2024.10.01
自社の社内情報を未来の“ゴミ”にしないための備え 「情報量が多すぎる」時代がもたらす課題とは?
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矢野和男氏(以下、矢野):松永さんにお聞きしたいんですけど、音楽って、ものすごい力があると思うんですよね。しかも非常にユニバーサルというか、国や文化を越えて、ある種の人の心を動かす力があると思ってまして。ウェルビーイングを広めるということで言うと、音楽ってものすごい力が、ポテンシャルがあるんじゃないかな、と。
私も海外出張で、たまたまその日にStingがそこでコンサートやってて、チケットが取れたので行ったんですけど、200人ぐらいの会場で、みんなもう本当に人生の導きをStingに求めている場という感じで。真剣に聞いているし、もちろん喜んでいる。
今どちらかというと伝統的な宗教みたいなものが、見直されている面がありますけど、全体的にはそれをプラクティスとしてする人が少なくなっている傾向の中で、ある種、音楽がその代替をしている面もあるのかな……なんて、その曲を聴いた時に思ったんです。松永さん、ウェルビーイングと音楽という観点で言うと、そのあたりはどうなんでしょうね。
松永貴志氏(以下、松永):音楽のかたちは、伝える側によって選べたりするので、どういうふうに伝えるか、何を伝えたいのかと、それを聴くみなさんとがマッチするかどうかだと思うんです。
ふだんからそういうことを考えたりしていると、自分自身がどういうものを作ればいいのかも浮かんできますし、わかってくることもあると思うんですね。
あと、みんながただハッピーに音楽をやっているだけではないんです。意外に頑固な先輩がいたり、ぜんぜん言うこと聞いてくれない人がいたりとか(笑)。そういう人たちも一緒のチームになってバンドで演奏したりするんですよ。
音楽だけではなく、どのジャンルでも同じような気がしますが、例えば「僕に対してイヤなこと言ってくる人がいるなぁ」みたいな嫌悪感がある場合、そもそも嫌悪感は自分から発せられるもので、自分自身の問題なんですよね。違う人から見たらその人はすごくいい人かもしれない。
そうすると自分が変われば、相手が変わることもありうるので。例えば本当にすごくイヤな人がいた場合とかですね(笑)、コーヒーを1杯スッと出すと「なに、俺にコーヒーくれるの?」みたいなのもありえますし、もしかしたらその様子を後輩の人たちが見ているかもしれない。
そうなると、おそらくその人も変わると思います。こっちが変わる姿勢を見せることで、自分の嫌悪感の対象も変わっていく。例えばそこで「コーヒーなんかいらんわ」みたいに言われたとしても、自分が行動を起こせた、アクションできたことで、一歩寛容になれたなと思えたりとか。
イヤな人ならそういうふうに対処するとか、身の回りの小さな課題を考えて、実行に移すこと。これがやっぱり大事かなと思いますね。
矢野:行動に移していくということですかね。特に人と人は違うので、「そのギャップを埋めるのを相手に任せず、お互いに」ということだと思うんですけど。
鈴木英敬氏(以下、鈴木):矢野さん、ちょっと一言すいません。さっきの大耕さんの利己と利他との関係の話の続きのところで、ちゃんと言えてなかったので。
うちの幸福度の県民調査の傾向でいきますと、地域の活動……例えば防災訓練や子育て支援、清掃活動とかに参加している割合が高い人ほど、幸福度が高いというクロス分析の結果が出ています。
要は人とのつながりや、人のために何かをしたり、自分もそれに参加して満足するとか、そういった地域活動と幸福度の関係が結果に出ていますね。
矢野:なるほど、それは大変興味深いですね。私らも独自にいろんなビックデータの解析をしてまして、幸せな集団には「情けは人のためならず」じゃないですが、まさに人のためにいろんな行動をしている人が多いんです。人のために行動して、その人は結局自分が幸せになっているという。私が最近書いた『予測不能の時代』という本には、「幸せは天下のまわりもの」と書いたんですけれども。
個人とほかの人との関係がしっかり全体感としてとらえられることが、幸せ、ウェルビーイングにとって非常に大事だということが、データにも出ています。
矢野:では、時間もかなりきているので、お聞きになっている方々からの質問をいくつか取り上げたいと思います。一番「いいね」が多いところからいきますが、「なぜこれだけモノが満たされているのに、生きがいやウェルビーイングが求められるのでしょう。なぜモノでは満たされないのでしょうか」。いかがでしょうか、どなたでも。
