2024.10.21
お互い疑心暗鬼になりがちな、経営企画と事業部の壁 組織に「分断」が生まれる要因と打開策
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川口真沙美氏(以下、川口):ありがとうございます。それでは次。齋藤委員から、レンズ付きフィルム「写ルンです」を挙げていただきました。
齋藤峰明氏(以下、齋藤):私は、先ほども申し上げたように初めてこの審査に参加させていただいて。いろんな商品が出てきて、それぞれ本当におもしろい商品ばっかりで、自分自身が個人的に記憶にあったりという部分があったんですけども、その中でもちょっと他と違うなというのがこの商品でした。
というのは、他の商品はどちらかというと、やっぱりデザイン的に首尾よく考えてるとか、機能的に考えてるとか、そういう意味で、ものを作ってく過程があって生まれてきた商品だと思うんですけども。
これは逆ですね。1986年のバブルの頃は、ものをがんがん作ってる時代だったにもかかわらず、剥ぎ取って剥ぎ取って、これ以上剥ぎ取れないってところまで持っていった商品だと思います。だから、他の商品よりも特別な商品だと思うんですよね。
だからこれがこれからもロングライフになるかどうかというのは......22世紀まで残るかどうかはちょっとわかりませんけども(笑)。
写真の機能は、現実を切り取ってプリントする、平面・二次元の世界にするのが本質だと思うんですが、それのみにフォーカスしてあとは全部なくしてしまったところが、ものづくりの中ではけっこうおもしろいなと思います。
しかももう1つおもしろいのが、パッケージ自体も本体と一体化しちゃっててですね。パッケージなのか本体なのかよくわからない。だんだん機能が増えたりいろんな汎用性を考えて、どんどんものが複雑化するのが今の世の中だと思うんですけども、その中で逆行して、進化を逆転させたのがすごくおもしろいなって、この写ルンですを見たときに思ったんですよね。
先ほど車と歩行者の話がありましたが、例えば中国の話をすると、まあ20年くらい前には自転車しか走ってなかったわけですよ。それがいつの間にか中国は自転車がなくなって車だらけになったんです。
だけど最近の中国の都市を見ると、今度はかっこいい自転車が走るようになったんですね。だから世界も、世の中は複雑化してるんですけど、逆にシンプルな移動手段である自転車みたいなものを必要としてる。
あるいは飲み物なんか見ても、ここ10年、15年、20年ですか? いろんな種類のドリンクがいっぱいあるんだけども、今は水に拘っていろんな水が出ている 。私が昔、百貨店のバイヤーをやっていたときに、日本にミネラルウォーターを売ろうと思ったんだけども、誰も「水は買うもんじゃない」とか言われてた。
それが今、一番シンプルな飲み物にもう一回戻ってるのが人間の一つのおもしろい傾向かなと思って。そういう意味では、車の時代に自転車が人気になったり。そういう動きも、一つの本質の美へ回帰させる力も、やっぱりデザインの力の一つなのかなと思って、今日お話しするのはとくにそういうものを選んでみました。
永井一史氏(以下、永井):当時はいわゆる嗜好品としてのカメラがありました。そこにフィルムを提供するところから、旅先でも簡単に買えるということで。
今のスマホで写真を撮ることに繋がっているような、写真を撮ることの民主化じゃないですけど、これはそういうスタイルのとっかかりですよね。
齋藤:そうですね。あとおもしろいのは、要するにフィルムにレンズを付けたというのをコンセプトにして、ちょっと使い捨てみたいな雰囲気もあるんだけども、実際には使い捨てじゃなくてリサイクルなんですよね。
ペットボトルじゃないですけども、リサイクルということを考えると、そのへんは逆に先進性もあるのかなって感じがしますね。
柴田文江氏(以下、柴田):私もリサイクルを初めて体験したのがこれで。私、当時はまだ田舎にいたんですけど、写ルンですを買いに行ったら、近所のカメラ屋さんで売り切れてたんですよ。そしたら「じゃあこのフィルム入れてあげる」って、これに入れてくれたんですね(笑)。
永井:へえ、そういうことができるんだ(笑)。
