CLOSE

SMALL BUSINESS LABO セミナー「次に進むためのやめる決断 取捨選択はどうやってすべきか?」(全6記事)

1人で立ち上げた山奥のパン屋が、年商3億3千万円の人気店に コロナ禍でECは出荷待ち、驚異の売上推移の秘訣とは

中川政七商店では、奈良のまちづくりとしてN.PARK PROJECTに取り組んでいます。「いい街とは、いいお店がある街だ」という想いから開催している本イベントは、スモールビジネスの事業者の方や起業検討者の方に向けて行われています。今回のSMALL BUSINESS LABOセミナーには、株式会社わざわざ 代表取締役・平田はる香氏が登壇。本記事では、田舎の山奥に店を構えるパン屋が、不便な土地ながらも売上を伸ばし続ける背景を語っています。

年商3億3千万円を誇る、山奥のパン屋

井上公平氏(以下、井上):本日のゲストをご紹介したいと思います。まず最初、私から経歴を読み上げさせていただきます。本日のSMALL BUSINESS LABO セミナーのゲストは、株式会社わざわざ代表取締役の平田はる香さまでございます。

平田さんは1976年生まれ。2009年、長野県東御市の山の上に、趣味であった日用品の収集とパンの製造を掛け合わせた店「わざわざ」を開業されました。2017年には株式会社わざわざを設立。2019年、東御市内に2店舗目となる喫茶、ギャラリー、本屋「問tou」を出店されています。

ECサイトと実店舗2店で事業を行い、リモートワークと移住者で構成された働き方も注目を集めておられます。2020年度で従業員25名、年商も3億3千万円を達成されている注目のお店でございます。それでは本日のゲスト、平田さまをお迎えしたいと思います。平田さま、どうぞ壇上へお越しくださいませ。

(会場拍手)

井上:どうぞ、おかけください。

平田はる香氏(以下、平田):こんにちは。

井上:よろしくお願いします。

イベント開催地の奈良は、全国比でも専業主婦率が高い

井上:平田さん、昨日から奈良(本イベントの開催地)に入っていただきまして。奈良は3年ぶりとか。

平田:そうですね、3年ぶり3度目ですね。修学旅行を入れると3回目です。

井上:そんなに長い時間のご滞在じゃないと思うんですが、奈良の印象はいかがですか?

平田:昨日、中川政七商店の周りの話と、奈良の話をいろいろお伺いしてきたんですが、自分の印象と実像がだいぶ違うんだなというのがわかりました。

井上:ちなみに、どんなところが違うなと思われました?

平田:おもしろかった話は、奈良県の方は奈良で消費せずに、大阪や京都でほとんど消費していて、専業主婦率が全国の中でもかなり高いとか。

井上:そうなんですよ。

平田:そういった独特な生活の趣向が、事業をすごく育みにくくしているというか。そこらへんがすごくおもしろいなと思いながら聞いていました。

井上:奈良ってわりと独特なところがありまして。平田さんにもおっしゃっていただいたように、奈良で暮らしていると実感があると思うんですが、生活する人が物を買う場所とか、集まれる場所がすごく少ないんですね。

平田:そうですね。

井上:長野はいかがですかね?

平田:長野はこことはまったく状況が違って。単純に住んでいる人がすごく少ないので(笑)。一言で言うと田舎ということですね。状況も違うと思います。

井上:私たちN.PARK PROJECTは、わざわざさんのような、住んでいる人たちが楽しめる、生活がよくなるような店をこの建物を中心に増やしていこうという取り組みになっています。

今日は新しく踏み出す方にご参考いただけるような話を、たくさん平田さんからしていただけるかなと思いますので、ここから平田さんにバトンを渡したいと思います。よろしくお願いいたします。

公共交通機関が通っていない、山の中にパン屋をオープン

平田:ありがとうございます。今日はちょっと長くなりますが、最後までお付き合いいただければと思います。では、ちょっと会場の方にわざわざを知って(イベントに)来ているのか、聞いてもいいですか? 

