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大企業が活用できていない「データ」のリアル(全4記事)

社長の多くが実感できない「顧客の理解=データの理解」の構図 一休.com代表が語る、競争力を高めるデータ活用の手立て

2020年、オンラインにて開催されたIVS(インフィニティ・ベンチャーズ・サミット)において「大企業が活用できていない『データ』のリアル」について、株式会社ブレインパッド 代表取締役社長 草野隆史氏、株式会社一休 代表取締役社長 榊淳氏、株式会社スマレジ 代表取締役 山本博士氏がスピーカーを、株式会社プレイド 代表取締役CEO 倉橋健太氏がモデレーターを務めて語り合いました。本パートでは「『顧客の理解』と『データの理解』は、ほぼ同じこと」などについて話します。

「顧客の理解」と「データの理解」は、ほぼ同じこと

倉橋健太氏(以下、倉橋):先ほど少しお名前の出た、榊さん。一休さんでの取り組みのうち、データにまつわるところも、最近は比較的ナレッジとして流通していると個人的には思っているんですけども。実際、直接的にいろんな企業の経営層や責任者の方からの相談って、けっこう持ち込まれたりしないのでしょうか?

榊淳氏(以下、榊):それはあります。「よくそこまでやってますね」みたいなことを言われます。これに関しては確かに、普通の経営者の人とは違うことをやっているから「僕は変わってるのかな?」と、自分でもずっと思っていたんですけど。今、まじめに考えてみると、たぶん僕のほうが普通ですよ。

倉橋:なるほど。

:というのは、例えばtoC向けのビジネスをやっていらっしゃる会社さんに「お客さんの行動を理解することが一番大事ですよね」と言ったら、どの会社の社長さんも「大事です」と言うと思うんですよね。特に、うちのtoC向けビジネスのすべてのお客さんの行動がデータになっているわけなので。

「お客さんのことを理解するのが一番大事」ということは「データを理解することが一番大事」というのと、もうほとんどイコールです。「お客さんのことを理解するのが一番大事ですよね」に対しては「そうです」と言うのに「『お客さんのこと=データを理解すること』が一番大事ですよね」に対しては「そうです」と言わない社長さんが多い気がします。

倉橋:なるほど。

:僕からすると、それ(お客さんのこととデータを理解すること)は一緒で。問題となる「それを誰がやるか?」に関しては、いろいろなやり方があると思うんですよね。自分の右腕になる人を置いて理解することもあれば、自分でやることもあって。そこに関して我が社は、僕や僕の周りのデータサイエンスのチームもこれをやっているので、変わっているんですけども。理解するという観点においては、一緒だと思うので。

じゃあtoC向けのデータが全部集まるような会社の社長さんが、どれぐらいつぶさにお客さんの動きを見てますか? というと、あまり見ていらっしゃらないことが多くて。なので「変わっていますね」と言われるけど、逆に「やったほうがいいですよ」とも言いますし。

うちの会社では毎週毎週、日曜日にその前の週のいろんな予約の状況やお客さんのアクセスの状況を分析して、100枚ぐらいのレポートにまとめて社員に共有しているんですけども。

倉橋:すごいですね。

:そのパワーポイントや分析のデータを「見せてください」と言われることが、よくあって。それをお見せすると「すごいですね」とおっしゃるので「いやいや、もうこれはすぐあなたの会社でもできますよ」というお話はするんですけど。あまりそこは、やっていらっしゃらないことが多いような気がします。

なので、将来のことはわからないですけど。toC向けのビジネスをやっているような会社の社長さんは、おそらく、ものすごくデータを理解している社長さんになるんじゃないかなと思っています。

データを活用するしか、競争力を高める方法がない

倉橋:なるほどですね。その企業さん・その社長さんの現在地が、ご相談に来られる方・企業でまちまちなんじゃないかなと思って。

:そうですね。

倉橋:おそらくビジネスモデルも、toCもあれば、BtoBとか違うビジネスモデルの方たちも来られると思うんですけど。どういうポイントを見ながらアドバイスされてるんですか?

