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組織の慢性疾患から脱却する「2on2」の可能性(全6記事)

解決策がなく、緩やかだが確実に悪化する「組織の慢性疾患」 不快な状況を緩和するのは「1on1」でなく、新たな手法「2on2」

近年、変化の激しい環境の中で「実行力の高い組織」を作っていくために、業種・業界に関わらず多くの企業が社内制度として取り入れている「1on1」。しかし「相当の準備や対話の技術がないと、雑談レベルの会話になってしまう」など、運用面での課題が生じています。そんな中、4月に新刊『組織が変わる――行き詰まりから一歩抜け出す対話の方法2 on 2』を上梓された、埼玉大学経済経営系大学院 准教授・宇田川元一氏は、1on1の課題に対し、4人1組の「2on2」という新たな手法によって、具体の行動変容が生まれる対話の場づくりができないか? と考えました。そこで本記事では、同氏が登壇されたウェビナー「組織の慢性疾患から脱却する『2on2』の可能性」の模様を公開します。

1つ前のパートはこちら

「組織の慢性疾患」へのセルフケアとしての「2on2」

斉藤知明氏:では宇田川先生。「組織の慢性疾患から脱却する『2on2』の可能性」について、よろしくお願いいたします。

宇田川元一氏(以下、宇田川):はい。では、私からお話をしたいと思います。みなさま、改めましておはようございます。こんなにいっぱいご参加いただけると思っていなくて、少し驚いているところです。

2冊目の本の中で「組織の慢性疾患」というものを書いたんですけど。それに対してのセルフケアとして「2on2」という対話の方法について紹介したので、今日はそのあたりについて共有して、みなさん、斉藤さんともディスカッションできたらと思っています。よろしくお願いします。

私、先ほども自己紹介したとおり、経営戦略論や企業変革などを主に研究しておりまして、今は埼玉大学の学部と社会人の大学院で教えています。

それ以外にも、実際の大手企業のイノベーション推進だとか企業変革だとか、スタートアップのアドバイザーとして関わっていたりもしています。こちらの本(『他者と働く』)、おかげさまでHRアワードまでいただいてしまって、なんかちょっとうれしいんで(スライドを指して)ロゴも載せてみました(笑)。大変多くの方に読んでいただきまして、本当にありがとうございました。

他者と働く──「わかりあえなさ」から始める組織論 (NewsPicksパブリッシング)

この本で書いたことをすごく受け止めていただいてありがたかったんですが、そこから見えてきた課題というのが、いくつかありました。

それで、2冊目の『組織が変わる』という本を、ついこの間に上梓しました。もう読んでいただいた方もいらっしゃれば、まだという方もいらっしゃるかもしれませんけれども。ご紹介がてら、お話しできたらと思います。

組織が変わる――行き詰まりから一歩抜け出す対話の方法2 on 2

現状に不満がないので「危機感で変革するモデル」は機能しない

宇田川:まず今、自分が「世の中にどんな問題があると見ているのか?」について、少し共有していきます。よく、今は「VUCAの時代」と言われますよね。変化の激しい時代。そのこと自体、僕は否定するつもりもないし、実際に変化は大きく起きているんだけれども。そっちばかりに目を奪われると、もしかしたら大事なことが見落とされているんじゃないか? と思う時があるんです。

それはどういうことかということですね。今の時代って、どういう時代か。ちょっと前に、劇作家の平田オリザさんと対談をした時にも、ちょうどそんなテーマにもなったんです。今の世の中の変化って「緩やかだけど、確実な変化というものに、ずっとさらされている」ということはないでしょうか? ということです。

例えば人口減少とか。社会的に見ると、少子高齢化ということが起きています。これはもう何十年も前から、緩やかだけど確実に起きている変化ですね。あるいは今回のコロナの問題とかでもそうですけど、デジタル化の遅れ。これもずっと「やらなきゃ」ということがわかっていた。「確実にそれをやらないとまずいよね」ということだったんだけど、ずっとやらないで(ここまで)きたという、確実な変化がずっと起きている。

これに「どう対応したらいいかよくわからない」という状態に、今はなっているんじゃないのかなと思います。これを企業で見てみると、例えば売上高が1兆円ぐらいの大手企業は、毎年100億円ずつくらい売り上げが落ちているとか。落ち続けてダウントレンドで、確実にそうなっていくというのはわかっているんだけれど、それをどうするか? という手立てがあまり見えない状態なんじゃないかと思います。

