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Withコロナ時代をチャンスに変える戦略(全4記事)

コロナ時代に生まれた“2つのチャンス” 「残るもの」と「廃れるもの」を見極める鍵は、不可逆性 

2020年、オンラインにて開催されたIVS(インフィニティ・ベンチャーズ・サミット)において「Withコロナ時代をチャンスに変える戦略」について、オイシックス・ラ・大地株式会社 髙島宏平氏、ドリコム 代表取締役社長 内藤裕紀氏、株式会社ビービット 東アジア営業責任者 藤井保文氏、READYFOR株式会社 代表取締役CEO 米良はるか氏がスピーカーを、株式会社プロノバ 代表取締役社長 岡島悦子氏がモデレータを務めて語り合いました。本パートでは「コロナで身近なアクションになった、消費行動」などについて話します。

需要は伸びたのに、リソースが減少

岡島悦子氏(以下、岡島):みなさんに素晴らしいアイスブレイクを進めていただいたので、場が温まってくるんじゃないかなと思っておりますが。ここから本題に入っていきます。

「Withコロナ時代をチャンスに変える戦略」というお話なんですが、今日はどんな感じでやっていくかを、みなさんにお話していきたいなと思います。

7月の初めにテスラがトヨタの時価総額を超えたり、リーマンショックの時にもあったように、有事には業界に危機が訪れて、(それまでの常識が)一気に書き換わるようなことが歴史上でけっこう出てきていることもあって。

そして今回IVSに出て来られている方々は「Withコロナは追い風」というケースも多いのではないかと思うんですが。こういう有事をチャンスに変える。あるいは、出口がわからないWithコロナ時代。自然との共生だと思うんですけど、そういった時代に環境の変化をどう捉えていくか? そして、スタートアップとしてどう戦略変更していくのかを伺っていきたいと思っています。

実際にどんな環境変化があったのか。そして、それをどんな成長機会と捉えてどう戦略変更したのか。さらに、最後にスタートアップ全体として、こんなアングルや着眼点で戦略変更するべきじゃないか、ということについて、みなさんで議論していけたらと思っております。よろしくお願いいたします。

髙島宏平氏(以下、髙島):お願いします。

岡島:では先ほどの順番でオイシックスの髙島さんから。内部・外部でさまざまな環境変化があると思うんですけど、コロナによってどんな変化があったのか。あるいはそれを踏まえて、どんなチャンスに変えていったのか。お話いただきたいと思います。

髙島さんはもう20年もやってらっしゃるので、おそらく今回が初めての有事ではなくて。その前の教訓みたいなこともお持ちなんじゃないかなと思うので、そんな観点からもお話しいただけたらありがたいです。

髙島:わかりました。まず、何が起きて何をやったかをお話します。大きく3つくらいのことをやったんですけど、まず1つ目は本業のほうで起きたことです。やはり都知事のロックダウンっぽい会見で、我々の需要がすごく伸びたことですね。

需要が伸びたと同時に、配送センターで1,000人くらいの人が働いているんですけど、150人くらいの人が何らかの影響を受けて出勤ができなくなったりしたんです。需要は伸びたけどリソースは突然かなり減っちゃって、配送センターが結果的にパンクを起こしまして。

社員が配送センターのほうに行って、なんとか業務を続けていたんですが、それでもこれ以上は受注を受けられないということでパンクになり、オイシックスが1ヶ月くらい新規の注文をお受けしないというかたちにしました。

その間「大地を守る会」や「らでぃっしゅぼーや」などが同じグループ内にあるので、オイシックスを買いに来た人には「らでぃっしゅや大地は買えますよ」というご案内をしました。

同時に2週間くらいを使って、新しいオイシックスのサービスを作りまして。SKU(注:単品管理)が10分の1くらいの小さなお店と別の配送センターを立ち上げて。

もともとのセンターが3,000SKUくらいあってこれは自動なんですが、300弱のSKUを手動でやるというオペレーションを作って。それを1ヶ月後から受注を受け付けて、順調に伸びているという。

需要は伸びたけど、マーケティングばかり気にしているとオペレーションのほうがちゃんと準備できてなくて破綻するという、ベンチャーがありがちなことが過去20年もやってて(自分のところにも起こった)。そこに対して急遽やったというのが1つ目ですね。

