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わたしたち、どう生きればいいですか?~短命写真家と青年失業家が答える、公開人生相談~(全6記事)

田中泰延氏「自分の意見は両論を見れば決められる」 青年失業家と写真家が説く、世の中の見方

2019年11月19日、早稲田大学小野記念講堂にて、「わたしたち、どう生きればいいですか?~短命写真家と青年失業家が答える、公開人生相談~」が開催されました。写真家の幡野広志氏と青年失業家/Webライターの田中泰延氏が登壇し、20代の学生たちの人生相談に答えます。幡野氏は30代の若さでがんと向き合い、写真のみならず、SNSやWebサイトでの言葉が多くの人々の心を動かしています。また、著書『ぼくが子どものころ、ほしかった親になる。』『ぼくたちが選べなかったことを、選びなおすために。』も話題を集めています。田中氏は電通のコピーライター・CMプランナーとして24年間勤めたのち、映画評論やインタビューなどで人気を博し、初の著書『読みたいことを、書けばいい。』がベストセラーに。さまざまな人生経験を重ねてきた二人が、学生たちの悩みに真摯に耳を傾け、本音で答えます。最後は、会場の参加者から寄せられた、物事に影響を受けることの是非について語りました。

少子化は子どもの価値が上がる時代

田中泰延氏(以下、田中):自己肯定感の問題は難しいですね。

幡野広志氏(以下、幡野):いや、すごいですね。

田中:今、幡野さんが「時代」っておっしゃったけど。時代にすごく関係してるもんですかね。

幡野:僕は大きいと思いますね。時代とか、兄弟間とか、兄弟の数とか。

田中:あぁ、なるほど。

幡野:ベビーブーム的なものがあったわけじゃないですか。あのときって、兄弟の数が6人とか7人とか、当たり前にいたわけであって。実は、親が全員に愛情をもって接することができなかった世代なんですよ。一番上のお兄ちゃんが一番下の子の面倒をみるんですよ。だから子どもはほっといても育つ、という時代を具現化した時代がそこの層なんですけど。最初はそこが始まりかなっていう気が。

田中:なるほど。

幡野:世代感はかなり大きいですね。

田中:一人っ子か二人兄弟っていうところだと、ちょっと自己肯定感とかの問題が起きやすいのは確かですね。

幡野:そうです、間違いないですね。今は少子化で、むしろ子どもの価値が上がっているので。

田中:そうですよね。昔は10人兄弟とかいっぱいいましたもんね。

幡野:今は1人ちょっとですからね、1.4人ですから。

田中:1.4人の0.4人の立場は……と思いますけどね。

(会場笑)

幡野:そう言うとそうですね(笑)。

田中:どういう人なんだ、その0.4人、っていうね(笑)。

「一人しかいない自分」には値打ちがあると思ってほしい

幡野:でも今、若い子って価値が高いですよね。

田中:本当にそう。一人ひとりが大事に育てられてると思うんですけど、その中で肯定感を得られないっていうのはちょっと。

幡野:本来はすごく価値が高いのに、自分には価値がないと思っちゃっているわけですから。もったいないですよね。

田中:みなさん、本当に……自分は一人ですからね。値打ちがあると思っていただきたい。社会の中でいじめられることがあっても、家族にとっては値打ちがあるし。自分は自分にとって値打ちがあるはずですからね。

幡野:そうですね。

田中:それ、思ってほしいなぁ。もしどうしても肯定感が得られない方のところには僕が行って、「あなた以外はぜんぶアホじゃから!」って言いますからね。

(会場笑)

「明日学校行って、みんなバカにしたれぇ!」って言いますよ、僕が(笑)。

幡野:自己肯定感を上げるって大事ですよね。

「人に影響されすぎ」と友達に言われ、不安になってきました

田中:ねぇ。ということで、4人の方の質問を頂戴しました。ではお時間許す限り、お一方……今、矛盾したことを言ってしまいました(笑)。せっかくなので、お一方。会場の中でご質問のある方は挙手いただければ、マイクをぴゃっと渡してですね。

(会場挙手)