だけど、じゃあそこから抜け出す時に「危機感が足りないからだ」とか、よく言うんですが、本当にそういう問題かな? という感じがするんですよね。それに、そもそも低迷していたら忙しくて、大事だけれど手立てがわからないものは後回しにされてしまうでしょう。

「今はそんなに悪くない。だけど、このままいくと悪くなるってわかってる」という、将来になかなか希望が持てないところがあるんじゃないかなと思います。つまり、現状にあまり不満がないので「危機感で変革するようなモデルは機能しないよね」と。この状態ってなんなんだろう? と、ずっと考えてきたわけですね。

急性疾患と慢性疾患の違い

宇田川:その中で「あ、こういうメタファーで考えるとわかりやすいかな」と思ったのが「慢性疾患」という考え方なんです。「慢性疾患」について、しばらく実際の慢性疾患看護の本で勉強していました。そうすると「急性疾患と慢性疾患って、けっこう違う」ということがよく分かったんです。

急性疾患って、我々でいうと例えば「急に心臓が止まってしまった」とか。そういうのって、すぐ治さないといけない急性疾患ですよね。それを治すのはお医者さんの役割なんです。

一方で慢性疾患というのは、基本的に根治することが難しい・治らないという病気の性質のものらしいんですね。その時に「じゃあ誰がその問題に取り組むのか?」というと、根治が難しいので、病気と上手く付き合うセルフケアが必要なんです。

実際、その患者さんとか患者さんの家族とか、それ以外の看護師さんとか、お医者さんももちろんだし、いろんなケアのスタッフみんなでその問題に対してアプローチをする、できることをやっていく。というので、セルフケアを重ねていくとだんだん寛解して……寛解というのは要するに「落ち着いた状態になっていく」ということ。これが慢性疾患の特徴です。

組織にもそういうのっていっぱいあるよね、っていう話なんですね。さっきの「緩やかで確実な変化」。「急速な変化」は急性疾患なんで、経営層とかがバシッとリーダーシップを発揮してやらないといけないけど。「緩やかで確実な変化」って誰かが解決できる問題じゃなくて、それぞれでセルフケアを重ねていかないといけない。

それをやって「ちょっとずつ寛解を目指していこう」というモデルが必要なんじゃないかなと思うんです。例えば自分の部下が「自分から問題解決をしようとしない」とか「だんだん職場の中で会話がなくなって、どんどん雰囲気が暗くなってるなぁ」とか「『新規事業開発をやろう』って言っても、他の事業部が協力してくれない」とかですね。

そういう「どこから手をつけたらいいか分からない上に、非常に複雑で厄介なんだけれども、どうしたらいいかな?」っていう「これ!」っていう解決策がない状態を「組織の慢性疾患」と呼んでいます。

まずは「相手は相手なりに一理ある」と、受け入れていく対話が必要

宇田川:この状態に対して、少しずつ風景を変えていこうということを、2冊目の本では書きました。風景が変わるって、見えている風景が変わるという感じですね。今までは例えば「メンバーのモチベーションが低い」とか、そういった問題だったところを「そうか、この問題はこういうメカニズムで発生していたのか。自分も問題に対してできることがあるんだ」という、問題の見え方とか風景が変わっていく。では、なにをやったらいいのかな? と、それを考えたのが2冊目です。

1冊目『他者と働く』には「対話しましょう」ということを書きました。適応課題と技術的問題と分けて、これはハイフェッツの概念ですけれども、そこに対して対話を重ねていくことが必要じゃないか? ということを言ったわけです。

適応課題って、例えばどういう問題かというと、みなさんがお使いのスマートフォン。性能が悪くなってきたら買い換えればいいわけだけど、それが例えばみなさんが営業職で、携帯電話は会社支給のものだとして「最近はClubhouseというのがあるらしくて仕事で使いたいけど、Androidじゃ動かなくて。iOSのスマートフォンが必要だから買い換えてください」と言ったら、これはなかなか難しいですよね。

これ、急に対応はしてもらえないと思うし。総務部とかに掛け合っても「それって……」ってなるわけですよね。いくら説得しても、なかなか難しいという問題が起きます。これが適応課題なんですね。つまり自分の既存の解決策で解決できなくて、他の人が絡んでいる複雑な問題のことを適応課題というわけです。

その時に何が必要か? というと「相手がどういう世界で生きていているかを、よく観察していきましょう」ということなんです。そこから見えてきたことを解釈して、具体的に介入策を考えていきましょう、と。

でも、やっぱり「『相手がどういう背景を持って、そのことを言っているのか』自体を見よう」、と言われてもなかなか難しいので。まずは「相手は相手なりに一理あるよね」と受け入れていく対話が必要だよね、という話を『他者と働く』という本では書きました。

