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第3部 「鎌倉×熱海から見る 地域ビジネスのあり方」(全4記事)

観光客と住民“ごちゃ混ぜ状態”がカギ 観光地に学ぶ、まちづくりの成功条件

2019年9月5日、株式会社machimori主催で「熱海を通して地方を考える vol.3 『地域で仕事をつくる〜ローカルビジネスが個人のキャリアにどう繋がるか〜』」が開催されました。地域で仕事をつくりたい方のために、仕事を通してサードプレイス的に地方(熱海)を使うことについて語られた本イベント。第3部では、第2部までの登壇者3名に加えて、複業マッチングメディア「CIRCULATION LIFE」を運営する水野綾子氏が登壇しました。本記事では、地域のまちづくりで必要な方向性に関する考え方や、観光地ならではの特徴についてお届けします。

地域にプロの人材を呼べる感覚がなかった

市来:熱海市という立場から、長谷川さんからもう少しだけ事業者側の話をしてもらって、キャリアの話をしたいと思います。事業者側の話として、実際には、旅館、ホテルも含め人材不足という話があるわけじゃないですか。そういう面ではみなさん困っている。でもこの複業という、主に東京とかから人材を受け入れて、地域の企業とマッチングしていこうという動き。これは長谷川さんから、どういうふうに見えていますか?

長谷川:そうですね。本当に人手不足っていうのは、先ほどからお話に出ている「1人足りない、2人足りない」という話ではなくて。企業の仕組みを変えていくところからお手伝いいただく“プロ人材”を、そもそも熱海の企業さんが呼べる感覚がたぶんなかったと思うんですよね。

でも、昨年ビズリーチさんと連携した中で、300人の応募があった。これは行政としてできるレベルではなかったので、すごくうれしかったです。来ていただく方も、先ほどのキャリアの話ではないですけど、地方でキャリアアップしていただくのがすごくよかったです。

インタビュー(水野氏が運営する「CIRCULATION LIFE」)の中でも答えていますが、もっと言うと、ただ仕事で来るというよりは熱海を楽しんでもらいたいですし、熱海を生活の一部として取り扱ってくれるとうれしいなと思っていて。そういうやり方が熱海での働き方、働かせ方みたいなところに繋がるのかなと、すごく可能性を感じています。

市来:ありがとうございます。はい、では(会場のみなさんからの)質問も取り上げていきたいと思います。

おもしろい町は、新しい価値を生み出せる

市来:この「カヤックで……」という質問を聞きたいと思います。「柳澤さん、カヤックで行っている活動は非常におもしろかったです。ただ、生き残っていくおもしろい町が選ばれていくという“選定の時期”が最近あります。その点についてお考えがあれば聞いてみたいです」と。

柳澤:なるほど。人口が増え続けていれば、生き残る感覚ではなくて、どこが盛り上がるか、という言い方になるでしょう。人口が減っているから、生き残るという言い方にどうしてもなっちゃうんだけど。ここでは、一旦どっちも同じと捉えます。それで、基本的には流行り廃りがあると思うんですよ。

会社もやっぱり、200年経つとなくなることもあるわけだから、地域も一緒で。熱い地域と熱くない地域は、(熱い地域も)未来永劫っていう話ではなくて、必ず衰退があるわけですよね。その時に新しい価値を生み出せているところは単純に強い。

東京がなんでずっと今盛り上がっているのかというと、最先端だからですよね。もちろん、何も変わっていない町が「おもしろい」と観光地になることもある。けれども、それは感覚が一周しちゃって、「変わらないことが新しい」と思われる時代だからですよね。だからそういうことも含めて、やっぱり新しい町がよいと思います。

鎌倉がなんでおもしろいのかと考えると、東京の方がやってきて町に店を出して、一瞬で潰れて変わっていくという、常に新しくなっている要素もひとつあるんだろうなと。

(一同笑)

