2024.12.03
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森川亮氏(以下、森川):みなさんこんにちは。さっそく第3部分科会を始めたいと思います。今回はG1カレッジということで学生の方が中心ですから、まずは学生時代どうだったのかなというところから入っていきたいと思います。テーマが「リーダーとして文化・スポーツを通して感動を生み出すには?」なので、為末さんから。そもそも感動させたかったんですか? どうだったんですか?
為末大氏(以下、為末):僕らの職業は、感動させたかったというのは大きいですね。オリンピックに出るぐらいのときがちょうど22歳・大学4年生だったので、「自分がオリンピックに出て活躍したら感動するだろうな」という思いと、「それを見てうれしいと思ってくれたり、感動する人がいるだろうな」という2つですかね。
森川:とはいえ、そんな感動させようなんて余裕はあったんですか?
為末:いや、ありましたよ(笑)。
森川:前にちょっと為末さんの話を聞いたときに、空港に着いたときにメダルを獲った人が乗るバスと、獲ってない人が乗るバス(に分かれている)みたいな。(メダルを)獲ってない人が乗るバスのときのいろんな思いとか、地元に帰った話のときに、そういう(人を感動させる)余裕ってどうだったのかなみたいな。
為末:方向性としては、スポーツの場合、自分のパフォーマンスが出ると、結果的に感動させてしまうんですね。なので、そういう意味では、あんまり考えなくてよかったのかなという気もするのですが。
今おっしゃっていただいたように、オリンピックの選手って、今、行きは全部エコノミーなんです。帰りはメダルを獲った人だけがビジネス(クラス)で帰ってくるというルールになっていて、帰りの成田に着いてからも別のバスに乗るという格差社会なんですよ。前に、(森川さんに)そのときの寂しい気持ちの話をしたので。
確かにそういう括りでいくと、スポーツの場合、僕の最初のオリンピックはシドニーなんですけど、10年経つと、高橋尚子と井上康生(が金メダルで)、もう極端に言うと、井上康生君のメダルしかみんな覚えてないんです。一応僕も出ていて、日本の男子の短距離も出るんです。たぶん、みなさんの世代は、誰も知らないと思うんですね。
だから、我々の世界の感動というのはかなり消費に近くて、オリンピック中、各国1人ぐらいが記憶に残っていて、あとの人はその時代の人だけは覚えているんだけど、あとは忘れ去られていく。ほかの業界もそうかもしれないですけど、スポーツはちょっとそれが強いなというのはあります。そういう意味でも、外に向けてというよりかは、やっぱり自分の感動に向かいがちな側面がある気がします。
森川:でも為末さん、そもそもハードルじゃないときもありましたよね。400メートルなどで記録を出されたとき。ハードルに移ったのも感動させたかったからですか?
為末:今日、僕の話ばっかでいいですか?(笑)。
森川:順番に突っ込んでいきますから大丈夫ですよ。
為末:僕はもともと短距離をやっていたんですけど、18歳のときに短距離の100メートルが厳しくなって、ハードルに転向したんです。ただ100メートルは速くて、中学校のときに10秒6ぐらいで走ってたんですよ。中学チャンピオンで、15歳の時点では(現日本記録保持者の)桐生君より速かったんですよ。
森川:いろんな記録を出されて。
為末:ええ。だから「いつか9秒出るだろうな」と思ってたんですけど、早熟型で身長がそこで止まっちゃって伸びなくなりました。
「でも陸上は好きだし、どうしようかな?」と思っているときに、たまたま海外の選手が出ている試合を見て、ジャマイカの選手がハードルを跳んでいて、(バーに)ぶつけて転倒したんですね。
それを見たときに、「この世界に引きずり込めれば、なんとかなるかもしれない」と。100(メートル)でのびのび走られたら厳しいけど、まあちょっと複雑なので、この世界に来れば勝てるかもしれないと思ってやったのが18歳のときですね。
森川:じゃあ、そこは感動はあまり?
為末:あんまり考えてないですね。すいません(笑)。
森川:そうですよね。じゃあ次、遠山さんは、大学時代に水上スキーをやりながらイラストレーターをやっていたと思うんですけど、そのときは感動って考えてたんですか?
遠山正道氏(以下、遠山):学生時代ですよね。感動(させる)というか、自分が感動しました。絵を描いたら、『POPEYE』の編集の人が見つけてくれて、ポップアイに紹介してもらって、『POPEYE』でイラストの連載をするようになったんですね。だから、場当たり的というか。
森川:そこからアーティストとしての活動も?
遠山:いやいやぜんぜん。そこから就職もしますし。でも、ユーミンさんのコンサートの絵を描かせていただいたこともありましたね。まあそういう意味でいうと、副業の先駆けでしょうかね。
森川:屋台のおでん屋もね。
遠山:屋台のおでん屋もちょうどその頃やってましたよね。
森川:それはやっぱり感動を?(笑)。
遠山:感動(笑)。「うまい!」という感動ですかね?
