2024.10.01
自社の社内情報を未来の“ゴミ”にしないための備え 「情報量が多すぎる」時代がもたらす課題とは?
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司会者:本日はご来場いただきまして、ありがとうございます。初めに、この分科会を進行していただく4名の登壇者をご紹介します。もしかするとTwitterなどでのお話の方がみなさんにとってはポピュラーかもしれませんが、本日モデレーターを務めていただくのが、作家・ジャーナリストの佐々木俊尚さんです。よろしくお願いします。
(会場拍手)
続きまして、Next Commons Labという団体の代表として、ポスト資本主義を掲げて全国各地の拠点で新しい共同体作りをされている、日本財団特別ソーシャルイノベーターの林篤志さんです。
(会場拍手)
続きまして、もともとIT企業やJICA(国際協力機構)で活躍され、現在はアビームコンサルティングに所属しながら、ICT4D(Information and Communication Technology for Development/途上国開発のための情報通信技術」)、ICTつまり情報通信技術をどう国際開発に活かしていくかをずっと研究されている、竹内知成さんです。
(会場拍手)
そして、現在は石川県加賀市がブロックチェーン都市構想を掲げておりますが、そこに中心的に係わっておられます、株式会社スマートバリューの深山周作さんです。
(会場拍手)
ここから先は、専門的な知識をお持ちの4名にバトンをお渡したいのですが、ちなみに「そもそもブロックチェーンって実はよく知らないんですよね」という方は、どのぐらいいますか?
(会場挙手)
ありがとうございます。まさに、ブロックチェーンという名前ばかりが走っているようなところや、あとは仮想通貨の投機的な部分で話題になるようなところが多いよねと。ブロックチェーンの考え方はけっこうおもしろくて、例えばいわゆるソーシャルといわれるような非営利分野や、社会起業家がいるセクションなどでけっこう使いやすいんじゃないの? と。
そういう声がありまして、壮大な題材ではあるんですけども、今回の日本財団ソーシャルイノベーションフォーラムであえて、(テーマに)してみようというのが経緯です。今回は(ブロックチェーンについて)あんまり詳しく知らない方がいらっしゃるということでしたので、簡単にご説明します。
司会者:蒸気機関やインターネットが世界を変えたように、ブロックチェーンも世界を変えます、と今言われています。それが本当かどうかはともかく、なにがそんなにすごいと言われているのか。技術的なことに踏み込み過ぎると、それだけで2時間が終わってしまいますので、だいぶ簡単にご説明します。
今日はふわっと知っていただいて、興味を持っていただいたら、いろいろな書籍やネット上でも詳しく書いてある記事がたくさんございますので、そちらを見ていただければと思います。
ブロックチェーンのキーワードは、非中央集権的ということです。ぜんぜん簡単じゃないじゃないかと思われる方もいらっしゃるかもしれませんが、要するに「みんなで管理するよ」というものです。
(スライドの図を指して)こちらは左側が中央集権型システム、中央管理とありますが、右側がブロックチェーンシステムになっています。簡単にいうと左側は、例えばどこかにサーバーがあって、それをもとにみんなが(データを)持っています。
お金で考えるとわかりやすいかもしれないですけど、真ん中に国家や銀行があって、国に対する信頼があるから、初めてみんなお金を集めますよね。例えば、ドロップボックスにデータを入れたりしますけど、(スライドの図の)真ん中がそのドロップボックス側がもっているサーバーというかクラウドという意味合いです。
右側のブロックチェーンシステムの場合は、下に分散管理と書いてありますけど、お互いにデータというか情報を持ち合うという考え方になります。わかるようでわからない方もいらっしゃるかもしれませんが、とりあえず「お互いにデータを持ち合うのね」と思ってください。
お互いにデータを持ち合う分散管理は、みんなで管理しているので、いつでも(サービスを)使えます。なにかのウェブサービス使おうとしたときに、例えばそのウェブサービス会社がシステムメンテナンスで止まってしまうとします。
