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QA程氏(全1記事)

「ボードメンバーの外国人比率は、事業内容に比例すべき」 “日本人のおっさん”がポジションを独占する日本企業の課題

2020年5月に開催され、好評を博した特別講演会『コロナショック・サバイバル 日本経済復興計画』。経営共創基盤CEOの冨山和彦氏が、コロナショック後の日本が生き残るためには古い日本的経営を脱し、ローカルとグローバルの双方で構造改革を行う必要がある、といった意見を述べました。そして6月、前回よりもさらに多くのオピニオン・リーダー、ビジネス・リーダーをパネリストに迎えた『コロナショック・サバイバル 日本経済復興計画2』が緊急開催。堀内勉副所長の司会の下、冨山氏が危機後の日本経済・社会の再生に向けたビジョンを徹底的に議論しました。本記事ではアクセンチュア相談役 程近智氏との対談を公開します。

SDGs、ESGの考えをCXに組み込むには?

程近智氏(以下、程):こんばんは。堀内さんが選んでくれると思って、とりあえず3つ出したんですけれども、アクセンチュアの程です。冨山さんと同じ世代で、いろんなところで冨山さんの後を追ってやっておりますが。

冨山和彦氏(以下、冨山):いえいえ、とんでもない。

:私は1982年に、のちに冨山さんが行くスタンフォードの学部生で、ちょうどジャパンアズナンバーワンの時代に。

冨山:そうですよね。

:実は、他のコンサルファームにも行こうかなと思って。

冨山:おお、そうですか。

:「大学院に行ってから、または社会経験積んでから入れ」と言われていたんで、違う会社に入りましたけども。今は財界活動だとか社外取締役、あと東大の経協議員(経営協議会委員)とか、またはスタートアップコミュニティでエンジェルなどをやっております。

そんな中、素晴らしい本を書かれて、私が書きたかったことをすべて冨山さんが書いてしまったので。

冨山:とんでもないです。

:もうあの種の本は書けないな、と思いました。3つ質問がありますけれども、よろしければサラッと答えていただけると助かります。

1つ目は、世界の投資コミュニティはESGだ、SDGsだということで、企業を評価、また投資するというような流れがある。WEFなんかはマルチステークホルダー主義を推進している。

一方で多くの日本企業は、中計とか長期ビジョンでパーパスとかSDGs、ESGなどを最上位のレベルの概念として掲げて、いろいろとこれからの方向性を作ろうとしています。これらの考えをCXに組み込むことは意味があると思うんですけれども、具体的にはどのようにしたらいいのか。または、先ほどCXの本の中に「仕掛けどころ」の1つとして有効なのか。

残念ながら、私、多くのところで見かけるのは「デコレーション」として使っているんだけど。

冨山:(笑)。なんちゃって系ね。

:これ、大丈夫なのかと。あまりこの辺は本では触れていなかったので、冨山さんのご見解をお聞きしたいと思います。

冨山:まったく同感で、これ、本気でやったら絶対CXになっちゃいます(笑)、ESGも。本気でやっちゃうと大変なので、とりあえず「ナントカナントカ統合レポート」のデコレーションに使っているケースがほとんどです。はっきり言って。

:なるほど。

冨山:ただ、要するに何で本気にならないかというと、本気でやっちゃうと今までいろんな人が持っている既得権を引っ剥がすことになるし、期待権を引っ剥がすことになるし、がっかりする人が社内にいっぱいいるのと、いろんな混乱に陥るのでとりあえずデコレーションで済ますというのが、いわゆる経営の依存性から脱却できないので。

これ、本気でやったら、例えばオムロンで言えば、そのガバナンス改革の最上位概念はESGですから。元々の企業理念って「企業は社会の公器である」ですから。

ESGから始まって、そこから全部ある意味でチェーン・リアクション的に「だったら社長、そのサラリーマン共同体の内輪の論理を選ぶのはおかしいでしょ」となるわけですよ。

それは、そのマルチステークホルダーを代表したボードが選ぶべきでしょ、ということになるわけで。当然そうなると、社長の選び方がガラッと変わってしまうわけです。そうすると、いろんなサラリーマンのゲームのルールを、どんどん破壊していくことになるので。

おっしゃる通りで、本気でやったら当然そういうチェーン・リアクションになると思います。なので、逆に言うとデコレーションになっちゃうケースが多いと私も思っています。

:マルチステークホルダー主義だと、よく日本企業はそもそもそうだと言って(笑)。

冨山:(笑)。サラリーマン共同体主義ですからね。嘘ですよ、あんなの。

:ESGだと、ガバナンスが最近本当、冨山さんがご尽力されたので、だいぶ進んできたなと思っています。あとE(Environment)に関しては、もともと日本は自然と共存している会社が多いので、それも進んでいたはずだと思います。

それとソーシャル。これは働き方改革と非常に連動していて、本当に社員のことを今の時代に合ったかたちで考えているのかを考え直さねばならない、という大きなトリガーでもあります。これは本当にデコレーションではなく、実際の成果や結果を見せていくというのが、とても大事だと思います。

冨山:だいたいボードメンバーに日本人の中高年のおっさんしかいないような会社が、よくソーシャルって言っていますよね。

:(笑)。

DXとCXに成功している企業とは?