おっ! よろしくお願いいたします。

幡野:勇気がある。

田中:ありがとうございます。

質問者1:今までの方の相談とはちょっと違う感じになっちゃうかもしれないんですけど。就職とかそういう関係ではなくて。最近、「自分ってけっこう影響されやすい人間だな」っていうことがよくわかって。具体例を出すと、幡野さんの本を読んで「一人旅っていいな」と思って(笑)。

田中:いいじゃないですか。

質問者1:それで、一人旅に行ったりした、というところまではよかったんですけど。

幡野:「というところまではよかった」(笑)。

(会場笑)

大変なことがあったのかな……(笑)。

質問者1:それを友達に言ったら、(隣の)この子じゃないんですけど、「それはちょっと影響されすぎじゃない?」って。

幡野:(笑)。

質問者1:そういうのがずっと頭にあって。今の自分が思っている意見みたいなものって、本当に自分で思ったことなのかな、っていうのがどんどん不安になってきて。

田中・幡野:はぁー。

(会場笑)

世間を知るには影響を受けまくることが一番

質問者1:将来、悪い人に影響されちゃうんじゃないかとか。

(会場笑)

幡野:将来悪い人に影響されちゃう、そういうのもあるか(笑)。まぁそうだよね、いい人に影響されるのはいいけど、悪い人に影響されちゃう場合もあるもんね。でも、影響されるのってなにか悪いことですか? だって、人なんてみんな誰かしらに影響されてるんじゃない?

だって、僕も写真家なんて誰かの影響ですよ。誰かが写真を撮っていて、それを「うらやましいな」「カッコいいな」って思って、マネして始めているだけですし。影響はみんなが受けているんじゃない?

田中:俺なんか『アベンジャーズ』を見に行ったら、映画館を出るときはもうハルクの気分になっていますからね。

(会場笑)

幡野:そう、映画見たら影響を受けますよね(笑)。

田中:なるなる、ありますよ。自分が緑色に見えるもん。

(会場笑)

質問者1:映画で一ついいですか?

田中:はい。

質問者1:いい映画もあれば、悪いことを題材にしたものもあるじゃないですか。そういうのを見たあとにめっちゃ影響されちゃって、環境破壊だのが頭に回って。今までは悪いことかなと思っていたことが、映画とか小説を読んだあとに「いや別に悪くないんじゃないか」って思えてきちゃって。

幡野:あぁー。それは別にいいことなんじゃない? そういう作品を見て、思考が少し変わるわけでしょう。そういう作品をたくさん見て吸収して、それを自分の中で咀嚼すればいいだけだから。むしろそういう情報を何も入れないで、物事を「こうなんだ」って言っているほうが、たぶん世間一般で「世間知らず」と言うと思うんだけど。

世間を知るって、吸収することだし。それを自分の中でどう嚙み砕いてやるかだし。まさに一人旅なんて、体験しないとわからないことだから。本を読んだりしてわかった気にはなれないし、影響を受けまくることが一番いいと思うんですけど。

自分の意見を持つには、まったく違う意見を浴びればいい

田中:よく両論併記とか言うけど、両論併記してある映画や本はほとんどなくて、どちらかの論ですから。トレーニングとしては、毎朝、朝日新聞と産経新聞をとるだけでも、世の中の見方がぜんぜん違うってわかりますよ。

どっちかに影響されるのではなくて、朝日新聞の書いていることと産経新聞の書いていることは、同じ事実なのにまったく意見が違う。そういう意見を両方浴びれば、自分の意見がどのへんかというのは決められますよね。

1個だけ見て「すごい極端なの見た、私今、影響されてるかも」と思ったら、それと真逆っぽい本や映画を見に行くといいと思います。「地球温暖化がヤバい」っていう映画を見たら、「これは地球温暖化がヤバいんじゃないか」なんて思うけれども。

次に「地球温暖化はウソだ」という映画を見れば、自分の意見はどこかに落としどころが決まりますから。両論を見ましょう。

幡野:ね。やっぱりいろんな情報を吸収したほうが。

催涙ガスは、思わず嗅ぎたくなる「いい匂い」

幡野:ちょっと話が変わっちゃうんだけど、僕はこの間香港に行ってきたんですよ。香港って今、デモをすごくやっていて。僕が行ったときもやっぱりデモをやっていて、警察官によって目の前に催涙ガスが飛んできた。催涙ガス、吸ったことあります?

