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メンバーの不調シグナルを掴むには? リモート時代のネガティブコンディションキャッチ&ケアとは?(全6記事)

仕事を抱えすぎて、“すき家のワンオペ状態”になる社員 リモートワークで見えなくなった「業務負荷」に気づくには

「激動の2020年を経て、2021年の『雇用』や『組織の在り方』はどう変わるのか?」をコンセプトにした、人事担当・経営者向けのイベント「HR Knowledge Camp 2021」が開催されました。各セッションのテーマに纏わるキーパーソンを迎えて行われ、本記事では「メンバーの不調シグナルを掴むには?リモート時代のネガティブコンディションキャッチ&ケアとは?」をテーマに、メンタル不調の傾向や対策法などについて語られました。

社員は「家族」ではなく「大切な他人」のほうがいい

江成充氏(以下、江成):大室先生宛に、実はパネリストからコメントをいただいて。「言わない人は謙虚にも思えるけど、『言わなくてもわかってほしい』という、実はより高度なコミュニケーションを求めているとも言えそうだよね」ということですね。

大室正志氏(以下、大室):実は無意識にそこを求めてしまっている。だから一見すると謙虚なんだけど、「言わなくてもわかってほしい」って、それは……家族ぐらいですよね(笑)。そのレベル感の作業をわかってくれるのは、恋人ぐらい近くないと。それはけっこう、仕事をしている上では意外と難しいんですよね。

だからまずは、諦めからスタートするというか。日本の多くの会社は村社会からそのまま延長で来て、終身雇用で一生いる。実際、松下幸之助さんの「社員は家族である」という言葉のようにずっと一緒に過ごすので、そういった細かなコミュニケーションが見られたんですよ。

でも、家族だからこそけっこう失礼なことが横行することもあるんですよね。例えば、女性に対しても兄弟なら「お姉ちゃん太った」とか言っちゃうじゃないですか。それは家族だから言えちゃうんですよ。でも、それと同じようなけっこう失礼な言葉が(会社で)飛び交うのも、家族だと思っているからなんですよ。

だけど、どちらかというとこれからは、たぶん家族というか「大切な他人」ぐらいのイメージの方がいいんでしょうね。

江成:大切な他人かぁ。確かにお互い、それこそ経営者とかマネジメントボードとしても、例えば戦略を発表したり、「こういうことをやっていこうね」ということも、「1回言ったらわかってくれているはずだ」とか。ある種パッションで押し切る瞬間があったマネージメントとかだと、「これおかしいな。伝わんない」みたいにもなりますよね。

大室:でも、自我の境界線がけっこう……。今までは同質性が高くて、よく男性同士だとホモソーシャルという言葉がありますけれども。やっぱり同じような家庭環境で同じような男子校で育って、同じような部活をして同じような会社に入ったら、「俺が嫌だと思う時はこっちも嫌だと思うよな」という、自信に裏打ちされた感覚があるわけですよね。

それでうまいことやってきたんですけど、たぶんそうじゃない人がたくさん入ると、なかなかこれからのダイバーシティを推進する以上、「言わなくてもわかる」という感覚は捨てていかなきゃいけないということですよね。これは(多様性を受け入れることと)トレードオフなので。

多様性の時代だからこそ、カルチャーフィットした採用を

江成:確かにそういう意味では、去年か一昨年くらいから「カルチャーフィットした採用をしましょうね」という文脈。ある種これって矛盾に聞こえることもあって、同質性に近い文脈と、ダイバーシティの文脈の両方が出てきて。カルチャーフィットだと価値観が近かったりとか、いわゆるハイコンテクストなコミュニケーションでやりとりするという……。

大室:アメリカの成り立ちがまさにそれで。アメリカってダイバーシティをめちゃくちゃ推進していますけど、自由と民主主義以外の国は、他者に関してもあぁだこうだ言うじゃないですか。だからアメリカって、自由と民主主義を愛するというカルチャーを信じていない人は、徹底排除しているんですよ。

要するに自由と民主主義のイデオロギーを信じる限りにおいては、年齢や性別や信教とか他のことは問わないよ、という意味であって。だからこそ、そこはすごく重要視している。

会社も、「うちの会社のカルチャーを共有している限りにおいては、他の要因はどっちでもいい」と。だから逆に言うと、ダイバーシティを推進するということは、「どういうカルチャーを信じているか」という1つ拠って立つものが、今まで以上にすごく大事になってくる。そこは矛盾しないんですよ。

江成:そうか、なるほど。確かにおもしろい。実は、いわゆるカルチャーが強い会社もそうでない会社も、我々もHRとしてご相談いただくケースがすごく多かったりするんです。

いずれにしても組織の状態を「苦しいところからフラットに持っていく」ところと、「フラットなんだけどより良いものに持っていく」という、たぶん2ステップがあると思うんです。

満員電車の不快感は、何回乗っても慣れることはない

江成:それこそ去年コンディションが崩れてしまったり、今崩れているところが、まずはよりフラットにしていくためには、どんな価値観や取り組みが必要になりそうですか?

