2024.12.19
システムの穴を運用でカバーしようとしてミス多発… バグが大量発生、決算が合わない状態から業務効率化を実現するまで
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山口真一氏:さて、これまでネットワーク効果、フリー、データの組み合わせで成功するというお話をしたんですけれども。忘れてはいけないのが多くの失敗がある中で、ほんの一握りのサービスが収益化に成功しているという事実です。こういった時に、じゃあ収益化に何が必要かと言いますと、価格戦略なんですね。
その価格戦略で今回取り上げたいのが、この価格差別というものです。価格差別というのは、2種類以上の価格で物を販売することであると。例えば想像してみてください。みなさん、映画館に行って映画を見るわけですけれども。同じ映画にも関わらず、学生は安かったりレディースデーだと女性が安かったり。あるいは高齢者だったら安かったりという、さまざまな価格がありますよね。あれは完全に不平等なわけなんですけれども。このように、同じものに対して複数の価格が付けられているということが、日常生活を送っていると往々にしてあるわけですね。
こういった価格差別ということをしますと、その人たちの顧客満足度とか支払意思額に応じて、例えば「お金のない学生に対しては安く」みたいな、柔軟な価格設定ができますので。「一物一価」の時よりも、数十パーセントほど多い収入が得られるということがわかっております。
しかし今回取り上げたいのは、そのような価格差別ではありません。さらにモバイルゲームを考えてみればわかるんですけれども。例えばゲームをやられていない方もいらっしゃると思うんですが、モバイルゲーム産業において、ゲームをやっている人って0円でやっている人もいれば、月に1,000円払う人もいたり。月に1万円払う人もいれば、月に10万円払う人もいると。結局、この支払う金額って何によって決められているかと言うと、その人の「ゲームへのハマリ具合」ですよね。
ものすごく熱中している人は10万円払ってもいい。なんだったら50万円払う人もいる。でも、ぜんぜん熱中していない。あるいはちょっとしたライトユーザーであれば、数百円しか払わない。
このようにその人の熱中度、あるいは支払意思額に応じて、さまざまなお金の払い方ということをしていると。これを可能にしているのが、デジタル財課金。つまりガチャであったりアイテム販売であったり、そういったことで支払う金額を柔軟にしているわけですね。
これって考えてみれば、同じサービスを展開している・提供しているにも関わらず、支払っている金額は人によってぜんぜん違うということで、この価格差別の段階を無限大にしているという解釈ができます。これを本書では「多段階価格サービス」と定義しておりまして。こういったものが、近年かなり増加しています。この多段階価格差別とは、一物一価の時の5~10倍もの収益をもたらすということがわかっています。
ではこのような多段階価格差別というのは、なぜそれほどまでの高利益を生み出すんでしょうか。経済学的な話になるんですが、需要曲線というものを考えてみましょう。
(スライドを指して)今こちらは3つ並べておりますのが、これ需要曲線でして。縦軸が価格、横軸が需要量となっております。このグラフで示しているのは「価格がPの時にXの需要がある」というようなことを描いておりまして、PよりもP2のほうが高いと。P2のほうが高いので、その時の需要量は少ないX2になってしまって。P1の時の需要量は多いので、X1ぐらいの需要量になるということで。これを結ぶと、こういった需要直線になるということがあります。
今、これを価格Pで販売した場合にはXだけ売れますので、このP×Xの一番左のグラフの斜線部、これが利益になるわけですね。これが一般的な物を売るという仕組みです。
ところがこれを、今度は映画館みたいにいくつかの段階に分けて販売しましょう。そうすると「P2で買ってもいいよ」という人は、P2で買ってくれるし。「Pで買ってもいいよ」という人はPで買うし。「P1で買ってもいいよ」という人はP1で買うし、ということで。真ん中の斜線部分、ここが収入になるわけですね。
この左と真ん中の収入部分を比較して、増えている部分が価格差別での増えた収益であると。ただしこれを多段階価格差別にしますと、一番右側に書いていますとおり、この需要曲線の内側すべてが収益になるんですね。つまり、消費者の支払時額あるいは顧客評価額と言ってもいいです。これを無駄なく回収することができる。
このために多段階価格差別というのは、超高収益化につながるというわけです。もちろんこのゲームにおいても、10万円を月に払っているユーザーと数百円しか払っていないユーザーで、受けているサービスは厳密には異なります。しかしながら、コストは変わらないと。同じサービスを提供している。なので、供給側とかコンテンツ単位で見ると、実はこれも価格差別戦略と言えるわけですね。