これはたぶん住まれている方じゃないとわからないとは思うのですが、鎌倉はすごく商売が難しい。観光客は、(昼間には)いるけど夜はまったくいない。

でも観光客も多く、新たな商売をしたい人もいるから、いろいろと新しい店ができては変わっていく。その変化は、住んでいる人からすると意外とおもしろい。ただ、やっぱり熱い地域と考えると、観光という観点からは、ある程度人が来ないとダメなんで。常に変わっているということは、やっぱり観光地なんだと思います。

境目がなくなってきているという話をしたように、観光客と市民が融合して住んでても楽しい、観光客も楽しい、かつ会社もある。職住近接、全部ごっちゃに入っているところが、基本的にはおもしろい町になるのではないかなと。

たぶん行政においても、今は観光課とか移住課とか縦割りだったりするのが、きっとどんどん一緒になっていくと思います。

なんでもかんでも新しければいいということではない

市来:その観点でありますか? 水野さん。選定されるという。

水野綾子氏(以下、水野):選定……。先日、長谷川さんの話をインタビューをさせていただいて、すごく印象的だったのが「熱海としてこういう人を応援します」と言い切ったというか、人を選んだところなんですよね。

企業側もよく、「誰でもいいから来てください」と言いがちなんです。けれども、「熱海の町としてこういう人を応援したい」「こういう人とこういった未来をつくっていきたい」と言うことは、すごいことだなと。

町、とくに市役所の方だと、“みんな平等に”となるんですけど。それを(こういう人と)言い切るところが、これからの町はけっこう必要なんじゃないかな? と、個人的にけっこう響いた部分です。

市来:そうですね。自治体によっては創業支援のプログラムとか、市民じゃないと応募できないこともあります。熱海市の場合は、市民か市民じゃないかじゃなくて、やるかやらないか、という考えが素晴らしいですね。

長谷川:「A-biz(熱海市チャレンジ応援センター)」も、熱海市内のご相談だけではなく、周辺地域とか東京の方からもご相談を受けていまして。熱海で何か挑戦してみたい方ですね。だから先ほどの水野さんの話で、「まんべんなく誰でも」という支援はしていないですね。何かやりたい、挑戦したい、と来てくれた方を徹底的に応援する。

市来:はい、ありがとうございます。あ、今の話の流れから来た質問を取り上げましょう。

「『新しいもの、新しいことがいいよね』という中で、ただ単純に『なんでもかんでも新しいことが得』という空気になってしまうと、雑多で別の文化を持った、GINZA SIXみたいなどこにでもあるでかいビルやショッピングモールに支配されて、つまらなくなっています。新しいことは、やり方によっては必ずしも得ばかりにならないと感じています」。

新しけりゃいいってもんじゃないだろう、みたいなところもあるんですけど、これについて何かありますか?

柳澤:最先端で勝負すると、おそらく都会に集中します。で、そこを目指していると同じような感じになってしまうんですよね。5Gとかが出てくると、最先端の教育だったり最先端のコンテンツが地方でも受けられるようになると思いますし。いわば町に住んでいる人が変化をしていないと、そもそもつまんない町になる。それが変化したら新しいことになるから。

その時の変化の方向が、町ごとに違った方がいいと思っていて。そこはやっぱり「GINZA SIXを地方につくる」という方向じゃないほうが……。

市来:まあ、それは新しくないですよね。

水野:(笑)。

柳澤:そうです。

市来:やっぱりそこの、田舎だからこそ出てくるものならではの独自性があるので、東京にあるものを持ってきたらまったく新しくない、ということなのではないかと感じます。

柳澤:同じメンバーと住んでいても変化がないから、観光客が来たり、いろんな人が混ざった方がおもしろいということですね。

町に生まれた新しいコンテンツが、今までの価値を消耗することもある

水野:最近の熱海の状況って……?

