2024.10.01
自社の社内情報を未来の“ゴミ”にしないための備え 「情報量が多すぎる」時代がもたらす課題とは?
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西山圭太氏(以下、西山):それは別に、あんまり関係ないんだけど、どうもそういうのがある。「俺は遠慮してあっちのことは言ってないんだから、まさか俺のやっている部分は言わないよね?」みたいな。「それが秩序です」みたいになっちゃうところが、会社の中でもそうですし。大学でもそうだし。
だから、今日(日本の強みは引き続き生きるという意味で)尾原さんいいことを言っていたけど。まぁ僕がやりたいのは、別に摩擦を起こすことが目的ではないので。ただ、お互いに領域を守ったままでは、これ、絶対なにも起きないので。そこは乗り越えなきゃいけないというのは、はっきりしていると思います。
だから、それはお互いにリスペクトしたうえでちゃんとやりましょうよ。そこはもう乗り越えないと、もうそれはやりようがないと思いますね。
冨山和彦氏(以下、冨山):会社の中でもそうだし、外の舞台でもそこが課題なんですよ。立場上、日本の財界人を連れて海外の国際会議とかに行くわけですよ。
それでプレゼンテーションしてもらうんだけど、だいたいみんな、どういうプレゼンをするかというと「うちの会社に限って、限って……」って言いながら、謙虚モードで話をするわけ。
「これが一般性を持つかどうかわからないけど、うちはこうやっています。ああやっています」を延々と言うわけね。それで、プレゼンテーションが終わっちゃうのよ。そうするとその後、微妙な沈黙になるのね。
なぜ沈黙になるかというと、そういうところに出てくるアメリカやヨーロッパの経営者って、だいたいPh.D.が半分ぐらいだから、みんな科学的な思考のトレーニングを受けているんで。「きっとこいつは『自分の事例n=1』なんだけど、そこからなんだかんだ普遍的、抽象化したことで役に立つことを言ってくれるに違いない」と思って期待しているわけよ。
でもずっとしゃべっていることは、その逆でさ。「たぶんおたくにとって役に立たないけど、うちはこうやりました」という話をしているから「こいつ、いったいなにをしにここまで来たんだ?」と。「なんのために俺の30分をこいつのために使ったんだ?」というふうに「……」ってなっちゃうんです。
だから「大それない」ということが正しい立ち振る舞いというふうに、たぶんすごくすり込まれちゃっているんだよね。だから日本的経営もね、実は日本人であれを普遍化して世界に売り込んだやつは誰もいないのよ。経済学の領域では青木昌彦さんがそういう仕事をしているけど、経済人ではいないんじゃないかな。
BCGの創業メンバーの一人、ジェームズ・アベグレンっていうおっさんが、勝手に研究して……(笑)。
尾原和啓氏(以下、尾原):そうですね。
冨山:終身雇用って、ライフタイム・エンプロイメントの翻訳だからね。それを日本人が勝手に翻訳して使ってるわけ。今度はエズラ・ヴォーゲルが勝手に「こいつらすげぇんだ」って言ってくれて。こうやって勝手にアメリカ人に毎回毎回、普遍化してもらって、売り込んでもらって「カイゼン」とか世界共通語になったわけでしょ。それってマズいよね。
そういう時代はもう終わっているから。やっぱり日本企業だろうがなんだろうが、日本人だろうが何人だろうが関係なく。やっぱりこういう時代というのは、大それた「俺が世界を変えてやる。俺が一番真理をつかんだんだ」っていうスタンスで経営に関わっていく。それが、ある意味、次の『DXの思考法』的なものの考え方とシンクロする感じは、改めてさっきの堀田さんの話を聞いていて思った。
尾原:そうですよね。でも、大事なことって、結局、その全能感に包まれたそういう全体のアーキテクチャーを再設計できる人って、一部なんだけど。この『DXの思考法』がわかっていると、結局「そういうふうに進むんだな」って、他の人たちもわかるから。
