2024.12.19
システムの穴を運用でカバーしようとしてミス多発… バグが大量発生、決算が合わない状態から業務効率化を実現するまで
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安居昭博氏(以下、安居):(持続可能な未来を作るうえで)オックスフォード大学の経済学者、ケイト・ラワース氏が、「脱成長」を意味する「degrowth」という言葉よりも、今回「繁栄」と訳した「thrive」という言葉を使っているんです。その理由の1つに、「degrowth」はネガティブな響きを持っていて、例えば選挙では大衆の賛同を得にくく、票が集まりにくいことを挙げています。
それで、degrowthよりもthrive。ただ実際に「thrive」をどう訳すか、難しいところがあると思います。「繁栄」と訳している人が自分の周りでも多いですし、僕もそう訳しましたけど、もっとしっくりくる言葉があるんじゃないかなと。
あと「degrowth」というと、これまで成長していたものを抑制するイメージがあり、つまり「線をたどる」ような印象を持たれるかと思うんです。その点「thrive」は経済成長だけでなくて、それを僕は本の中で「3つのP」というお話をさせていただきました。
経済成長はある一定度合いまでは必要なんですけど、その経済面での「profit」だけじゃなくて、環境面での「planet」。あとは人々の幸福度を表す「people」。この3つのPで、「thrive」を評価軸として位置づけていくことが、僕はけっこうしっくりくると思っています。
なので、子どもの就学率を上げたり乳幼児の病死率を下げるなど、経済成長をある一定まで伸ばすことは、課題改善への相関関係も見られたりするんです。ただ、ある一定に達した時には、経済成長は右肩上がりでなく維持を目指すのが良いと、ケイト·ラワース氏の著書『ドーナツ経済学が世界を救う』で書かれています。
それ以外に、例えば男女の雇用の格差、あとは政治的腐敗度、メディアの透明度だとか、社会に欠かせないそういった要素を満たしていくことを、彼女は「thrive」という言葉で表していて。自分がしっくりきたのはそっちでした。
田口一成氏(以下、田口):確かにアメリカの研究とかでも、所得が一定額を超えた後は、幸福度自体は変わらないというデータがあったりして。
その額までは、経済的理由によるできないことや支障がありますが、そこを超えると、車がよりいい車になったり、食べるものがより高いものになったり、泊まるホテルが変わるだけで、実は「満足値」はあまり変わらないそうです。そういう、ほどほどのラインが見えつつあるのかもしれないですね。
安居:そうですね。僕たちが現代で生きている中で、自然とそれに感づいているところがあるんじゃないかなというのは、世の中の潮流を見ていて感じるところがあります。闇雲にお金を稼げば稼ぐほど、自分たちが幸せになるわけでもないんじゃないかということが、特にこのコロナで明らかになったんじゃないかなと思って。
やっぱりある一定度合いまで到達した時には、お金を稼いで幸せになるよりも、生物多様性とか、環境がより良くなったほうが、自分の幸福度が上がるよねとか。
あとは「ウェルネス」とか「ウェルビーイング」などのトピックもすごく注目されてますよね。自分たちがこれ以上の幸せを追求するためには、お金を稼ぐよりも人々とのつながりだとかが求められていると思います。
今、注目が集まっているのは、やっぱりプロフィットだけじゃなくて、プラネットとピープルの、人々の幸福度に資する、まさにウェルネスとかウェルビーイングというキーワードなので、小難しい話をしなくても感覚的に理解されてるところが、社会全体としてあるんじゃないかなというのは、感じたりしますね。
田口:今、聞きながら、幸せを作っていくのは、横にある関係なんだなと思いました。
田口:この前、知り合いから突然電話がかかってきて、「たぐっちゃん。1つ質問があるんだけど、幸せに働いている社員ってどういうこと? どんな人? 一言で言って」と言われたんですよ。みなさん、何て言います? 幸せに働いている人ってどんな人?