そうするとサービスの受け手は「この日の何時から何時までは使えない」ということになりますが、分散管理の場合はみんながデータを持ち合っているので、誰か一人が不調に陥ったり、システムメンテナンスをしても大丈夫です。
みんなが(データを)持っているので、いつでも使えるという特長を持っています。また、誰でも情報が見られて、管理に参加でき、取引履歴も参照できます。
司会者:最後に、データの不整合がないとありますが、要は取引履歴が最初からずーっと繋がっているので、不正をしたり、誰かが改竄しようとしても、不正のしようがない。まさにブロックチェーンという呼び方の通り、みんなが持っているデータが繋がっています。
そんな特長を持っているので、今、仮想通貨の基盤技術として使われていたりします。「ブロックチェーンと仮想通貨って、なにが違うんですか?」という質問があったりするんですが、基本的には仮想通貨の基盤技術として、ブロックチェーンがあるという考え方です。
ブロックチェーンは必ずしも仮想通貨にしか使えないというものでもないんです。ブロックチェーンと仮想通貨はイコールじゃないんだ、と思っていただければいいかなと。
実際に分散管理によって「何が変わるの?」「何ができるの?」というところですが、みなさんはちょうど今、日本円お持ちだと思うんです。「僕は電子決済派です」という方もいらっしゃるかもしれませんが、基本的には国家や銀行を信用することで、初めてお金が成り立つわけですよね。
例えば、火星には誰も住んでいないですけれど、いきなり火星に行って、日本円が使えるかというと、使えない。他の生物が住んでいたとしても、「なんだ、その紙きれは」と言われるかもしれない。また、どこかわけのわからない国のお金を持ってきても、「そんなわけのわからない政府のお金にはなんの価値もないだろう」という話になると思うんですね。
これまでは国家や銀行といった、まさに中央集権があるからこそ、お金は成り立っていましたよね。ただ、ブロックチェーンという技術や考え方を使い、その技術を信用することで、みんながデータを持ち合っているので、不正な改竄が行われない。
国家を信用するのではなく、技術を信用することで価値を成立させられる社会。そういうものが来るんじゃないかと言われているのが現状です。
司会者:具体的には、価値の可視化と交換が可能になることで、価値の移動が可能になる。例えばインターネットもすごい発明ですよね。世界中と繋がれるようになって、アフリカでもヨーロッパでも、ブラジルでもいいんですけど、Skypeなどを使えば簡単に電話会議ができます。
メールで資料を送ったりもできるし。ただ、メールを送るのは、この中にコピーを増やしているだけと言えばそうなんです。当たり前ですが、お金はメールでは送れないですよね。つまり、おもしろい資料という価値があったとしても、価値そのものはメールでは送れない。メールはあくまでもコピーを増やしているだけ。
ただ、ブロックチェーンは、お互いにデータを持ち合うという趣旨のものなので、これまでメールではできなかった、価値を移動させることが可能になる。
ここは1つ大きな特長だと思っております。結果として、人や時間やコミュニティ、これまで資本主義経済や円の世界ではなかなか評価しづらい部分が評価できるようになってくるんじゃないか、ということで、実際ブロックチェーン技術を使っているところは限られるんですが、同じような考え方のサービスが増えてきている現状がございます。
このブロックチェーンという技術を用いれば、いろいろなコミュニティで独自の価値が流通する社会になるんじゃないか、信頼を共創する時代が来るんじゃないか。そういう可能性があります。
これから実際に、林さん、竹内さん、深山さんの3名に、それぞれの領域でブロックチェーン技術をどういうふうに使おうとしているのか、使っているのか、そして、ブロックチェーン技術は、現実的にはここはできないんだよね、というところもざっくばらんにお話しいただいて。
3名のお話を聞いてから、全体でトークをしていく流れでいきたいなと思います。ちょっと私が出しゃばり過ぎてしまったんですが、以降の進行は佐々木さんにお任せして、この分科会を進めていきたいと思います。佐々木さん、よろしくお願いします。
佐々木俊尚(以下、佐々木):はい、佐々木俊尚です。今の説明で、みなさんが果たしてわかったのかどうかわからないんですけれども。
