2024.10.01
自社の社内情報を未来の“ゴミ”にしないための備え 「情報量が多すぎる」時代がもたらす課題とは?
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山口真一氏:さて。先ほどソーシャルの中でネットワーク効果を取り上げましたけれども、実はこのソーシャルの中にはネットワーク効果だけじゃなくて、ソーシャルマーケティングとソーシャル要素。こういったものも含まれています。
昨今におけるソーシャルメディアの普及によって、誰もが自由に発信できる「一億総メディア時代」とも言える時代が到来しました。
例えば(スライドを指して)左側にはAmazonレビューがありますけれども。消費者は企業からの情報だけじゃなく他の消費者の生の情報を得て、それから購入を決めることができるようになりました。
あるいはその隣はInstagramのハッシュタグ“#今日のコーデ”というのを見たものなんですけれども。これは一般人・消費者が「今日こんなの着てるよ」とアップして、それを他の消費者が参考にして服を買ったりとか、今日のコーデを決めていたりするというものです。
その隣にはナイトプール。まさにこれはインスタ映えを狙ったもので「発信するための消費」と言えるような消費が出てきています。
こういったような消費者の情報発信というのは、実にさまざまな経済効果をもたらしておりまして。私が以前、Googleさんと共に実施しているプロジェクト内で分析した結果、人々の口コミですね。製品サービスに対する口コミというのは、日本全国で年間1.5兆円もの消費押し上げ効果があるということがわかりました。
さらに先ほど申し上げたインスタ映え、SNS映えを狙ったような、発信するための消費。この発信するための消費のために、人々は年間約7700億円も追加で消費しているということもわかってきたんですね。それぐらいすでに、人々の情報発信というのは大きな経済効果を生んできています。
このように消費活動が変わってくると、それを利用しない手はないということで、さまざまな企業がこのソーシャルマーケティングというものを活用し始めています。
例えばニューヨークの眼鏡屋さん、アイウェアブランドであるWarby Parkerというお店。ここでは通販で眼鏡を売っています。ここで人気のサービス「Home Try-On」というものがあるんですね。
このサービスは「消費者は購入前に好きな商品を5つ選択して、自宅で5日間自由に試着することができる」というものです。もちろん送料は無料です。ただし1つだけ条件があってですね。「この試着品を着けた自撮り写真を、ハッシュタグ付きでSNSに投稿する」というものがあります。
これは非常に人気のサービスになったんですが、消費者・企業双方にとって非常に大きなメリットがありました。
まず、消費者にとってはファッショングッズを通販するのは非常に難しいんですけれども、そういった中で試着を事前にできるというメリットが。なおかつハッシュタグ付きでSNSに投稿することによって、他の人がどう評価してくれるのかということがわかる。(消費者にとって)非常に大きなメリットがいくつもあるんです。
企業側からすると、自社の製品・ブランドを消費者がSNSで率先して宣伝してくれるという、双方にメリットがあって成功いたしました。
またホテルグループのHilton(ヒルトン)さん。Hiltonさんは、ポジティブなTwitter上の投稿に対して返信して、顧客エンゲージメントを高めたりしていると。あるいは不満に対しても、宿泊客がクローゼットの狭さについて、写真と共に不満をツイートしたところ、1時間もしないうちにより大きなクローゼットがある部屋に変更をするというようなことをしている。
ここから見てくるのは、Hiltonみたいな歴史ある企業であったとしても、この時代においてソーシャル性、ソーシャルメディアを非常に重視しているということが見てきます。
なんとHilton、現在は平均37.3分でユーザーに対して返信しているみたいなんですけれども、これをさらに将来的には24時間体制で人力で監視して、30分以内に返答することを目標に掲げています。
さらに、使っている方も多いでしょう。Dropboxもソーシャルマーケティングで成功しています。Dropbox、私も覚えているんですが、実はサービス開始当初はユーザーの獲得にすごい難航しました。そこで無料で利用しているユーザーに対して「新規ユーザーを紹介したらストレージの容量を増やす」というプロモーションを実施しました。これはまさに、人のつながり、仲の良い友人とかそういったソーシャル性を意識したプロモーションであると。
その結果、広告(を実施する)よりもはるかに多くのユーザー数を獲得することに至りました。
このようなソーシャルマーケティングで成功するには、3つの鉄則があります。
第1に「消費者の持つネットワークを活用する」こと。第2に「消費者に自発的な参加を促す」こと。第3に「キャンペーンの目的が明確になっている」こと。この3つを抑える。Warby Parkerの事例もDropboxの事例も、こういったことを押さえているからこそ、大成功を収めたということが言えます。
さて、このようなソーシャルマーケティングのメリット。本書の中では5つぐらいあげているんですけれども、その1つに「若者に訴求できる」というものがあります。ただこういうお話をすると必ず言われるのが「でも若者って消費しないんでしょう?」と。「お金を落とさない」とか「若者は交際をしなくなった」とか「若者は人付き合いが希薄だ」と。こういった話は新聞とかでもよく見ます。
