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【第3回】「盛り」サミット《MORI3.0》(全7記事)

女の子の「盛り」文化、25年の歴史を紐解く 彼女たちが表現したい世界観のつながりは国境を越える

2019年6月7日、スパイラルにて「『盛り』の誕生 ー女の子のビジュアルとテクノロジーの平成史ー 【第3回】『盛り』サミット《MORI 3.0》」が開催されました。平成の時代に現れた女の子たちが表現してきた、大人には理解できない不可解なビジュアル。90年代以降に発達したデジタルテクノロジーの力を得て、今なお変化し続けるビジュアルコミュニケーション「盛り」の変遷から、消費行動のカギを握る女の子たちの意識を探ります。第3回となる今回は、2010年代後半から始まった、SNSを通じて国境を越え、表現したい世界観でつながる《MORI 3.0》の時代に焦点を当て、最前線で活躍するゲストたちがディスカッションを行いました。本記事では、モデレーターを務めたメディア環境学博士 久保友香氏による、イベント趣旨についての解説の模様をお送りします。

日本文化の特徴を数値化することで、その美意識の謎を解く

久保友香氏:それでは始めさせていただきます。よろしくお願いします。『「盛り」の誕生、女の子のヴィジュアルとテクノロジーの平成史』ということで、3回の連続講座をおこなってきまして、今日が最後の3回目となります。

このたびのテーマは「盛りサミット」としまして、もーちぃさん、静電場朔さん、ギャル電のまおさんと私の4人で進めてまいります。

まず、簡単に私から自己紹介と、この講座がどういったものなのかということについてのお話しをしてから、ゆっくりとみなさまのご紹介をさせていただきますね。

まず私ですが、久保友香と申します。研究者をしております。もうだいぶ前になりますが、2006年にメディア環境学という分野で博士号をとっております。

小さい頃から文字や言葉を使うことがすごく苦手だったのですが、数字だけは得意だったので理系に進みました。

一方で「日本の文化が好きだ」ということもあって、「日本人の美意識ってなんだろう」といったことにすごく興味がありました。そうした日本人の、また日本文化の特徴を数字で解明できないかという目標を掲げて研究者をやってきました。

学生の頃に注目していたのは、日本の絵画です。日本での絵画は写実的に描きません。デフォルメしているという特徴があります。そのデフォルメ具合を数字に変えることができれば、そこから日本人の美意識が明らかにされるのではないかということで注目をしていました。

とくに江戸時代の終わり頃の浮世絵というのは、透視図法が伝来していたにもかかわらず、透視図法に従わずに描かれています。その透視図法に従わない具合の法則を見出して、それをコンピューターで再現できるようなプログラムを作る、ということをしました。

そのあとに注目したのが、日本の美人画だったのですが、美人画の顔というのも写実的に描かれずにデフォルメされています。その特徴をやはり数字で分析して、それをコンピューターで描くプログラムを作るということをやっていました。

デフォルメの研究から、「盛り」文化の研究へシフト

そのように、もともと歴史の資料に注目しがちだったのですが、見ているうちにそれが「現代にも引き継がれているところがあるな」ということに気がつきました。例えば、それまでみていた美人画で「寛政三美人」などは、素人目では3人の顔はそっくりに見えるんです。

人間の顔は、本当は生物として多様性があるはずなので、そのままであればいろんな顔をしているはずなんですが、こうやってそっくりに描かれているということは、何かしら人工的に加工をしている、つまりデフォルメをしているんだということがわかります。

だけれども、よく見てみると現代の女の子も「あれ、そっくりだな?」と思いました。現代の女の子もデフォルメをしているんじゃないかと思ったときに、つまり、これは女の子たちが人に顔を見せるときに、そのままの顔ではなく、加工してそっくりになるという文化が日本にはあるのではないかということに気付き、そこに注目しようと思ったんです。

しかも、よく聞いてみると女の子たちは、そのデフォルメを「盛る」と呼んでいることに気づいて、それから日本の絵画のデフォルメの研究を、現代の女の子の「盛り」の研究へと発展させたのです。

そして今回、「盛り」をテーマにこの本を書くに至りました。この4月に出版したのですが(著書『「盛り」の誕生』)、この本はなにを書いているのかというと、日本の女の子の盛りの25年間の歴史について書いています。

25年間でなにがあったのかというと、例えば昔、渋谷に肌を黒くして髪の色を脱色したギャルと呼ばれるような女の子が現れて、それがさらに過激になったヤマンバ・マンバのような子も出てきたりしました。

それから、プリクラですごくデカ目に加工するということがあったり、最近では写真で映えたいために、美味しくもないようなものを食べる、むしろそれを食べにわざわざ出かけるというような、インスタ映えのようなものが流行ったり。それらはみんな美しくなりたいためのものとは違うけれども、なぜか女の子たちはやる。

いったいどうしてやるのだろう? みなさんはなぜだと思いますか。それに対する私なりの答えをこの本では書いています。今日も売っておりますので、よろしければ手にとっていただければうれしいです。

「盛り」文化、25年の歴史を紐解く

この講座ですが、その本から発生したような内容になっています。この本でも、「盛り」の25年間の歴史を大きく、MORI1.0、MORI2.0、MORI3.0という3つに分けています。この講座では、MORI1.0、MORI2.0、MORI3.0、それぞれに焦点を当てて、そこで起きた現象を深掘りするというようなことをやっています。