岡島:でも、需要と供給のバランスからの盛り返しが速かったというか。私もユーザーで毎週お願いしているので、そういう意味では急に枠を広げていただいているなという感じがすごくありました。そこのスピード感はすごいですよね。

髙島:今のお客さまって、企業の困っていることをすごく理解してくれるんですよ。だから、何に困っていて、いつ頃になったらどうなりそうだということを、オープンに言うことで「なんでダメなの?」という気持ちから「がんばって。待っているよ」という気持ちになっていただけることが多かった。

情報をすべてお客さまに開示して共有し、できないことができるようになるタイミングをオープンにすることは、直接的にとても有効だなと思いました。

岡島:平時の時のお客さまとのコミュニケーションアップができている。あるいは、信頼ができていることも、きっと大きいですよね。

「支援消費」への参加を、自然に行うようになった日本人

髙島:それはもちろんあると思います。そしてもう1つやったことにも関連するんですけど、一番先に困ったのが学校給食に牛乳を卸していた酪農家さんたちでした。牛から乳は採れ続けるが、飲んでくれる人がいないと。

岡島:牛乳が捌ききれない。

髙島:はい、牛乳が余っているという相談を受けまして。その後、他にもいろんな地域で物産展ができなくなったとか、観光客いなくなったとかで、大量の食材が余り出しました。

その後はレストランが営業できなくなって、食材とか経営が圧迫されてきて。「レストランで出していたメニューを売りたい」という声がかなり寄せられたので、僕らも回ってなかったんですが、なんとかやれる方法を探して、支援するサービスをワーッと立ち上げたんですけど。

それはたぶん、米良ちゃんの話とかにもあるかなと思うんですけど、今まで東北とか熊本の地震の時とかの土壌があったせいか、支援消費はすごく自然なかたちで伸びているなというのは、今回感じたことですね。

どう困っているかをがんばって説明しなくても「支援消費に参加していることが自然」という方が増えていたのかなと思います。直接的な支援ができて、余っていた牛乳はすべてお客さんに飲んでいただけたし、2011年の時以上に、その辺のソーシャルな行動を自然にやるということが日本人の中に根付いているのかなと思いましたね。 

コロナで身近なアクションになった、消費行動

岡島:なるほど。米良さんのところでもこの論点で伺いたいんですけど。コロナ禍で、個人の社会への関心とか支援消費みたいなこと、行動変容や意識変容の変化についてお話いただいてもいいですか?

米良はるか氏(以下、米良):はい。今の支援消費みたいなところで、本当にそのとおりだと思っていまして。東北の震災って、やはり原発の問題はあったにせよ、地域以外の人たちからするとそこまで自分たちの生活スタイルが大きく変わることって、あまりなかったと思うんですね。

でも今回は「全員出ちゃダメ」と。しかも今なお「生活様式を変えろ」と言われ、実際に変わっていったことによって、産業自体にダメージが出ることが増えていって。

そうするとやはり、自分が今まで大事にしてきたものとか、この社会に残って欲しいもの。それが崇高な社会をよくする人たちだけじゃなくて、自分がよく通っていたあのお店がなくなってしまうかもしれないとか。

例えば、エンタメ。小劇場が潰れちゃうかもしれないとか、そういう中で、自分にとって身近で大事なものが、コロナによってどんどん失われていく。なくなっていくかもしれないという悲しさとか恐怖みたいなところを、どうにか自分の手で守れることって何かないかなとみなさん考えて。

しかも、外に出られないからそこに足を運んでボランティアするとか、サポートするとかもできないので。そこで消費行動をしたり、クラウドファンディングしたりというところが、すごく身近なアクションになったと思っていて。

そういう意味では、今までのソーシャルな行動が、一部の人の崇高な行為みたいに思われていたところから、より「自分が大事にしたいものを自分の力で守りたい」という行動につながっていっているのかなと思っています。

不可逆性が強い“混ざりあった食文化”

岡島:ありがとうございます。今の話を受けて、ユーザーの行動ってこういう時にかなり変わっているという意味では、ピンチがチャンスになっていることもあると思うんですけど。そういう論点での戦略変更みたいなことでいうと、抽象度が高いかもしれないですけれども、高島さんは何かありますでしょうか?

