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アトツギベンチャーサミット -オンライン-(全6記事)

商圏を「県境」で分けても意味がない 東京一極集中から脱却する、地方経済の回し方

新規事業開発を志す野心あるアトツギが自発的に自ら機会を創出するためのコミュニティ、一般社団法人ベンチャー型事業承継が主催する「アトツギベンチャーサミット」。今年は先輩アトツギをゲストに迎え、コロナ新時代にアトツギだからこそ実現できる新規事業の可能性、アトツギならではの門外不出のリアルな体験談やホンネ「アトツギリアルあるある」を赤裸々に語り合います。本パートでは、コロナ禍がもたらした急激な変化がビジネス環境にどんな影響を及ぼしたかを語りました。

狭き門から入る雨ざらしの世界にこそ宝がある

入山章栄氏(以下、入山):奥村さん、何かどうぞ。

奥村真也氏(以下、奥村):いただいた質問で、ぜひ村井さんに個人的にも聞きたいなと思ったのが、先ほど空白マーケットというお話がありましたけれども、「空白マーケットを見つけるためにやるべきこと、やっておくべきことってなんだと思いますか?」というご質問で。

村井基輝氏(以下、村井):簡単です。一見すると、汚いとか気持ち悪いとか嫌とかダサい商売です。アトツギの方が子ども時代に継ぐのが嫌だなと感じた商売ですね。

入山:(笑)。

奥村:それって、もうちょっと具体的に「こういう商売だよ」というのはありますか? 

村井:いや、具体化すると、その業界の人に嫌われてしまうので、私は言いません。

入山:(笑)。

村井:ただ、その仕事が「かっこいいな」と言われた瞬間に、もうその商売は儲かりません。

入山:なるほど。いやー、すごいな。

奥村:逆にアトツギにとっては、見たくない……。

村井:狭き門から入る、雨ざらしの世界。そこに宝があると思っています。

奥村:ありがとうございます。

村井:がんばります! 

奥村:多くのアトツギが今レガシー産業に属されていると思うんですけれども、ある種みんながやりたくないような産業、積極的にチャレンジしようと思わない産業にこそ宝があると。そういうことですかね。

社内向けのZoomの活用法

村井:そうです。あと1個いいですか? 

奥村:はい。

村井:Zoomを社内向けの日報や朝礼代わりに使うと、録画したZoomの映像をYouTubeの限定公開で送ったら、再生回数で誰が見ているか見ていないかのログが見られますので、これは社内向けのZoomも使えます。

入山:なるほどね。

奥村:ありがとうございます。確かにそうですね。おっしゃるとおり。

入山:そうか、社内向けというのもおもしろいですね。ありがとうございます。

村井:社内向けにYouTubeで上げたら、半分しか見てくれていませんでした! 

入山・奥村:(笑)。

村井:がんばります!

afterコロナの時代に、地方にチャンスは訪れるのか

入山:なんで毎回こう爪痕を残して……関西人だから。ありがとうございます。いいですね。というわけで、かなり盛り上がっているんですが、2つ目のセッションにいこうと思います。

似たようなテーマではあるんですが、今回はアトツギということで、多くのみなさんが地方にいらっしゃると思いますので……。東京都心部と地方は温度差がぜんぜん違うと思うんですよね。その中で、これからのafterコロナの時代に、地方に商機・チャンスは訪れるのかについて、特に地方ということでお伺いしていきたいと思います。

となると、最初は村岡さんにお伺いするのがいいかなと。ベタな質問で申し訳ないんですけど、地方にチャンスが来るのかということについて、大きな視点でどうお考えになられていますか? 

村岡浩司氏(以下、村岡):結論から言うと、むちゃくちゃチャンスが来ましたよね。たぶん3年とか5年後になるべき時代が、ちょっと先に進んじゃったような感じがするんですけど。

何がポイントかと言うと、たぶん日本って先進国の中で珍しく、6割5分ぐらいですかね。いわゆる都心部・東京に富を集中させて、そこから都市に再配分するということがずっと続いているじゃないですか。中央集権型というか。

ドイツなんか逆ですよね。地方がキャピタル(首都)を支えているという構造が先進国だと思うんです。東京はもちろん世界最大の都市なので、このまま発展していかないといけないんですけれども。

今日ここで見ていらっしゃる方で、東京の方もたくさんいらっしゃると思うんですが、少し感染者がまた増えてきてしまって心配ですよね。都市の可能性というのは、特に疫病が流行っているときなどは、例えば事業所の一部を九州に置いたらどうかとか、経営陣だったらご自身が半分東京にいながら半分九州に来て、こっち側で仕事をしてはどうですかとか。