この3期をどう分けているのかですが、まず「盛り」というのは女の子たちのビジュアルコミュニケーションだと考えています。ですから、コミュニケーションの技術が変われば、女の子たちの「盛り」も変わると考えています。

3期の区切りは「盛り」の革新でもあるのですが、技術革新でもあります。最初のMORI1.0。この講座の第1回で取り上げたMORI1.0というのは1990年代半ば以降で、ポケベルが普及して、普通の一般の高校生がデジタルコミュニケーションを始めた時期です。

それからプリクラも出てきました。プリクラというのは、同じ顔が何枚もデジタルのプリントで印刷されるので、それを分けたり、交換もしました。プリ帳というものをみなさん作って、そこに貼り、それを持ち歩いて見せ合ったりもしますから、普通の女の子の顔が知らない人にまで伝わるということが起きたときでもあります。

とはいえ、そうしたバーチャルなコミュニケーションが生まれつつも、やはり拠点は街でした。その頃は「全身で街でも目立つような盛り」をしていました。

そして、第2回で取り上げたMORI2.0は、2000年代半ば。その頃になると、みんながガラケーを持っていて、それと共にインターネット上のコミュニケーションサービスもいろいろと出てきています。

例えば、女の子向けのブログというものがすごく流行ったのですが、そうなると全国の女の子がつながって、「写真を使ったビジュアルコミニケーション」がすごく盛んになるということがありました。そうした中で、すごく目を大きくするデカ目のプリクラの写真や、自撮りの写真などを見せ合うことが盛んになりました。

そして、今回注目しているのが、2010年代半ば頃からのMORI3.0。誰もがスマートフォンを持ってSNSでコミュニケーションを始めるようになった頃です。

とくに女の子の中で流行ったのは、ビジュアルコミュニケーションに特化したInstagram。今でもかなり使われてはいますが、顔だけで盛るということよりは、顔とお洋服とどんな小物を持ってどんなロケーションで……というような、「シーン全体で盛る」というようなことが始まります。

今日はそのあたりを注目するんですが、この時代に、とくに特徴的だと私が思っているのは、SNSを通じて、国内だけではなくて、世界ともこうしたコミュニケーションが始まっているということがすごいと思っています。

「表現したい世界観」のによるつながりは国境を越える

私が最初に、そのあたりのことにすごく気付かされたのは、ちょうどここにいらっしゃるもーちぃさんのお話を聞いたときです。どうも、もーちぃさんのお話を聞くと、オルチャンメイクをしている女の子たちというのは、日本の女の子も韓国の女の子も中国の女の子もいるようなのです。

しかし、もともとの顔も似ているし、同じメイクをしているからか、これは私のような大人だけかもしれませんが、本当に見分けがつかないのです。

そのくらい、国境なども越えて、みなさんメイクやファッションの交流をしている。それはビジュアルコミュニケーションだからということもありますが、でもそこに添えている言葉も、Google翻訳などを使うことで言葉の壁すらも超えてしまっているわけです。

これはなかなかすごいことだと思います。Instagramをがんばっているいろんな女の子に、そこで一体なにをがんばっているのかと聞くと、「自分の持っている世界観を表現したい」というようなことを言います。世界観という言葉を使うことが多いと思うのですが、あっていますか? そこで同じ世界観を持っている人たちは、必ずしも近くにはいないだろうと考えているようです。

けれども、Instagramで世界に向けて発信すれば、どこかに自分と近い世界観を持っている人がいるだろうと考えて発信して、本当に仲間を作ってつながっていたりするようなんです。

そうなると、実際の国よりも、同じ世界観でつながる国のような、バーチャルでそうした共同体を作り出しているような感じがあって、ここにちょっと未来のインターネット社会を予見するものがあるんじゃないかと私は思っています。

若い女性たちが切り拓くビジュアルコミュニケーションの世界

今までも、こうしたビジュアルコミュニケーションの分野においては、最初に若い女の子がやり始めたものが広がるということがかなりあるんです。絵文字にしても、自撮りにしても、最初は女の子たちだけがやっていて、大人たちがバカにするようなこともありました。

「誰かと何かでつながっていたい、でも面倒くさいことは嫌だ」という中で、女の子たちがポンポンと簡単にやれちゃうビジュアルコミュニケーションが、あとあとになってかなり広がることがあります。

そう考えると、今の女の子たちがやっていることは、やはり今後、広がっていく可能性が大いにあるので、今日あらためてそれを探ってみたいということに至りました。

本日お呼びした方々は、そういったことをとくに意識もなくやられていると思いますが、本当にもうすでに国を超えて、国という壁を超えて文化の交流をいろんな他国の情報を集めながらやっていらした方です。

静電場朔(せいでんば・さく)さんはもともと中国のご出身ではありますが、中国にいるときから日本のメイクやファッションをされていました。

まおさんは日本出身ですが、日本人とタイ人のハーフで、学生時代はタイでお過ごしになっています。でも、タイで日本のギャル文化をかなり貫いていらっしゃいました。

もーちぃさんは、日本生まれの日本人なのですが、コリアンタウンの新大久保で育ち、韓国のカルチャーにすごくお詳しくていらっしゃいます。

このようにみなさん国の壁を超えていらっしゃる方々なので、どうやって若い女の子たちが文化の交流をやっているのかというところを具体的にお聞きしていきたいと思っています。

すいません。長くなってしまいましたが、まずはどんな方なのか、どんな活動をしている方なのかについての自己紹介という感じで順番にお話をお聞きしようと思います。

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