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西山さんと冨山和彦さんの『DXの思考法』x堀田さん・尾原『ダブルハーベスト』セッション(全7記事)

日本人が自分たちに課した「そうしちゃいけない禁止令」 家ではできる“普通の思考”が、会社ではできなくなる理由

4月に新刊『DXの思考法』を上梓された西山圭太氏(著)・冨山和彦氏(解説)と、時を同じくして『ダブルハーベスト』を出された堀田創氏・尾原和啓氏の対談の模様を公開します。

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最も注目していたのが「アーキテクチャ」というキーワード

尾原和啓氏(以下、尾原):日本の経営の依存性にリスペクトしながら抽象化するっていうところが、すごくこの本がおもしろいところだと思うんですよね。なので、ちょっと全体構造論みたいな話を今は話してきてるんで、中身的な話、DXの話、あとはAIの掛け算の話みたいなところを深掘っていきたいんですけど。

堀田さんから見てどうでした? この『DXの思考法』って。奇しくも『ダブルハーベスト』と、たぶんいろんなところで共通するところが見えたと思うし。ぜひ西山さんにお伺いしたいところとか。

DXの思考法 日本経済復活への最強戦略

ダブルハーベスト 勝ち続ける仕組みをつくるAI時代の戦略デザイン

堀田創氏(以下、堀田):非常におもしろく読ませていただいて。私は技術者でして、ずっと前から、例えば広告エンジンとかの開発のベンチャーを2005年に立ち上げて。それが学生時代の最初だったんですけども。

その時から一番注目してたのは「アーキテクチャ」っていうキーワードでして。それがドンピシャでセントラルアイデアに載っているっていうことが「DXにおいて本質ですよ」って書かれてる本が、実は今までけっこう少なかったんですね。なので、それがやっぱり一番大きなインパクトだなと感じていて。もうまさにそのとおりだ、というところ(笑)。

「アーキテクチャ」っていう言葉が、ちょっとソフトウェアっぽくとらえられすぎてるんですけど、実際にはそれがいろんなレイヤーで、すべてがアーキテクチャ。そこのコンシステンスというか、一貫性がとれているっていうところをグランドデザインするというのが、DXのほぼすべてというか、最初のステップといっても過言ではないと思っていて。

私自身が『ダブルハーベスト』に込めたのも、まさにアーキテクチャの1パターンであるというところで、けっこうわかりやすく書いた部分なんですけど。それをさらに包摂した概念としての「アーキテクチャを武器にする」っていうキーワードですよね、第7章の。

っていうところがこれだけ見事に構造化されているというのは、すごくインパクトの大きい本であると同時に、技術者としては「ここなんだよ!」っていう話。技術を越えてトランスフォーメーションそのもののアーキテクチャまで作っていくっていう、技術を拡張した考え方っていうのが、私たち技術者としてのすごく大事マインドセットだなと思って、勉強させていただいてます。

腑に落ちてるメンバーだけじゃない中で、DXを推進する難しさ

堀田:その中で先ほど以来、出てますけど「経路依存性」というところはどうしてもすごくハードルが高いというか。よく言うんですけど、共通認識がメンバーの中でできていかない限り、なかなか進めるのが難しい中で。どうしてもリテラシーギャップが出てくると。

例えばアーキテクチャがあったとしても、そのアーキテクチャに関して、例えばパーパスレベルからしっかり一貫して腑に落ちてるメンバーだけじゃないというところ。その中でDXを推し進めるってなると、現実的にはやっぱりまだまだ難しい問題だなと感じていて。

私たちはだから、よくあるのは「小さいところから始めましょう」みたいなことを言ったりして、提案をさせていただいてるんですけど。でもたぶんそれだと「ちょっと間に合わない」っていうのがあるのかなと。つまりPoC1年で、プロダクションで1部門1年とかってしても、速攻で2年が経ってしまう(笑)。そしてようやく成功事例ができたとしても、まだネガティブなメンバーがたくさん残るみたいな。

もちろん『DXの思考法』を全員が読んでいて、全員が完全に腑に落ちてればまったく別なんですけど、そこに絡ませるのが難しいなと思って。このへんってどういうふうに問題をとらえられているのか、お伺いしたかったです。