少し前は移住・定住のような、100パーセント地方か都会を選べという、限られたリソースを奪い合うような変な話があったと思うんですけど、そういうことではなくて、分散型の働き方ができるようになったと思うので、その意味では地方はものすごく強いと思いますね。

注目を集めている「関係人口」という考え方

入山:最近まさに村岡さんがおっしゃっている言葉で、関係人口という言葉がすごく注目され始めていて。つまり特定の場所に定住するというよりは、複数の拠点を移動しながら仕事をしていくと。

実際に、私の理解だとヤフーの社員や幹部が東京と宮崎を往復したり。東京の周りですと、鎌倉と東京を移動するですとか。あとは軽井沢と東京を移動するとか、いろいろなケースが出てきているわけですけど。それがもっと伸びていくから、地方にとっては本当に大きなチャンスだというわけですね。

村岡:そうですね。僕は実は、関係人口を2つの視点で捉えているんですね。政策的な関係人口は人口が集中する都会と、これから過疎化していく地方。それをどうやって均等にならしていくかという文脈も1つあります。

もう1つは、僕の場合は九州ビジネスですから、まさしくその県境を溶かして考えれば、九州は1,300万人の内需があって、非常にバランスが良い都市構造をしているわけですよ。

これは例え人口が減ったとしても、域内の流動性が上がっていけばGRPは上がるわけですよね。そのときに財布のお金が増えなければ、もちろん富は増えないんですけれども。

例えば僕の場合だと九州に閉じて、九州というブランディングをしていくことでいろんな新しいサービスが生まれていく。食品加工はその中の1つだし、例えば我々は農業に紐づいた原料で今後は化粧品を作っていったり、マイクロツーリズムみたいなものを九州単位で考えていったりですね。

そうすると、その九州の付加価値を外で売る、あともう1つは域内で移動することで、域内流動性というもう1つの関係人口を作れると考えています。

隣県との関係づくりを見直すことで、商圏は広げられる

入山:なるほどね。域内流動性というのは大変興味深い言葉ですよね。

奥村:そうですね。初めて伺いました。

村岡:おもしろいですよね。

入山:確かに、これは四国だって、徳島とか愛媛なんてやってないで、四国内で流動性をやればいいし。

村岡:まさしく。はい。

入山:中国地方も、島根と鳥取で分かれている場合じゃなくて、山陰の産業を両方合わせて回していけばいいということですよね。

村岡:やっぱり知事会がなかなか機能しないんですよね。壁がないところに壁を建てたがるので。例えば九州だったら、7県が全部「宮崎モデルを」「鹿児島モデルを」「大分モデルを」と言うんですが、それって1つの独自性があるモデルは生まれていなくて、全部霞が関の政策をコピーペーストしたものを落としているだけなんですよ。

隣県との関係性を設計すれば、2県3県先との流動人口をどうやって設計するかということを考えていくと、商圏って広げられるので、おもしろいと思っていますね。

入山:なるほど。ありがとうございます。これは飲食系とか旅行系の方にはすごく示唆のある言葉ですよね。

県同士で不仲が生まれるのは、行政の言葉を気にしているから

奥村:そうですね。1点お伺いしてもいいですか? 

入山:もちろん。

奥村:私は広島出身なんですけど、何で見たかは忘れましたけど、中国地方の周りの4県からアンケートを取ったときに、嫌いな県って広島県なんですよ。

入山:(笑)。隣の人たち、だいぶ嫌いですからね。広島はね。

奥村:だから、中国地方がなかなか1つになりきれていない。好き嫌いだけの話じゃないんですけれども、そういったものを見ていると、僕は九州、「ONE KYUSHU」って非常にすばらしいなと思う一方で、県同士のいがみ合いみたいなものを村岡さんの取り組みの中では感じられたことはないですか? 