(会場笑)
今現在、「ブロックチェーンを使ってこんなことやってる」というものは、まだだいぶ先の話で、現実にはそんなにないんです。
ブロックチェーンには、1.0、2.0、3.0の三段階があると言われているんですね。1.0は、もう流行りは終わっちゃいましたけど、ビットコインです。ビットコインはバブルになって終わってしまったので、盛り上がらないよね、と。
今現在は、2.0という2番目の段階に来ています。これは金融機関や証券会社などで(ブロックチェーンを)使うもの。ようやくそこが動き始めた。その先の3.0は、たぶん社会貢献など、その他の生活分野にいろいろと使えるようになるのではないかと思います。
3.0は認定件数がほとんどないので、今日は、「今こういう取り組みをがーんとしています」という話にはならないと思います。どちらかというと、「3.0に行く方向性の中でなにができるだろうか」についてみんなで考え、議論できればと思っています。それに留意しつつ、御三方のお話を聞いていこうと思います。まず林さんから、自己紹介も一緒にお願いします。
林篤志氏(以下、林):林です、よろしくお願いします。15分くらいお時間いただいていますので、今やっていることをお話ししたいと思います。僕の場合は、地方創生という文脈もありますので、Next Commons Labというところで何をやっているかをお話しします。
一応自己紹介をすると、もともとエンジニアです。新卒でエンジニアを2年間くらいやっていたんですが、そのあと会社を辞めて、この近くでやっている自由大学を立ち上げたりしました。
2011年には、高知県の土佐山という人口1千人の村に移り住んで、村を丸ごと学校にするプロジェクトをやりました。そのあともけっこう地方でのプロジェクトをずっとやってきたという背景があります。その蓄積の中で今、Next Commons Labというプロジェクトをやっています。
林:(スライドを指して)1番目に、「ポスト資本主義社会を具現化する」と書いています。(今回のイベントは)ソーシャルイノベーションフォーラムですので、社会のあらゆる課題に対してどういうソリューションを作っていくかを議論していく場だと思います。
僕自身が、10年間くらいソーシャルやローカルの現場でやってきて感じたことは、「自分がこういうアクションをすれば、これぐらいの変化が起きる」「これぐらい改善ができる」というのは、確かに見えると言えば見えるんですよ。
「人口1千人の村で、2~3年くらいこういうことをやれば、人口減少はこれぐらい止まるな」とか、「子どもはこれぐらい増えたな」ということが見えます。でも、ぶっちゃけ社会って変わらなくない? ソーシャルイノベーションフォーラムでそれを言っちゃうと元も子もないんですけど、「社会って変わらないじゃん」と思ってしまったんですよね。
だって、そうなんですよ。2011年に震災が起きて、東京もインフラがぜんぜんダメになって、「東京に住んでいたらやばいよ」と西日本に移り住んだ友人たちもたくさんいましたが、見てください。この渋谷の街は今、オリンピックに向かってビルがばんばん建っています。
オリンピックがいいとか悪いとかじゃなくて、なかなか変わらないのが社会だと思っています。この変わらない社会にどう向かっていくかという話なんですよね。ずっと「社会を変えていこう、変えていこう」と、いろいろな人たちがいろいろな立場で言っていたし、アクションを起こしてきたけど、なかなか変わらない。
その変わらない社会ってなんなんだろう、と考えたときに、(スライドを指して)一応この図であるように、2つの巨大なシステムだと思っています。1つは国家です。日本政府や国家というものであるし、(もう1つは)資本主義という巨大なシステムです。この上にいろいろな課題が散らばっていて、我々もその上に乗って生きているんだけど、(社会は)変わらないわけですね。
Next Commons Labを立ち上げたのは2016年ですが、もう社会を変えることをいったん諦めたんです。だって、僕の人生もみなさんのエネルギーも限られていますから。変わるか変わらないか(分からないもの)に対して(時間やエネルギーを)注ぎ続けることにどれぐらい意味があるんだろうと思ったんですね。
