2024.12.24
「経営陣が見たい数字」が見えない状況からの脱却法 経営課題を解決に導く、オファリングサービスの特長
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司会者:六本木アートカレッジ SPECIAL 1DAY、いよいよ本日の最終セッションになりました。クロージングトークのテーマは「『アートのない世界』で人は生きられるのか?」。モデレーターは遠山さんです。どうぞよろしくお願いします。
遠山正道氏(以下、遠山):はい、こんにちは。年間を通じての最後のセッションになりました。昨日、打ち合わせをしたんですね。そこで決めたのは1つだけで「じゃあ、明日は何を着ていこうか?」って。
(会場笑)
色がポイントで。ちょっと立っていただこうかな。私が「空」なり「宇宙」ね。中野さんが「自然」、そして長谷川さんが「肉体」という。
(会場笑)
ピンク。これはじゃあ、撮影タイムにしましょうかね。
(会場笑)
中野信子氏(以下、中野):会場のみなさんの写真も撮りたいですが、良いですか?
(会場笑)
遠山:ありがとうございます。長谷川先生と、脳科学者の中野信子さんです。今日はよろしくお願いいたします。
中野:よろしくお願いいたします。
長谷川祐子氏(以下、長谷川):よろしくお願いします。
(会場拍手)
遠山:このセッションでは私はモデレーターで、役割としては、長谷川さんのウワーッというお話をどこで止めるかという感じなのかなと。
(会場笑)
それから、中野さんにお願いしたいのは、長谷川先生の難しい話を翻訳していただくと。
中野:日本広しといえども、長谷川先生のお話をうまく翻訳できるのは、中野一人であるということですので(笑)。
(会場笑)
遠山:実は中野さんは、こんな立派な方なのに、「長谷川研」と呼んでいいんでしょうか?
長谷川:はい、研究室です。中野さんは博士課程の学生で、私が指導教官になっております。
中野:師匠なんです。
遠山:それはどうしてですか? 学びたかった?
中野:日本のアート界で最も影響力を持っている女性ということで、アートを学ぶならぜひ、長谷川先生に教えを乞いたいと考えました。
遠山:間違いないですよね。
中野:世界で活躍されている日本人女性のロールモデルとして、この人から吸収したいということもありました。。あと、みなさまもご存知の通り、先生は非常に際立ったキャラクターの持ち主なので、それをどう取り入れていくかも学びたくて、おそばに。
遠山:でも、そもそも脳科学とアートって、普通だとちょっと……。
中野:そうですね。最後の最後のフロンティアかもしれません。美というのは、どうも前頭前野が認知しているようなんですね。そして、その脳機能が何のためにあるのかが今日のテーマにもなって……。
遠山:ちょっとメモしたい。脳の前頭葉で?
中野:人は前頭葉の前頭前野のある部分で、美を認知しているということがわかってきているんですよ。実はその認知にも2種類あって、それぞれ前頭葉の違う場所が処理しているんです。例えば夕日の美しさとか、絶景の美しさなどは世界共通だったりしますよね。普遍的であって、時代によっても変わらないですよね。
けれども一方で、時代によって変わる美もある。ちょっと前まではかっこよかったものが、もう陳腐化してしまって、ダサい、ということがしばしば起きる。日本では、これがかなり速いサイクルで起きますね。
でもそれは、どちらかと言えば長谷川先生のほうが、リアルな実感を持ってご存知でいらっしゃるかなとも思います。現代美術の最先端をやっていらっしゃるので、いかにそれが速いサイクルで変わってしまうのか、今新しいものがどういうふうに出てきているかという点まで、よくご存知なのは先生かなぁと思います。
私はそれを、ニューロサイエンスの基盤でリサーチするとどういう表現になるのかな、ということを研究の一端としたいなと思っています。
遠山:なるほど。このお話だけでも、いろいろとお聞きしたいところです。でも、まず最初に今日のテーマは「『アートのない世界』で人は生きられるのか?」というタイトルなので、まずこれを率直にお二人にお聞きしてみたいと思うんですね。
では、まず長谷川先生からいかがでしょうか? 簡単にイエスかノーでお答えいただくと……。
長谷川:「生きられますか?」という質問に対しては、生きられないので「ノー」です。
遠山:ノー。「アートなしには生きられません」ということですね。どうしてですか?