松山大耕氏(以下、松山):さっきの「地域活動」のところでもありましたが、本当の幸せは、人から与えてもらうものだからだと思いますね。最終的には、「喜ばれることに喜びを」だと思うんですね。例えば逆上がりができるようになったとか、自転車に乗れるようになったとか、もちろん自分の小さな成功もうれしいんですけど。
やっぱり人から「ありがとう」と、「君がいなかったらダメだった」みたいなことを言われたり、本当に感謝されるのって、英語で言うところの「Joy」だと思うんですよね。「Fun」と「Joy」は違うんですよ。「Fun」はお金で買えると思うんですね。モノも買えるし。でも、「Joy」は人から与えてもらうものだと思います。そこが1つのキーかなと思いますね。
矢野:それじゃあもう1つ別のご質問で。「自己肯定感が低いのですが、どうすれば高められるでしょうか」。どうでしょう。
松永:僕いいですか。もう本当に、起きた自分をまずは褒めてあげるところからスタートすることですね。「今日、朝起きられた、よっしゃ」という。まず1個、何か「よっしゃ」というものを挙げる。当たり前にやっちゃっているんですけど、例えば身体的にそういうことができない人だっているわけですし。1つできている当たり前のことを「当たり前じゃないことを自分はできているんだ」と、まずは自分で理解してあげることです。
自分がもうできていることって、すごくいっぱいあると思うんですよね。自分に対して優しくしてあげると、おそらく人に対する思いやりの気持ちとかも、そのうちプラスアルファで出てくるのかなという気がします。
矢野:ありがとうございます。ほかにいかがですか。
鈴木:「自己肯定感が低いのですが……」というのは、自分の過去と比べて低いのか、ほかの人と比べて低いと思うのかがちょっとわからないですが。なぜ低いと思うのか、そして、どうやったら上がるのかという点で言うと、「自分、ようがんばってんな」とか「自分、なかなかやるやん」と思うポイントは人それぞれ違うと思うんですね。
他者から声をかけられてめちゃめちゃがんばれる人もいるし、さっき松永さんが言ったように当たり前のことを1個、マイルストーンをちょっとずつ上がっていくことで肯定感が上がる人もいる。なので、まず何か自分の発射台を見つめるということが、最初の一歩というか、0歩というか。そういう感じではないかなと思いますね。
矢野:松山さん、何か追加することはございますか。
松山:そもそも、自分に対する期待値が高すぎるときついですよね。それはあると思うんです。だから私は自分に対する期待値は極力下げるようにしています(笑)。よく講演とか、こういう場面もそうですけど「緊張しないんですか?」と聞かれますが、緊張しないんです。なぜ緊張しないかと言うと、すごく失礼な言い方ですけど、「どうせ聞いてへんやろ」と思ってしゃべっているからなんですね。
(一同笑)
みなさんにすごく聞かれている、一言一句もらさずメモをされていると思うと、やっぱりすごく緊張するわけじゃないですか。私自身、すばらしい講演とか何回も聞いてますけど、60分聞いて頭に残っているのは1つか2つぐらいですよ。
鈴木:間違いない。
松山:だからまぁそんなもんだと。60分しゃべって1個か2個、何かお持ち帰りいただいたらいいなぐらいで行くと緊張しないわけです。それと同じように、なにごとも「自分はこうしなきゃいけない」とか「人はこんなことしているから」とか、自分に対してハードルを上げすぎると、自己肯定感を高めるのが難しいですよね。
鈴木:でもチャットは「めっちゃ聞いてますよ!」ってなってまっせ。
(一同笑)
「メモとってまっせ!」となってますよ。
松山:今さら緊張してきました(笑)。
矢野:もう1つ。これは鈴木知事へ、ですが。「もしも東京都知事になられたら、どうやって幸福度を高めますか? 三重県と違うんでしょうか」という質問です。
鈴木:なるほど。たぶんぜんぜん違うと思いますね。東京都の課題はあんまりわからないので、超無責任なことを言いますけど、東京都知事になったら、普通のというか、僕ら三重県知事とかがやっているような仕事はしないんじゃないですか。東京都都知事は日本の仕事だけ、世界との関係でどういう都市になるかだけ考えて、あとのことは民間の人と、23区とか市や町の人に全部任せる。
あともう1つはたぶん、たぶんなので間違ってたらアレですけど。東京は我々のような地方と比べて格差がすごく大きいと思うので、自分だけでがんばりきれない人たちのところに、めちゃくちゃ焦点当てることをやったらいいんじゃないかなと。
自分たちでがんばれる人たちのところは、今言ったように勝手にやってくれますから。どうしても自分たちだけでがんばれない人たちにめちゃくちゃ焦点を当てて、そこに人的資源も財政的資源もドガーンと投入すると、全体的な幸福感も上がっていくのかなと思います。