林:でも、変えられないのであれば、社会そのものを作れないかなと思います。既存の社会を変えるのではなく、我々がそれぞれ理想とする社会像がありますよね。それをゼロベースで、社会の構造そのものから作っていくアプローチはできないかと考えて、下の2つを否定するのではなく、それぞれが理想とする社会そのものをゼロベースで作っていく。
自立分散型社会を作ることを目指しているのが、Next Commons Labです。地方創生的な文脈で言うと、昔であれば日本中に小さな村社会が散らばっていたわけですね。みんなが同じように朝起きて、共同作業で田畑を耕す農村社会の時代があったんだけれど、それがどんどんなくなっている。農家の長男以外が出て行き、高度経済成長だと言って東京みたいな街ができたんですね。
僕はその時代に生きてないからわからないんですけども、映画でいうと『ALWAYS 三丁目の夕日』みたいな感じでしょう。いい時代だったなと。がんばれば成長できて、カラーテレビが来たらみんなで力道山のプロレスを見ていた時代ですよね。
ある種、松下幸之助的な「社員は家族です」という時代もあって、田舎からどんどん都市に人は移動していったけれども、みんなで同じ方向に向かっていく良き時代があった。
けれども、一生涯担保してくれる会社なんて、もうないですよね。90年代初頭くらいにだいたいなくなってしまっている。「2018年の我々は何にすがっていけばいいのか」と言ったときに、なにもないんです。一応、最後に家族という存在が残っていますけれども、日本の場合は徹底的に核家族化を進めていったわけですね。
これはけっこういろいろな社会問題の元凶だと思います。今の日本の核家族は平均世帯人数が2.47(人)なんです。2030年までには、2.1(人)まで落ちていくと言われている。めちゃくちゃスモールユニットになってしまったんです。
このスモールユニットで、子育てや介護をやっていかなきゃいけなくて、昔あった中間共同体はもうすっぽりないわけですよ。だから、個人と国家の対立構造になってしまっている。数年前に、あるお母さんが(子どもを)保育園に入れられなくて「日本死ね」とブログに書いたのは、要は「日本国家死ね」という話なんですね。
そういう現状の中、新しい時代に合わせて新しい共同体を自分たちで作っていかなきゃいけない。その新しい共同体を、経済圏も伴ったかたちで作ることにチャレンジできないだろうか。これがNext Commons Labの根幹の部分です。
林:もっと踏み込んだ言い方をすれば、ある種、誰もが国家のようなものを作れる時代になってきたんじゃないかと思います。ブロックチェーンという技術が到来したことで、そういったことが可能になってきている。
今国連に登録されている国家の数は200くらいあるんですけれども、僕たちのチームでは、「2040年くらいまでに、その国家の数は数十万から数百万に増えるだろう」と言っています。今登録されている国家ではなく、新しい国家のようなものや、独自の経済圏や社会保障、独自の価値観に基づいた生き方が無数に生まれていく。そういう世界が訪れるんじゃないかと。
Next Commons Labとしては、それを加速的に進めるための社会OS(オペレーティングシステム)を提供したいという、けっこう大きな話をしています。でも、そんな大きな話ばかりしていてもしょうがないので、ちょっとレベルダウンしました。日本の地方を舞台に、2020年までに100ヶ所拠点を作り、地域の資源を活かした独自の共同体を無数に生み出すことにチャレンジしています。
現時点では10ヶ所でやっています。北は青森の弘前、南は宮崎でやっているんですけれども、各地にNext Commons Labが立ち上がると、新しいシステムを作る起業家を全国からだいたい10名~15名選抜して、集団移住させるスキームをとっています。そして、地域資源を活かして、実際にソーシャルビジネスを立ち上げたり、スモールビジネスを作ったりしています。
現在は新しい5つの地域でそういう起業家志望の方を募集していまして、共感してくださった方はエントリーをしていただければと思います。これは、第1号として始まった岩手県遠野市の拠点の写真です。
遠野の場合は、全国から83名の応募があって、その中から13名の起業家を選抜しました。この写真に写っているのは、その13名と暮らす家族の人たちですね。だいたい20名くらいいらっしゃるんですけど、そういった方たちが集団移住をします。