長谷川:「人は」ということをテーマに持っているので。私は“キワモノ”と呼ばれやすいのですけれど、おとなしくてシャイな人間なので(笑)。シャイなところを払拭するようにピンクの服で来ている、というのを理解をしていただきたいと思います。
中野:みなさん、ここ笑うところですからね(笑)。
(会場笑)
長谷川:ちょっとアマゾン焼けしてるので、いっぱいファンデを塗って、なんかまだらになってますけど……。
遠山:おとといアマゾンから帰られたとか?
長谷川:はい、アマゾンへ行ってきました。「アマゾンにアートはあるか」というような話は、あとでさせていただければと思っています。
まず、動物などを見ていて思うことは、動物は「自分はなぜ生まれてきたんだろう?」と考えていません。人間だけが「どうして自分は生きてるんだろう?」とか「どうして生まれてきたんだろう?」と考えます。
それとあわせて、考えるということはもう1つ、ここにないものを想像する力が関わっています。想像力の部分です。
ですから、想像力があることと、「自分はどうして生きているんだろう」と思うという、生きることへの1つのクエスチョンを探し続けるのが、たぶん人間だと思うんですね。そこにアートがとても関わっています。
広い意味で文化と言い換えてもいいのかもしれません。ひと言でアートといっても、みなさんがとてもいろいろなものを想像されると思いますから。
長谷川:根源的なところまで戻ってみましょう。アートは、人工的に、ここにないものをどこかに描き出すという、模写なり想像したイメージで描くところから始まるという意味で、ちょっとこの画像を(ご覧ください)……。
このアルタミラは紀元前2万年前のもので、ラスコーよりもちょっとあとに描かれました。なぜこの洞窟の中に絵を描いたのかというところで、いろいろな議論があります。
狩猟の民族が見ていた世界をちょっとイメージしていただけますか。自分たちを守る空間としての家などがあるわけでなく、ほぼ同じ空間に動物がいて、それを捕まえていくという、日々の現在性、そのリアルのなかに生きているわけです。
目の前にバッと動物がやってきて、それを捕らえるわけですから、動物が死ぬと死体としてその全貌は見えるわけですけれども、そのものたちが風景の中で動いている姿など目ではとらえられない。
でも、それを1つの世界観として、「ここにバッファローがいて、ここにシカがいて」というものを絵に描いてみる。今何が起こるかわからないという世界を、世界観として絵に描いてみることで、世界を把握する。つまり、ある意味で恐れなどを克服するという考え方もあったんじゃないかと思うんです。
中野:いわゆる「メタ認知」ですね。
長谷川:そうですね。じゃあ、メタ認知の意味をもうちょっと詳しく説明していただきましょうか。
中野:メタ認知というのは、今自分が何を考えているのか、どういう状態でいるのかというのを、いわば「上方から冷静に把握する力」です。自分を客観的に見る能力と言ってもいいですね。
長谷川:そういう感じですね。だから、本当に見づらい洞窟内の天井の方に描いているわけです。普通に見やすい絵として描いてあるわけではないというところが、洞窟画の特徴的な部分なんです。
遠山:どういうことですか? 見やすいところや描きやすいところではなく、なぜ天井に描いたわけですか?
長谷川:それは、目的が「鑑賞する」ことではないからです。さっきお話ししたように、この世界を描くことによって、それを1つの宇宙観として、壁や天井に視覚的に展開することによって、「自分を取り巻く世界はこうなんだ」ということを確認していくことなんです。美術館の壁に絵を飾るようにして鑑賞しよう、ではないんですね。
中野:おそらく祭祀の意味もあったと思うんですよね。だから、手の届くところよりも、むしろアバーブ(上方)にあるという位置関係になって。
遠山:手の届かない場所。それってどうやって描くの?
中野:ラスコーの壁画なんかは、なんでもない人が描いていたわけじゃないらしいということが言われているんです。どうやら、約3万年前には、特別な絵師がいたようなんです。顔料なども、他の用途では用いられず、絵のために特別に作られていたりする。つまり、「なんとなく描いた落書き」ではないんですね。
実際に専門職がいて、その人たちが描いた特別なものが壁画として今も残っている。そのことが、端的に示されているというわけなんです。
遠山:どこかに下書きとかしてたんでしょうかね?
