2024.10.21
お互い疑心暗鬼になりがちな、経営企画と事業部の壁 組織に「分断」が生まれる要因と打開策
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菅野久美子氏(以下、菅野):そうですね。本で取り上げた孤独死した男性の事例でも、教育的虐待を受けていたせいで、本人はすごくモテていたらしいんですけれど、親の影響で内向的な性格になり、女性と付き合うこともできずに……。
宮台真司氏(以下、宮台):ああ、あの英語ぺらぺらの男ですね。
菅野:そう、英語ぺらぺらの(笑)。鹿児島の、仮名大介さんなんです。大介さんは、厳格な親の元で育って恋愛も億劫になり、一部上場企業には勤めてシカゴ支店にも栄転するほどの花形だったのですが、上司のパワハラでつまづいて、退職してそこから家に引きこもるようになっていたんです。部屋の中には、大好きなヘビメタのCDが異様なほどに積んでありました……。
私も彼が亡くなった現場に行きましたが、まるで、彼の心の壁を築いているようなすさまじい量で驚きました。彼には妹さんがいらっしゃるのですが、亡くなる数ヶ月前に、何十年振りにお兄さんに再会していたんです。
奥山晶二郎氏(以下、奥山):菅野さん、宮台さんのお話を踏まえて、彼が妹さんに心を開いたという場面は、どこが鍵になったと思われましたか?
菅野:家族の中でも、唯一妹さんだけが、自分の味方だった。大介さんは、親からもすごく期待されて地元の国立大学に進学した。私が大介さんの部屋に行った時も、東日本大震災で食料がなくなったのが恐怖感につながったみたいで、家にカレールーなどをタワーみたいに(山積みに)していました。米俵とかもすごい数があった。カビだらけで、異様なというか、すごいモノ屋敷でした。
妹さんが何十年振りにたまたま連絡して「ちょっと兄の家に行かないとまずいかも」というので行ったら、「まさかこんなことになっているとは」と、びっくりするんですよね。久々に再会した兄は、服も臭いし歯も全部なくて、まるで老人のようだった。そんなお兄さんの惨状を知って、立て直していこうという矢先に、去年の熱中症で亡くなってしまった。
宮台:大介さんはエリート社員で、若いときはモテていた。でも、彼が育った家族を見ると、親が子どもをコントロールする「文化」に支配されていた。これは僕もたくさん目撃してきたケースです。ただし女ですがね。ということは、男女の区別なく、同じことが起こるということです。
僕は、コントロールの反対にフュージョンがあると思っていて、コントロール系、フュージョン系という言葉を使っています。誰だって人間関係をコントロールしようとする場面はあります。だから、そうじゃない場面を作れるかどうかがポイントです。さっきの「委ねる」ということも、フュージョンすることです。フュージョンの享楽を知っていれば、委ねることができます。昭和の時代に青春を送った人であれば、多かれ少なかれそれを知っているはずです。
でも、たとえ昭和に育っても、コントロールによって全面的に翻弄されてきた男は、コントロール以外のコミュニケーションの仕方が分からなくなるんです。そこから2つのことが分かります。第一は、母親にコントロールされてきた男は、女をコントロールすることでリベンジを図ろうとしがちであること。第二は、そうは言っても、よほどやり方を知っていないと、人をコントロールすることなんかできないということ。
だから、「恋愛=コントロール」だと思っている男は、結局は相手をコントロールしきれないので、恋愛が面倒くさくなっちゃうんです。デートをしても、相手をコントロールしきれないので、面倒くさいと感じちゃう。コンロールしきろうという発想自体がクズだとは思うんだけれど、彼らが悪くてそうなったわけではない。
「コントロールなんかしきれないので、もう女はいいです」「ばーか、コントロールなんかしねーんだよ」という感じですが、そんな当たり前のことを家族の中で学ぶことができなかった男は、フュージョンができないから、自分を委ねられないんですね。
大介さんみたいなタイプの人は、ワークショップを通じて多数見てきました。イケメンだし、スタイルもいいし、才能もあるし、モテる要素がいっぱいあるのに、心の働き方に問題を抱えているわけです。だから、周りが被害を受けるんですね。
菅野:そうですね。お部屋も被害を受けていますね(笑)。
奥山:ちょっとお時間が割といい感じになってきたので、とりあえず締め的な。だいたいあと10分弱くらいでこのテーマをお話いただいて、質疑ができたらなと思っています。最後、特に締める必要もないんですが、締め的な……。
宮台:締めないと、夜中までやるのはきついですよね。
(会場笑)
奥山:これは多分、永遠に語り尽くせないテーマだと思いつつ、あえて孤独死前提の社会みたいな課題、仮テーマを挙げた場合に、先ほどの「委ねる」「フュージョン」というところが1つキーワードになってくると思いました。「委ねるという扉を開けてもらうためには、喫緊でなにかできることはあるのか。あるいは中長期的なスパンだったらなにかできることはあるのか」 は、どうお考えですか?