:アドバイスができているかどうかはわからないですけど、ただ1つ、すごく思うことは、僕たちはデータを活用したいからやっているわけじゃないんですよ。よく「我が社もデータを活用したい」というお話を聞きするんですけど。我々はデータを活用したいと思ってるわけじゃなくて「経営のサービスを良くしたい」とか「競合に対して優位な戦い方をしたい」とか。

企業を成長させる観点で、データを分析しているんですよね。それはなぜかというと「顧客を理解すること」イコール「データを理解すること」だからなんです。加えて、商品にあまり違いがないんですよ。売っている商品は、うちでも楽天トラベルでも、じゃらんでも、JTBでもほとんど一緒なので、その2つの条件が揃ったら、データを活用するしか競争力を高める方法がない、と思うんですよね。

でも、他の会社さんの商品がそもそも差別化ができていたら、社長として真っ先に考えるべきことは「どうやってその商品の優位性を維持するのか?」ということかと思います。データ活用をどれぐらい真剣にやるべきかというのは、よく話し合うテーマですね。

倉橋:その市場性と、あとは自社の商品サービスの能力といったもので、そもそもデータってどういう役割を帯びるのがいいんだろうか? というところを主軸にお話される感じなんですね。なるほど。

:だから「御社はデータ活用を一生懸命やらないほうがいい」ということのほうが多いかもしれないですね。どちらかというと、市場が成熟して、商品の違いがない戦い方の中で、どうやってちょっとした優位性でサービスを良くするか? という戦い方なので。基本的に、(データ活用が役立つのは)市場の後半だと思うんですよね。だけど「ちょうど立ち上がりの時期だとあまり関係ないです」ということは、よくお話しています。

小売店と飲食店にある「レベルの違い」

倉橋:今の流れで、山本さんにもぜひ聞いてみたいんですけど。スマレジさんの事業としての、販売データのプラットフォーム。その度合いは置いておいて、ビジネスでデータ活用できる環境を提供されてると思ういます。

まさに今の話と同様に、その企業によって「データをどこまで使うべきなんだろうか?」って、けっこうブレる部分もあると思うんですが。その辺り、実際にサービス提供をされていての体感っていかがですか?

山本博士氏(以下、山本):そうですね、今の文脈で草野(隆史)さんがおっしゃられた、「ビジネス側で活用するのか」という話と、「業務効率の改善のために使うのか」という話は、確かに大きく違うのかなと思います。僕らのお客さまは、小売店さんと飲食店さんがほとんどなんですけれども。

両者の間に相当なレベルの違いがあります。飲食店さんはやっぱり料理をするので、数値化するのが非常に難しいところがあります。メニューと食材が、一対一でつながってないんですね。そうすると食品のロスもありますし、賞味期限も短いですから、商品を単品の1個1個で管理しにくいことが、すごくボトルネックになっているんじゃないかなというのはあります。

一方で小売店さんは、商品を1個1個、数で管理・把握しやすいので、早くから工業化されるというか。その流通が工業化されるのが速かったのかなと思って。そうすると店舗のほうは、ずいぶん前からオムニチャネルと言われてますけれども、インターネットでも販売しますし。

だんだんそれが発展してきて、店舗展開はすごく少ないけれども、ネットではめちゃくちゃ売れているとか。どんどんマーケティング寄りになっていって、セレクトショップさんで目利きの方がセレクトしてきて、それをいかにPRするかとか。YouTubeチャンネルを使って著名な方をアサインして、マーケティング側にどんどん振っていくと。

そうすると商品をチョイスする・目利きすることと、それがいかに素晴らしいかというPRに特化していくように、変わってきていると。物の仕入れは他の会社さんでもできるんだけれども、「プレゼンテーションの安心感を買っている」ような手法で発展している店舗さんをちょくちょく見かけるようになってきています。

すごく小さな店舗さんですけれども、それってビジネスが変化してるよなという。単純に店舗で物を仕入れて売っているだけじゃなくて、だんだんマーケティング会社になっていってるんじゃないか、DXに近づいてきているんじゃないかな、という気はしていますと。

個人商店が陥りがちな“どんぶり勘定”問題

山本:その一方で、別に飲食店さんを悪く言うつもりも何もないんですけども、食材を仕入れたりというのを日々……例えば個人商店さんが「レジの売上金を使ってスーパーで物を仕入れてアルバイトさんの人件費を払って」とやっているうちに、お金の勘定が自分でもよくわからなくなってくる。この“どんぶり勘定”にはまりやすいという問題も抱えています。