髙島:今の米良さんの話に加えて、支援をすることが消費をするプラスの言い訳になっていることも、今回あったと思うんですよね。比較的変化のない毎日の中で、ちょっと高級だけどレストランが困っているから取り寄せて食べることが、贅沢をするいい理由にもなっていて。それもあって支援消費が伸びたなと感じているんです。

やはり、不可逆性なものと、支援フェーズが終わったらなくなっちゃうものを見極めることがけっこう大事かなと思っていて。僕らでいうと、やはり旅行の代わりには成りえないですね。

「旅行に行けないせいでお土産が売れていないので、それを売ってください」というのは難しい。今、売れてはいますけど、たぶん旅行に行けるようになれば、そんなに売れなくなると思います。一方、レストランの食事を家で食べるというのは、かなり不可逆性のある行動だなと思っていて。

岡島:そうですね。

髙島:お客さんの食卓の写真を見ていると、主婦とシェフのコラボと言っているんですけど。全部がレストランのものでも主婦が作ったものでもなくて「サラダは家で作ったもの。だけど、鍋はレストランから取り寄せたもの」とか。結果的に、食卓の家事分担が起きている感じになっていて。

本当にさまざまなお店から食材をお送りしても、多様なスタイルが家の中に存在していて。たぶんこれ、Uberで食事を頼むのとはまたちょっと違う、混ざりあった食文化みたいなものが起き始めているように感じているので、ここは不可逆性がけっこう強いんじゃないかと思っています。

たぶんWithコロナのチャンスというのは、アフターコロナに残るチャンスと、Withコロナで終わるチャンスを見極めて。残るチャンス側には大きく投資をして、Withの間で終わっちゃうやつは軽い投資でスピード重視でサッとやりきるみたいな感じだと思うんですけど。そこの見極めがけっこう重要なんじゃないかなと思いますね。

岡島:おもしろいですよね。しかも、その見極めの時には、今言っておられたユーザーさんの写真を見るとか、行動がどう変わってきているのかという、ある意味、深層心理みたいなものとも強い関係があるんだと思うんですけど。そういうところに見極めのチャンスがあるかなと思いながら。

髙島:そうですね。

ゲーム業界には、アフターコロナの視点がない

岡島:ありがとうございます。ドリコムの内藤さんの会社は、次々と事業変革や新規事業を進められてきて、ドメインを少しずつ変容されてきていることでいうと、私はとても変化に強い会社さんだなと思って長年拝見しているんですけれども。そういう意味では今回コロナの前後で、どんな変化があってどんな戦略を打たれたのか教えていただいてもいいですか?

内藤裕紀氏(以下、内藤):そうですね。ちょうど昨日決算が終わったところでして、4月、5月、6月はコロナの影響を一番受けている時期の決算だったんですけども。結果としては出していた業績予想の倍ぐらいの営業利益が出て、四半期の営業利益としても過去最高が出ているんですが。事業上何をやったかというと、何もしていないです。

岡島:ほう。

内藤:組織として働き方はけっこうリモートで行っていて「各社員は勝手に自由に、来ても来なくてもいいよ」とやって、3割くらい来るかなと思ったら、(出社するのは)3パーセントくらいという状況が続いていまして(笑)。

岡島:(笑)。

内藤:ぜんぜん会社、人っ気ないですけど。僕も業績がいいから「来なきゃいけない」とも言えないんで、このままずっと3パーセントくらいという状況なんですけど。

岡島:(笑)。

内藤:今はDXみたいなこと言われていますけど、僕らがやっている領域、ゲームってこの10年でDXはほぼ済んじゃっているんです。エンターテイメント領域に限っていうと、DXのポイントって3つで。コンテンツのフォーマットがあらゆるプラットフォームに共通して、配信できるようになっている。GoogleもAppleも同時配信できるみたいな。昔だったらSwitchとプレイステーションは別々だったけど、今は同時に配信できると。