柴田:「ええ!」 と思って。「写ルンですってこれだから」って言われたんですよ(笑)。なんか損したような気もしたんだけど、あとでそれが、実際にリサイクルされて売るんだっていうことを知って。それが初めてのリサイクル体験でした。
永井:あと、ここでディスカッションがあったのは、実は今のモデルは(スライドの)下のもの(現在のモデル)。もちろん今の市場性を考えたら納得なんだけれども、我々からすると、上のモデル(初代のモデル)を作り続けてほしかったなと。
たぶんフィルムの箱が2つ分で、フィルムメーカーだからこそ、このかたちにこだわってあのパッケージで最初に販売してて。
ただ、今、フィルムという存在もなくなったときに、そこに対して思い入れができるような世代が若い人たちじゃなくなっちゃってるので、どっちかと言ったらカメラをシミュレートしたかたちになっちゃってる。ちょっと変わっちゃったのは残念だなというのは話してましたけど。
福光松太郎氏(以下、福光):同じことに近いですが、元のものにずっとがんばってほしかったなって気はしますよね。どんどんサービスをしてしまって、ストロボまで付けて、最後は本当に全部プラスチックだけでできてましたもんね。
それはきちんとリサイクルの技術が高まってできたんですが、たぶんケータイやスマホができて、一旦この市場は取って代わられたんだろうと思うんですね。
ところがまた今、Instagramが普及してきて、けっこういい写真を撮ろうという方が増えてきた。デジタルでは満足できないので、フィルムの解像度でないとダメだという人がまたこれを使いだしてるっていうね。ポラロイドにまた戻ってきてるという話があったりして。だからロングライフって、そういうところで時代を超えるというか技術を超えるというか。
そのテイストというところに、お客さんがまた戻ることがあるんだなって。LPとかターンテーブルも、みんな今そんなふうになってますよね。だから、そういうことがとてもおもしろいなと思って。そのうちの1つであると思う。
川口:はい、ありがとうございます。福光さんからは、文房具を3件いただいています。1つは水性ペンのプラマン。
福光:文房具ばっかり出しましたのは、私が文房具が好きなんですね。最近少し年配になってやめましたけど、文房具はほとんど出たら買っていたってくらい、文房具が好きでして。
自分が書いたり切ったりするような紙も実はそうなんですけど、そういうことはすごく刺激性が高いっていうか、嗜好品だなって思っています。
このプラマンは、1979年ですから、私にとっては20代の最後くらいにできたのかな? いわゆる万年筆は、独特の世界があって、いろんなブランドもありブランドのグレード感みたいなものもあって、書き味も合うか合わないか、いろいろあってね。
これは、よくその世界にプラスチックのペン先を導入しましたねという所がすごい。売れたんだろうからたくさんの人にとっても書き味がなんとも言えない。ちょうどいいんですね。
滑るんではなくてね。紙をちょうどいいぐらいに擦る感じがありまして。プロダクトデザインとしてはすごくよくできていて、パッケージデザインとしては本当に単純にしてあって、そこがまたいいわけですね。発売以降、今も毎日これを使っているユーザーです。今日私が持ってきたものは全部ユーザーなんで(笑)。
(会場笑)
そんな感じです。
川口:補足しますと、こちらのプラマンは万年筆の書き味を、樹脂のペン先で実現させた水性ペンです。
福光:広告だとそういうふうに言ってるわけですが、万年筆の書き味ではないんです。プラマンの書き味なんです。そこがすごいんです。
(会場笑)
万年筆でこの書き味はきっとできないと思います。
川口:なるほど(笑)。「ペン先が筆圧に応じてたわみ、筆跡に強弱がつけられ、微妙なニュアンスの表現ができる」とのことです。ありがとうございます。
川口:では次のデザインで、カッターナイフのエヌティーカッタープロ。
福光:これはもう、ずっと使ってるものが審査対象にあったんでたいへん良かったんですが。手元にあるもので、切れ味や持ち味、使い勝手が非常にすきっとしてて、全身が切れる感じがしている。いろんな他の会社のもありますけど、はさみそのものの差よりも、全体感で切れてるところがすごくいいプロダクトデザインだと思います。
もう1つは、このキャップレスの万年筆。これは1998年より、もっと前にできていませんでした?