大室:じゃあ、さっきの1個手前のやつ。これね、僕がよく管理職研修で(使う)資料の一部で、部下の特徴チェックポイントなんです。まず、メンタル不調の時はやっぱり遅刻とか突発性の休みが増えるんですよ。

特に首都圏ですね。電車に乗って通勤する場合って、電車の乗り換えとか満員電車ってめちゃくちゃ体力的にきついんですよ。ちょっと元気がないとできないんですよね。ある研究だと、いろいろな不愉快なことや不快なこと、例えば配偶者が亡くなるようなことって、1回こうなる(下がる)んだけど、戻ってくるんです。

でも満員電車の不愉快度は、どれだけ乗っても慣れないというデータがあると言われるぐらい、すごくきついんですよ。だから逆に言うと、そこで1回(メンタルを)やっちゃっていて、満員電車に乗れなくなるので、良くも悪くも今までは可視化できたんですよ。

でも今って、リモートワークだとけっこう体調的にしんどくても、とりあえずログインボタンを押すじゃないですか。ベッドからでも(笑)。

社員の不調に気づきやすいのは、医師よりも上司

大室:あと、メンタル不調ってイコール脳のCPUの低下ですから、精神科医の前で30分しゃべることよりも、実は1ヶ月見ている上司のほうがわかるところがあって。なぜなら脳のCPUが落ちているので、仕事の生産性が落ちているんですよ。

例えば最初だと、電話をキャッチしなくてかけ直しになる。そのうちかけ直しもできなくなって、つながらなくなることもよくあるんですけど。あとは脳のCPUの低下ですから、今までだったら1時間で終わった資料が2時間かかってどんどん仕事が遅れていくとか。

あとは抜け漏れが増えるとか、コミュニケーションをたくさん取るような調整業務がきつくなるんですよね。(図表を指しながら)これは上に行けば行くほど、労基署(労働基準監督署)があとで来た時に、「この人は3ヶ月前からちょいちょい休んでいたのに、なんで会社として何も言ってなかったんですか?」とか。「この人、過重労働していましたよね。なんで言ってなかったんですか?」って証拠に残るんですよ。

下になればなるほど、気付いてほしいけど証拠に残らない。なんでクリニックのドクターが医療ミスで訴えられにくいかといったら、医療ミスは証拠に残ると訴えられるんですよ。「ここに出血しているのにCTで見逃している」とか。

大病院はさまざまな機器があるので、あとで証拠が残っているから(気づくことが)できるんです。言い方が失礼ですけど、クリニックの先生もたぶん見逃していることもあると思うんですよ。だけど機械がないから、証拠がないんです。

カルテ上に「異常なし」と書いてあったら、それ以上突っ込めない。だから労基署的には、証拠に残るものは非常に見るところなんですよ。今までは「注意してね」と言ったんだけど、証拠に残るようなことや、電車に乗って通勤して来たところが、今後は見えにくくなる。

ステルス化するので、その中でどう不調を見極めるかは産業医の業界でも大事だよね、なんて話になっている最中ですね。

不調の第一歩は「できたはずのことができなくなる」

森数美保氏(以下、森数):リモートだと、私たちは見えないことがけっこうあるじゃないですか。2年ぐらい責任者をやっていて気付いたんですけど、メンタルが不調になる人は全員が同じことを言っていて。

それはなにかというと、大室先生がおっしゃってくださったようにミスが発端なんですけど、ミスの難易度がどんどん下がるんですよ。「できたはずのことができなくなる」と。10人中10人が同じことを言っていました。

だから、そこをすごくチェックしています。ミスは別にその人のせいじゃないので、そんなに気にしないけど、ミスの難易度を気にしています。初歩的なミスがどんどん増えたら負荷を軽くするとかの対応を必ずしています。

大室:そうなんですよ、それはそのとおりで。よく、「部下の不調に気付くためには産業カウンセラーの資格を取ったほうがいいですか」とかいろいろ聞く人がいるんですけど、どっちかというと診断というよりも仕事で(不調が)出るんですよね。

メンタル不調って100パーセント脳のCPUの低下だから、仕事をしっかり見て、その微細な変化、特にミスの難易度とかを(見ること)ですよね。

あとはさっき言ったコミュニケーション。いろんな人を巻き込むような業務とかが苦手になる。仕事上ではこういったことが苦手になるとわかっていて、ちゃんと見ているとけっこう発見できる。医学的な発見よりも仕事の上の変化をしっかり見てほしいというのが、実は上司の役割としては非常に大事なんですよね。

“すき家のワンオペ状態”に気がつくために

江成:確かに今までは顔色とかでコンディションを察知していたものが、アウトプットを見る。同じ観察なんですけど、「見るもの」がより変わってきたような印象ですかね。もともと大事なんですけど。

大室:そうですね。変わってきたというか、顔色などが見えなくなった分だけ、仕事の微細な変化により気付いてほしい。そういう部分の割合が増えている。あとね、これ難しいのが、例えば昔すき家(の従業員)が「夜のワンオペ」と言って、牛丼がぶわーって並んでいるところを「そんなのできません」と言ってTwitterにあげてバズったことがあるんですよね。

江成:ありましたね。

大室:要するに「こんなのワンオペできねえよ!」みたいな。あれは確かに大変だと思う一方で、すき家は見えるからまだマシなんですよ。「俺の仕事忙しいんだよ」「大変なんだよ」「こんなの無理だよ」って。でも今はパソコンの中が“すき家状態”になっている人って、あんまり見えないんですよ。

だから、この辺りを可視化できるようなツール(が必要)というか。どのぐらいの業務負荷なのかとか、あとは人によって情報処理が苦手なのか、人とのやり取りが苦手なのか。ホワイトカラーの方は、どこにつまずいているかが、さらに変数が多くて。

すき家とかの場合は、単に片づける時間が物理的に足りないとかだけじゃないですか。だからパソコン内が“すき家のワンオペ状態”になっている人でも、(見た目に分からないから)言わないとわからない人がいる一方、「この人はどの業務が苦手なのか?」という部分での変数が多い。この辺り、特に仕事の部分を丁寧に因数分解していくことが今まで以上に大事ですね。

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