2024.10.01
自社の社内情報を未来の“ゴミ”にしないための備え 「情報量が多すぎる」時代がもたらす課題とは?
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市原真氏(以下、市原):対談なので、僕が今思いついた質問をします。例えば一般の方から「診断って病名を決めるようなことですか?」って言われたとします。それにどう答えますか? また、そのとき、「内心は」どう思われてますか?
國松淳和氏(以下、國松):そうですね。内心からつい先に言っちゃうタイプの人なんですけど……。
(会場笑)
本当は診断というのは医師の仕事です。それはなぜかと言うと、ものすごく高度な思考だったり、知的な営為だったりするので、きつい言い方をすると、もとより(一般の方が)入ってこられるようなものではないんですよ。
市原:はあー!
國松:ただ、それを診察室で言うと、「何、この医者!?」って感じになるので、優しく……。
市原:優しく言っても、「何、この医者!?」になる可能性はありそうですね。
國松:当然、優しく言うんですよね。診断というのは症状とかがあって、混沌としたものの中から、ちょっとカテゴライズするというか、ラベルするというか、ものすごく「宇宙」とか「海」のようなものでありながら、ちょっと仕切りをつけるという行為に一応なる。だけど、そんな難しいことは患者さんには言わないですよね。
市原:あー……。一般の方からすると、「診断」って「これか、これか、これ」のように「選ぶ」というイメージの人もいるかなと思うんです。
國松:先生。これは、さっきちょっと前振りした「プロと素人の差」ということにも関係してくるんですけれども、例えばある病気の方がいて、(ここでは)話を極端にするために、まれな病気だとしましょう。
市原:まれな病気。はい。
國松:まれな病気の患者さんは、自分の病状やその病気について本当に詳しいんですよ。めちゃくちゃ詳しいです。
市原:おっ、意外ですね。
國松:例えばナントカナントカ症候群というのがあったとします。
市原:ちょっとぼかしましたね。
(会場笑)
國松:……ABC症候群というのがあったとします。
市原:ABC症候群ね。
國松:(ABC症候群の当事者は)ABC症候群のことはもう隅々まで、完璧に、むちゃくちゃ詳しいんですよ。そりゃそうですよね。そのまれな病気にかかっちゃって……。
市原:ああ、今時そんなことになったら……。
國松:そう。必死にネットとかで情報を得て、(周りに)ぜんぜんそういう病気を知っている人がいないから、それで知らなきゃといって、がんばって情報を入手します。その知識ベースでいったら、もう一般人のレベルは完全に凌駕するんですよ。
市原:なるほど、そうですか。ですよね。
國松:完全に、もう(医者でも)かなわないくらいの知識になるんですよね。私はある病気に関してはもちろん詳しいんですけど、そうじゃない病気は簡単に僕の知識を超えた人がいるわけですよ。僕のよく知らないABC症候群のことを、その患者さんはめちゃくちゃ詳しいんですよね。でも、その患者さんのほうが知識があるからといって、私はひるまないんですよ。
市原:ひるまなそう(笑)。
國松:ひるまないです。まったく、ひるまないです。プロはそういうことじゃないんですよね。「プロは包括的知識が違う」と私は言っているんですけれども、「辺縁ほど知っている」ということなんですよ。例えばABC症候群の病気の分野の、同じ分野だけれども他の病気のことを知っている。
市原:あー。辺縁だ!
國松:その分野の周りの症候群というか、病気たちも知っている。そうなってくると、例えば私は今、膠原病内科とかをちょっとだけ専門にしているんですけれども……。
市原:ええ、激烈にお詳しいですよね。
國松:膠原病内科のことは知っているということになる。内科医なので、周辺の例えば感染症のこととか、ナントカ内科のことも、ちょっと知っている。その患者さんよりは知っているし、さらに内科のお隣の外科とか耳鼻咽喉科とか、何でもいいんですけれども、いわゆる臨床医学のことも、少なくともその患者さんよりかは、はるかに知っているわけですよ。
その辺縁がだんだん広がってきて、内科も外科もなくなって、今度は基礎医学だったり生理学・解剖学だったりどんどん広がっていって、ようやく学問や社会に接してくるという感じです。
市原:おお。
國松:そういう感じで、辺縁のことほどその患者さんよりもはるかに(知っていて)年季が違う。その中で、病気のことを考えるということが、たぶんまったく違うと思うんですよね。だからABC症候群以外のことを知っていて、ABC症候群の輪郭がちょっとわかるかなという感じなんですよね。
だから、ABC症候群の中での濃度というのはぜんぜん負けるんです。こっちの知識からすると、「ええっ!?」という感じです。
市原:なんか先生のその話、すごくおもしろいです。もう、会場はどうでもいいですね。
國松:(笑)。
市原:先生は……何かの本を書けと依頼されたときに、目次を作るのが早そうですね。
國松:そうですね。そうなんですよね。
市原:単項目の「ABC症候群について」を書くのではなく、ABC症候群を含んだでかい疾患群の中から、まず周辺マップを作っている。
國松:そうですね。「辺縁を知って違いを知る」なんて言い方をしたんですけどね。
市原:辺縁を知って違いを知る!
