
2025.02.18
AIが「嘘のデータ」を返してしまう アルペンが生成AI導入で味わった失敗と、その教訓
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ローブリー・ロス氏(以下、ローブリー):浜田さん。5年後、日本のメディアはどうなっていると思いますか?
浜田敬子氏(以下、浜田):5年後。楽観論と悲観論が混在しているような感覚を持っています。先ほど瀬尾さんが「新しいジャーナリズムの手法はなかなか生まれなかった」とおっしゃっていましたね。私たちは2年前に新しいメディアを立ち上げて、まさに今、表現方法を非常に模索しています。
一方ですごく楽観視しているのは、「新しいジャーナリズムの手法」というのはまだまだ確立していないですけれども、「新しい読者」を開拓できたというところには、ちょっと自信があります。
私、実は朝日新聞社で『AERA』という紙の雑誌を17年間やってきましたが、どんどん読者が高齢化していきました。1988年の創刊当時は大学生が一番読んでいた雑誌でしたが、当然、読者は雑誌とともに歳をとり、自身が雑誌の編集長になったときには40代前半が主要読者でした。どんなに若い人に向けたニュース、就活の話などをやっても、なかなか紙の雑誌で新しい人を取り込むというのはやっぱり難しくて。
そういうわけで、実は「若い人は硬派なニュースを読まないんじゃないか?」って思っていましたが、「10年前(2009年)に始まったBusiness Insiderという、アメリカで非常にミレニアル世代を捉えている経済メディアが日本に来るから、編集長をやらないか?」というお話をいただいたときに、一番確かめてみたかったのは「本当に若い人はニュースを読まないのか?」ということでした。
結果、国際ニュース、経済ニュース、テクノロジーのニュース。今日の朝、「パナソニックがHuaweiとの取引を中止した」というのを日本で出したら、中国でものすごく炎上して、中国パナソニックは緊急声明を出しました。
中国人のジャーナリストが書いたのですが、このようにわりと硬派なニュースをやっていて、そういうニュースが朝からものすごくSmartNewsで読まれています。読者を分析すると、3分の2がミレニアル世代。しかも3割が女性。「女性は経済ニュースを読まない。政治ニュースを読まない」というのが、ぜんぜん違うんだとわかります。
浜田:要は、私たちが持っていなかったディストリビューションを手に入れたことで、スマートフォンを通じて、内容的にはそれほど『AERA』と変わらないような硬派なニュースだけれども、ちゃんと読まれるということ。そこにわりと自信があるんですね。
もちろん、すごく気をつけていることもあります。ミレニアル世代の人たちに読ませるため、文章・テキストの長さとか、写真を多くするとか、文体の問題とか、誰を主役に書くのかということです。
例えば、上司世代を主役に書くのか、ミレニアル世代を主役に書くのかというので、働き方の文脈はぜんぜん違ってきます。その辺を意識しているのですが、決して(若い世代に)「ニュースが届かない」というわけではないということで、自信を持っています。
もう2つくらい自信のあることがあります。先日、Huaweiの任(正非)CEOのインタビューの共同取材があったのですが、そこに朝日新聞や日本経済新聞とかの立派なレガシーメディアとともに選ばれたネットメディアが、NewsPicksとうち(Business Insider Japan)だったんです。
やっぱり、取材先が変わってきている。私が2年前にこのメディアに来たときは、日本のメガバンクさんや商社は、「なんだそのメディアは? ぜんぜん知らない!」って言って、まったく取材も受けていただけなかった。それがやっぱり、きちんとしたコンテンツを出していけば、取材先も変わってきます。読者も変わってきています。
そういう中で、実はクライアントさんも変わってきていて、去年くらいからスポンサーの数も堅調になってきているのは、「メディアの価値」というのが、今「規模」ではなくて「どういう読者を抱えているか」になっているからです。
うちは(ターゲットの読者層が)ミレニアル世代のビジネスパーソンでわりとクリアなので、そこにアプローチしたいクライアントさんが来ますね。決してうちはPVは大きくないです。でも、そこにアプローチしたいクライアントさんからは確実にオファーが来ています。そういうことで、「メディアの価値」は「規模」じゃなく「読者」になってきているのを実感しています。