:2つ目は、DX以前にCXが大事だと私も思うものの、そうは言いながら、DXは月単位の対応が必要になっているし、世界がどんどん進歩していく中で、新たな競合から破壊されないようにDXも同時に進めていかなければいけない。

ということで、CXとDXを車の両輪に例えて回していかないといけないのですが、時間軸やスピード感が違うし、先ほど冨山さんがおっしゃったように、本当に会社を変えていくには10年、20年かかる中、このDXとCXを実践する両輪として、実践する具体例。先ほどからいくつか企業は挙げましたが、どんな考えで、どういう企業が成功されているのか、という点をお聞きしたいです。

冨山:たぶん、伝統的な感じを並行してやるという意味でいうと、日立なんかよくやっている方ですよね。例のプロフェッショナル型にする話とか、ああいう話は10年ずっと営々とやっているし、DX的に言っちゃうと、その上でいろんな買収を非常に巧みにやっていますよね。

その両方を回していて、そうすると経営者が両方ともやれるかどうかですよね。だいたいCXの方が、ある意味で大変なんですよ。大掛かりになっちゃうし時間かかるのと、社内が手こずるのはCXの方なんで。これを乗り越えるという持続性がなければダメなんで、日立はうまくいっているかな。やはりリクルートなんかも上手ですよね。

:なるほど。

冨山:紙の情報誌がいつの間にかネットの会社になっていて。結局、別に意識してやったというよりは、合理的にやったらそうなるでしょという感じですよね。

DX的な対応というのは、ある意味ではあの会社が、もともと持っている新陳代謝のスピードとかにドライブされているんですけど。同時にリクルートってそういう意味でいうと、人材育成の仕組みとかをずっとコツコツやっているんですよ。かなり真面目に。

だから、コツコツやっていくという、ある種、人材のロジスティックスの部分が、たぶんリクルートはCXに当たるんだけど。その努力と目の前のどんどん新しい事業を作っていくというのを並行してやっているという意味でいうと、これ、ちょうど一番ストレスかかった時期が柏木(斉)さんの時代だと思うんですけど。柏木さんという経営者を、僕はすごく高く評価しています。あの淡々とした感じで。

柏木さんって、そんな「リクルートリクルートした感じ」の人じゃないんですよね。どっちかって言うと。

:本にも少し書いていましたけどね。

冨山:そう、そう。僕、あの感じが好きだなと思っていて。

社外人材が企業の本体を変えるために

:あと1つ、出島(社外人材を招くなどして、従来とは違う発想で作るイノベーション拠点)を作る企業が多い。パナソニックもそうだし、トヨタもそうかもしれません。このアプローチは、1つはモデルができると思うのですが、それが本体に乗り移って、本体を変えていくというところまではまだ行っていないと思うのですが、この辺どうお考えですかね。

冨山:これは出島の事業がある程度でっかくなって、逆に攻め上がってきてくれないとダメなんですよね。当然、そこで内戦が起きます。多かれ少なかれ。内戦をある意味では経営者が意識的に起こすわけですよね。内戦させるわけだから。

その時に、まさに両利きのものすごく微妙なというか、バランス感覚を求められるマネジメントをしなきゃいけないんで。残念ながら、まだ出島を作ったばっかりなんで、みんな。出島勢力が本国に侵攻して、大きな王国を作るところまでまだ行っていないですから、これから勝負ですね。本当。

:そうですね。250年間、出島で終わってしまう可能性あるし(笑)。

冨山:そう、それじゃ意味がないんで。一応、TRIも日本に攻め上ってきたでしょ。とりあえずね。

:そうですね。

冨山:あと、パナソニックもそういう流れにきっとなるでしょうから。そうすると、ヨーキー・マツオカのチーム、あるいは彼らが提唱していくビジネスモデルへのトランスフォーメーション。要するにもう単品、物売りじゃ食えないことをわかっているので、とくに電機メーカーは。

