2024.10.21
お互い疑心暗鬼になりがちな、経営企画と事業部の壁 組織に「分断」が生まれる要因と打開策
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遠藤謙氏(以下、遠藤):競技には今まで蓄積された理論がありますが、ウサイン・ボルトのようなすごい変態が現れて、全部を塗り替えていくことが競技ではよくあるらしいんですね。ですから、そういった非線形な変化は、パラリンピックの方が起こりやすいと思っています。
そういった成長線上で言うと、パラリンピックはもしかすると(オリンピックに)追いつくのではないかと勝手に期待しています。
オリンピックは、ウサイン・ボルト選手が引退したので、平均はすごく上がっているけれども、もうしばらくはあんな変態現れないだろうと僕らは思っていて、いつか追い越せというように思っているグラフです。
元村有希子氏(以下、元村):T43、T44という、線についていないバラバラなやつ、あれはなんですか?
遠藤:ありがとうございます。数字は障害の種類と重度を示すものです。44は片足下腿義足。片足が義足、膝があるレベルで、43は両足下腿。両足膝があるけれども、両足の足部がない方ですね。
今年からまたちょっと変わるんですが、去年まではこの数字でやられていました。いろいろな義足が使われるんですが、選手たちは自分の体重や走り方に応じて選んでいますが、この選択肢は、ものすごく少ないんですよね。
たぶん、世界にはいろんなメーカーがあると思いますが、「オズール」という会社と、「オットー」という会社の2強と言われています。とくに我々が見ている男子の義足、下腿義足、短距離に関して言うと、ほとんどがそのオズールというアイスランドの会社なんです。
元村:アイスランド。
遠藤:はい。
遠藤:そこにがんばって勝負したいと思って、「Xiborg」という会社を立ち上げたんですが。やっぱりアスリート中心なんですね。義足さえ良ければいいわけではなく、やっぱりアスリートががんばって速くなるというのが中心なんだなということは今でも思っていますし、当時も思っていたので、アスリートの人を中心に、周りの人は支えるようなチームを作れないかと思って、コーチに為末大という……足が速い方ですよね。
(会場笑)
元村:「足が速い方」なんて、そんなざっくりとした。
遠藤:為末大、知っていますか? 最近知らない方に出くわして。
元村:そうですか? 知らない方はおられませんよね、まさか。
遠藤:足が速いということを知らない方が、もしかしたら(笑)。
元村:あぁ〜、言論人のような(イメージ)。
遠藤:そういう小学生にはけっこう会ってきました(笑)。高校生でも厳しいと言われましたね。足が速いんですよね、そういった為末大と、あと順天堂大学の体育会陸上部を卒業した方々がチームになってコーチングしたり。
僕たちは、田原というロボットのエンジニアと、僕、遠藤がエンジニアで、あとは他にもボランティアレベルの方でいっぱいチームに参加されている方々がいます。
基本的に走り方は、健常者のアスリートと義足のアスリートでもあまり違いがないんだなということをものすごくこの何年間で感じました。
ただ、やっぱり足首が動かないので、矢印の方向だけ見てみると、義足のほうが、足が地面から離れる瞬間に、健足、要は足首があるほうは、この緑の矢印が前に倒れながら消えていきます。緑色の矢印は床からの力です。義足は、常に骨盤の方向、重心の方向に矢印が向かっているんですね。
どうしてこういうことが起こっているかというと、足首を使って、最後の一蹴りを利用して足を前に持ってくるという動作をやっているんですが、義足は足首がないので、それができないんですよ。
元村:では、前に行くのが遅れるんですか?
遠藤:遅れるので、僕は義足の作りでこれを矢印の方向にできないかということも考えたんですが、例えば為末大は「そんなの筋肉でなんとかなるよ」というようなことを言うんですよ。腸腰筋という筋肉で、前に持ってくるというような。ですから、義足はもう100パーセント重心の方向でいいのではないかというようなことを(話しています)。これはやりとりの一部なんですが。
遠藤:その結果、我々は本当に義足は重心を蹴るだけのものにしようと決めました。その代わりに、選手には前に持ってくるだけの筋力をつけてもらう。そして、走り方もなるべく後ろに流すのではなく、前で処理する、前で捌くような走り方が義足の人にとっていいのではないかと。
そんな感じで、競技者の目線と、コーチの目線と、エンジニアの目線が組み合わさって義足を作っていくという感覚で、我々は研究をしています。「Xiborg Genesis(サイボーグ ジェネシス)」という義足は、2016年、リオの直前に実は商品化されて、4月のレースでデビューしました。
いろんな障害のレベルの人が混ざってるので、誰が速い・遅いという感じではないんですが、もう1つ言いたいのは、2016年のリオの直前で、この観客が誰もいないというのを見ていただきたい。ぜひともみなさんに競技場に来てもらいたいと思っています。
そしてその後、佐藤圭太選手がリオで100メートルに出たんですが、そのときは僕らも国産義足についてぜんぜん意識をしてはいなかったんです。僕らは別に国産を売りにしていたわけではないのですが、結果的に国産になっていました。日本で作られた義足がリオのパラリンピックで使われたというのは、たぶん他にはなかったらしいんですよね。
それどころか、オズールという会社がすごくドミナントだと言ったんですが、オズールという会社ばかりがある中で、今までになかったような義足が出たということで、ものすごく問い合わせがいっぱい来たんですよ。
元村:まるで『陸王』みたいじゃないですか。
遠藤:そうなんです、陸王は見ていないんですが。
元村:見てないんですか~。ぜひ見てください。
(会場笑)
遠藤:陸王、見ます。それで、選手たちともいろいろと話していた中で、やっぱり我々は一緒にものを作りたいという思いがあったので、「義足はなんだっていいや」という感じではなく、「一緒に義足を作りたい」と思ってくれている人が1人、ジャリッド・ウォレスというアメリカの選手がいて、彼と去年の5月に一緒に作る契約をしました。
そして、これはゴールデングランプリという、去年の川崎の大会ですね。
元村:どの方ですか?