遠野市出身の方はいませんし、もともと遠野で田舎暮らしをしたいと思っていた人もいません。そこで生まれた新しいビジョンや未来像に共感した人たちが「新しい未来を作るぞ」ということで、集団移住して、今ことを動かしています。
そんな中で、例えばブルワリーが立ち上がったり、伝統芸能をどうやって残していくかというプロジェクトが動いたり、実験的なプロジェクトがスタートしています。
林:今は(Next Commons Labは)10拠点あり、全国で29のプロジェクト、65名のネットワークになってきています。今年の後半には100名以上のメンバーになって、それからどんどん増えていくという活動をしています。
ここまでがいわゆる地方創生の文脈で、Next Commons Labが各地に広げながらやっていることです。そういった、ある種地道な動きを作りながら、どうやって冒頭で言ったようなポスト資本主義社会的な未来を作れるか。
そこで、ブロックチェーンを使った新しい社会のOS。新しい経済圏を作るツールとして、Commons OSというものを開発しています。一言でいうと、誰でも簡単に経済圏を伴った小さな社会が作れる。もっと言っちゃえば、誰でも通貨を発行できる仕組みを作っています。
ブロックチェーンを使って、新しい経済圏やトークンエコノミーをつくるということがあります。当然みなさんの財布の中には日本円が入っていて、日本円で生活をされていると思うんですが、それぞれの価値観を伴った共同体ごとに通貨が生まれていく。
例えば5年後の未来ですけど。スマホのそのウォレットアプリの中に、いろいろな通貨を入れておく。それぞれの経済圏でそれぞれの価値観に基づいた活動や生活をして、分散しながら生きていく未来はあり得るんじゃないかなと考えています。
実際に提供しているプロダクトとして、取引所を立ち上げたり、開発したウォレットのベータ版をリリースしています。ブロックチェーンを使ってトークンエコノミーが生まれたときに、どうやったらビジュアライズされるかをずっと実証実験している最中です。
こういう話をしていても、あまりイメージが湧かないと思うので、少し実例をお見せしたいと思います。(スライドを指して)これは、実際に僕たちが開発しているオペレーティングシステムを使っています。パートナー企業さんと一緒に実験をして、北海道の南富良野にある廃校を2週間貸し切り、100人の方に滞在をしていただいたんですね。
重要なのは、円で交換できるものではないんです。今まで円では交換しにくかったものを、どうやって交換していくかが重要なんです。みなさんが持っている人間としての理想は多面的なはずなんですね。
例えば、みなさんもいろいろなお仕事をされていると思うんですけど、例えば時間が余っていれば、みんなが「子どもの面倒を見られるよ」「俺は大工だから家具作るよ」「猟師だからみんなの晩御飯をとってくるよ」という感じで、その廃校の中で2週間暮らしてもらいました。
要はコミュニティに必要なニーズや、自分が貢献できることを可視化して、価値の創造と価値の交換を行っていただきました。2週間限定で発行した通貨トークンが、誰から誰にどのように移っていったか。
林:(スライドを指して)これは時系列で可視化しているんですけれども、こうやって見てみると、なんとなくハブになる人が出てくるわけですね。コミュニティの中核になっている人というか。
今の資本主義の世界では、お金を持っている人のところにお金が集まりがちです。資本家にお金が集まりやすい。でも、この実証実験の経済圏では、資本家かどうかは重要じゃないんです。コミュニティに対する貢献度が高かったり、「あのお兄ちゃん、なんかいいやつだよね」とか、食べたことのないすごい鹿肉を持ってきてくれた猟師にわーっとトークンが集まる。
要は経済圏は1つじゃないんです。無数の価値観に基づく無数の経済圏が生まれて、これまで月給30万円で生きてた人たちが例えば月給は15万円でいいと。法定通貨円は15万円分でいいと。
残りの15万円は、AとBとCといういろいろなコミュニティの中で、(誰かに)貢献したり生活しながら生きていく。そんな社会が訪れるんじゃないかなと予期して、こういったものを作っています。
あともう1つ、これはブロックチェーンの話からちょっと外れるんですけど、我々が地球上に持っているリソースをどれだけ最適に再配布できるかは大きなテーマだなと思っています。