その自分たちの今までの経路依存性の中の“醤油の戦い方”で、粛々とあっちの人にやってもらって。自分たちが味噌味に変わったら味噌味を、アーキテクチャーを全能感で作ってきてくれた人たちに、このDXの手法に基づいて続いていくんだなって安心感を持って、両方が追っかけられますよね。
冨山:だから尾原さん堀田さんたちも指摘しているとおりなんだけど、やっぱり「既存の三角形が別の三角形に置き換わって、自分たちの居場所がなくなる」的な恐怖感を持っちゃうのを、安心させることは大事。
尾原:そうですよね。
冨山:「別の三角になる」っていうふうに思っちゃうんだけど、起きていることはぜんぜん違うんで。
尾原:そうですね。だからこの山の動き方が示されているし。しかも山が動いたら、もう一度、今までの僕たちの戦い方が強みを持つフェーズに入ってくるし。そこがたぶん、そのAIが仕組みでやってくれる、ポジティブフィードバックループの戦い方と、日本人の職人芸が生きる戦い方があって。
冨山:逆に職人芸になじめなかった日本人も、たくさんいるわけじゃない。彼らにとっては、新しいレイヤーにいっぱい居場所が増えるから。
尾原:確かに。
冨山:だからすごくナイスなことが起きているのよ、実はね。だから三角形もきっと残るし、イチゴゾーンも残るし、クリームはあるし、上の薄いパイ生地もあれば下の厚いパイ生地もあるわけだから。だからそれは、いろんなスタイルの愉快な人生を送る選択肢が増えているわけだから、そういうメッセージ。『ダブルハーベスト』はそのトーンが強いから、だから僕いいなと思っている。
尾原:確かに。そうですね。だからミルフィーユ構造になればどんどんいきてくるし。『ダブルハーベスト』で書いたんですけど、ましてやAIが「エキスパートインザループ」みたいな「ヒューマンインザループ」みたいなかたちで、その人の良さを引き出すって別のループも。
冨山:そう、そう。すごくそれは、ある種、誰でもローコストで使えるわけじゃない。これからの時代って。信じられないぐらい安いコストでそういうAIループを使えるということはさ、素晴らしいことなんです。実は今、うちのバス会社もダイナミックルーティング始めたんですよ。
尾原:おぉ~。ついに!
冨山:最新のAIを使っている。あんまり大きな声で言えない……。すごい、安いんだわ。
要するに世界中の頭のいいやつがあれを考えていてさ、それで「使ってくれ、使ってくれ!」って向こうから来るわけね(笑)。
尾原:実際、日本でリアルがこれだけあるから、日本でしかデータがないところがあるから。世界中が売り込んでくれるから、そこもうまく使い分けながらコラボをやればいいわけですからね。
冨山:田舎のバス会社がさ、そんな最先端のあれ……ルーティングって一番難しいタイプのAIのシミュレーションなんでね。
尾原:そうですね。
冨山:それをさ、昔だったら田舎のバス会社がいきなり実装するってあり得ないでしょ。あれもダブルハーベストなんだよね。それは僕も実感として持っているんで。だから『ダブルハーベスト』ってもっといろんな人に読んでもらいたいよね。中小企業から、農林水産業から、学生さん、中高年サラリーマンも、とにかくいろんな会社の人、いろんな立場の人に読んでもらって。
尾原:確かに。
冨山:そのハーベストオポチュニティが、今いろんな人に広がっているということをわかってもらえると、僕はすばらしいなと思います。
尾原:ありがとうございます。そうですね。だからDXが産業をミルフィーユレイヤーに変えるのであれば、そのハーベストオポチュニティを持ってる人がそれを実装する人とコラボすればいいって話でもあるということで。なるほどね。というか、もう17分も伸ばしてしまった。本当にありがとうございます。
というわけで、ぜひその『DXの思考法』で、今までの戦い方から、醤油味から味噌味の混合の時代を、ぜひミルフィーユでいろんなところで活躍できるというのを楽しんでいただくヒントになればです。今日は長時間ありがとうございました。
冨山:こちらこそ。
尾原:はい。どうもでございます。失礼いたします。
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