田中:ないです!

幡野:ないですよね(笑)。催涙ガスって、すっごくいい匂いがするんですよ。

田中:匂いたくなるような?

幡野:思わず嗅ぎたくなるような匂いがするんですよ。

田中:はぁー……!

幡野:それで、嗅いで10秒後ぐらいに、とてつもない痛みがくる。そういうのもやっぱり体験しないとわからないんだけど。

田中:初めて知りましたねぇ。

幡野:体験するっておもしろいことだらけで。でも、さすがに催涙ガスを吸えとは思わないんだけど。映画とか本を読むだけで、その体験の一部分が見られるわけだから。そういうのにどんどん触れていったほうがいいと思うんですよね。

田中:催涙ガス、いい匂いするんだ。

幡野:催涙ガスを作った人はすごく頭いいですよ。

田中:悪魔ですね。いい匂いだと思って吸って、ダメージ受けるんですね。

幡野:吸うと大変ですね。あれはよく考えてます。

足を引っ張る人よりも背中を押してくれる人と付き合おう

田中:悪い考えですね、それ(笑)。でも、こんなことでも、僕はまず話を聞いて「へぇー」と思うけど、実際に嗅いだ幡野さんとはぜんぜん違うわけだし。だから、経験することはすごく大事ですね。

僕らみんなでネパールに行ったんだけど。僕がずっと憧れていた、沢木耕太郎さんの『深夜特急』っていう本に、ネパールのカトマンズが出てくるんです。その本を読んだのが30年近く前で、そのときにずっと思っていたネパールと初めて行ったネパールは、ぜんぜん違った。僕の思っていた国とまったく違ったから、行かないとわからないこともいっぱいあるし。

でも、行かないままだったら、「ネパールはこんな国」って本で読んだ何ページかのまま、ずっと考えているから。それは見たほうがいいですね。

幡野:それね、たぶん「影響受けすぎ」って言った友達との付き合いをちょっと考えたほうがいいと思いますよ。

(会場笑)

だって、それはどう考えても悪い話じゃないから。

田中:そうそう。

幡野:たぶん君がそうやって経験を積んで、上に行くのがイヤだったんだろうね。その人、足を引っ張っちゃうタイプなんじゃない。

田中:あのね、これだけは言っておきたい!

(会場笑)

足を引っ張るような人がいるでしょ、付き合っちゃダメ!

幡野:足を引っ張る人とは付き合わないほうがいいよ(笑)。どう考えても背中を押してくれる人と付き合ったほうがいいよね。

田中:まぁ、いっぱい経験してください。

質問者:はい、ありがとうございました。

(会場拍手)

"今、悩んでいる気持ち"をちゃんと大事にしよう

田中:ということで、お時間いっぱいになってまいりまして。先ほどご質問をいただいた4人の学生さん、改めてステージのほうにお越しください。拍手でお迎えください。でも、なんだか笑顔がいいですね。僕らの話は、ちょっとは役に立ったでしょうか。

(質問者一同、うなずく)

まぁ「うん」としか言いようがないよな(笑)。

(会場笑)

なんか若干、斜めに頷いていましたけど(笑)。改めまして、今日は彼ら・彼女らが代表して質問してくれた部分もあると思います。同じような世代の悩みを抱えていると思いますし、僕らも今偉そうに言ってますけど、この世代のときには、僕らもそれは悩んでいましたから。

幡野:だから、いずれ悩みに答える側になると思うので。そのときに、「そんなことで悩んでるの?」というようなことを言わないように、今悩んでいる気持ちはちゃんと大事にしておいたほうがいいです。

田中:あのね、「そんなんで悩んでんの?」みたいなことを言う人はね!

(会場笑)

やっぱり付き合わないほうがいいですよ!

幡野:そう、自分が付き合いたい人になるというのは大事ですからね。

田中:ということで、幡野さん、本当にありがとうございました。みなさま、今日は大変お忙しい中、足元の悪い中……(笑)。

(会場笑)

いい天気(笑)。外に出たら降ってるかもしれないからね。本当にみなさん、ありがとうございました。

幡野:ありがとうございました。

(会場拍手)

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