それで僕がその場でぽっと答えたら、向こうは「ええっ。たぐっちゃんもそうなん?」って。ある2人の大企業の社長に、同じ質問をしてたらしんです。それで、3人がまったく同じ答えだったので彼はびっくりしてました。僕は「他人と比べない人」って言ったんですよね。
安居:あぁ~、なるほど。
田口:他人と比べない人は、一番幸せだなぁというか。働いている人を見ていても、「あの人と比べて私、なんでできないんだろう」とは言わなくて、自分なりに今できることをちゃんとがんばっている。
それってつまり、みんな違ってみんないいというか。結局、いろんな多様なものがあることが是とされてる状態なので。結果的に比較しなくてよろしいということが、社会的には必要と思って。多様性を作るというのは、実は比べなくて良い環境づくりなのかなってちょっと思っています。
安居:じゃあもう、間違いないと思うんですよ。田口さんが発すると言葉の重みがめちゃくちゃあります。
(一同笑)
安居:僕は、田口さんみたいに1つの会社を持っているわけじゃないですが、10個ぐらい下の大学生の方々とかにも、「安居さんのように働きたいです」というのを、ありがたいことに言っていただくこともあるんです。
ただ、自分と同じように生きたとしても、それが彼ら彼女らにとって幸せとは限らないんじゃないかなと思っていて。僕はけっこう、生ごみにわくわくしたり……。
田口:うーん、ちょっとやばいな。
安居:そういう特殊なところがある人間なんですが、ただ、みんながみんなそうじゃなくって。なので他の方々は、「田口さん、すてきな事業をされて、すてきな考えを持たれているな」とか思いつつも、それを参考にはしながらも、じゃあ自分は何にわくわくするのか、考えていく必要があると思います。
安居:田口さんであれば、若い頃に貧困問題に関心を持たれて、今もこういった事業に関わられているように、自分がどういったことに関心があるのかとか、他や周りを参考にしながらも、自分の心と向き合うところがすごく欠かせないと思います。
自分らしくあることが、自然と多様性を生み出すと思うので、一人ひとり自分と向き合って、自分らしさをそのままに自分の生き方につなぎ、そうなった時に自然と多様性ができてくるんじゃないかなと思います。少し脱線しますが、高田宏臣さんが書かれた『土中環境』という本がありまして。
高田さん曰く、土が固まってしまっているところに、空気とか水の通り道をちゃんと作ることによって、土壌が本来持っていた力とか、微生物の力を取り戻していくそうです。これがまさにリジェネラティヴな活動だなと思ったんです。
先ほどの農作物の話と一緒で、1つのものだけ植えていることは、全体が弱くなってくるので、人の生き方とか存在を考えた時にも、一人ひとりが自分らしくあることで全体として多様性を作り上げていくことが、一番の生き残り策になると思うんですよね。
それは人間だけでなくて、人間も含めた他の生命体との多様性があったほうが、地球全体としての強い姿なのかなと感じるところがあります。
田口:自分らしくあるということが、実は自分のためだけじゃなく、結果的に社会のため、みんなのためになると。そっちのほうが、結果的に多様性がある社会につながっていく。
安居:そうですね。
安居:多様性という意味でいうと、田口さんはアメリカの学校にも行かれてますよね。
田口:大学で1年だけアメリカに留学して。英語、何を言ってるかぜんぜんわかんなかったからやめまして(笑)。自分でビジネスプランを書いて、カフェでバイトしてました。バイトというかお金はもらえなかったんですが、事業として、学校に行かないで働いてました。
安居:先ほどの「他の人と比べないこと」という話に戻りますが、特に学校とか、めちゃくちゃ周りと比べられていましたよね。僕も高校生の時の偏差値とか、言えないぐらい低くて。
(会場笑)
田口:マジすか。それ、うちの子どもの希望(の星)じゃないですか(笑)。
安居:全校で80人いて、78番とかでしたね。本当に、めちゃくちゃ比べさせられてたなと思って。だから逆に、自分の下の世代たちには、「偏差値だけじゃない」というか、手垢にまみれた言葉ですが「他の人と比べすぎる必要はないんだよ」ということは、もっともっと伝えたいと思います。