村岡:まったくないですね。県同士のいがみ合いを感じるのは、行政の言葉を気にしているからですね。

やっぱり県境を溶かしてもらったら困る方たち。特に政治家や県知事さんたちだったり、既存の県単位の中で成立している既存のレイヤーがあるわけですよね。そこは県境を溶かしてもらったら困るので。

でも、民間の経済において県単位でいがみ合うことはゼロだと思っていますね。まったくないと思います。

入山:なるほど。すばらしい。

奥村:ありがとうございます。

地方から大企業の城下町が失われ、変化が起こり始めている

入山:次に、居相さん、地方の可能性についていかがですか? ちなみに居相さんは本社の場所は……。

居相:私は大阪の八尾市というところです。村井さんみたいに大阪の真ん中の難波じゃなくて、ちょっと外れの部分にあるんですけれども。八尾市の特徴としては、かなり下請けの製造業が多いところなんですね。

大阪には力を持った大企業が多かったので、そこから仕事を請け負っていれば十分成り立つという会社が多かったんですけれども、最近そのあたりの考え方もだいぶ変わってきまして。

大阪だったらパナソニックやシャープというところがどんどん世界各地に出て行ってしまって、もう仕事が残っていないという中で、じゃあ僕たちはどうやって生き残っていったらいいんだろうかというところなので。

これまでぜんぜん考えていなかったこと、例えばデザインだったり、あるいは設計といったものをやってみたらいいんじゃないのという機運がかなり出てきているかなと思いますね。

バラバラだった地域の会社が、お互いに助け合う機運

居相:八尾でいろんな会社があるんですが、実は隣の会社が何をやっているか知らないようなケースがけっこうありまして。「それってここに聞いたらできるんじゃないの?」ということに、みなさんがけっこう目覚めてきているところなんですね。

それまでデザインをやったことがなかったので、その重要性やおもしろさなどがわからなかったんですけれども、隣の会社が興味を持って始めると「デザインってこういうところで使えるんだな」という学習をし始めて、そんなことをやってみようという機運が高まっています。

特に、それこそ東京のほうで活躍していた方が地方に来たり、あるいは大阪の都心部や大企業で活躍していた方が入ってくると、いろんな助言をしてくれることもあって、新たな気づきが出てくると思いますね。

入山:おもしろいですね。だからせっかく八尾の辺りに集積しているのに……。本当はいい意味でのいわゆるクラスター(同種のものや人の集まり)じゃないですか。

コロナ前はお互いに何をやっているかも知らなかったんだけれども、コロナをきっかけに新しいことをやらなきゃいけないという機運があるから、実は今クラスターの効果のようなものが出てきているんじゃないかということですね。

居相:そうですね。近い地域だから一緒にできるという可能性が感じられる、すごくいいきっかけになったんじゃないかなと思いますね。

都市部の方が不利になるのは間違いない

入山:いやあ、これもアトツギの方にはけっこう参考になる話ですよね。じゃあ、村井さん。村井さんも同じ関西なわけですが。

村井:私、本質的にはアンダーグラウンド、地方の人間でして。東京は足立区花畑車庫前近くの綾瀬病院で生まれております。大阪のほうは鶴橋という、これもまたアンダーグラウンドなエリアでやっています。

入山:焼き肉がおいしいところですね。

村井:鶴橋と言ったら、たいがいそれしか言われません。

入山:(笑)。すみません。

村井:鶴橋の中心地の焼き肉屋さんは最近新興中華系にやられていますので、老舗の多い桃谷のほうがおいしいです。

入山:了解です。桃谷に行きます。

村井:すみません。大阪は地方なのかとか東大阪は地方なのかとか、奈良市内は地方なのかでいくと、ここは捉えづらかったんですが、そもそも都市部のほうが不利になるのは間違いないですね。

リスクの高い都市部から地方へ

村井:むちゃくちゃミニマムな話をするんですけど。難波の不動産会社に聞いたら、以前は人気だった心斎橋とか西区の堀江界隈の賃貸物件の問い合わせが激減しているらしい。この小さな現象を1つ見ても、ぜんぜんあきません。

入山:ごめんなさい、私、実はそれこそ桃谷のそばにあるロート製薬の社外取締役をやっていまして。あそこも実はアトツギなんですけど。だから先週私、大阪に行ったんですよ。大阪、人がぜんぜんいないですよね? 

村井:はい。コロナの影響でかなり人が減りました。外国人観光客減少の影響はかなり大きいです。

入山:そうですよね? 市内の難波とか、あの辺は本当にぜんぜん人がいなくて閑散としていますよね。

村井:もう閑散としています。

入山:ごめんなさい。続けていただいて。

村井:すみません。基本的に都市部のほうがリスクが高いことになります。そもそも我々も、中国と大阪と東京、明石に拠点があるんですが、東京オフィスは解約しました。

明石のほうも半分テレワークにして、基本的に都市部は事務所を解約しました。都市部はもう当面きついだろうと判断しています。

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