國松:その違いを……。私の特性なんですけれども、違いが目につくんじゃなくて、わりと共通項が目につくタイプなんですよ。
市原:ほう。
國松:なので私は、そのABC症候群のなんたるかについては知らないけれども、「考え方がこの病気のこれに似ているね」とか、その寄せ集めで考えるという思考です。知識については、各論の知識はかなわないんだけれども、応用はちょっとわかるよということなんですよね。
市原:それが、辺縁での共通項。はっはぁー。
國松:ちょっと外れると、このまれな病気を持った人たちというのは、いわば不遇を受けているということです。つまりまれな病気なので、長いこと診断されていないとか、誤診されたとか、「あなたは心の病気だ」と言われたとか、「負の歴史」がすごく長いんですよね。だから、「自分で知らなきゃ」という意欲が他の病気と比べて格段に違うんですよ。そのことにとても詳しいというのは、当然の摂理。
市原:うわあ確かに……。
國松:だけど、言いたいのは、それでも(國松は)ひるまないよという話。それをしようとしているんですよね。言ってしまうと、素人はやっぱり「チェックリスト思考」なんですよね。「このこと、このこと、このこと」と、「これを満たしたらこの病気だ」と、知識でチェックリストを埋めている思考なんです。
けれども、私はそうじゃない。さっきから何度も言っていますが、私の思考は「チェックリスト思考」ではなくて、そんなのをやっていると脳のメモリーが追いつかない。なので応用力勝負で、(辺縁から知るという意味で)消去法的です。
まれな病気は知らないけれども、周辺のcommon(一般的)な病気は知り尽くしているから、消去法で消去します。「あれ? いつものこの病気じゃないな」「この病気じゃないな」「ということは、これはなんだろう?」と思って、ようやくたどり着くというのがある。
ちょっとまれな分、診断のdelay(遅れ)は出てくるんだけれども、それを他の、一般の先生方にやらせるのはちょっと酷なのかなと思います。なんでそういうことを言うかというと、患者さんはそういう「負の感情」をすごく持っているので、すごく、一般の先生に啓発しようとなさるんですよ。
市原:先生に啓発?
國松:「この私の、まれなABC症候群を、もっと日本のお医者さんは知ってください!」みたいな感じです。でも、それってちょっと無茶なんですよね。そうじゃなくて、ABC症候群に近い研究をしている人とかにアプローチしないといけないと思うんです。(一般の医者は、まれな病気について)知らなくて当然だと思うんですね。
(そうであるのに)「ABC症候群を、知っていなさい!」「誤診をするな!」「心の病気って言うな!」みたいに言うのは、お互いにロスだと思うんですよね。
市原:なんか、それは先生のつらさが今、垣間見えたような気が……。
(会場笑)
市原:よく「後医は名医」って言うじゃないですか。紹介された医者は、紹介した医者よりも診断が鋭いと言いますけれども、後医であることのつらさというのもあるんですね。
國松:そうですね。
市原:「診断がつかないほうの人」の独特さを背負っておられるわけですねえ。
國松:はい。そうなんです。なので、「たまたま僕は後から出てきてわかっちゃったけれども、そういう(わかったから僕がえらいという)ことじゃないよね」っていうことは言いますね。……ちょっとぼやかしましたけどね(笑)。
市原:たとえば國松先生は、「診断がつかないということで紹介された患者さん」と、「初めて病院にかかる患者さん」と、どれぐらいの比率なんですか?
國松:もう今は、1対1ぐらいです。
市原:1対1。そこはやはり接し方が違いますか。
國松:いやもう、外来患者さんはバラバラですね。
市原:げー。
國松:地域の風邪っ引きとか肺炎もいれば、「釧路からやってきました」とか、「沖縄から来ました」という人もいたりします。あとは、通っている人がぜんぜん1人ずつ問題点が違うので、もう動物園みたいな感じです。
市原:動物園。
國松:Zoo(ズー)です。Zoo。
市原:なぜ言い換えた(笑)。
(会場笑)
國松:(笑)。
市原:実は今日の対談、「僕と違う考え方」が出るかなとずっと探っていたんですが、ぶっちゃけ……あんまり違わないですね。すごくわかります。
國松:いや、だからよかったです。本当に「まれな病気の考え方」って、先生なら絶対わかってくれるかなって思っていました。今はどちらかというと、僕側に寄っている感覚はありますね。そのABC症候群の話はあれですけど、なんか「知れ渡ってくる」ということもあるんですよね。
市原:知れ渡ってくる?
國松:成熟してきて、そのABC症候群が知れ渡る。
市原:世間的に?
國松:そうです。世間に、例えば一般の患者さんにリーチしてくる。そういう「成熟期」があるんですよ。「負の時代」から「成熟期」になる。「成熟期」になるとまた問題が生じるんですよ。今度は、「(ABC症候群の)専門医でもないのに、下手に見るな!」って患者さんは言ってくるんですよ。
市原:うわぁ。
國松:あれだけ啓発しておいて……。
市原:マジかぁ。
國松:はい。なので、私は別に「VS(バーサス)」というか対立構造には絶対にしたくないのですが、あえてそういうことを代表して言って、ちょっと今、たまたまえぐってみたんです。
市原:先生、そのエピソード、(著書の)『仮病の見抜きかた』にはまったく出てこないですよね! ……そんなおもしろい話が普通に出てくるなんて、さすが、無限にエピソードを持っている医者って感じがする。
國松:大切なことは語らないほうがいいかなと思って(笑)。
市原:語っとるやんけ(笑)。
(会場笑)
國松:ログミーとかに(笑)。語りまくっていますね。
市原:ログミーにまるまる出ますよ? ログミーに書かれますよ?
國松:なので、そこの問題点の答えはぜんぜんないんですけれども、リーチというか、患者会やまれな病気の患者・当事者たちというのは、「どこに働きかけるか」というのはけっこう大事かなと思います。効率よくやっていかないといけません。
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