宮台:僕が恋愛ワークショップをやめて、親業ワークショップに一本化した理由は、現実的な処方箋がそれしかないと思ったからです。つまり、歩留まりが悪すぎるんです。確かに、毎週1回会って、2年も3年も付き合うことができるならば、僕にもかなりのことができるだろうという自信があります。しかし、いまどき社会人を相手にして、そんな関係性を作れないでしょう。
そうすると、現実的なのは、親が子どもを育てるプロセスに介入することです。つまり、親に子を支配させないという方向で、親をコントロールする実践です。拙著『ウンコのおじさん』でも書きましたが、「あなたがたはすでに劣化した親なので、あなたがたが子どもたちを抱え込んだら、あなたがた以上に劣化した子どもたちができあがります。だから、子どもを抱え込まず、親以外のまともな大人に預けて、委ねてください」ということです。
親以外のまともな大人が「ウンコのおじさん」です。そう呼ぶ理由は本を読んでいただくとして、ウンコのおじさんには2つを期待したいのです。第一に、子どもと一緒に森で遊ぶこと。森で爬虫類や昆虫や魚類と戯れることは絶対必要です。すべての理由を話す時間はありません。
1つだけ言います。目が合うか合わないかで愛の強さが変わることを学べます。バッタは目が合わないけれど、カマキリは目が合うでしょう。だから、カマキリがバッタを食っても、バッタをかわいそうがらないんです。カマキリは目が合うから、名前までつけちゃう。その事実を子どもに気づかせる。
すると、目が合うことが絆にとって大切だと学べます。たくさんの中の1つの例に過ぎないけど、それを含めて森に連れていって、昔から人がしてきた体験をさせてくれるような「ウンコのおじさん」に子どもを委ねることです。子どもは「言葉の外で、法の外で、つながれる人間」に育ちます。
第二に、昔のコンテンツ。今のように劣化したコンテンツじゃなくて、60年代のコンテンツ。これらは勧善懲悪ではありません。悪にも理由があるし、善はほとんどが偽善なのだ、と教えてくれます。
『ジャングル大帝』も、悪いのは猛獣ではなく人間。『ゲゲゲの鬼太郎』も、悪いのは妖怪ではなく人間。『ウルトラマン』でも、悪いのは怪獣ではなく人間。そういうコンテンツを3歳から順序立てて見せると、小学校に入るまでに勧善懲悪が嫌いになります。ウヨ豚や糞フェミみたいに、敵味方図式にはまるクズにはなりません。
でも、それは親にはできない。すでに劣化していて資質を失っているからです。だったら、子どもを資質がある大人に委ねるんです。僕に委ねてくれたら、手で虫や爬虫類をとる名人だから、森にも連れていくし、コンテンツ研究は僕の仕事ですから、最良のコンテンツも見せられます。
でも、個人が抱え込むのは数に限界があるから、将来的にはITも使って、親がなにをすればいいのか、誰に委ねればいいのかを、劣化を自覚する親に提示できればいいなと思います。
奥山:その辺は、菅野さんはあらゆる現場を見てきた中でどう思われますか。
菅野:「委ねる」のはキーワードかなと思いました。特に大介さんは、最後に妹さんが接触して、何十年ぶりに求職活動をしたり、保険証を復活したり、崩れ落ちたお兄さんのことを必死になだめすかしながら、なんとか生活を立て直そうとしているところにどんどん心を開いてきたところがあるので……。
宮台:ある意味で生き返ったんですよね?