(会場挙手)

平田:ほぼほぼ8割の方が知っているということなんですが、2割くらい知らないので、少し自己紹介を交えながら、今日はお話ししていきたいなと思います。知らない方向けということで、冒頭を聞いていただければと思います。

まず、「わざわざって何?」ということなんですが、名前の由来ですね。「わざわざ来てくださってありがとうございます!」ということで付けています。

一度お店に来たことがある方はわかると思うんですが、公共交通機関がまったく走っていない、最寄りの駅から車で15分ほどのところですね。バスの本数も非常に少なくて、バスで来ることはもう難しい状況になっています。

なので、自家用車で来るしかないところでお店をやっていますので、その感謝の気持ちを込めて「わざわざ来てくださってありがとうございます!」ということで名付けました。

「パンと日用品の店 わざわざ」ということでやっているんですが、どんなお店かというと、薪窯で焼いた食事で食べるような食パンと、カンパーニュという2種類のパン。あとは自分たちが使って「良い」と思った商品を販売するお店です。

営業の形態なんですが、今はコンセプトの違う実店舗が、長野県の東御市内に2つあります。パンと日用品の店「わざわざ」と、ギャラリーと本屋と喫茶を主軸とした「問tou」という、お店の2つがあります。

この2つのお店は、車で10分ほどで行き来できるような距離間にあります。ここがわざわざだとすると、谷に1回降りていただいて、もう1度登ると「問tou」に着くような道筋です。木・金・土・日の11時から16時まで営業しています。

10年間で売上が約10倍に

平田:あと、キナリノモールというモールに出店しているのと、自社オンラインストアがあります。これは今、外部倉庫の方に物流をお願いしていて、自社でオンライストアを運営して販売している状況です。月曜日から金曜日に出荷を行い、通年で営業しています。

うちが有名になったきっかけが、売上の推移なんですよね。2009年創業なんですが、1人で行っています。その時(の売上高が)だいたい200万円ですね。2010年も300万円ほど、というところから、急激に2014年、2015年と伸びてきて。確か2014年が3,800万円とか、2016年で7,000万円ぐらいですかね。

2017年に1億4千万円ほど行って、そのあと2億5~6千万円ですかね。去年、3億3千万円くらいの売上に成長していると。創業して1人でやっていたところからスタートして、だんだんアルバイトさんに手伝ってもらい。

最初はただ、子育ての合間に週1でイベント出店をしながら、パンを焼いて販売していたんですが、そこからどんどん事業形態が変わって伸びていったところが、注目を浴びたきっかけになっています。

ECと実店舗での「売れる商品」の違い

平田:「どういう売上の構成比なんですか?」ということをよく聞かれるんですね。実店舗とECの2個のデータ、去年の売上の構成比のデータを用意しました。

まず実店舗から見ていくと、「身につけるもの・衣服」。これは売上高に対してのパーセンテージを、個数ではなく価格で付けています。なので、身につけるものが1位になってしまうのは、金額が高いからというのが1つ言えます。

でも、2位に入ってくるのが「パン、お菓子」なんですよね。100円台からお菓子を販売していますので、ここに入ってくるということは、実店舗に訪れる人はほぼ99パーセントぐらいの方が、パン・お菓子を購入していっています。とにかく、個数も頻度も一番高いものが「パン・お菓子」になっています。

その次に「食品」「暮らしの雑貨」。これは器やキッチン用品や布巾とか、そういった日常に使う雑貨をすべて入れています。この次に「オリジナル商品」で、喫茶利用で書籍を買う方、というかたちで作家さんのものとか。だんだん割合が少なくなってきます。

ECがどうなっているかというと、「身につけるもの」がやはり28パーセントですね。「雑貨」が26パーセント、「オリジナル商品」が20パーセント近くまで伸びてきています。「食品」も17パーセント。この4個がけっこう主軸になっている。20パーセントくらいで競っている状況ですね。

パン、お菓子、食品の割合は少ないんですが、やはり単価が低いということで、個数で換算すると順位がぜんぜん変動して、食品とパンが一気に躍り出てくるかたちになっています。

ECと実店舗でぜんぜん違うのは、「パンかパンじゃないか」というところがすごくあって。やはり焼きたてのパンやコーヒーを入れた時の匂いは本当に強くて、ほぼほぼ買いたくなってしまう。ECはその現象が起きにくいので、こういった順番になっていると言えます。

