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外国特派員協会『元TBS記者によるレイプ被害告発の伊藤詩織が会見』(全2記事)

【全文1/2】伊藤詩織氏、2年前の「悪夢の始まり」を振り返る 元TBS記者によるレイプ被害を告発

自らの性暴力被害をつづった手記『Black Box』を10月18日に発刊した、フリージャーナリストの伊藤詩織氏が24日、日本外国特派員協会で会見を行いました。会見の冒頭で伊藤氏は外国の記者に向けて、事件当時の状況を述懐。「これは遠い誰かの話ではないということを知っていただきたい」と、世間に訴えました。

悪夢の始まりを述懐

伊藤詩織氏:本日はお忙しい中お集まりいただきありがとうございます。まず最初に、この外国特派員クラブで今年の5月にも会見を行いたかったんですけども。

それが果たせなかったので、まず海外のメディアの方にも来ていただいたので、今回の件について日本語で説明する前に英語で軽くバックグラウンドを説明できればと思います。

本日はご参加いただきありがとうございます。最初、今年の5月に、こちらの外国特派員協会での会見を行う予定にしていたのですけど、残念ながらそれを実現することはできませんでした。

そのため本日、外国メディア、そして日本の記者クラブに入っていないメディアにもお話しをする機会をいただき、うれしく思っております。

私は2年前にレイプされました。2015年ニューヨークでジャーナリズムと写真の勉強をしたあとに東京に戻りましたが、その時はロイター通信でインターンとして働きはじめました。

私は大きな望みを持って生涯の夢であったジャーナリストになると决意していました。同じ2015年の4月のことだったのですけども、当時TBSのワシントン支局長だった山口(敬之)氏と出会いました。

その時、メールを通して仕事のオファーをいただいたのですけども、東京に戻った際に就労ビザの話しをするために、彼に会うように誘われました。山口氏と食事をしながらお酒も何杯か飲んだ後に、突然、意識を失いました。

激しい痛みで目が覚め、その時に山口氏が私の上にいて、そして私に挿入していたということがわかりました。それが今日まで私が直面している悪夢の始まりでした。

どこも私を助けてくれなかった

その時、病院、レイプ救援センター、そして警察に助けを求めようとしたのですけども、どこも私を助けてくれませんでした。その時に日本の司法、そして日本の社会のシステムは、性犯罪の被害者のためにはちゃんと機能していないということがわかりました。

その時、警察はこの事件について報告することも許してくれませんでした。こういった事件はよく起こることですし、性犯罪を捜査することが非常に難しいというふうに言われました。

その時、私はたくさんの疑問を持っていました。警察に対して、なぜ私の被害届を出してくれないのかということも聞きました。そして捜査するように私からお願いをしました。最終的にはホテルの防犯カメラ、DNAの検査結果、そしてタクシーの運転手やホテルの従業員の証言などを捜査して、それでちゃんと調べてくれることになりました。

その捜査員の努力により、捜査も終わり、裁判所から逮捕状も出されました。しかし、成田空港で捜査員が山口氏を逮捕しようとしたときに、上の方からの命令で逮捕が止められました。

告発後の迫害やバッシング

当時の刑事部長だった中村格氏が捜査員に逮捕を辞めるように命令をしたということでした。説明もないままにそういった命令が許される警察組織のあり方に疑問を持っています。

私は中村氏にインタビューをするように努力をしてきましたが、質問はいまだに答えられていません。世界中でレイプが報告されないことはよくあります。日本でも、5パーセントのレイプ事件も報告されないほど、スティグマとタブーというのが非常に強いものです。

私はこのタブーを破りたくて、顔も名前も出して告白することを決めました。日本で生活する性犯罪の被害者として、社会もメディアも、私たちに隠した方がいいとよく言われます。それが私たちのためであるとも言われます。

実際捜査員にも報告しないように、私は勧められました。もし報告をするとしたらジャーナリストとしての仕事も失い、そしてこの業界で仕事ができなくなるというふうにも言われました。「自分の人生もこれで終わりだよ」ということまでも言われました。

この主な理由というのは、私が犯罪者として訴えている人は知名度が高く、業界でも尊敬されている人だからです。公にしてからは多くの迫害もバッシングも受けました。前のように生活することもできなくなってしまいました。

しかし隠れなければいけないのは私たち被害者ではありません。問題は私たちを受け入れて、そして信用する準備ができていないこの社会にあります。話をすることでいい変化をもたらすことができます。そして性暴力を無視することはもうできません。以上になります。

手記『Black Box』を出した経緯

これから私の本の出版について日本語で説明させていただきます。先週18日に文藝春秋社より手記『Black Box』を出版させていただきました。

Black Box

2015年に私が経験した性暴力被害と、その後の病院やホットラインの体制の問題、捜査のあり方、司法のシステム、そして会見後の社会のさまざまな反応について、これまでの記録や調査、そして取材をもとに書きつづったノンフィクションです。

密室での出来事ということであり、ブラックボックスという表現を、何度も捜査員の方や検察の方々からうかがいました。

しかし、私は2年以上この件と向き合ってきた中で、警察や検察そのものにもたくさんのブラックボックスが存在していることに気づきました。

ブラックボックスにいかに光をあて、箱を開くのか。そのきっかけに少しでもなればと思い、今回この本を出版させていただきました。

本の中で自分の経験をさらすことになりましたが、その結果、身近に似た経験をされ、その痛みとともに生きているたくさんの方々がいることを知りました。

これは遠い誰かの話ではないということを知っていただきたいです。どんな時代でもどんな所でも起こり得ることですし、それについてどう改善できるのかと考えていく必要があります。

