化の流れが加速すると同時に、テレワークが一気に普及するなど私たちの働き方も大きく変わりました。社会や働き方が急激に変化する中でも、私たちが迷わずに前進するための「新たな指針」はあるのでしょうか。今回は、データに基づく「幸福度」という新たな指針を教示し、2021年5月に『予測不能の時代: データが明かす新たな生き方、企業、そして幸せ』を上梓した矢野和男氏に、満足と幸福の違いや、多人数が参加するオンライン会議の問題点、さらに仕事と人の固定化が不幸を招く理由などをお聞きしました。
矢野和男氏(以下、矢野):パラリンピックがそうであったように、障がいという制約があっても前向きな1日を作れるし、逆に大金持ちで、社会的にも恵まれて見える境遇の人だって、後ろ向きで生きている人はいくらでもいます。
だから境遇ではないんですよね。人生は「1日1日を前向きな日にできるかどうか」。ここがポイントです。
神谷美恵子さんという方が、1960年代に『生きがいについて』というベストセラーになった本を書かれていて、彼女は私が言う「前向きな1日」を「生きがい」と呼んでいます。
ちょっとあいまいになりますけど、生きがいもいい言葉ですよね。彼女は長年、ハンセン病の人たちをケアしたり調査する中で、日々を前向きに生きる人もいれば、後ろ向きで暮らす人もいることに気づきます。
その違いを突き詰めていくと、境遇ではなく、彼女の言う「生きがい」であり、私の言う「前向きな1日」だった。前向きに、立ち向かっていく力があるかどうかだったんです。
矢野:最近は各種調査で、「●●満足度」という言葉が多いですよね。顧客満足度とか従業員満足度とか。あれは、与えられた境遇が良いかどうかを聞いているんですよ。満足という言葉は、実は幸福とはけっこう違う世界観で。
先ほどの理論で言うと、幸福は1日を前向きに過ごすかどうかにかかっている。それは満足と異なって、与えられるものではなく、その人の内から出てくるものなんですよね。
もちろん、我々は1人では生きられないのでいろんな人との関わりも大事です。応援してくれる人がいるかどうかで、やりやすさもぜんぜん違います。前向きな1日を生きて、応援してくれる人、あるいは応援できる人がいることが本質的な幸せなのです。
そこは満足度では測れません。前向きな1日というのは、主体的なものであって、人からは与えられない。それが本質であり、そこから目を背けてはいけないのです。
ーー「前向きな1日」が重要なキーワードになっていますが、それを実現するために、私たちはどういう行動を起こせば良いのでしょうか。
矢野:前向きな1日というのは、HEROのように個人が1人でやることと、いろんな人と前向きに応援し合うこと。この両方の要素が大事です。
まず個人について言うと、こういうインタビュー記事を読んだり、私の講演を聞いたり、ワークショップに参加するといったことでも大きく変わります。今まで幸せを整理できていなかった人は、それを知るだけでずいぶん変わる。スタートはだいたいそこです。
さらに我々は、「Happiness Planet」というアプリを使っていろいろなことを試しています。前向きな1日を作る上で効果があるのは、「前向きにその日を始める」ということなんですね。
朝、今日の予定に照らしてどんな1日にするかを考え、「今日はがんばろう」とかではなく、具体的に20文字以上で、前向きに今日やるべきことを書く。ちゃんと考えることになるので、20文字という数が重要です。
「今日はインタビューを受けるから、こういう観点で、今まで言っていなかった新しいことを伝えてみよう」みたいに考えて書くと20文字を超えます。「前向き」と言われてもイメージがすぐに浮かばないかもしれませんが、我々のアプリではITの力でその人に寄り添ったかたちで考えるヒントを与えています。
ちなみに「がんばろう」と抽象的に書くだけでは、いまいち効果は上がらないんです。20文字で良いので、前向きなことを具体的に書いてみてください。
矢野:もう1つ大事なのは、周りと応援し合うようなコミュニケーションや風土を作ること。これも前向きな1日を作ることと同じくらい重要です。
これに関して、我々は1,000万人を超える人たちのさまざまなデータを集めています。どういう状況だと、前向きな・幸せな人たちが生まれるか。そして応援し合うようなコミュニケーションが生まれるのか。
データを解析した結果、4つの特徴があることがわかりました。
1つ目が、集団内でつながる人の数に格差が少ないこと。特定の人だけが多くの人とコミュニケーションを取れて、他はつながる人が少ない集団は前向きじゃない人が多くなります。逆に格差が少なく、フラットな集団だと前向きな人が多いんです。
2つ目は、5分程度の短い会話が頻度良く行われることも重要です。ダメなのは、週1の定例会議では話しているのに、会議以外では一切会話がないとか。日々仕事をしていれば、確かめたいこと、伝えておいたほうが良いことなど、いろいろ起きますよね。その行動が起こせないから、会議以外では一切会話がないということになってしまうんです。
なぜ行動を起こせないかと言うと、そんなことしたら「こいつダメなやつだな」と思われるかもしれないとか、率直に信頼できる関係がないからなんです。5分程度の会話がどのくらいあるかというところに、それが現れます。
さらに、我々は言葉を使ってコミュニケーションをしますが、実は意思疎通の9割以上は、声のトーンやうなずき、あるいは顔の向きやジェスチャーといった非言語の表現の影響を受けています。
3つ目は、非言語の表現、中でも体の動きによる同調が見られるかどうかです。相手への共感や信頼は、体の動きのシンクロ(同調)に現れるからです。