やはりデリバリーがデジタルにできることによって、在庫リスクもないですし、流通コストもかからないかたちで、あとはユーザーのニーズに応じてすぐ配信していける。

『愛の不時着』といったドラマなどでは、今までの流通だとまたDVD買わなきゃみたいなことが起こって、できなかったわけですよね。

そういったデリバリーの部分と、ビジネスモデルとしてのパッケージ化みたいなところが、サブスクでできたりとか、クイックペイでできたりとか。そういった3つなんですけど、ゲームってもう3つ全部終わっちゃっているんですよね。

だから正直、ゲームのアフターコロナみたいな視点ではほぼない状況で、粛々とグローバルマーケットの伸びている状況に合わせて、いいもの作ってコンテンツで戦っていた。

どちらかというと、漫画・アニメ・映画・音楽みたいな、違うエンターテイメントカテゴリが、まだDXというところで、さっきの3つのうちのどれかが終わっていない。なので僕らとしては、既存のものに対してどうアプローチするか。

ここで重要だなと思っているのは、音楽とかわかりやすいんですけど、リアルでの市場がグッと下がっていて。ライブとかも減って、それをデジタルがまだ吸収しきれていないんですよ。下がった分、吸収しきれていないから、トータル下がっているんですね。

岡島:はい、はい。

内藤:これが各カテゴリの中で、物品屋さんみたいな谷が起こっていて。デジタルがどう吸収していくかというところに一番チャンスがある状況になっているので、ここをどう手掛けるかというところを、さっきの3つの視点でやっていくのがポイントなのかなとは思っていますね。

岡島:でもコンテンツという意味では、漫画にしろアニメにしろ、領域はまだいろいろあるぞというかたちですよね。

内藤:そうですね。音楽業界の方もいらっしゃるかもしれないですけど、例えば音楽って「CDが売れない」と言いつつも、CDの原価率ってめちゃめちゃ低いんですよ。

ただ既存の流通を通すと、アーティストに入るお金って5パーセントとかになっちゃうところを、どうやってBtoCでCDを売っていくかみたいな視点で考えていくことによって、グッと構造が変わっていったりするので。いろんな意味でゲーム以外は、全エンターテイメントカテゴリに、まだチャンスがいっぱいあるかなと思っていますね。

エンタメ消費に使われるようになった、可処分時間

岡島:Withコロナでいうと、巣ごもり需要というか可処分時間がかなりコンテンツに寄せられている。先ほどのみなさんの「何にハマっているか?」みたいなところを考えると、とてもチャンスがあるという感じですよね。

内藤:そうですね。その時に、本当だったら5年くらいかけてジワジワとリアルが下がってデジタルが上がっていくみたいなことが、この半年、1年に縮むという感覚があるので、めちゃめちゃチャンスかなという気はしていますね。

岡島:前倒し感がすごいあるし。

内藤:前倒し感がハンパない。ECと一緒で前倒し感がハンパないですね。

岡島:そうですよね。しかもグローバルも、という感じですよね。

内藤:そうですね。僕もコロナ関係なかったら、Nizi Projectは見てなかったと思うんですよね。

岡島:確かにね。

内藤:今更アイドルのプロデュース見るかな……みたいな(笑)。やはり『梨泰院クラス』も何でもそうですけど、グッと後押ししていますね。家での時間が。

岡島:可処分時間の配分が、かなりコンテンツに寄っている人が多いんじゃないか。

内藤:寄っている。

岡島:さっきの髙島さんのでいうと、食にもすごい寄っていて。「私が3食作ってるぞ!」みたいな、びっくりしちゃう感じなので。

内藤:あと、デバイスによる窮屈さを乗り越えていると思っていて。例えば、漫画で紙派だった方とかも、この期間でデジタルでもいいやとなっていて。「スマートフォンサイズで漫画読めてもいいじゃん」になったら、紙の漫画に戻らないですよね。

岡島:うん。

内藤:そういった意味で、今までだったら「映画館で観ないと映画なんて」と思っていた人も「テレビで意外といけるじゃん!」とか、デバイスの窮屈さを乗り越えちゃったら、もう戻れない。もうそれでいいじゃんとなってる感覚がありますかね。

岡島:まさにさっきの髙島さんの言う、不可逆が起きているわけですね。

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