
2025.02.18
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課題提起:これからの転勤政策を考える(全1記事)
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川島高之氏(以下、川島):それではこれから4名の方にご登壇いただいて、お話をいただきたいと思います。まずお1人目、法政大学の武石先生から。先生ならではの、いろんな研究成果なんかを含めた転勤についてのお話をしていただきたいと思います。それでは武石さん、よろしくお願いします。
武石恵美子氏(以下、武石):武石です。今日はどうもありがとうございます。FJ(ファザーリング・ジャパン)のセミナーでお話をする機会をいただきましたこと、大変うれしく思っております。今日のテーマの働き方に関して、特に転勤問題ということですが、私も5年ほど前から異動、転勤、それから人材育成に関して研究しておりますので、その紹介を含めて話をさせてください。
今日は「転勤の話だったらここしかない」といった3社の方においでいただいていますので、みなさんはこのあとの3社の事例に非常に関心がおありだと思います。その導入として私から転勤の課題、それから3社の事例の特徴について整理をしたいと考えております。
武石:まず、転勤については大きな問題となりつつあります。個人から見ると「できれば転勤したくない」とか、「転勤をしなければないのであれば事情を聞いてほしい」とかですね。ほかにも「そもそも転勤のメリットって何?」というような課題が出てきています。
企業もそれを受けて、やはり個人がやりたくない転勤に対して、これを無理強いすると辞めてしまうとか、採用が難しいとか、コストがかかるよねということで、課題が顕在化しています。企業からも「メリットがあるのか?」と。
今日はこの「メリットがあるのか?」に絞ったお話をしていきたいと思います。
転勤のメリット、必要性ということですけれども、3つくらいの理由があります。1つは事業所が全国にある、海外にあるから必要だということですね。企業が異動管理に裁量を持つことは、日本の安定雇用とのセットで重要だと言われてきたわけです。
それから2つ目、今日もテーマになると思いますが、人材育成での効果が期待されていた。(スライドを指して)右側に私たちが実施した調査がありますが、企業側の回答で多いのは「業務遂行能力が高まる」、育成期待があるということです。それからもう3つ目として不正防止ということがあげられます。
今日は1つめと2つがメインのテーマになっていきます。
武石:この転勤に関して課題が提起されるようになってきた中で、特に新型コロナの感染拡大を契機に、場所の柔軟性というのが一気に高まったというのが、この数ヶ月ではなかったかと思います。これまで働き方改革が必要だと言っても「そんなの無理だよね」と言って、できない理由を探していたところが多かったと思います。ところが、必要に迫られて「じゃあ、どうすればできるか」というように、できない理由を探すのではなく「できる方法を考えよう」という視点が鮮明になったのが、この数ヶ月、半年くらいの間ではなかったと思います。
転勤に関しても「これまでのような転勤が必要なのか?」「必要な転勤をどうするのか?」という形での議論が始まってきたかな、という気がしています。
転勤に関しては、先ほどデータもご紹介しましたが、私も参加している中央大学のプロジェクトチームで、2016年に5つの提言をしています。今日は提言1「転勤の効果が本当にあるのかどうか?」。それから対象の範囲をもう少し限定して「明確な処遇の在り方が考えられないか」というあたりが、これからの話になります。
また、厚生労働省も転勤に関しては「ヒントと手法」ということで、2017年に検討会を作って、私も参加していたんですけれども、(スライドを指して)こういうものを公表しています。ここにも「転勤の効果を検証しましょう」とか「不可欠な転勤を見極めて、もう少しその規模を整理できないか」というようなことがあります。
いずれの提言もエビデンス、調査をベースにしてまとめていますので、ご関心がある方はそういったデータなどもご覧いただけます。こうした提言があるのですが、忘れられて風化しそうなので宣伝させていただきました。
ということで、こういったところでも今後の転勤の在り方について効果検証とか、もう少し規模を縮小できないかという提言がなされてきました。