遠藤:一番速い人ですね。
元村:黒い方?
遠藤:そういった速い人が履いてくれました。これまでの成果として、かなりジャリッド・ウォレスは結果的に速かったんです。もともと速かったということもあるんですが。去年のパラ陸上で、100メートルが銅メダル、200メートルが金メダル。あとはリレーで言うと、佐藤圭太選手がメダルを取っています。
ですから、我々は義足を1製品しか作っていませんし、4人しか抱えていませんが、少ないながらも、かなり義足の数で言うと、例えばロンドンのパラリンピックは、オズールが11、オットーが8、他が3だったのに対して、2017年になって、オズールが7人、Xiborgで3人がロンドンのパラ陸上に出たんですね。
元村:かなり追い上げていますよね。
遠藤:どんどん増えてきたことが言えます。こういったところは別に目指しているわけではありませんが、地道に積み上げていって、4人という少数精鋭でいいものを作るという思いからやっていった結果、このような現状になっていると言えるのではないかと。
元村:ウォレス選手は、なぜXiborgの義足を使いたいとおっしゃったんですか?
遠藤:これはたぶんいろんな駆け引きがあると思いますが、僕が勝手に思っているのは、たぶん純粋に速くなるための義足作りに自分が関わりたいという好奇心が大きい人だなと思います。
元村:例えば、オズールだとそういうことができないということですか?
遠藤:オズールだとできないと思います。
元村:できないんですか。
遠藤:たぶん技術的にはできると思います。ただ、そこまでたぶん1人の選手に対してやるということはやっていない会社だと思います。
元村:じゃあ、カスタマイズ感がXiborgはすごくいいということですね?
遠藤:そうですね、「自分のために」感を心地よく思ってくれたのではないかということと、あとはやっぱり2020年東京であることを見据えて、日本と関わりを持ちたいなど、いろんな思いがあったのではないかと思います。
遠藤:あと、義足作りだけではなくて、豊洲にランニングスタジアムというところがあって、これはトラックとラボスペースが併設されているんですね。
これで、我々はトップアスリートの義足ばかりを作っていた一方で、「子どもの義足がない」と言われて、「走りたい」と言われたときに何もできなかったのがショックでした。「だったら、ここに来れば誰でも走れるような環境になっていたらいいんじゃないか」と思って、いろいろと調べたんですが。
なぜ義足で走るということに特別感があるのか。実は、たぶん「走る」という動作は、一番敷居の低いスポーツのひとつだと思うんですね。それができない理由が「高い」「場所がない」など、そういった理由だったんです。
だから、それをなるべく敷居を低くするようなことができないかと思って、「義足の図書館」(ができました)。その場に来て、借りて、走って帰っていくという場所ができないかと思って、クラウドファンディングをしたんです。その結果、30近い板ばねを常備して、義足の図書館という場所を去年の12月にオープンしました。
豊洲にこの中に来られたことがない方もいらっしゃると思いますが、こういった壁一面に板ばねをいっぱい用意して、義肢装具士さんという技師さんがいるときに来てくれれば、基本的にはサッと走れるようになります。
遠藤:もう1つ紹介したいのは、「渋谷シティゲーム」という、渋谷のタワーレコードの前を交通規制をしてもらって、そこで最速のレースができないかと思ったんですね。
この義足の図書館も、最速レースも、基本的に「パラリンピック」とは一言も言えないんですが、言ってないですし、これ(シティゲーム)に関して言うと、「義足」とは、一言もどこにも書いていないんですよ。
元村:あぁ~。
さっき「観客が誰もいない」と言ったじゃないですか。だから、みんなたぶん義足が速いのではないかというのはメディアからなんとなく伝わっているのだけれども、「実際に競技場に行ってみたい」というところまではたぶん行っていないと思います。
でも、デモンストレーションのようなことや、パラ関連のイベントは各地で行われているんですが、そこで本気の走りはやっぱり見れないんですよ。
だから、もともと人がいっぱいいる渋谷の通りで、世界記録を目指すような大会ができないかと思いまして、結果60メートルだけになってしまったり、3レーンしか取れなかったりもするんですが、日本人すら参加ができなくなってしまうぐらい高いレベルの……。
元村:本当ですか(笑)。
遠藤:(笑)。この真ん中のリチャード・ブラウンは世界記録保持者なんですよ、100メートルの。左がジャリッド・ウォレスという、我々の200メートルの金メダリストで、右のドイツのフェリックス・シュトレングという人は、リオの銅メダリストですね。
元村:ふ~ん。本当だ、タワーレコードの前。
(会場笑)
最後、こうじゃないと危ないですもんね。
遠藤:最後ちょっと、(タイムを)伸ばしてほしかった……。伸ばせれば絶対に世界記録が出ていたのではないかと思うんですが。
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