最後は発言権ですね。特定の上司ばかりがしゃべり、ほかの人は黙って聞いている。これは一番ダメなパターンです。新人も含むすべての参加者に、平等に話す機会を与えないといけません。それがダイバーシティであり、そういう人たちの意見にこそいろんな観点がありますしね。
この4つ、「Flat」(フラット)、「Improvised」(即興的)、「Non-verbal」(非言語的)、「Equal」(平等)の頭文字をとって「FINE」と言います。
「HERO」は一人ひとりが自分の中に前向きさを作っていくこと。「FINE」は互いに応援や、共感、信頼し合うコミュニケーションを作ること。この両方が必要です。
ーーコロナ禍以降は、リモートワークが広まっていますが、それにともなってコミュニケーションの難しさが指摘されています。リモートワーク下でも、FINEのコミュニケーションを実現するためのポイントを教えていただけますか。
矢野:例えば、階層構造の組織図どおりにコミュニケーションをしていると、上司がつながりを独占するという、まさに非フラットな、不幸な組織そのものになってしまいます。
リモートワーク下では、見えないから上司はますます部下が心配になる。一方の部下も横とか斜めとか、いろんな人と接する機会が減り、上司との会話ばかりになってしまう。
それが「オンライン疲れ」や「コロナ疲れ」などのストレスになり、本人も気づかないうちにメンタルに大きな影響が出ます。
先ほどの「FINE」のコミュニケーションは、意識すればみんなができることばかりなんですね。リモートワークの環境ではやりにくいですが、意識して作ろうと思わないといけない。例えば、こういった1対1のインタビューなら、今日初めてお会いしましたけど、オンラインでもノンバーバルな交感ができるじゃないですか。
そういうのって1つのリテラシーだと思うんです。ノンバーバルの重要性を考えていないと、平気で10人の……しかもそのうち8人ぐらいが顔を隠してて、マジックミラーの向こうから覗かれているような会議設定をしてしまう。多人数だと見えてる人の顔も小さくなりますしね。
リテラシーがないから、オンラインだと声をかければ誰でも参加できるから、10人でも15人でも「関係している人はみんな入れればいいか」みたいになる。「FINE」を理解し、「FINE」を高めるようなファシリテーションや会議設定を考えれば、そんな会議は設定しません。
でも「FINE」を理解していたとしても、上司から「会社のルールを守れよ」とか「PDCAを回せよ」と言われると、そちらに頭が回らなくなってしまう。ルールやPDCAを回すことも大事ですけど、「FINE」のコミュニケーションの重要性がわからない管理職が多数いるということだと思うんですよね。
――「FINE」の重要性を認識して、応援し合う組織やチームを作っていくことが大切ですね。
矢野:組織というのは、人が一人ではできないことを、能力や労力を持ち寄って、単なる足し算ではできないことを行うためにあります。その時に、仕事と人が固定化しないよう、割り振りをきちんと考える必要がありますね。固定化してしまうと、フラットな組織にならないからです。
「この仕事なら、この人」と、仕事と人を固定化してしまうと、予測可能になるので、どんどんコミュニケーションが要らなくなるんです。ある意味楽なんですけど、固定化は属人化や個人商店化につながり、中長期では必ずいろんなしっぺ返しを食らい、不幸になります。
――少し話が変わりますが、矢野さんが幸せに関心を寄せるようになった、影響を受けた本をご紹介いただけますか。
矢野:いろいろありますけど、私が強く影響を受けたのはカール・ヒルティ(Carl Hilty)の『幸福論』と、その本を知るきっかけになった渡部昇一さんの『知的生活の方法』。あとドラッカー(Peter Ferdinand Drucker)は全部ですね。
――著書の中でも、矢野さんはドラッカーが指摘する「時間の管理の重要性」に影響を受けたことを書かれていますね。
矢野:そうですね。そこがある種のヒントになったところはありますね。
「Know Thy Time」……「Thy」は「Your」の古い言葉ですけど。「あなたの時間を知れ」ということですね。『経営者の条件』という邦訳版が出ていますが、ドラッカーの『The Effective Executive』の最初のほうに「あなたの時間を知れ」という言葉があって。
先ほど、MITの人たちと幸せの研究を始め、その時に今は世界銀行にいる金平(直人)さんが『Sensible Organizations』という立派なビジネス企画を作ってくれたことをお話しました。その金平さんが考えた企画書が、「『Know Thy Time』から始めたらいい」というものだったんですね。もう18年も前の、非常に懐かしい話です。
ーー最後に、幸せの研究の未来と言いますか、今矢野さんが取り組まれていたり、今後着手しようとされていることをお聞かせいただけますか。
矢野:今は客観的に幸せ度を測るということを、いろいろな方面に広げていこうとしている局面ですね。
例えば、組織として良い状態かどうかを確認するだとか。あるいは幸せな会社は生産性やクリエイティビティが高く、株価も高くなるなら、そういう会社に優先して融資をするような制度やサービスがあってもいいし。
そういうアイデアはいくつもあって、毎日のようにいろんな方々からお話をいただき、一緒にサービス開発をやり始めているところです。今まで測れなかった「幸せ」が測れるようになったことで、これからさまざまな新しいサービスが生まれますよ。
ーーお話ありがとうございました。
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