長谷川:いや、そんな余裕は(ないと思います)(笑)。
(会場笑)
長谷川:これは先々週見てきた初めてのリオのカーニバルで、本当にすごかったです。カーニバルの、サンバスクールと周辺の町内会の人たちが1年間準備をして、心血を注ぎ、めちゃくちゃお金を使ってやる。このパレードって、(1年に)1回だけなんですね。夜9時から朝の6時までやるんですけど……。
遠山:1日限り?
長谷川:2日に渡りますが、それぞれのサンバスクールのパフォーマンスは一度だけです。その1回が大事なんです。1年間のうち、これだけのことをやるという。道の両方に席があって、パレードをやるところは1キロぐらいなんですね。だからバーッと端から端まで行進して、ときどき止まって、お客さんがそれを見て盛り上がる、それで終わりという。
コンテストなので、1等賞を決めます。それぞれにスクールのサポーターが来て、自分が支持しているサンバスクールが出ると、ものすごい騒ぎになる。
(スライドを指して)この脇から水がダーッと出てるんですね。ここのインディアンのところから。衣装もすごい。いわゆる(日本の)祭りは、祇園祭りもそうですが、1年間かけて準備する。でも、1日でパッと終わる。
「ハレ」と「ケ」というのはありますよね。人はそういう日常から離れたカタルシスによって、自分をリセットして、また自分が新しく生まれ変わったり、感覚が浄化されたりして、次に行けるということがないといけない。
長谷川:生きていると、本当にいろんなことがあって、日々変化します。いいこともありますけれど、つらいこともたくさんあって混沌としている。リオのカーニバルにはそういう混沌も1回浄化していくという、精神の昇華作用みたいなものがある。
バタイユが言っていますが、非生産的な消費や、このようなバカげた豪華で贅沢な奢侈が、産業革命以前・近代化の前はしごく当たり前のように行われていた。
そのことによって、人々の精神や感情が昇華されていたり、救われていたりしたんだけれども、近代ではそのようなできごとがとても小さな規模になってしまった。
非生産的な消費を否定することで、わい小化してしまった人間の器とか生きる感覚、こういういろんなものを作り出していくときのダイナミズムがどんどん小さくなっていったと、バタイユは言っています。
最近その言葉がまた復活してきて、いろいろなところで言われています。役に立つ生産性ばかりを考えていることによって、なにか私たちが失ってしまったものがあるのではないか、というのが、バタイユの考えです。誰にでもお祭りの時のカタルシス感覚というのがあると思います。
中野:非常におもしろい話題ですね。今お話を聞いている中で、おもしろいポイントが3つほどあったんです。その都度お伝えしたいなぁと思いつつ、時間的には言語というのはシリアルに続いていくので、パラレルにお伝えできればなといつも思うんですが、言語をコミュニケーションのモダリティとして使わないといけない我々のジレンマというのが。伝わるかな(笑)。副音声でできればいいんですけどね。
(会場笑)
まず1つは時間感覚のことですね。例えば1年かけて準備するという何かがあったとする。例えば、受験勉強だったら3年とか5年とか。もっと長くかけて準備する場合もあります。オリンピックならば何年も前から招致のための下地作りもあり、開催が決まってからも何年もかけて準備したりするわけですよね。こういうことは、他の動物にはできない。
例えば、3年後に何かがあるよと決まったとしましょう。しかし、(動物は)「こういう大会があるよ」ということ自体を理解できないですよね。3年かけて準備して、段取りをして、「じゃあ、1年目はこれこれこれ」というふうに計画を立ててやっていくことは不可能です。
これを可能にするのは、人間の脳にある、前頭前野の外側の背外側部というところ。また、時間感覚を持つところは、実は側頭葉と頭頂葉の境目にあり、頭頂側頭接合部というところです。
この部分は非常に興味深い場所なんです。時間感覚と共に空間認知だったり、道具の使用やメタファーだったりということを同時に処理する。いわば“アートする”領域です。
私たちは、時間性のあるものを「美しいなぁ」と思ったり、なにか荘厳なものを感じたり、侵しがたいという感覚があったりするのは、そこが関係しているんだろうということは推測できます。
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