コロナ禍で「ECには追い風、実店舗には向かい風」

平田:だいたいすべてが均等に売れているのが特徴的だと思うんですが、それはうちでも意識していて。在庫の持ち方や商品の配置の仕方・構成で、やろうとしてやっています。

年々、オリジナル商品の比率が伸びていて、去年は20パーセント、その前の年は15パーセントを目標にしていたんですね。それを20にしようとして、だいたい合格点レベル。だいぶ上がって売上も伸びているので、その割合も増えて利益率が高まっているということが実現できている状況です。

足すと全体がこういったかたちで、今の4部門がわりと均等に売れている。ECと実店舗の比率なんですが、ECでほとんど売っちゃっているんですよね。(ECが)2億5千万円売っています。実店舗が5,000万円ほど。

でもこれは正直、コロナの煽りをかなり受けています。ECには追い風、実店舗には向かい風の状況です。実店舗は、1店舗あたり3,000万円くらいのベースで販売できていたんですけど、1,000万円くらい売上が落ちている。

コロナ前は、「わざわざ」単独で5,000万円ぐらい上げていたので、本当にすごい勢いで人が消えたんですが、週末に全国からお参りのように来てくださっていた通販ユーザーの方がほとんど来なくなってしまって、地元と近隣の方のニーズに応えている状況です。

だけど、2店舗でも5,000万円をまだ維持できているので、ここがベースになってくるのかなという感じがしています。

巣ごもり需要で売上が伸び、出荷が追いつかない状態に

平田:去年のコロナの影響を実際に図にしてきたんですが、3月あたりで少しコロナが増えてきて、4月に緊急事態宣言が発令されて、そこに5月のゴールデンウィーク。みんなが家から出られなくなった状況に、バコンとオンラインが伸びる。

2019年との比較を見ると、ものすごい差になっています。4月から7月が本当に特需のような状況で、長野倉庫から出荷してたんですが、出荷機能がパンクして倉庫から出荷不能の状態に。

ほとんど、オーダーいただいてから1週間〜10日待たせてしまう状況になってしまい、8月に売上がいきなりドーンとダウンしているんですが、この5月の様子を見て東京の八王子倉庫に移すことを決断して、8月に休んで倉庫を移転させちゃいました。

長野出荷にこだわってやってたんですが、もうお客さまにフラストレーションを与えることは良くないということで決断した結果、年末にかけてまた伸びていく。出荷機能が戻って遅延がなくなり、ユーザーの不満も解消され、運用もうまくいくようになってきたので、だんだん伸びていった去年でした。

1月には初めてオンラインでセールをしたんですね。やはりコロナでみなさんもストレスが溜まっているでしょうし、私たちもストレスがあったので、なんとか安く還元できないかということで、セールを行いました。これも売上が伸びています。結果、トータルで3億3千万円ちょっと(売上が)行って、過去最高の売上がはじき出せたのが去年です。

みなさん数字をすごく気にしてくださって、「なんでその立地で事業が成立するの?」というところに、数字がちゃんと伴ってないと、その後の話も説得力がなくなってしまうので、一応冒頭にこういったお話を。株主総会的な気持ちで(笑)。

毎年これをブラッシュアップして、毎回売上データをちゃんと作って、プレゼン(資料)を作っているんですが。私たちの発表ということで、聞いてくださってありがとうございます。

続きを読むには会員登録
(無料)が必要です。

会員登録していただくと、すべての記事が制限なく閲覧でき、
著者フォローや記事の保存機能など、便利な機能がご利用いただけます。

無料会員登録

会員の方はこちら

関連タグ:

この記事のスピーカー

同じログの記事

コミュニティ情報

Brand Topics

Brand Topics

  • 大企業の意思決定スピードがすごく早くなっている 今日本の経営者が変わってきている3つの要因

人気の記事

新着イベント

ログミーBusinessに
記事掲載しませんか?

イベント・インタビュー・対談 etc.

“編集しない編集”で、
スピーカーの「意図をそのまま」お届け!