今はあくまでも理論的な話をしました。これを実際の需要曲線で考えますと、実際の需要曲線というのは“べき乗則”に従うことが多いんですね。このべき乗則というのは簡単に言いますと「ロングテール型のグラフを描くようなもの」と思ってください。あるいは反比例とかですね。
要するに、ものすごく高い人が少数いて、低い人が大量にいるというような状況。今は左側のグラフを見ていただきたいんですが、これはあるモバイルゲームの需要曲線をそのまま描いたものです。実際の支払金額から描いております。これを見ると、10万円を月に払っている人もいれば、0円とかあるいは数百円しか払っていないような人もいて。
数百円とかの人がすごく多い、ロングテール型のグラフになっていることがわかると思います。このようになってくると、直線の時よりも多段階価格差別というのが優秀になりまして。だいたいこのモバイルゲームで実験した結果、多段階価格差別の時の収入を100パーセントとすると、一律5,000円にした時は31パーセント。一律500円にするとこれが13パーセントにしかならないということがわかりました。
これぐらい、この多段階価格差別というのは、非常に大きな収入を得ることにつながるわけです。さらにこのようなべき乗則に従うと「上位1パーセントの法則」というものが働きます。先ほどのグラフの、最も左側の1パーセントの人たち。この人たちの支払っている金額が、ものすごく高いんですね。
実際に先ほどのモバイルゲームでは、なんと上位1パーセントの人が収益の57パーセントを占めていました。驚異的ですよね。なんだったら、この人たちだけでなんとかサービスが成立しちゃうというぐらいである。
しかし、この上位1パーセントの法則で成功するためには、無駄な99パーセントと思わない。つまり先ほどのグラフの、ロングテールの人たちを大切にするということが重要です。無料ユーザーとか、あるいは低支払額のユーザーも満足感を得られるようにして裾野を広げて。裾野を広げれば、この1パーセントというのも自動的に増えてきますので、この裾野を広げる努力をすることがまず重要になると。
さらに、そのようにしてユーザー数が多くなれば、ネットワーク効果で上位1パーセントの支払時額もどんどん増加していくんですね。なので、この99パーセントが無駄だと思わないことが重要です。
このような多段階価格差別。一見するとモバイルゲームみたいなものにしか使えないんじゃないかと思いがちですけれども、実はけっこういろんなビジネスで使われているんですね。
例えばみなさんもご存知の、握手券付きCD。AKB(48)とかが代表的ですけれども。これも実は多段階価格差別でして。CD・音楽って、そもそも本来CDを1枚買えば十分なわけですよね。実際、こんな握手券とかが出る前は、みなさんそうされていたわけです。しかし、この握手券付きCDになった途端、100枚買う人もいれば1,000枚買う人もいる。1枚しか買わない人もいる。こういう状況が生まれました。
そしてCDというのは、コンテンツ製品なので限界費用が安いです。つまり追加費用少なく、熱心なファンには高い価格設定で売る。100枚買えば、1枚1,000円で10万円払う人もいる。そしてライトなファンには、低い価額設定をするということで。よく考えていくと、実はモバイルゲームと非常に似ているということに気づかされます。
このように握手券付きCDみたいなものも、実は多段階科学差別を使っていて。それでランキングを独占しているということがあるわけですね。
他にもLINEさんやメルカリさんも、FSP-Dモデルで成長したものであるということがわかっています。例えばLINEさんであれば、まず無料で使えますと。そしてネットワーク効果ももちろん働いている。そしてライトユーザーはスタンプを買わない、あるいはいくつか購入します。
でも熱心なユーザーは、大量に購入するんですね。同じコミュニケーションツールを使っておきながら、ものすごく支払金額に差があると。これもやはり多段階価格差別である。さらにデータ分析もしています。
メルカリさんも同じなんですね。メルカリさん、利用するとわかるんですけれども、購入するだけだったら無料で利用できると。そしてネットワーク効果も働いています。さらにライトユーザー、メルカリをちょっと好きな人は、いくつか最低限のものを出品して、それで手数料を払うと。それで、すごく熱心なユーザーは大量に出品して出品手数料を払う。もうメルカリにハマっている人は本当にハマっていますので、ものすごい量の出品をするんですね。
そうすると、その出品の金額・取引金額に応じての手数料がメルカリに入る仕組みですので、大量に出品してもらうほど多くの収入が入るんですね。実はこれも、変則的な多段階価格差別になっているということが言えます。
さらに、もちろんデータ分析もしているということで。一見するとまったく異なるビジネスモデルであるこういったサービスでも、多段階価格差別とかFSP-Dモデルという観点で整理すると共通点があるということが言えます。
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