2024.10.21
お互い疑心暗鬼になりがちな、経営企画と事業部の壁 組織に「分断」が生まれる要因と打開策
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江成充氏(以下、江成):大室先生、去年1年間で、例えば一昨年にはなかったようなご相談や労務リスクってどんなものが増えましたか。
大室正志氏(以下、大室):いわゆる先進的な企業以外にもリモートが広まったことで、けっこう増えたことが多いと思いますね。そもそも日本という国は、例えば中世や室町時代ぐらいに治水技術が発達したんですよ。それによって農村でみんなが一生同じ水を使わなきゃいけなくなったの。
だから自分のほうだけに水を取り込むスタンドプレーをすると、「我田引水」って言われるわけですよね。そういう定住化社会が生まれたわけですよ。江戸時代になると今度は、いわゆる移動禁止でしょ。一生同じメンバーと同じところで顔を合わせていくということだから、あまり強い言葉遣いをするのが好まれない。
例えば京都は治世者が毎回変わるので、常にどんなボスが来ても「敵対してないよ」と、どっちとも取れるような婉曲表現が広まった。だから京都というのは、非常にハイコンテクストなんですよ。このような慣習は現代でも続いていて、日本人はあまりはっきりYES・NOと言わない。
大室:例えば「体調悪そうだから大丈夫?」と聞かれたら「いや、だ、だ、大丈夫です」という言い方によって、大丈夫じゃないことをわかってほしいというようなコミュニケーションになる。でもこれはチャットだと「大丈夫です」で終わりですよ。
江成:文字面だけで判断すると、「大丈夫なんだ」と受け止めますよね。
大室:そういうコンテクストが高い。「大丈夫です」と言いながら大丈夫じゃないことをわかってほしいみたいな、婉曲表現というんですかね。ダチョウ倶楽部が「押すな、押すな」と言ったらどういう意味かわかるわけですよ。
江成:(笑)。
大室:そういうハイコンテクストな文化が、けっこうリモートだと難しいんですよ。
森数美保氏(以下、森数):そうですよね。
大室:男性・女性って分けるのもあれですけども、確率論で男性上司のほうがよく言うのが、「『大丈夫?』って俺が聞いたら『大丈夫』って答えたよね?」という言い方をする人。けっこうエンジニアさんとかに多いんですよ。はっきりYES・NOを言ってほしい。
だけど、例えば小売りをしている人ってけっこう感情の微細な変化に敏感で、「ぜんぜん大丈夫そうじゃなかったじゃないですか」とか、後で上司に他の方が伝えていたりする姿をよく見かけたりします。でもそういう感受性のない上司側からすれば「じゃあ大丈夫じゃないって言えばいいじゃん」ということってよく起きる。
さっき顔色の話が出ましたけども、そういう微細な変化が非常に読みにくくなっているのは確かです。もう中世の村社会からそういったコミュニケーション手法で来たわけですから、なかなかすぐに変えることが……。
江成:もう歴史がそうなんですね。
森数:「世間話」と言いますもんね。世間のものさしと社会のものさしは違うけれど、みんな世間話に慣れている、みたいな。
江成:そうですよね。さっき石黒さんも言った、「顔色を伺う」ということが効かなくなりそう。
大室:ただ、このハイコンテクストなコミュニケーションとか、日本人がずっと使ってきた婉曲表現がOSみたいなものなので。
例えばマッキンゼーみたいに、「YES・NO」ではっきりストレートトーク(立場や役職に関係なく、クライアントバリューを高める目的に資する限りは臆することなく発言して良いというもの)をすることを会社の企業文化としているところもあります。
「はっきりものを言え」ということが憲法のようになっていて、失礼とかじゃなくて、「これがルールです」というやり方を決めている会社だったらいいんですけど、必ずしもそういうところばかりではないので。
あとはリモートで新しく7月から赴任して、リモートのまま違う部署に移動して、その上司の人となりがわからないままにチャットで「これどうなっていますか?」って聞いたら、「え、怒ってる?」みたいになる。文脈がないので。その上司が言っているのは「これどうなっていますか?」という単なる質問かもしれないんですよ。
江成:感情が乗ってない可能性もありますよね。
大室:ただ日本人って、質問(すること)によって怒ることがあるじゃないですか。
江成:あります、あります。
大室:蓮舫さんが「2位じゃだめなんですか」って言った瞬間、それはもはや純粋な質問とは聞えない(笑)。あれ、質問じゃないですよね。だから、そういうコンテクストがなかなか難しい。ハイコンテクストでやってきた文化は、文字にするとちょっと意味が変わる。これは難しいですよね。だから、単なる質問でも意図を読んでしまうものなどをどうするか。
江成:確かに……。
森数:うちは入社オリエンで必ず言っています。「察してもらおうという気持ちと、察することは、今日以降諦めてください」。あとは面接とか入社オリエンの時に「文字に溺れますよ」って。この2つを伝えています。
大室:フルリモートでやる限りにおいては、最初にそういうオリエンをするのも1つの案ですよね。
森数:そうですよね。
江成:森数さん、この「察することと察してもらうことを捨ててね」というのは、いつぐらいからどんな文脈でお伝えし始めたんですか?
