2024.10.01
自社の社内情報を未来の“ゴミ”にしないための備え 「情報量が多すぎる」時代がもたらす課題とは?
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盛田哲平氏(以下、盛田):どうもありがとうございます。これからのアイデアステーションにとって、すごくためになるお話をしていただけたかと思っております。高橋さん、大澤さん。お聞きになって、何かご質問はございますか?
高橋晋平氏(以下、高橋):え、いいんですか!? 聞いても。
盛田:せっかく高岡さんが、そうおっしゃってくださっているんで(笑)。
高橋:じゃあ、今日登壇している特権で! 本当30~40個ぐらい聞きたいことがあるんですけど(笑)。
まず個人的に聞きたいのが、僕は自分を、本当に「弱い人間」だと評価していて。例えば「これをやりたい」って思うアイデアでも「多少やりたい」ぐらいだと動けないんですよね。行動することができないと。それは勇気という意味でもそうだし、根性という意味でもそうだし。
今までのキャリアの中では「これは今やらないと、もう人生を損してしまう」ぐらいの切迫感がないと、動くことすらできなかったという弱い人間で。
想像なんですけど、やっぱりそうそう人間、がんばれる人って少ないんじゃないかな? と、ふだんからけっこう思っていて。僕も含めたそういう人たちのために「これはすごくやりたいんだけど、行動できない」とか「人にしゃべるのも、なんかちょっと気が引ける」みたいな時に。それを前に進めるために、まずどういったことから始めたらいいのかな? というのを、お聞きできたらうれしいなと思いました。
高岡浩三氏(以下、高岡):そうですね。ある意味、世の中で起業家として成功している人と、例えば大企業で勤めているサラリーマンのプロの経営者というか役員、社長。そういった人から1,000人ずつ選んで、この「起業家として成功した人」と「一般の会社の大企業でサラリーマン経営者をしていたという人」との能力の違いを、ハーバード大学が研究した論文があるんですよ。
その中で、確か31項目の能力について比較しているんですけど。たった3つの能力しか違いがなかったと。要するにその3つの能力が、起業家として成功するかどうかの決定的な違いだと。結局、それが今、高橋さんがおっしゃったことにちょっと関係してくるかなと思って。それで、例を出したんですけど。
そのうちの1つがやっぱり、非常に不安定で……どう言ったらいいかな。英語で言うと「liability」。アビリティというのは才能やね。能力。
「to thrive in the uncertainty」といって。uncertaintyというのは、不確実な状況。不確実というのは、なかなか透明性がないというか、どんなことが起こるかわからないみたいな。今の時代がそうなんじゃないかなと思うんですけど、そういう状況の中での「thrive」というのは、何回も失敗しながら。失敗するのは当たり前なんで。結局、最後の最後に「小さい成功」までたどり着くというのを、とにかくやり遂げようとする人。この能力。これがまず、一番大事だと。
あとはオーナーシップ。要するに、人の考えは実行できない。だから起業家はあくまで、自分が考えたものを自分で実現しようとする。3番目は、そうは言いながらも1人ではなにもできないので、チームを作って、会社を作って、自分が成し遂げたいものに向かっていく。それに協力してくれる人を集めないといけない。
その3番目は英語で言うと「strong passion to persuade others」。要するに、他人を説得する強い情熱。この3つが、圧倒的に成功している起業家には高いというのが、研究の結果としてわかっていることなんですよね。
だからそれは、天から与えられた性格的な問題ももちろんあると思うんですけど。やっぱり新しいものづくりをやって、ヒット商品を作るにしても、イノベーションにチャレンジするにしても。そういうことに執念を懸けられるように、自分自身で奮い立たせることができなければ、正直言って“切符”はもらえないかもしれない。
それは、単に与えられた先天的な能力だけではなくて、やっぱり自分でやろうとしなければしょうがないんじゃないかなと。それをどうするかは、僕は人によって違うと思います。「僕はどうしてきたか?」というのを仮にここで言っても、性格と人生のバックグラウンドが違う人がそれを真似ようと思っても、真似できないんじゃないかと。それが僕の答えです。
高岡:ちなみに、僕はどうしてそういうことを一生懸命にやろうとするようになったか? というと、もうネスレに入ってから最初の15年ぐらいで「スイスの本社から来ることは、なにやっても日本ではうまくいかないな」と思っていました。それは、僕が入る前からそうでしたから。
そもそも、まだキットカットがなかった時代だし。ネスレが買収してから来た話なので。僕が入って15年ぐらいは、ネスカフェしかなかった。
でもそのネスカフェは、僕が生まれた時に……日本では同い年なんですよ。1960年に、まだコーヒーみたいなものを誰も飲んでいない時に、最初に持ってきたからあれだけ売れたんであって。そういった意味では、すごく古い話で。
まぁ、そういう意味においては、そんな昔以来、ネスレの中でもイノベーションは起こってないし。ましてや「外国でうまくいきました。ちょっと売れています」というものを日本に持ってきてもうまくいかないんだったら、これはもう日本でやり方を考えるしかないなと。そういうことをすごく考えるようになって。スイスの本社に相談もしなくて、自分でいろいろやりだした。
でも、もう1つ大きな理由があって。42歳で親父が死んで、おじいちゃんも同じように若くして亡くなってたんで。小学校6年に上がる前に、僕の誕生日の3月30日に親父が死んだんですよ。