だったら、そこに訴求できるソーシャルマーケティングってどれだけ効果があるんですか? という話になってくる。しかし忘れてはいけないのが、冒頭にも申し上げたとおり、(若者は)実際にはLINEスタンプを買って、好きなYouTuberに寄付をして、ライブに行って、仲の良い友人と旅行に行っているわけですね。
結局その消費、つまり若者というのは、お金を使う“好きなもの”が変わっただけなんです。だからそこに訴求できてうまくハマれば、ものすごく大きな効果をもたらすということが言えます。
そしてもう一つよく言われるのが「若者って今、シェアリング文化でしょ」と。「仮に買っていたとしても、それはシェアされたもので、あるいはフリマアプリみたいな中古なんじゃないですか」というようなことで。「結局、それで訴求する意味がないんじゃないの」ということはよく言われると。
しかしながら、私が今年2万人アンケート調査をベースに計量経済学的に、このフリマアプリの経済効果を分析したところ、フリマアプリでのシェアというのは新品市場を年間484億円増加させている、拡大させているということがわかったんですね。
「中古市場があることで新品市場が活性化するって、どういうこっちゃ?」と、今お聞きになったみなさんは思ったと思います。私もそう思ったんですけれども、なんと消費者に直接、主観評価もしてもらいました。
つまり「フリマアプリ(の登場・利用)で新品購入金額、どうなりましたか?」というような調査をしたんですね。その結果「増えた」と答えている人が「減った」と答えてる人、感じる人よりも多かったんですね。
つまり私の研究結果だけじゃなくて、消費者・フリマアプリを利用している人からしても「いや、新品で買うことが増えたな」という感覚があるんですね。これは非常に意外なわけですけれども。
結局、何が起こっているかと言いますと。お試し感覚とかそういった購入が増えたこととかですね。あるいは自分に合わなくても捨てずに済む。そういったリスク軽減が起こったことによって、むしろ消費が活性化しているという現象が起こっていたわけです。
以上を総合して考えますと、ソーシャルマーケティングで若者に訴求するということは、非常に意義があるということが言えます。
さて、ここからまとめに入っていきたいと思います。これまで「フリーとソーシャルと価格差別の3つを組み合わせることで、相乗効果を生んで高利益を達成できる」という話をしてきました。
今日は残念ながら、この中のデータという話がほとんどできなかったんですけれども、それはぜひ本を読んでいただければと思うんですが。簡単にお話ししますと、このデータ活用というものは、FSPのベースとなる極めて重要な、最も重要と言っても過言ではない。そういった戦略です。
どういうことかと言いますと、まずフリーについては、ターゲティング広告とか無料ユーザーが有料に移行するタイミングの分析とかで、必ずデータ分析が必要になります。
またソーシャルという面で言うと、ネットワーク効果による巨大化。これはビッグデータ分析を可能にすると。さらにデータ分析をすることによって、効果的なソーシャルマーケティングを明らかにすることもできて。ソーシャルとデータ分析もやはり、この双方向の因果関係と言いますか、インタラクティブな関係にあるということが言えます。
価格差別も同様です。品質の適切な差別化とか、適切な価格設定という2つの難点が価格差別にはあるんですが、ユーザーのデータを分析することによって、これを達成することができます。
では、このようなFSP-Dモデルをどうやって活用しましょうか? ということで。この全要素を活用できるサービスの特徴を、(スライドを指して)こちらにまとめました。5つあります。
まず第1に「限界費用がゼロに近い」と、第2に「ユーザー同士の交流要素がある」。あるいは第3に「プラットフォームサービスとなっている」。第4に「他社と差別化可能である」。そして最後に「熱心なユーザーの出現が見込める」。この5つのポイントがあります。
このポイントを押さえているのが何かと言いますと、例えば漫画アプリだとかコンテンツプラットフォーム全般だったりとか、あるいは医療などで規格競争のあるようなサービス。あるいは、すでに復旧している自動車にセンサーを付けてソリューションを提供するプラットフォーム。
こういったものがFSP-Dのすべてを活用して、これから成長していくサービスになれるだろうということが言えます。
しかし忘れてはいけない重要なことは、情報社会でFSP-Dモデルが主流になる中で、自社のサービスをどう位置づけてどの役割を果たせるか考える。これが最も重要です。
どういうことかと言いますと、先ほどの5つのポイントを抑えてすぐに既存ビジネスを変革できたら、誰も苦労しないわけです。でも、例えばFSP-Dモデルの一部を導入することができるかもしれない。まずはフリーからやってみよう。
あるいはさらに、FSP-Dモデルというのも情報社会で基礎になっているんだから、それを活用している巨大プラットフォーマーのコンテンツホルダーになりながら、その中で新たにFSP-Dモデルをやってもいいんじゃないか、というような考え方もあるわけです。これをやっているのがモバイルゲームなわけです。
このように、FSP-Dモデルと自社のサービスの位置づけを知る。このことが、今後長く続く情報社会において、極めて重要な戦略でして。このFSP-Dモデルというのは、今後、情報社会の基礎となるビジネスモデルであるということが言えます。
以上です。ご清聴ありがとうございました。
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