浜田:ただ、一方で私たちが戦えるのは局所戦なんです。十数人しかいない編集部でできることは、かなり戦略的に分野を絞っているからできることで、これが日本のジャーナリズムを支えられるかというと規模的に絶対に無理なんです。
例えば、政治のあの記者クラブの中に誰も記者を送り込めていないんです。なので、そういった伝統的な取材手法を取っている中では、なかなか私たちがやれることには限界がある。だからこそ、レガシーメディアに絶対にがんばってほしいという思いがあります。
やっぱり日経さんとかの報道には敵わないところが多いわけですよ。だからニッチなところを突いてやっているわけですけれども、日経さんであれ朝日であれ、こういったところはある程度の記者を抱えた、ある種の装置産業なので、全国に支局網があって、ちゃんと地方のニュースも拾いに行けるメディアがどうやったら生き残れるかということが重要です。
私の古巣の朝日にはすごくがんばってほしいと思うのですが、一方で先日の朝日新聞の決算会見を見ると、毎年100億円くらいずつ売上が減ってきていて、びっくりしたのが部数です。ちょっと前まで朝日新聞は800万部くらいだったのが、500万部くらいになっている。
私の先輩で同僚記者がFacebookに書いていたのですが、黒字の部分というのは新聞業、不動産、デジタル、企画本です。ただ、今、朝日新聞が新しく多角化経営をやっていく中で、いわゆるバーティカルメディアなどの新しい分野で赤字が出ているんですね。これをどう捉えるかだと思うんですよ。その人は新聞で王道のジャーナリズムをやっていたので、「こんな多角化するからよくないんだ。本業に集中した方がいいんだ!」という意見だったんですけれどもね。
やはり「イノベーションのジレンマ」というか、本業で稼いでいる間に、いかに次のマネタイズを考えていくかということですね。そうではないもう1つの考え方としては、「いや、本業に集中するんだ!」という考え方もあると思うんですが、そうやって余分なものを落としていって、コンテンツ集団として生き残るのか。
とくに、レガシーメディアがどちらに向かうのかが、私は外に出てみて非常に気になります。ここがやっぱりしっかりしていてほしい。だけどちょっと、悲観的なこともあります。
浜田:メディアの世界が変わるということは、さっき瀬尾さんもおっしゃっていましたが、新しい人が入ってくることによってだと思うんです。今までメディア業界でやっていなかった人が入ってくるのもそうだと思うんですが、アメリカだとメディアの中でも、1回BuzzFeedにいた方がNY Timesに戻るとか、ものすごく出入りがあるんですね。
それに対して日本はやっぱり、私のようにレガシーメディアから外に出てからの出戻りというのがぜんぜんないわけです。どこの会社もみんな純血主義で、発想がその会社の中だけの発想になっている。そういうのが5年前から変わらないし、5年後も大きく変わらないのではないかと思うんです。
この前、新聞労連(日本新聞労働組合連合)の方と話していたときに、私が戻りたいという意味ではないんですが「外に出た朝日の若い記者がどんどんデジタルメディアに出ているので、朝日新聞に戻せばおもしろいことができると思うんですよ」と言ったら、「いやいや、浜田さん。実は抵抗しているのは組合なんですよ」と言われました。抵抗しているのが経営層じゃなくて、むしろ組合なんだって(笑)。
中で働いている人たちの意識からすると、(出戻りを受け入れたら)その人たちが結局、ポンと自分より上のポストにくるわけです。それが許せない。そういうことが、どこの日本の大企業にでも起きています。メガバンクもそうだし、官僚の世界もそうです。
メディアに限らず日本の産業は停滞していて、人材の流動性がないと言われますが、今のメディアの世界にも同じことが起きている。これが、ダイナミックに出たり入ったりができると、いろんなスキルとか人脈を持っている人が動き回る。そうすると絶対、何かおもしろいことができるんじゃないかなという気はします。
ローブリー:心強い。
(一同笑)
ローブリー:今、Business Insiderの話をされましたが、メディアとして非常にパーソナライズ化している気がします。読者というよりも、1つのコミュニティに対して、そのコミュニティのニーズに、より近いかたちで答えていますね。アメリカのメディアの中でも、メディアのパーソナライズ化が進んでいると言われています。そう考えると、「マス」のメディアというのはもう限界ということになりますかね?