東京都は、自立的に回るリソースがほかの地方と比べてめちゃくちゃある地域だと思うので、「世界とのこと」を考えてもらうといいと思いますね。
矢野:いろんなデータや数学的なモデルを使うとそうなるんですが、格差というのは黙っていると必ず自然に広がっていくんです。これをどうやって抑えるかは、あらゆることの基盤になる大変重要なイシューだと思うんです。
鈴木さんはそのへん、格差の問題をどんなふうにとらえたらいいとお考えですか。私はまったくそんなふうに思いませんが、例えば、「がんばらないから格差ができるんだ」という非常に極端な見方をする人もおそらく世の中にはいると思うんですね。かなり意識的に改善していかないと、格差は直らない、かなりのテコ入れが必要だと思うんですけど。
鈴木:もちろんそうです。分野にもよりますけど2つあって、1つはまず「ちゃんと知る」ことだと思うんです。実は三重県は、このたび全国都道府県で初めて、引きこもりに特化した計画を作るんです。
どうやって支援をしていくかを考えるために、実態把握をむちゃくちゃやりました。引きこもりの中で、引きこもり5年以上の人が50パーセントいるとか、男性が7割とか、最初のきっかけは不登校というのが一番多いとか。まずとにかく実態を、目を背けずに発射台をちゃんと知ることから、格差の解消のための処方せんが始まるというのが1つです。
鈴木:もう1個は、目の前の課題をペペっとやるんじゃなくて、構造的な問題にちゃんと目を向けることです。ちょっと格差とは違うんですけど、例えば三重県って、外国人住民の方の比率が5パーセントと、全国で3番目に多いんですね。そして、実は今コロナで感染している人の16パーセントが外国人の方なんです。
人口比で見たら外国人の方が多いので、「外国人の人たちはバーベキューとかを、マスクとかあんまりせぇへんでやるからな」と勝手に、表面的に見る人がいるんですけど、実はそうじゃない。例えば特定技能実習生の人とか派遣で来ている人たちは、共同の同居生活が多かったり、家から工場まで小っちゃいバンに何十人も一緒に乗って行くとか、ちゃんと換気がされてない休憩室が多いとか。
外国人住民のみなさんの周りにある環境が感染しやすいという構造的な問題があることに僕らは気づいて、その対策を今は徹底的にやっています。そういう、表面的なものじゃなく、何か構造的なことに格差の問題があるということに目を向けて、処方せんを投入するのが大事だと思いますね。
矢野:ありがとうございます。それでは時間もだいぶ迫ってきたので、最後にお一人ずつですね。これから、世の中、あるいは組織に、よりウェルビーイングを高めていくためにどんなアクションをしていきたいか。まさにG1の精神で「行動していく」という意味でどんなことをお考えかを、最後にみなさんに発言していただいてまとめたいと思います。それでは松山さんからいきますかね。
松山:一言で言うと「志は高く、足るを知る」。それに尽きると思います。さっき1つ申し上げましたけど、「選択できない」という方々がたくさんいて。特にこれからアルゴリズムが入ってくると、「提案されないと選べない」人がすごく増えてくると思うんですね。
その中で行動指針としては、自分自身でちゃんと気づきを得て、選択することの重要さをみなさんにご提供できるように、寺の現場や教育などで実践していきたいなと思っております。やっぱり実践が大事ですから。
矢野:ありがとうございます。それでは松永さん、よろしくお願いします。
松永:価値観って時代によってものすごく変わってくるものだと思うので、本当に自分が正しいかどうかが、わからなくなる時もあると思うんですけど、その自分をまずは信じて、1本のタンポポを見つけてみてください(笑)。
矢野:ありがとうございます。それでは鈴木知事、よろしくお願いします。
鈴木:ありがとうございます、今日は大変勉強になりました。1つはさっき途中で言っちゃいましたけど、この幸福度の分析、政策に活かす手法を高度化していきたいと思っているので、矢野さんとかにお力をお借りできればと思っています。
あとは先ほどから言ってますように、「ウェルビーイングは身近にあり」なので、まずはこの夏休みに子どもたちとしっかり遊んであげたいと思います。以上です。
矢野:ありがとうございます。拙い司会でしたが、大変ユニークで、大変多様な、しかも高度な知見・経験をお持ちのお三方に、幅広い見地からウェルビーイングについて語っていただいて、いろいろ刺激があったと思います。それでは、これでこのセッションは締めたいと思います。お三方、そしてオーディエンスの方々、本当にありがとうございました。
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