「デジタルの地図」は、日本の中だけで描いたってしょうがない

尾原:どうですか、西山さん。

西山圭太氏(以下、西山):まずアーキテクチャの話を取り上げているのは、2つぐらい理由があります。一つには、まさにこの『DXの思考法』という本が目指しているとおりに「世界はこう見るべきだ」みたいな、世界を見る武器として取り上げているところがあります。

同時に、アーキテクチャの話はまだ役所にいた頃に「これからのガバナンスはガラッと変わる」みたいなことを、世界に発信したいと思って始めたんですね。

これは何を言わんとしてるかというと、たぶん冨山さんも思うだろうし、僕らの世代の人たちから見るとそう見えるんじゃないかと思うんだけど……たぶん30年ぐらい前に日本がすごく経済的地位も高かった時でも多くはなかったかもしれないが、今の霞が関の中の若い人たちを含めて各省を見ていても、世界に政策を「俺たちはこう思うぜ!」ってやってる人って、すごく少ないんですよね。

これはつまり、尾原さんに言っていただいた「地図を描く」っていうことも関係するんだけど。デジタルの地図って、当たり前ですけど日本のなかだけで描いたってしょうがないわけですよ、もう。グローバルに1つの地図なので。

そうすると、別に世界に必要以上に威張ったり、マウントするためにやるわけじゃないんだけど。デジタルの世界の将来像について、自分たちが考えていることを、部分部分の政策ではなくて、かなり全体感を持って「俺たちはこう思う」って(発信する)いう経験を、やや背伸びしてでもやる癖をつけないといけないと思い、その全体像を描くツールとしてアーキテクチャを取り上げました。あんまり遠慮してると、世界の中ではいないのと一緒ですからね。(笑)。

これはもちろん全員がやる必要はないんだが、まさにソフトもハードもルールも、ガバナンスも含めたものを全部いったん考えて発信するということを、ある種、日本の実力を超えてでも、背伸びをしてでもやるべきだと私は思っていて。

「世の中の基本的なロジックは、けっこう変わっちゃってるぜ」

西山:そういうことを言いたかったって面が、まぁちょっとあるということを、まず申し上げたうえで。そのうえで、アーキテクチャを理解することのビジネスの現場での意味ということについていうと、これはひょっとしたら『ダブルハーベスト』と関係しているのかもしれませんけれども。

もともと堀田さんはプロだから、プロに申し上げる必要はないんだけど。アーキテクチャーってご存じのとおり、アフターデジタルの現場の人は「自分のレイヤーとプラスマイナス1」がわかっていれば、別にそれ以上のことはふだんは困らないというふうにできていて、今言ったアーキテクチャーの全体を、全員が普段から意識したり、考える必要はないということで成り立っている。だからマイクロサービスみたいなのが成り立っているわけです。

同時に、本書で「ミルフィーユだ、レイヤーだ」と言ってみているのは、全体を意識する必要はない個々の現場であっても、自分たちは世界のレイヤー構造の中にいて、自分が今属している会社の事業部ではなく、プラスマイナス1のレイヤーのことは意識する、ということは逆にわからないとマズいわけです。つまり「世の中の基本的なロジックは、けっこう変わっちゃってるぜ」ということを直感的にわかってもらわないと。

それがまた元の「今の事業部です」とか言っちゃって現場がそれで固まっちゃうと、さすがにビジネスが動かなくなっちゃうんで、そういうことはできるようにしたほうがいいと。みんなの発想として。

自宅だと「普通に発想・思考」してる人も、職場だと急に変わる

西山:その時に、なんて言うのかな……。もちろんこれ、若い人のほうがはるかにできると思うんですけども。僕も冨山さんと一緒に、東京電力の経営を4年ぐらいやってた時によく言っていたんですけど。これ経産省でもそうかもしれないけど、大きな組織の人って、本当は自分の家に帰ると普通に発想して、普通に思考しているんだけれども。

なんか職場に来ちゃうと、なんとなく急にガラッと変わるって。

尾原:ふーん。

西山:というところが、明らかにあると。レイヤー構造の例ではないんだけれども、その当時、東電でよく言っていたのがこんな例です。つまり、電力の自由化が始まって、競争するわけですね。競争って要するに、新しい電気のメニューを作ってどんどん売るっていうことなんです。