市来:いや最近ね、熱海には観光客がどんどん増えてきているので、お店もどんどん出店してくるんですけど。みんな海鮮丼屋なんですよ。

それではつまらない。結局それも、今まで築いてきたような価値をただ単に消耗していくというか。削り取っているだけなのか、新しい価値をつくるのかというもので、やっぱり町にできてくるコンテンツも二分されているなあと思っていて。

これ(新しいコンテンツ)ができたことによって、より新しい人が来るようになったりとか。周辺に真似されるようなものが出てくるのか、というのもあるし。ただ単純に、本当に観光客が来るから海鮮丼という(ものを選ぶ)のか、結局それでうまくいかないところもあるし、うまくいくところもあるし……。

観光地だからこそ、そういう変化はすごく激しい。それだけになっちゃうとつまらないので、僕らは住む人たちを癒やしていったり、観光ではない関わり方を増やしていこうとしている感じですかね。

あと、だんだん終わりの時間も気になってきているので。あと1つか2つ取り上げていきたいなと思うんですけど、いくつか出ているのが「2拠点みたいな話をしていますけど、ちょっとイメージがわかないんですけど」みたいな意見があって。「そもそも水野さんは、どういうスケジュールで日々生活しているんですか? Googleカレンダー公開してください」という質問もありましたけど。

(一同笑)

水野:Googleカレンダーは、ちょっと他の社員のものもあるのであれなんですけど……ぜんぜん個人ではお見せしますので。

一番いいのは、自分の好きなやり方で地域と関わること

市来:(スライドを指して)この辺にもありますけど、「新幹線は確かに早いけど、頻繁に行き来するのは現実問題、高コストだ」とか。都会になるとけっこう時間がかかる……熱海だと(東京から)2時間弱ですね、1時間40分ぐらいかな。新幹線だと品川まで40分ちょっとで。「コストが気にならないレベルで稼げないと、なかなか難しいような気がするのではないでしょうか?」みたいな。どうですか。

水野:逆に会社員の方のほうが、いろいろ補助もあるので、2拠点生活はやりやすいんじゃないかな? と個人的に思っていて。私もそうですし、夫は週5で通っていて、補助が出ていますね。私の知り合いの旦那さんは、全額出してもらっているところもあるので。

首都圏の仕事にぶら下がるというわけじゃなくて、先々どんなことをやりたいかというビジョンや思いを持った上で、通うのはぜんぜんありだと思うので。会社と相談するのもいい機会にはなると思います。

市来:それに関連するんですけど、さらに移住とか2拠点(生活)とかするような方々の特徴、年齢層、家族構成など、どんな人たちが多いのか。どういう動機でそういうふうに(移住を)しているのか、という。その辺は何かあります? 

水野:熱海市ってぜんぜん移住促進はしていなくて、「みなさん、自分の関わりたい濃度で好きに関わってくださいね」というスタンスなんです。でもやっぱり今、熱海市で何かしら変化が起こっていることに興味を持ってくれたり、自分自身も何か変化を起こしたいと考えてくれたりしている方々が、集まっている感じはしますね。

市来:そうですね。先ほどの話で言うと、毎日通うんだったら2拠点じゃなくて、移住のほうがいいかもしれないですけど。そもそも毎日通うのはしんどいかもしれないけど、月に1回行けばいいんじゃないの? とか。そうなると、月に1回通うのに不動産持つのはどうなの? 別に持たなくていいんじゃないの? という考え方もありますし。

そういう意味で言うと、別に週に1回とか2回来るんだったら東海道線とか……新宿からだと小田急に乗れば1,300円ぐらいで来られるんですよね、熱海って。やれる範囲でやっていったらいいんじゃないかな、とは思います。そういうのも含め、なんかいろんなやり方はあるのかな、と思ったりもします。

はい。ということで、だんだんお時間もなくなってきたので、ここまでのまとめに入っていきます。ここまでの話を受けて、一言ずつメッセージをもらってこのセッションを終わりつつ。このあと、熱海市と僕らでこれから取り組みをしようと思っていることについて、ご紹介だけさせてもらえたらと思います。

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