そういう偶然があって、母親からお葬式の晩に「あなたは3代目の長男で、みんな早死にしてるから、あなたも気をつけなさい」とか言われて(笑)。「ひょっとしたら42歳で死ぬかもしれない」と思って。それでずーっと育ってきて。じつはそれでネスレに入ったんですよ。42歳で死ぬんだったら、外資系に入ったほうが早く出世して大きな仕事ができるかもしれない。
そういう、僕にしかない条件があったから、当時まったく人気のなかった外資系に入って。それで、まったく違うことを最後までやり遂げようと思った、ということです。ですから、ある意味、僕はそういうちょっと変わった境遇があったので。だから後押しされたのかもわからないけれども。それゆえに、一人ひとりが違うので、僕がやったことがそのままみなさんの答えには、絶対にならないと。
これは日本の学校教育の問題だと思うんですけど、みんな正解を聞きたがるんです。参考書じゃないからね、僕は(笑)。だから大事なことは「本質的にどういうふうにしたらいいか?」ということを、やっぱり自分で考えることがすごく大事だと思う。それが自分自身を変えることにつながるんじゃないかな、と思います。
高橋:ありがとうございます。すみません、たくさん聞いてしまって。本当は、あと39個ぐらいあるんですけど、大澤さんにお譲りしたいと思います。
(一同笑)
大澤孝氏(以下、大澤):ありがとうございます。ずっと回ってこないかと思いましたが(笑)。高岡さん、ありがとうございます。すごくためになるお話をいただきまして、楽しいです。本当、コトラーさんなんか、我々から見たら伝説上の人物なので。それが本当、身近に感じられて、僕はすごくびっくりしました。
僕から1つだけ質問させてください。私はアイデアステーションの代表をやらせていただいてまして、日々、たくさんの参加者の方から企画をいただいています。
先ほどのお話の中で、やはり「目利き」の話が一番聞きたいなと思いまして。高岡さんがおっしゃられたように、企画がたくさん来た中で評価の1つとしては、みなさんが企画に対して「いいね!」とかを押すような仕組みがあって。
当然、そちらの高いものは優先的に開発を進めているんですが、評価で「いいね!」が付いてなくて埋もれているんだけれどもすばらしい企画、というのがあると思うんですよ。
それをピックアップするのが、我々の仕事だし目利き力だと思うんですが。目利き力の鍛え方というか、目利きのポイントみたいなところをお教えいただけると、すごくうれしいなと思っています。
高岡:一つひとつの企画が出てくるじゃないですか。すると、それを利用する人の顧客というのは当然、見えるじゃないですか。
大澤:はい。
高岡:そうしたら「その商品がその顧客の、どういう問題を解決しているのか?」ということを、逆に考えるわけですよ。
大澤:なるほど。
高岡:その時に、誰でも解決できるような問題なのか。あるいは「いや、この問題はけっこう意外で。みんながそんなに簡単に解決できると思っていなかった問題を、解決しようとしているのか」という評価軸で見ていくと、(ヒット商品をピックアップできる)確率がどんどん上がってくるんじゃないかな。
それも訓練と時間軸がある程度は必要ですけど、常にそういうことを考える。例えばこの10年ちょっとで、日本のチューインガムの市場は半分ぐらいになったんですよね。ロッテさんなんか最大手ですから、社長が「えらいことだ」って、言ってたんですけど。
じゃあ「チューインガムって、どんな問題解決を目指して、みんなが買っているの?」って話になったら、意外と灯台下暗しで。ロッテの人って、誰もそんなこと考えてなかった。
大澤:なるほど。
高岡:俺が言ったのは「暇つぶしじゃないの?」と。「手持ち無沙汰じゃないの?」。チューインガムを食べたいわけじゃないんですよ。だから、「ひょっとしたらそれ、スマホじゃない?」って。
僕らが若い頃って、駅のプラットホームに必ずキヨスクがあって。そこで一番売れてたのが、チューインガムと新聞。スマホが出てきて、この2つが売れなくなって。今、もう駅にキヨスクはないんですよ。
あそこまで商品を持っていくのがめんどくさいし、コストがかかるんだけど、持っていった商品が売れないんだから。だから今は、プラットホームの下の地下とかにコンビニ入ってますよね。
そんなふうに「同じ業界の競合商品だけと競争してる」と思っていたのが、20世紀なんだけど。世界的に産業革命が起こってイノベーションが起こると、同じ問題の解決をまったく別のものがやってしまうと、そこに取られちゃうんですよね。
だからそんなふうに、その商品・サービスによる、どんな問題の解決を求めてお客さんがお金を出しているのか? ということを考えることが大事で。だから僕も、キットカットをチョコレートだと思って販売したことは、ほとんどないんです。
最初、若い時はもちろんそうでしたよ。でもそうすると、キットカットは「きっと勝つ」というようなアイデアも出てくるということですね。結局、受験生を持ってる親御さんや友達、本人のストレスを解消したわけです。僕らが作ったわけじゃないんだけど。
その精神的な問題解決だけで、20年たっても色褪せずにまだ売れ続けているというのは、どういうことなんだろうか? と思うわけだよね。実はそれでフィリップ・コトラーさんが、自分の本に書いたわけですけど。それほどまでに、問題解決が大事だという。
大澤:了解しました。ありがとうございます。表面なところだけを見ていたので、そちらのほうに気をつけて評価したいと思います。参考になりました。
高岡:とんでもないです。
大澤:ありがとうございます。
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