ただ特定の誰かや、システムを非難するだけではなにも変わりません。私たち一人ひとりがどう改善していけるかを真剣に考えなくてはいけないと思います。

本書では、たまたま私の身に起こったことを例にしてお話ししていることにすぎません。なにが必要かと、未来の話をするにはなにが起こったかという過去の話をする必要があるからです。

不起訴処分を巡る一連のやり取り

前回5月29日の会見でご報告したように、検察の不起訴という判断に対し、検察審査会への不服申し立てを行いました。

そして先月9月22日に検察審査会より不起訴相当という議決がなされました。現在の司法では、私が訴えていた準強姦被害は起訴ができないという結果になったのです。

検察審査会は検事が出した答えを再度見直し精査する場です。そのため必要な資料や証言等を集めて提出いたしました。審査会の場には申立人が呼ばれ、事情を聞かれることもあります。証人や申立人の代理が呼ばれることもあります。

しかし今回は、私も弁護士の先生も検察審査会に呼ばれることはなく、議決が出たあともそれに対する説明はありませんでした。また結果は、不起訴処分の裁定を覆す理由がないというものでしたが、その内容の具体的な説明はありませんでした。

申し立てを行った際、とくに注記をつけてお願いしたことがあります。それは私がタクシーから抱えられるように降ろされ、ホテルに引きずられていく防犯カメラの映像を、静止画ではなく、動画で審査員の方々に見ていただくことでした。実際に、動画として証拠が提出されたのかどうかさえもわかりません。

議決がでたあと合意したことについて検察審査会あてに質問状を出しました。検察審査会法26条を根拠に一切の回答はいただけませんでした。

検察審査会は完全に非公開であるとはいえ、これまでの情報が得られないこと、一度も説明の機会を与えられなかったことは、さらに私の中に疑問を生む結果となりました。

この時に聞いた質問のうち、審査員の男女比と平均年齢については回答いただきました。それは男性が7名、女性が4名、年齢は50.4歳とのことでした。

このような男女の捉え方の異なる可能性がある事例について、男女比を半々に近づけていただけなかったことは大変残念に思います。

確たる証拠9つ

この本の最後にも書きましたが、私も山口敬之氏も認めている事実、確たる証拠が得られている事実は以下の通りです。

1.TBSのワシントン支局長である山口氏とフリーランスのジャーナリストである私は、私がTBSワシントン支局で働くために必要なビザについて話すために会いました。

2.山口氏にあったのはこれが3回目で、2人きりだったのはこれが初めてでした。

3.そこに恋愛感情はありませんでした。

4.私が泥酔した状態だと山口氏は認識しておりました。

5.山口氏は自身が滞在しているホテルの部屋に、私を連れて行きました。

6.性行為がありました。

7.私の下着のDNAを検査したところ、そこに付いたY染色体が山口氏のものと過不足なく一致したという結果が出ました。

8.意識のないまま引きずられていく私が映ったホテルの防犯カメラの映像、タクシーの中で「駅で降ろしてほしい」と、私が繰り返し言っていたというタクシー運転者の証言などを集め、警察は逮捕状を請求し、裁判所はその発行を認めました。

9.逮捕の当日、捜査員が成田空港で帰国する山口氏を待ち受けると、当時の刑事部長の中村氏によって逮捕が突然取りやめられました。

以上の9点です。これだけの事実があっても現在の日本の司法システムでは、事件の起訴をすることさえできません。

事件を扱うメディアの姿勢を問う

中村格氏には、当日になって止めた理由についてうかがいたいと何度も取材を申し入れていますが、今日にいたるまで、なんの回答も得られることができていません。

先日起こした民事訴訟の場では、これまでと違い、初めて法廷でお互いに事実関係を述べあい、第三者による公平な判断が下されることになります。この場でこのブラックボックスが少しでも開かれることを願っております。

そして外国特派員協会というこの場所で、お話しさせていただくことができました今日、一言ふれさせていただきたいのは、この問題を報じるメディアの姿勢についてです。

中村氏の判断で逮捕が突然見送られて以来、2年以上の間、さまざまなメディアに相談をしました。この問題を正面から報じてくださるところは1社もありませんでした。逮捕見送りの問題点を報じてくださったのは『週刊新潮』だけでした。

今回の経験から、今後仮に国や司法の場で間違った判断が行われた可能性があるときに、それをマスメディアがどのように検証することができるのか、不起訴だから報道できないではなく。

本当に正しい判断がなされたのか、どのような方法を取れば問題点を報じることができるのかという視点を、ぜひ持ってくださるようこの場を借りて申し上げます。それだけでたくさんの人が救われる可能性があるのです。

刑法改正により、一縷の希望

最後に、私がこの本で一番述べたかったことは、捜査や司法のシステムの改正に加え、社会の意識を変えていくこと、そしてレイプ被害にあった人の救済システムの整備が必要だということです。

これについては各国の取り組みを取材した内容も記載したので、ぜひ本書を読んでいただきたいと思います。7月から改正刑法が施行され強姦罪は「強制性交等罪」という名称に変わりました。まだ不十分なところはありますが、この変化したという事実は多くの人に希望を与えました。

今回、強姦罪に大幅な改正を加えるには、110年という大幅な時間がかかりましたが、性被害を受けた方々が声を上げた結果変えることができたのです。私たちが広く問題意識を持つことで、このように長い間待たなくても、きっと変化を起こすことができるのだと思います。

今回の改正法では暴行脅迫要件の緩和がされませんでした。被害者が抵抗できないほどの脅迫があったと証明できなければ罪に問われることがないという現状は変わっていません。しかし、ある調査結果では、レイプ被害者の7割がフリーズ状態に陥るという結果が出ています。

この点については3年後の見直しの機会に向けて、さらなる議論が必要になることだと思います。この本がその議論の助けになることを願っております。ご静聴ありがとうございました。

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