そうすると僕らも最近お店をやっていて、お恥ずかしい話ですけれども、めちゃくちゃどんぶり勘定になってしまっているんですよね(笑)。

倉橋:なるほど(笑)。

山本:「スマレジちゃんと使えよ」みたいな話になるんですけど(笑)。でもそういう時でも、今度は「業務改善での活用」という意味で、データを登録したり分析する安価なツールがたくさんあるので。

しかもパソコンじゃなくて、スマホ1台でそういうことができたりする時代になっていますので。ぜひともどんぶり勘定を止めていくところから、まず入り口として入って。上手くいけば、ビジネスを変革していくところまで目標を持って、やっていってもらえたらいいなという。そのステージごとに、何か課題を用意していくのがいいかなとか、最近思ったりします。

ソフトを使用する側・提供する側、双方の歩み寄り

倉橋:今のお話の中で、ピンポイントな部分になっちゃうんですが。フィジカルな空間が広がれば広がるほど、いわゆる「ナチュラルにデータ化されていない部分」が広がってくると思うんですよね。スマレジさんのお客さまでも、実際にオフラインでのデータ化というか、入力みたいなお話もそうかもしれませんが。

ある種、データをtrackable(追跡可能な)にしていくような部分。かつ、そこに人力が重なるところって、しっかりと正しいデータにしていくのは、けっこう骨が折れる部分なんじゃないかなと思うのですが(笑)。どういうふうに推進されてるんですか?

山本:そうですね。レジを打つぐらいだったらまだ簡単ですけど。「何を何個仕入れました」とか「鶏肉を500グラム仕入れました」とかを登録しろ、と言うほうがおかしいですから(笑)。その辺の管理の方法は、うまく工夫しながらやっていただけたらとは思うんですけど。

ツールに関しては、例えば個人商店さんって「自分で店に立って仕入れもやる」という感じで、非常にお忙しいので。当然、入力などをもっと省きたいという思いはあるでしょうから。

そこはたぶん、ソフトウェアを提供する側がちゃんと汲み取って、すごく簡単に、データが半自動で登録されるような仕組みを作っていかないといけない。その反面、「最低限、押さえないといけないところのデータは入れてもらわないと始まらない」というのは理解してもらわないと。両方が歩み寄っていく必要があるのかなと思いますね。

倉橋:なるほど。若干、角度が違うかもしれないんないですけど、僕らもBtoB、SaaS、マーケティングのクラウドのプロダクトとして、サービスを提供しているわけなんですけども。最近だと、活動がフィジカルなものからオンラインでの商談にどんどん置き換わってきています。とにかくいろんなところでいろんな人、例えばお客さんとかパートナーとコミュニケーションをしているわけなんですけども。

やっぱり人が前面に立った瞬間に、データ化されていないものが一気に増えるというか。例えば商談にまつわる情報の入力。これもみんな大事だと思ってるんだけども、どうしても忙しさとか(笑)。どういうフォーマットで入れるか? という、そういう定型化のしにくさとか。

僕らもデータのビジネスを提供しているんだけど、そういうところから「データの精度」みたいなものを保つのってすごく難しい、と思っている部分もあってですね。みなさん苦悩しているんじゃないかなと思いながら、聞いてみたんですね(笑)。

山本:1個前の話に戻りますけど、スマレジには大阪にも東京にもショールームがあるんですけども。「お客さんの情報を取ろう」と、去年からアンケートを取り始めたんです。

でも倉橋さんがおっしゃるとおりで、大阪で取っているアンケートの項目と、東京で取っているアンケートの項目が違ってて。「何やってんねん」みたいな(笑)。その辺はやっぱり、みんな勉強して、覚えていくしかないかなというのはあるんですけど。

倉橋:まさに、事前の打ち合わせの時にも少しお話に出ていて、すごく印象的だなと思ったのは、途中のお話にもあった、便利なツール云々ではなくて、そこのマインドにどう立つか。どういうふうにそのスタンス自体を企業として置き換えるか? というところがかなりクリティカルだ、というお話をされていたのがすごく印象的だなって、今、思い出しました。ありがとうございます。

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