川口:一応、書類によると98年だと(笑)。
福光:この型になったのが、じゃないかと思うんですけど、今日は会社の方おられませんかね。もっと前に最初に作られたんじゃないでしょうか。
株式会社パイロットコーポレーション社員:そうですね。このモデルが98年です。
福光:一番最初は何年かわかります?
株式会社パイロットコーポレーション社員:えー、すみません。ちょっとすぐにはお答えできません。
福光:私の高校時代じゃないかと思うぐらい古いんです。違いますかね。
(会場笑)
福光:私ね、大学受験の勉強をこれでやったと思う。(スライドの)こういうんじゃない、銀と黒の色です。最初のやつ。
それで、これも万年筆の話なんですけど、ぜんぜん万年筆が万年筆じゃなくなって。カチ、カチャッてやると、なんか脳みそが働くような気がして(笑)。
川口:(笑)。
福光:すごく良くてですね。書き味はもちろん万年筆。これは本当に万年筆の筆先ですから。とても滑りが良くて。だからずっと使っております。使ってるのはこの黒ですね。この色とりどりのやつはあんまり使ってない。なんとなく、この商品に金色が合わないような気がして(笑)。
(会場笑)
銀色の方が、最初に出た商品のイメージが強いからです。そういう人生に関わってる3品でございました。
川口:はい、ありがとうございます。キャップレスは齋藤委員にもけっこう推していただいて。
齋藤:これは98年というんですけども......。エルメスの本社のフランス人の役員がねみんな持ってるんですよ(笑)。それを見てえっ? と思ったんですけど、やっぱり今、福光さんがおっしゃったように、万年筆はここ(スーツの内ポケットから取り出す仕草)から出して、キャップをねじって取って反対側に被せる(キャップをつけるジェスチャー)じゃないですか。
それがこれになってから一瞬のうちに動作も変わってきて、パチッとやって書くと。そういうところがやっぱりすごいなって。
あと、筆先が引っ込みますよね。あれは新幹線の1両目の連結の部分がバッと入るような雰囲気だし。それから、ジェット機の先端の部分を想起させるような、そういう航空工学というか。そっちの方のデザインが身近なところにきてるなという感じがあって、日本ならではだなって。まあ自分は持ってなかったんだけど(笑)。日本でできたっていうんで、役員に自慢してました(笑)。
おっしゃったように金色がね。私もなぜ金色を作ったのかって、考えたんです。おそらく最初は金色でしたよね。我々の頭の中ではみんな、銀色のスチールの方を思ってたんですが、お聞きしたら最初は金色だった。
なぜかっていうと……講釈みたいで申し訳ないんですけども。万年筆は誰が持っていたかというと、19世紀から20世紀前半までは特権階級と言うんでしょうか、知識層の人たちがものを書く道具でした。一般の人は万年筆なんか必要なかったんです。
その頃の上流階級の人たちが使ってたものなので、自分のパーソナルなものとなると、勢いそういうものは金になったりするわけですよ。それはやっぱり希少で自分だけが持てるものというところで、金色の万年筆がもともと多かったと思うんです。
たぶん、パイロットの開発者はそれを引きずって、要するに万年筆というのは「そういう特権階級用の豪華なものじゃなくちゃ」、「ラグジュアリーなものじゃなくちゃいけない」というところから、デザインがすごく先進的にもかかわらず金色のものを作ったんじゃないかなあ、と想像しました。だけど、かたちからしたらやっぱり、シルバーの方が似合ってる(笑)。
(会場笑)
愛用者はシルバーの方が多いと思うんですけども、たぶん万年筆の概念からいうとそういうね(笑)。
福光:たぶん、万年筆ですから当然、ギフト市場がありますよね。だから、そういうときに金でないと箔がつかないっていう感じがある。それはわかるんです。ですが、今齋藤さんおっしゃったように、日常愛用者はたぶん銀の人が多いんじゃないかなって(笑)。
要するに、今おっしゃったような万年筆の回想感を打ち破る感じがあった。だから使っているのはいつも銀。今は真っ黒なやつが、金でも銀でもないところまでいってもらったんでね。すごくいいなあって。(笑)。1つのツールって感じになっている。なんか褒め過ぎかもしれません(笑)。そういうふうに使ってるんです。
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