菅野:そうなんですよね。去年は本当に暑かったので、恐らく大介さんは、熱中症で亡くなってしまった。正確には、遺体の腐敗が進んでしまって、不詳の病死でした。去年の夏は、孤独死も非常に多くて、業者さんもひっきりなしに動いたんです。
その中でも大介さんのケースは、無念というか、残念でした。でも、大介さんは、最後は、妹さんに心を開くことができたのでまだ幸せだった例かもしれません。孤独死する人のほとんどが、その前で崩れ落ちてしまっているので。委ねるって大事ですね。
奥山:大事ですよね(笑)。
菅野:大事ですね、という結論で終わってしまった(笑)。
宮台:70年代や80年代のディスコと違って、80年代末からのクラブでは踊りの上手い下手って関係なくて、単に場を共有してつながるのが大事でした。街やクラブも「森」でした。森では、そこにいる誰もが「同じ森」の中にいるという感覚を抱きます。自分が蛇が恐ければ、みんなにとっても恐いと思える。女郎蜘蛛の巣を美しいと感じれば、みんなにとっても美しいと思える。共同身体性と共通感覚です。
ところが、96年くらいから、街が「森」ではなくなった。その証拠に、ゼミの学生を連れていくと、「踊るのは苦手なので……」という人が出てきちゃった。これは典型的な症状です。「自分は踊るのが苦手だ」と言葉で自分を定義しちゃっている。言葉で決めているから体がかじかんじゃう。
「関係ないから、そんなの!」と言っても、男の子は「いや、でも……」と言う。今の若い人の多くがそうです。「自分はこうだから」という言葉にがんじがらめになる。神経症的な「言葉の自動機械」の始まりです。それがすぐに「人間関係はどうせこういうものだから」につながっちゃう。体温が低い人たち。
逆に、街やクラブが「森」である人たちは、「森」に委ねることができる。「得意とか苦手とか関係ないから、踊ってりゃいいんだよ」と言えば、すぐに踊ってくれる。ここでのポイントも「委ね」です。委ねられるかどうかは、自分の言葉によるコントロールを外せるかどうかです。それができない人が、90年代半ばから突然増えました。
言葉は言葉で大事です。現に今ここで僕らは言葉を使っている。でも「言葉はたかが言葉じゃん」と思いません? 例えば、最近の男女は、相手を誘うじゃん。告るじゃん。で、断わられるじゃん。それでショックを受けて沈んじゃう。昭和的にはそういうのはありえない。
告ったのは出発点に過ぎない。そこから先、いくらでも挽回できる。語り合いをやめずに言葉の外でつながることを心がける。つながれない相手もいる。その時は相手もそう感じてる。ならば諦める。
他方で、言葉の外でシンクロしていることを互いに感じている(と互いに感じている)状態でも、タイミング的に断るしかないこともある。僕の妻には、最初に告ったときに断られています。長年の恋人がいたからです。だったら、道徳的な自尊心もあってイエスとは言えないでしょ?
菅野:そうなんですね(笑)。この前撮っていただいたニコニコ動画で、宮台先生と奥様との出会いの話がありました。宮台先生と奥様がご結婚されたのも、エレベータで目が合ったから、というエピソードがありました。目があったときに、「何かやりとりがあったなぁ」と感じられる場合は、不思議な感覚、繭のようなものが生じると。あのお話はとても印象的なんです。
宮台:断られる時も、相手の目を見ていれば脈があるかどうかわかるじゃんね。でも、 そう言うと、「宮台さんがそういうことを言うから、目が合っただけでストーキングしてくるやつがいるじゃん!」と抗議してくる女たちが大勢いるの。
(会場笑)
ストーカーは感情が劣化した「言葉の奴隷」で、自分に都合が悪いことを神経症的に粉飾決算するクズです。そうじゃなくて、相手の心や体に生じていることを、直ちに自分の中に引き起こして、それが何なのかを感じることが大事です。昭和的な作法では、自分や相手にパートナーがすでにいる時には、特に女の場合、「『イエス』と言ったら、私はふしだらな女だと思われる」とセーブがかかります。でも、セーブがかかる女だからこそ、信頼できます。
だったら、まず、言葉の内と外の二重性に由来する「曖昧なゲーム」を、心から楽しみましょう。次に、いずれはセーブを外しても否定的な自己評価につながらないような、相手にとって言い訳になるエピソードを積み重ねましょう。
そのプロセスがとても楽しい。傍目には遠回りにみえても、そういうプロセスを楽しめば、そのワクワクを相手も共有してくれて、それが相手に「私がシンクロできるのはこの人のほうだ」という感覚を与えます。そういう基本的な作法が広く共有されていました。僕も大学院時代に自治会室で先輩たちから教わったんです。
「言葉の外でつながる」とは、そういうものだと思います。古い日本映画を観ると……あるいは最近のアジアの映画を観ても、目が合うことから何かが始まるし、目が合うことは言葉をしゃべるよりもずっとパブリックです。そのパブリックなプラットフォームを踏まえるから、言葉でさえ力を持つわけです。
目で会話をするのは、言葉よりも重要です。タイ映画の『トロピカル・マラディ』(アピチャッポン・ウィーラセタクン監督、2004年)は、ゲイが主人公ですが、すべての映画のなかで一番いいです。
菅野:目を逸らすようになったというお話が。
宮台:さっきの96年くらいから街の空気感が変わった。街の微熱感がなくなって、目を逸らすようになったし、人に委ねることがなくなりました。だから、昔ながらのフィールドワークもできなくなって、やめました。昔ながらの昭和的なナンパもできなくなって、やめました。ナンパ自体はうまくいっても、そのあとがよくない。フュージョンがないんです。
フィールドワークに限ると、女の子が委ねることができなくなったので、話す内容がすごく貧しくなりました。人に自分を委ねて打ち明けた機会がないから、自分の経験を言葉で整理することすらできていない子ばかりになりました。言葉で人に打ち明ける経験を重ねることで、自分の経験にストーリーが与えられて、これからの行為が方向づけられていくのにね。
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