僕たちはこれを「ベーシックアセット」と言っています。ちょっとコミカルにいえば「人生定額プラン」と言っているんですけれども、リソースって有り余っているんですよね。例えば居住空間だって、全国に廃校が6千校以上あって、空き家もめちゃめちゃある。だけど、なぜか新宿にマンションを建てているのが今の現状です。
こういったものを私有財として腐らせているくらいだったら、ちゃんとかき集めて公共財として管理すればいいじゃない、と。つまり、公共財コモンズはなんなんだろうというと、誰のものでもない。でも、みんながアクセス可能で利用可能なものとして運用していく。
そういった概念で、人間生活がもっと豊かになるために、世界中のあらゆるリソースを使っていくことができないかと考えています。つまり、我々は先天的・後天的にいろいろな特性を持って生きています。ばりばり働いてもいいし、毎日絵を描いていたい人がいれば、絵を描いてもいいわけですよ。
林:そういうふうに、我々が人間として、自由に表現していける社会的共通インフラはなんなのかということを考えなきゃいけない。つまり、そういった自律的な経済圏であり、ある種の自治経済圏、国家のようなものを実験的に作っていこうということです。
食糧生産やエネルギーなどの衣食住に関わるものを、限界費用のコストゼロを考え方のベースにしながら、フリーで提供するようなインフラ作りをやっていこうとしています。名前は伏せますけれども、今、国内の人口数十人の島を舞台にそれをやっていくことを考えています。
ちょっと話は戻ります。ああいったコモンズOSのようなものを、今どういったところに導入しようとしているか、実証実験をしようとしているか。そこでお話ししたいのが、今、一応国内に自治体もあります。国内の自治体や、250万人くらいの海外の自治体にああいったOSを導入することで、独自の通貨が発行される。
例えば、SDGs(Sustainable Development Goals/持続可能な開発目標)に特化したコインを発行する。ある海外の自治体に250万人いるんだけれども、ほとんどみんな排気ガスをばんばん出しながら原チャに乗っています。
でも、地下鉄は本当は使ってほしい許容量の30パーセントしか動いていない。例えばビーチクリーンなどの環境負荷を和らげる活動をした人たちに独自のコインを付与して、そのコインを使うと地下鉄に乗れるとかですね。
そういう特定のインセンティブを与えて、人の動きを活性化していくことだったり、あとはホームレス支援。もちろん難民支援という話も出てくるかもしれません。要は国ができないようなものですね。
IDを付与してあげなきゃいけないとか、そもそも口座を自分で持てない人たちに対して、ブロックチェーンでIDを付与して、そこでトークンをぐるぐる回すことで、例えば社会的自立を促していく。
あとは非常におもしろいなと思ってやっているのは、今これもちょっと名前は伏せますけども、数十万人の信者がいる宗教法人(に導入する)。けっこうおもしろいですよね。要は、物理的にそこに住んでいるかどうかじゃないんです。
価値観をベースに連なっているコミュニティに対して、こういったコモンズOSを導入する。はっきりいって、数十万人のコミュニティは国単位になります。独自の経済圏を作り、独自のルールを作り、その中でいわゆる富の再還元を行っていくことができるんじゃないかと。
そういったことをどんどん繰り返していくと、今は約200の国家が登録されていますが、国家的なものが数十万、数百万になり、我々はそういったものに横断的に所属しながら生きていく社会が訪れるんじゃないかと思います。
そういった未来を進めていくために、日本の地方自治体と連携して地域の資源なども上手く活用しながら、チャレンジをしていこうと。ポスト資本主義社会を具現化しようとしているのが、Next Commons Labです。そんな感じでご説明を終わります。ありがとうございました。
佐々木:はい、ありがとうございます。
(会場拍手)
佐々木:のっけから濃い話でおもしろかったんですけれど、1つ例を挙げましょう。ロンドンスクール・オブ・エコノミクスの人類学の先生で、デイビッド・グレーバーという学者がいます。彼はしばらく前に、『負債論』という本を書きました。