学校も、その環境が合う子どもにとってはいいところだと思いますけど、ただやっぱり現実的には、15歳から39歳までの若者の中で、54万人が不登校・引きこもりにあるという調査もあります。
その時に、日本では全体的に、「彼女たち・彼ら自身に課題や問題があって、どのようにしたら元のレール(学校)に戻れるか」という政策やアプローチが多いと思うんです。
安居:ただそれよりも、彼ら・彼女らに問題があるのではなくて、今の社会の学校や職場の仕組みに合わないのだから、無理して元のレールに戻らなくても、ボーダレスさんが広められているような、こんな多様な働き方や生き方があるんだよということを見せたほうが、社会にとっても、彼ら・彼女らにとっても良いと思います。
無理して画一的にレールに戻さなくても、あるがまま生きることによって、社会に貢献する方法もたくさんありますし。生きがいや働きがいを生み出す方法もたくさんあるというのを見せたほうが、自然と多様性につながるんじゃないのかなと。そっちのほうが、社会全体を見た時にも、より自然なんじゃないかなと感じます。
田口:社会が大きく変わる時には、ロールモデルが大切だと感じるんです。社会が変わることで、人も変わるというか。
僕、「ボーダレスを巨大カンパニーにしよう」なんて、別にそうは思ってないんですよ。ただ、例えば魅力的なロールモデルをたくさん作って、それを見て「あんなやり方すてきだな」というふうになるのが、ボーダレスグループの大切な役割・仕事だと思ってるんですよね。
気づけば、「あいつもそんな類いのビジネスやって、ちゃんと暮らしながら毎日幸せそうに仕事やってるね」っていう、なるだけ多くの人のロールモデルとして顕在していくことです。そこまでがんばりたい、それが重要なポイントだと思ってやってるんですが、まさに今のモノカルチャー的なモノ教育というか、単一教育の中ではそれがなかなか伝わらない。
田口:それで子どもたちの視点に立った時に、「人と比べなくて良いんだよ」とか「あるがままで良いんだよ」って言われても、「じゃあどうしたらいいのよ」って思ってる子たちってたくさんいて。「安居さんは(校内で偏差値の順位が)78位だったんだよ」という。
安居:そうですね。
田口:そこから始まって、今は本も書かれて、こういうロールモデルをつくってますよね。「自分は子どもの時こうでした。だけど今はこうです」という人が、実際に世の中にはめちゃくちゃいっぱいいて。そういうのをまとめたロールモデル集を、子どもたちに提示していくのはどうですか?
安居さんはじめ、こうやって、勇気づけられるロールモデルがたくさんいるのは、すごく大切だと思います。
安居:例えば田口さんだったり、今の自分の周りで活躍されているかっこいい大人の方々に、僕自身が学生の時に知り合ってたら、かなり人生は違ったんだろうなと思っていて。僕、初めてスマホを持ったのが19歳の時なんですよ。今の子どもたちって、小学生とか中学生とかで持ってるじゃないですか。
大学生の時にバイトで水泳を教えてた小学生に、新幹線がすごく好きな子がいて。ある時「僕のiPadで新幹線見せてあげる」って言われて、けっこう衝撃受けました。iPad持ってることにもだし、しかもちゃんと使いこなしていた。
あとコンポストって、けっこうマニアックなはずなのに、最近はコンポストのオンラインのイベントに小学生とか中学生が参加して、そのあとにメッセージをくれたりするんですよ。だから情報を取ったり、おもしろいと思う大人にアクセスしようと思えばできる環境が、すごく整ってきてるなと思います。
僕が就活しているときには、社会課題をビジネスで解決しようとしている組織を調べるには、オルタナさんの雑誌ぐらいしかなかったと思います。
ただ今って、いくつものWebマガジンだったり、田口さんがボーダレスで取り組まれてるところだったり、従来の大手上場企業だけでなくていくつもの就職先や働き方とか、それこそ個人事業主だとか。そういったところが少なくとも10年前に比べるとかなり見えてきてるなと思うんです。
田口:やっぱり、個人事業主的な方向性はこれから熱いんじゃないですかね。ただ、個人事業主はメンタルが強くないとできないので、2~3人ぐらいのマイクロカンパニー的な規模のほうがちょうどいいんじゃないかなって思っていて。