トヨタ以上に厳しいですから。電機メーカーは。単品、物売りじゃないことをやらなきゃいけないので。彼らは。そういう感じですね。もう1つは、M&Aかな。この前、パナソニックもやりましたけど。

:なるほど。

冨山:M&Aで、もっと大きな出島を手に入れられますよね。そういう意味で言うと。

経営陣に外国人を入れるか否か

:わかりました。最後の質問なのですが、私もいろんな会社の顧問とか取締役をやっていますが、トップが大事だというのはその通りだと思うのですが……それを支える人材がなかなかいないケースもあるし、またそのトップ自体も、日本人がやったらまた今までの延長になるケースもあり、外国人をトップに据える動きもある。

そんな中で経営人材のプールを見ると、まだまだ外国人が日本のトップになりたいかというと、私もいくつかアプローチして引き込もうとしたのですが、興味は示してくれるものの実際いろいろな権限だとか、処遇を含めてあまり来てくれない。

実際、TRIのギル・プラットさん。本にも書いてありましたが、武田薬品のクリス・ウェバーさんなどがいらっしゃいますが、こういった多様性を持った人材が会社を変えるということをCXで書いてありました。

外国人をボードメンバーに入れても定着は難しい。この辺はもう諦めたほうがいいのでしょうか? 結局は、社内人材や限られた日本のプロ経営者に依存することになってしまうのではないかと危惧しているのですが、いかがでしょうか。

冨山:それって結局、それこそCXでグローバル企業で、例えばオムロンなんて売上高が3分の2が海外かな。そういった会社が、日本人だけで経営していること自体がおかしい。別にボードだけじゃなくて。執行役も含めて。

本来、普通にナチュラルであれば、人口、GDPに比例すべきです。中国が商売の半分だったら、半分中国人の方が自然でしょ。台湾であれ、メイドインチャイナであれ自然だし、アメリカだったらむしろアメリカ人が半分でおかしくないわけで。

そういった意味合いで言うと、まさにこのポイントが、短期的な解を求めるとポンと誰かを連れてくるという話になっちゃうんだけど、そもそも論として僕はむしろ執行レベル、執行役とかあのレベルが日本人のおっさんに独占されていること自体が、もう組織能力的にアウトだと思っているので。

そうすると当たり前なんだけど、オムロンなんかもそうやっていますけど、結局、今の山田(義仁)さんの次の次が、内部昇格でも日本人じゃないという確率を上げなきゃダメなんです。

山田さんに変わった時に、次の世代を選ぶ時に僕もかなりきつく「とにかくビジネスに比例したかたちで人種構成変えるべきだ」と言いました。国籍比率変えるべきだということを言っていました。

:その通りだと思います。ただ、きっと冨山さんも何人かそういうケースがあったと思うのですが、実際に日本の企業に入って、執行レベルで「ダメだ。日本の会社、変わらない」と辞めてしまう人もいるし、実際、トップで引き抜こうとしてもなかなか来てくれない。本に書いてある「新憲法を作るから、その新憲法に則って」。

冨山:これはセットなんです。

:「ぶっ壊すから一緒にやってくれ」と(笑)。

冨山:そういうこと。変えること自体がマネジメントの本質になっちゃうから、その脈絡で言うと、それを一緒にやるかやらないか、やる気を起こすか起こさないかですよね。たぶん、ギル・プラットもそれをやるチャンスがあると思ったから来ているわけだし、ヨーキー・マツオカもそのチャンスがあるから来ているわけで。

あとは、問題はそのチャンスを実現した時の、自己実現にどれだけエキサイティングかということですよね。お金の問題じゃなくて。

:そうですよね。

冨山:たぶんギル・ブラッドは自己実現で来ていますから、彼。それなりにお金払っているみたいだけど、もちろんワーナーも。とくにヨーキーなんて、彼女、Nestをすごい金額でGoogleに売却しているから、もうお金たぶんいらないんだな。彼女、はっきり言って。

:(笑)。

冨山:おそらく。売るほどお金を持っているはずなんで(笑)。そうなると、もう圧倒的に自己実現ですよね。

:そうですよね。

冨山:そっちの方がハードル高いですよ。お金よりも。今、程さんおっしゃられたように、結局「自己実現するチャンスがどうもこの会社にないな」と思うからみんな辞めちゃうんですよ。

そうすると当たり前だけど、実行的な権力を与えなきゃダメだし。当然、実行的な人事権も与えなきゃいけないし。

:そうですね。

冨山:当然、そういう人たちは社長候補であるべきなんです。

:はい(笑)。わかりました。いずれにしてもお互いがんばりましょう。

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