武石:それでは「転勤の効果って何なんだろうか?」ということを考えていきたいと思います。先ほどもデータを示しましたが、企業のみなさんは、人材の育成効果を非常に重視しておられると思います。職務遂行能力、マネジメント能力、専門性といった側面で、転勤の高い効果を期待している。
ただ(スライドを指して)右側のデータですが、一方で従業員はどうかということをみていきます。これは実際に転勤した人です。確かにプラスになったという人もいるのですが「転勤以外の異動と別に違いはない」とか「わからない」とかを含めると、6割強の人が懐疑的というデータです。企業の効果期待とギャップがあるというのが、このデータからわかります。
社会環境によって転勤の効果は変化するのだろうと思います。高度成長期から安定成長期へ、さらにこれからデジタル技術などで働く構造が変わっていく中で、本当に昔のような転勤の効果が期待できるのだろうかということを考える必要があるわけです。あるいは、例えばマネジメント能力が高まるといっても、別に転勤でなくてもほかの方法があるはずです。転勤の育成効果について、今どんな効果があるのか? ということの検証が必要ではないかなと思います。
これに関して、この後の事例で語られることの1つが「転勤を減らせないか」ということだろうと思います。効果が一定あるにしても、これまでと違うのであればもっと限定できるだろう。これは事例3社に共通のことではないかなと思います。それからいっそのこと転勤なしを標準にしてしまって、というのがAIGさんの事例といえます。
まず転勤の効果ということについての課題提起が、1つ目になります。
武石:ただし、必要な転勤というのは残っていくとので「それをどうするか?」ということが2つ目のテーマです。
(スライドを指して)右側にあるのが、従業員の転勤に対する希望です。「希望を聞いてほしい」というのが、上の四角ですね。それから「昇給手当などで、なんらかの特別扱いをしてほしい」というのが、もう1つ大きな要望としてあるということです。
転勤が必要であれば、そこになんらかのインセンティブ、プレミアムを検討することは現実的な対応です。では、インセンティブというのはどういうものか。まず1つは、どんな人にインセンティブを与えるかということで。転勤の可能性がある人なのか、実際に転勤をしている人なのかというところでの設計の仕方があります。それからインセンティブの内容としては、2つ考えられます。1つは昇進の可能性で「転勤できる人はどこまでも昇進できるのだけども、転勤をしないと課長止まり」とかですね。それからもう1つは手当、転勤対象者に経済的な支援をするというのがあります。
私は合理性・納得性があるのは、転勤の可能性ではなくて、転勤をする時になんらかのインセンティブ・プレミアムを付けるということではないかと思います。また、昇進可能性については問題があると思います。これは転勤の人材育成効果とも関連するのですが、転勤をしている人の能力が確かに高まるのであれば「転勤経験というものが将来の役員ポストにつながる」というのはわかります。しかし必ずしもそうではないとすると、転勤をしていないと昇進できないというのは、プレミアムではなくてペナルティでしかないと思います。昇進可能性というかたちでのインセンティブの付け方というのは、納得性がないと考えており、経済的な支援、要はお金で解決というのがわかりやすいのではないかなと思っています。
これをやっておられるのが、AIGさんだと思います。転勤する時に、経済的な支援で納得性を高めると。これは「本拠地を決めている」というのとセットだと思っています。つまり「東京から大阪に行く時に手当が支払われる。東京に本拠地がある人は、東京に戻る時にはその手当がなくなる」わけです。本拠地がないと、なにをもってプレミアムを払うかということが難しくなってしまうので。このあたりの制度設計の仕方というのと、セットで考える必要があるかなと思っています。
以上で私からは終わりにさせていただきます。ありがとうございました。
川島:武石先生ありがとうございます。本拠地を定める、経済的にはなにかインセンティブを与えるけれども、プロモーションという意味では能力差があるというのが立証されたわけでもないと。そんなようなところでしょうかね。
武石:はい。
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