「2on2」のやり方と、「問題解決策を言わない」というルール

宇田川:ただ「それはわかった。でもどこから手をつけたらいいかわかんないんですよね」という、そういうご質問がけっこう多かったんです。「どこからどういうふうにしたらいいんですか? なかなか対話が難しいんです」「まずはちゃんと観察をするといいんですけど」「いや、だからそれをどこから?」という感じになっちゃったりして。

これは確かに難しさがあるなと思って。対話の方法というものも開発してみたというのが、2冊目で紹介した「2on2」です。

これはリフレクティング・プロセスという、ナラティヴ・セラピーの方法をベースにしていて。あと「べてるの家」という、精神障害ケアのコミュニティの当事者研究という考え方を元にしています。

ごく簡単に言うと、Aさんは、話したいことがある問題の当事者です。Bさんはそれを聞きます。このA・Bさんのチームを「チームアルファ」と呼びましょう。A・Bさんと同じ部署の人が、Cさん。Dさんは外の人。会社の外の人でもいいし、隣の部署の人でもいいです。こっち(C・Dさん)を「チームベータ」と呼びましょう。

最初はチームアルファが問題について話しているのを、チームベータの人が一方的に聞きます。今度はC・Dさん(チームベータ)が、A・Bさん(チームアルファ)の会話について話をしているのを、今度はA・Bさんのほうは一方的に聞く。これを交代していくというやり方です。

この時に、例えばAさんが「私は中途で入ったんだけれども、なかなかみんなが親切に仕事を教えてくれなくて。でもパフォーマンスは求められて、すごく困ってるんですよね」みたいな話とかって、出てくるんですけど。

そうすると、C・Dさんのターンになって「もっとみんな、チームで話し合ったほうがいいよね」とかって、アドバイスしちゃうことがあるわけです。でもそうすると(Aさんからすると)「いや、それができれば苦労しない」という感じで、一体なんのために話をしてるんだろうか? ということが、ぜんぜん見えなくなってしまいますよね。

なので、2on2の対話においては「問題解決を言わない」というルールがあります。問題解決策を言わないで、あえて「問題をもっと悪くするために、どうしたらいいか?」を考えるという「反転の質問」というのをするように、本の中ではおすすめしています。

「自分もその問題に、手立てを講じる能力がある」とわかる

宇田川:例えば「誰も仕事教えてくれないんですよね。もっと悪くするには、どうしたらいいでしょうかね?」とか「チームの雰囲気を『仕事を教えない』ようにするにはどうしたらいいか?」って考えてみましょうか、みたいな感じで。悪くする方法を考えると、問題解決をする方法を考えている時よりも「なぜその問題が起きてきたのか?」という背景のメカニズムが読み解けるんですね。

そのメカニズムが読み解けてくると「どこに手をつけたらいいか」「自分も実はそこの問題に対して関与していた」「そもそもSOSを発していなかった」とか。「もっと自分が黙りこくって、1人でいやいや仕事をするようにすればいい」とかですね。例えばそういうことが見えてくる。

そうすると「自分がその問題の一部だ」ということがわかるわけです。その問題の一部だってわかるってことは「Aさん自身が悪い」とか「Bさんが悪い」とか、誰が悪いという話でもなくて。

「自分もその問題に対して、なにか手立てを講じる能力がある」というか、資源を持ってるんだということがわかるわけですね。これを発見していって、具体的な手立てを考えるというのが、2on2でやっていることです。こんなことをやっていくと「あ、そういえばああいうことが会社の中であったなぁ」とか「そういえばこんなエピソードがあったなぁ」みたいなことが、いろいろ掘り起こされてくるんですね。

それで点が浮き上がってきたのを、今度は「それがなんなのか?」というのをつないでいって。それで「ああ、こういうことが起きていたんだ。じゃあここから手をつけてみようか」というふうに(スライドを指して)「点と線と図」って書きました。

今までの風景では、自分の視野に入っていなかったいろいろなエピソードが見えてきて。「あ、こういう広がりの中でこの問題って起きてたんだな」というのがだんだんわかってくるということが、対話の中で起きてくると。

そうすると、1歩ずつですけれども、そういう「組織の慢性疾患」的な、不快な状態というのがちょっとずつセルフケアできるようになっていく。それが積み重ねられれば、組織は変わっていくということなんじゃないかな? と思っています。

私のパートは、とりあえず以上です。いろいろご質問等もあると思いますので、この後のセッションでお話しできたらと思います。ありがとうございました。

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