森数:これは前任の石倉もよく言っていることだったんですけど。リモート力って特別なスキルではないにしても、やっぱり大室先生がおっしゃってくださったように、(お互いにはっきり伝えるという)前提に立ってやらないとうまくワークしないことは、まさにこの2年半ぐらい試行錯誤してわかったので。
最初にこの2つを言っても、インストールし直せばみんなある程度ワークすることもわかりました。それをこの1年半ぐらいは言い続けていますね。
江成:これって、言い続けてからそこに適応するまで、一定の時間もかかるんじゃないかなと勝手に推察するんですけれども。そういうコミュニケーションができる文化にしていくには、どんなやり取りや取り組みをしていったんですか?
森数:やっぱり、察してほしい・察したい気持ちはなぜ出るのかと言うと、「今こんなことを言ったらどう思われるんだろう?」「こんなことを言ったら、自分はできないやつだと思われるんじゃないか」という気持ちなんですよね。
心理的安全性って(言葉は)使い古されていますけど、それを担保するためにアウトプットをすればいいことがあるという。ドッグフーディングじゃないですけど(笑)。
アウトプットをすればするだけインプットが返ってくるのを、まず体験してもらうことを繰り返していって。「アウトプットしてもいいんだ」「言ったら言っただけ返ってくるな」と思うと、みんながアウトプットしはじめる。その繰り返しを体験してもらうことと、言い続けること。
江成:確かにアウトプットしても返ってこなければ、また萎んでいっちゃうので。このコミュニケーションはそこが大事そうですよね。
江成:石黒さんは、まさに「お散歩」で顔色を伺うというか、逆に“(メンバーの様子を)見て”コンディションを測るようなことがあったと思うんですけど。それができなくなった時に、組織としてはどんな代替手段を取られたんですか?
石黒卓弥氏(以下、石黒):今のLayerXは社員数が35名ぐらいなので、定点観測というわけじゃないんですけど、どちらかというと日報やSlackとかでも、発言がなくなるのが見えやすいんですよね。
それがメルカリだと、1,800とか2,000名というサイズなので。「あいつ最近しゃべってない」というのも、もうわかるわけないじゃないですか。だけど、サイバーエージェントさんがやってらっしゃる月報とか、定点観測のツールが今回は生きてくるのかなと思ったりはしますよね。
あと、LayerXの場合はDiscordとか。今は実は緊急事態宣言でまたリモートワークとオフィスのと併用しているんですけども、一日中Zoomをつなげっぱなしとかやっていますね。
江成:石黒さん、これは意地悪な質問なんですけど。信頼関係があるとZoomのつなぎっぱなしがワークするかなと思うんですが、一方で監視されていると思っちゃったりすると、逆に心理的安全性が働かないこともあるのかなと思うんですけど。その辺はいかがです?
石黒:僕が必ず言っているのが、職位が強いほうが必ず先に顔を出そうという話ですよね。基本上下はないんですけども、どうしてもレポートライン的にそう(上下関係に)なる場合は、要はいわゆる自己開示ですよね。弱みを見せられる組織が強くなるという本もすごく流行りましたけど。
まず誰かが自己開示をやらないと始まらないですよね。よくあるのが、「うちの組織、顔出しもやらないんですよ」とか。それを100分の100がやらないなら、会社を諦めるか何か別の方法で増やしていって。気付くまでって20対80なんですけど、みんなが気付くまでがんばって、それが49から51になった瞬間に、必ずマジョリティになるんですよね。自然になっていったりするんですよ。
LayerXは新しい会社だし、例えばメルカリなんかはすごくデジタルネイティブな会社ですけども。伝統的な会社が無理かと言ったら、小さく始めていくとか。合弁会社などの小さな出島で始めて、そこから広げていくみたいな……。
江成:確かにそうですね。
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