それまでの地域独占だとメニューは変わらないでずっと同じのでやっているわけですけど、自由化になるとどんどん作るわけです。その時に、まず作った人たち・現場の人たちに聞いていたのは「なんかメニューを作ったんでしょ? でも東ガスも出すわけじゃん。どうして東電の方がいいか説明してごらんよ」と言うことです。すると「すみません。取締役、10分ください」とか言うわけです。いや、ちょっと待ってくれないか、と。

「(その人は男性だったので)あなた、たぶん家に帰ったら奥さんがいるでしょ。奥さんに聞かれない?『パパが東京電力の人だから、もちろん東京電力で契約するけど、東ガスとかENEOSもメニューを出してるでしょ。どうなの? 本当に東京電力がいいの?』と言われた時に、君は奥さんに『いや、10分ください』って言う? 絶対言わないよね?」と(笑)。奥さんには「いや、東京電力でいいんだ。なぜならば……」って一言で言うはずだし。

尾原:なるほどね。

西山:同じように奥さんが「パパ、最近うちの町内に新しいイタリアンができたけど、あの店どう思う?」といった時に「10分ください」って言わないでしょ、と(笑)。絶対に端的にポイントをついて、ある種、抽象化して言うわけです。

醤油ベースの料理を味噌で作る行為は「抽象思考そのもの」

尾原:なるほど。だから本の中でも「直感を生かすこと」と「レイヤーの行き来」みたいなことの大事さを書かれていたんですけど。要はさっきの冨山さんの話じゃないですけど、日本の経路依存性って、家庭の中じゃなくて「職場の中で失敗しちゃいけない」ということの……。

西山:そうだと思います。

尾原:失敗しなければ安くていいものが作れるって「製造業の中で勝ってきた」という、自分の思考のフレームワークが会社の中だとどうしてもあるから。そこを抜け出して、1歩抽象度を上げるようなアーキテクチャー思考をするのって、もしかしたらできるかもしれないし、実は直感の中で「こっちに行ったほうがいいじゃん」みたいな……。

西山:やってるんです。だって家に帰ると途端に「今までこの料理は醤油ベースしかなかったけど、味噌ベースにしたって良いよね」とか思って、みんな(料理のレシピを)クックパッドにあげてるじゃないですか。あれって抽象思考そのものなんで(笑)。

だけど会社に行っちゃうと「醤油味を細かく極めはしますが、味噌なんて不埒なことは絶対考えないんです!」ということになっちゃう。どうしてそうなるの? みたいな感じになるじゃないですか(笑)。

だから本当に、励ます意味も含めて気付きの部分がけっこう大きいと思いますね。なんか「そうしちゃいけない」という“禁止令”みたいなのを自分に課してるんですよね。

さっきの堀田さん・尾原さんの質問に戻れば「本当にアーキテクチャーを書いて、全体にパーパスから始まって全部書き切ってなんとか」ということを全員ができるか? といえば、それはないけれども。

「醤油ベースのところを味噌ベースにしちゃったっていいじゃん」という理解は家庭ではみんな分かるんだけど、会社では「醤油は醤油で、醤油です!」ということをみんなでやっているわけです。これは突破しないと、さすがにもう現場は動かないんじゃないかと思いますね。

尾原:でも、1回そこの「家では抽象思考できてんじゃん。直感で腹落ちすれば『そっちだね』ってみんな動くじゃん」ということをわかっていれば、会社で誰か1人が抽象化して地図を描いて、やって、そこに腹落ち感があればそっちにいけるよねって、実はなれるんじゃない? という。

西山:そうなんですよ。だからぜひ、これは尾原さんと堀田さんでそれを端的に表現できるいい言葉を考えていただいて。私が下手に説明すると「お前は抽象論だ」って言われるか「(『DXの思考法』に出てきた)カレー粉の話とか、お前ふざけてる」って言われるかになりやすいので。いや、私別にふざけているわけじゃない。だから、なんかいい言葉を作っていただくと(笑)。

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