森川:(笑)。
遠山:でも朝5時までやってて。バブルの頃ですけど、家の近くだったし、行くと必ず誰かがいるので、それは楽しかったですよね。コミュニケーションというか。だからそれは今、スープ(Soup Stock Tokyo)につながっていますよね。
森川:でも、やっぱり20代のときって余裕がないじゃないですか。そんなときに人を感動させようなんて余裕はあったんですか?
遠山:いや、感動させようと思ったことってあんのかな? どうかな? そんなこと日常で思わない……。
森川:とはいえ、最近はやっぱり、スープを通して人に感動してもらおうという。
遠山:「喜んでもらいたい」とか、そういうのはもちろんありますけどね。いやなんかさ、そういうの言葉に出すとちょっと急激にスーッとなるよね。
森川:すいません(笑)。ちょっとずつ。そうですよね。まあテーマが……。
遠山:かっこいいとかもね。「かっこいい」って言った瞬間にかっこ悪いみたいな。
森川:なるほどなるほど。
遠山:それと近くて。もちろんあるんだと思うんだけど、うーん……。
森川:もっと、じゃあ「笑顔を見たいな」とか?
遠山:そういう表現になりますよね。
森川:やっぱり、学生時代と比べてちょっとずつ変わってきたということですよね。
遠山:まあモテたいとか、そういうのと近いんでしょうけどね。だからみんなあるとは思いますけど。
森川:福武さんは、学生時代どうだったんですか?
福武英明氏(以下、福武):学生時代は大した学生……。
森川:モテたかったんですか?
福武:まあそれはそうですね。常に(笑)。
遠山:(笑)。
福武:学生時代は、本当に大したことやってないし、感動させようと思ったこともないですね。だからまあ強いていうと……人を感動させるというよりも自分が感動した経験でいうと、それもあんまりないんですけど。
ただ、今思えば、僕は学生時代、相当な飽き性だったので、野球をやってもすぐ飽きるし、スノボをやっても、スキーをやっても飽きるというのがあって。バイトをやってもすぐ飽きるし、付き合ってもすぐ別れるみたいな。
自分が感動するときは、やっぱりなにかの記憶や経験に基づいていることが多いと思うので、飽き性という下地があったのは、いろいろ見られたことがよかったのかなと。今は、飽き性でよかったかなとは思いますけどね。
森川:まあいろんな経験をして。
福武:そうですね。
森川:感動とは言わないまでも、「人を喜ばせたい」とかそういう気持ちは、例えばアートの領域でいうと、どのあたりで共感するんですか?
福武:共感?
森川:例えば、そもそもアートは人を感動させるものなんですか?
福武:個人的にはですけれども、あんまり感動させるという、共感したりとか喜ばせるよりも、むしろもう少し狂気じみたものというか。なにか人に気づきや問題意識を与えるという意味では、あまり美しいものではないですよね。
ふだん、共感するってけっこう瞬間的じゃないですか。ちょっと共感するとか。そういうものよりも、もう少し一瞬で終わらない、自分たちでも少し考えてもらうというふうに。アートというのは、見る側が主体的になってもらうための道具として、僕は常に考えてはいます。
森川:いろんなアーティストを見ていらっしゃるじゃないですか。いくつかタイプがあると思うんですけど、めちゃめちゃ熱くて「人を感動させたい」みたいなアーティストもいるんですか? 歴史上でもいいですけど。
福武:さっきちょっと裏で話してて。僕が感動したアーティストが1人います。もうだいぶ昔なんですけど、現代アートの父って言われてるのかな。走りなんですけど、マルセル・デュシャンという人がいて、知ってる人がいるかどうかちょっとわからないですけど、要は今までのアートや美の概念を変えた人です。
いわゆる、今まで大量の……便器、男モノの便器をひっくり返してサインしてアートと言った人なんですけど。大量生産のものだし、便器って汚いじゃないですか。1点物でもないし。「でも、物の見方だよ」ということで。
要は、作品を見る側がどう受け取るか。それで美しいとかアートと感じるかということは、見る側が主体になれる。そういう意味で気づかされたのが、けっこう物の見方でいうと感動して。
それが僕的にはけっこう衝撃的で。どれぐらい衝撃的かというと、自分の好きな女性の対象として、外国人の女性を好きになったときに、けっこう世界が広がった感じがするんですよ。急に、日本人だけじゃなくて外国人も好きになれる自分がいるみたいな。それぐらい世界が広がった。
森川:感性の幅が広がったというか。
福武:そうそう。僕の中ではそれぐらい広がりました。
森川:ここ、笑うところですからね。お願いします(笑)。
(会場笑)
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