負債というのは金を貸す、借りるの方の負債です。みなさんは、中学校とか小学校の歴史で、貨幣ができてくるのは物々交換だと習っていますよね。でも、グレーバーは、その本の中で「(貨幣の起源は)物々交換ではなかった」と言っているんです。
なんだったのかというと互酬関係です。つまり、ものとものを交換するのではなく、単にものをプレゼントするだけで、代わりにものはもらわない。プレゼントをすると、もらった相手には、なんとなく「これを返さなきゃ」という気持ちが残る。その気持ちが維持されている間は、(お互いの人間)関係が続く。
物々交換は等価で交換するようなイメージですが、そうではないんです。例えば、僕が100円相当のキャベツを林さんからもらいました。そうすると「うーん、100円借りてるよな」というイメージがある。その次にどうするかというと、(林さんに)150円のレタスをあげるんだよね。
そうすると、今度は僕は「ついに借りを返した」と思う。林さんは「今度は50円余計にもらってるからこれは借りがあるよね」ということで、また「返さなきゃ」という気持ちになる。これが意味することは、そうやって負債があることによって人間関係が続くんですよね。
貨幣になってしまうと、僕が林さんから100円を借りて、翌日に100円返したら、もうそれで人間が切れちゃうわけです。これはよくないよね、と。グレーバーは、「人間関係を持続するために、等価ではないものを交換し合う。プレゼントし合うことで、社会は人間関係を続けてきたんだ」と言ってるんです。
今はそういうものがなくなって、いわゆる国民国家をベースにした貨幣経済が、我々の社会が成立してる一番のベースになっているわけです。それが今や非常につらくなっている。そうかといって今さら、「国家をやめましょう」「通貨をやめましょう」というわけにはいかない。
おそらく今林さんがおっしゃっていたのは、そういう国家をベースにした貨幣経済の上にもう1つレイヤーを乗せて、そこでこういう互酬経済的な共感を軸にした経済圏を作れるんじゃないか、という話ですよね。
林:はい、その通りです。まとめていただいてありがとうございます(笑)。
佐々木:1つだけ聞きたいのが、ブロックチェーンのようなものを使って、そういう共感を一種の通貨的なものにしてお互いに交換し合う(とします)。共感だけで共同体は成立するんですか?
林:たぶん成立しないと思っています。我々が生きていくためには、やっぱり多重層的なコミュニティに属していかなきゃいけない。要は共感ベースではなくて、そこでたぶん自治体や国家としての機能といった、既存のものはどう変わっていけるかという話だと思います。
だから別に共感していなくても、ある一定(の収入)を担保するとか、一定の生活を担保することは絶対に必要になってくると思っています。共感性が高まることによって、たぶん価値交換の回転率が上がると思うんですよ。
でも、それはけっこう諸刃の刃だなと思っています。たぶん、それだけじゃ人間の生活は成り立たないような気がしていて、それを下支えするベースのインフラを自治体などが役割を変えながらやっていかなきゃいけないんじゃないかなということはなんとなく思っています。
佐々木:逆に言うと、そのベースになるインフラだけだと、共感がなければ繋がる要因がないということですよね。
林:そうですね。だから、結局は国民国家や自治体という単位はもう無理なんですよね。要は『ALWAYS 三丁目の夕日』のときはよかったんです。なんかこう「こっちだー!」と行く感じでしたけど。
佐々木:みんなで1点に向かって進んでいくみたいな。
林:この間おもしろかったのは、ある岩手県の高校で講演をした時です。250名の高校2年生に聞いたんです。「明日から2つの選択肢があります。1つは日本国民の国籍剥奪、もう1つはネットが一生使えない。どちらを選びますか?」と言ったら、245人が日本国籍はいらないという選択をした(笑)。
(会場笑)
これは本当にそうなんですよ。一応なんとなく日本国籍を持って日本で暮らしているけど、それよりネットの方が大事でしょ、と。それは本当にリアルだなあと思っているので、だからそれ(国家)は機能しなくなるんですよ。
佐々木:なるほど。そこにどういう新しいレイヤーを被せるかということで、新しい経済圏、新しい通貨の話になると思います。
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