やっぱり、働いていくと不満が多いじゃないですか。不満が解消されないのはすごくもったいないと思うんですが、社会の構造的に難しい部分もある。多くの人が関わって機能分化した時に、「誰が決めたのか」「そんなものはやりたくない」とかいう意見が出てきますよね。どれだけ良い意思決定であっても、人が集まったらそうなるのが当たり前ですが。
だけどやっぱり、多くの人はそこに依存してる状態なんですね。仕組みの中にいれば、給料も入ってくる。ある意味サラリーマンって、出社したら給料が勝手に入ってきてくれるので。最強のビジネスモデルなんですよ。それがゆえに依存してるから、不満も出てくるという。
それに対して、本当に自分らでやりたいと思っていることを、かたちにしていく。そうすると、まさに自分らしく対応できるんだけれども、じゃあ自分1人でやっていくかというと、それは少し難しい。同じような思いで、同じようなスタンスでやろうとする2〜3人でやるとやりやすいと思うんです。
もちろん、大きな会社に勤めるよりかは安定しないし、ちょっと給料は下がるかもしれない。だけど、すごくやりたいことを自分自身の中でやっている。無理に会社規模を拡大することが是ではないじゃないですか。2~3人で良いかたちでやってる方が是なので。
会社規模を大きくするためにハッスルして、20人とかの会社になっちゃうと、逆に良くないわけです。だから2~3人という状態もまた、今後の1つのロールモデルとしておもしろいんじゃないかなと思って。
田口:それが結果的に「脱成長」じゃないですが、いわゆる盲目的に経済成長を追いかけるメカニズムや力学を見つめ直すきっかけにもなると思います。やっぱり企業体の大きさは「成長志向」につながるので、経営者としても今年より来年の給料を上げる責務があって、従業員たちも上げてほしいという、受けのメカニズムになっちゃうんですね。
だけど、自分たち3人でやっていて、「今のこの暮らしで自分たちは幸せだよな」っていう状態を保ちつつ、無理やり経済拡大はしない。こういう意味で、マイクロカンパニーは楽しいんじゃないですかね。
安居:すみません。僕、けっこう疎くて、マイクロカンパニーというのはすでに言われているワードなんですか?
田口:僕が適当に言ってるだけです(笑)。口からでまかせなので。
安居:田口さんがこれまで、もう10年以上ボーダレスグループでやられてきた中で、マイクロカンパニーという、2~3名の規模の会社に未来を感じられているのは、やっぱりこれまでの経験が蓄積されての考えだと思うんですけど、ミニマルなマイクロカンパニー式が、これからの時代に合ってるんじゃないかと思われるところを、もうちょっと深くお聞きしたいです。
田口:やっぱり、最初に作るのが気楽なんですよね。起業するのはそこそこ難しいので、そのハードルが変わるかと。うちのグループの起業家たちも、むちゃくちゃゲロ吐きそうになりながらやっているんです。例えば、会場に来てくれている廣瀬智之さんも、ボーダレスで「RICE」という取り組みを起業しています。
彼は正直、パワーもすごくあります。めっちゃできるし、死ぬほど走れる。ただ、彼みたいな人はすごく少ない。世界のため・社会のためになにかやろうとしているのに、そこに対する起業ハードルの難易度がすごく高いのを僕はずっと見てきて。
ハードルの高さって、組織が大きくなる前提で考えると、リーダーシップという課題が出てくるんですよね。10〜20人の組織を率いていこうとすると、ある程度のリーダーシップが必要になる。
例えばさらに大規模の100人だと、かなりカリスマ的な素質が求められます。カリスマまでいかなくとも、ほとんどそのリーダーシップに依存することになるじゃないですか。それってパーソナリティを見てわかるように、社会の全員がリーダーシップ型なわけじゃない。というか、リーダーシップ型の人は少ないわけですよね。フォロワーだったりとか。
そういう人たちでも、事業を起こしていける方法を考えた時、そして好きなことや素直な考えを広げていった時に、本当は2~3人ぐらいでやってるほうが絶対楽しいだろうねという風に思っているんです。それは単純に、グループの起業家たちを見ていて「そっちのほうが幸せそうだなぁ」って思うということでもあります。
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