浜田:いや、絶対「マス」は大丈夫だと思います(笑)。私自身も20代、30代の読者に向けて、彼らに口当たりのいいニュースだけを出しているわけではなくて、本当に彼らが必要としているキャリアとか働き方のニュースを出しながら、そこに米中冷戦の話とか、沖縄の基地問題のことも入れているんです。けれども、やっぱりもうちょっと大きな視点のメディアが必要だと思っています。
例えば、朝日新聞が読者ターゲットを「マス」にしているかというと、実は知らず知らずのうちにターゲットメディアになっていって、高齢者が読んでいるメディアになっていると思うんです。
そういうときに、高齢者に対する情報が多いなとか、当然広告も全部そういうふうになってきている。マス(メディア)と言いながら、実はターゲットメディアに近くなっていっているのではないかという危惧があります。もう少しターゲットを広く持つようなメディアが必要なのかなと思います。
瀬尾傑氏(以下、瀬尾):率直に言って新聞社って、今の新聞紙を配るかたちでのマスメディアとしては、もう難しいですよね。やっぱりいろいろ見ていると、テレビはすごく影響力がある。インターネットの次、最後のマスメディアかなと思っているんです。テレビも、収益に苦しんでいると言われるところが多いんですけれども、見ているとテレビの広告ってもっと高く売れるんじゃないかなと思うところがたくさんあるんですよね。
テレビ局では昔ながらの時間売りのような、「ゴールデンタイムがいくら」とか「視聴率がなんぼだからいくら」みたいな売り方がされているところがあるんですけれども、結局そういうことをやっているから、視聴率競争みたいなところで結果的に安く売ってしまっているわけです。
ところが実際は、例えばベンチャー企業なんかでも、ニュースアプリもそうですし、SmartNewsもそうですけれども、CMをけっこうやっていますよね。あれは明らかに影響力があるからなんです。でも、一通り視聴率の高そうな時間にバンバン流しているわけではないんです。
これはSmartNewsの事例ではなく、他社さんの事例ですが、そういうCMを流す時に、まず、広告費の安い地方局で試してみるんです。そうするとアプリだと、検索されたかどうか、実際にダウンロードされたかどうかが、リアルタイムでわかるわけです。
効果がそれぞれでわかるので、どの時間がいいかとか、どんどん細かく言えば女性向けの番組がいいのか、さらにどのタレントが出ているといいのかということがわかってくるわけです。
そうやって試してみて、効果が一番高いと思われるキー局の時間帯にCMを打つ。あるいは、キー局の深夜枠でも、実はこのタレントが出ていたらすごく影響力があるのでここにCMを打つ、といったことができるわけです。
そういう意味で言ったら、実はもっと高く価値を見積もっていけば、効果測定と合わせてテレビの広告を売れるわけですが、残念ながら、テレビ局はまだデータドライブされた売り方をしていないんですよね。
マスメディアとしてはすごくもったいない。まだ安売りをしている感じがする。今、地方のテレビ局も苦しいと言われているけれども、とはいえクライアントがいないという苦しさがあっても、視聴率はそれなりの番組がある。認知もされている。地元での信頼関係もある。そういうのを活かせれば、もっともっとビジネスができるんだろうなという感じがするんですよね。だからそこはすごくもったいないなと思います。
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