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地域の『唯一無二』どうやってつくるの?(全8記事)

本当の豊かさとは、お金ではなく「時間」である 地方の農家に学ぶ、“ゆっくり生きる”が人生にもたらすもの

2017年6月28日、銀座の複合商業施設GINZA PLACEにて、「銀座から世界へ、つくる人と共につくろう!」をキャッチコピーに、連続トークイベント「パノラマトーク」が開催されました。第4回となる今回のテーマは「地域の『唯一無二』どうやってつくるの?」。コミュニティーデザイナーの山崎亮氏と、文化人類学者で環境運動家の辻信一氏が、これからの日本におけるローカリゼーションの重要性について熱い議論を繰り広げました。

独り占めから共有の喜びへ

辻信一氏(以下、辻):文化人類学で「贈与」という言葉があるんですよね。

山崎亮氏(以下、山崎):贈与?

:贈与。贈与交換って最初は言われていたけど、どう思います? 人間は2つのかなり根源的な喜びがあると思う。独り占めしたり、なにかを獲得したときにうれしいと思うじゃない。

山崎:ありますね。

:子どものときもそういう喜びってあったわけです。独り占めする。一方で、恐る恐るちょっと分けてみる、そのときにもなんとなく喜びを感じる。

おそらく両方とも根源的なんだろうと思う。さっきの話じゃないけど、人間が人間であることを考えたときに、今の経済学って、結局、基本的に奪い取る喜びにフォーカスしているじゃないですか。

だから、それって本当に人間の半分を切り落としちゃってるようなもの。それは、とてももったいないこと。現に今、僕、世界のいろんなところに行かせてもらっているんです。

山崎:これ読んだらびっくりしました。最近出た『よきことはカタツムリのように』という本は、今まで連載されてきたものがまとめられてるんですけど、地名が1つずつ載っているんです。

よきことはカタツムリのように

それぞれ、どこのことについて書いているか。すごいですね。世界各国。

:けっこういろんなところに行った。ただ僕、あまりたくさん行くよりも、1つのところにけっこう行っているんです。ブータン20回とかね。

山崎:ああ、なるほど。20回行っていますもんね。

:それでいろんなところへ行ってみて、もう明らかに、さっきカルチャー・クリエイティブの話したけど、世界は着実に根本から変わっています。

山崎:それはいい情報ですね。

:もう、若者たちは動いてる。まだメディアはぜんぜん追いついていないです。でも僕は肌で感じてる。

そして、ほとんど例外がないです。いくつか日本でも、山崎さんのおかげで有名になっているところあるけど、けっこう知られていないところでも、ちゃんと若者たちは動いて、あるいは戻っている。

そして、それも単に物理的に動いているんじゃなくて、もう違う価値観で生き始めているというのを、ひしひしと僕、感じているの。

山崎:いい情報だ。

地球は丸いから、全部が中心

:それで、これを見ると、「なにを喜びとするか」「なにを生きがいとするか」というところで、さっき言ったような、「奪ってやった」「競争に勝った」「金が儲かった」とか、という非常に一面的なものだけじゃない。そういう面がないとは言いません。でも、それだけに尽きない、多くのいろんな側面を持った人がけっこう豊かな人生を、それぞれの場所で生き始めている。僕は、地域というのの……なんだっけ? テーマ。

山崎:今回のテーマ? 唯一無二の地域をつくる。これがテーマですね。

:唯一無二というのは、あるときにおじさんたちが考えた、一村一品とか。

山崎:ありましたね。

:自分のところにしかないというような。“世界遺産”的なものじゃないと思うんです。ある意味、どこにでもあるけど、そのどこにでもあるものを、こう生きているみたいな生き様。

それが、そこにしかないという意味の唯一無二じゃなく、むしろほら、昔から沖縄の人たちが言っていたように、「自分の村は世界の中心だ」という感じ方です。地球って丸い、球ですから、ある意味どこでも中心なわけです。そういうような感覚のことなのかなと。

そんな感覚で若者たちも動いている気がする。今までは「どこが中心だろう?」って「中心に向かってやろう」。そうじゃなくて、「自分が動いた場所が中心だ」みたいな感覚を持ち始めている。

最先端の「大潟時間」

山崎:いいかも。大潟村の話を最初にしましたね。大潟村は土地を区画したので、1つの敷地がけっこう大きいんです。第1入植者が入ってきたのが1950、60年代なんですけれども、この方々が家を建てた。

子どもが生まれる。子どもは大学などで1回外に出ますけど、あの村は農業で成り立っているので、必ず農業をやりに帰ってくるんです。けど、子どもが結婚すると、家を建てて上げられる。建ててあげるだけの財力を親が持っている。

子どもに建ててあげると、この結婚した子どもが子どもをまた生む。この人たちが育ってくると、親も財力を持っているので、この子どもたちの夫婦の家もまた建ててあげる。

今、3代目まで来ているんです。移住3代目まで来ているのがほとんどで、4代目が高校生から大学生ぐらいまでになっているという家がけっこう多い。

この4代目もまた戻ってくるような雰囲気ですけど、4代目が戻ってくる頃に、たぶん1代目が死ぬんです。そうすると1代目の家が空くので、4代目がそこに入ると、今度、5代目が家を造る頃には2代目が死ぬみたいなことになっている。

これ、ずっとここの中で回っていける。生まれた子をみんなで見るとか、高齢になった人たちを支えることが、1つの敷地の中で 再提供できる仕組みになっていて、ほかの人たちも支え合うことができる地域になっている。「それもユニークだよね」というか、「すげえおもしろいよね」という話を昨日のワークショップでしたんです。

もう1個は、みんなが農業をやっているので、暦が一緒。農業の暦がね。こよみが一緒で、平日でも思い立ったらすぐ遊びに行けるんです。時間がそんなにきっちりしていないので、2時から水やりっていって、2時5分になったら稲がみんな怒ってることはないわけです。だから、昼間からみんな「今日はあそこ行こうぜ」って言ったら「おう、行こう、行こう」と。

それは「大潟時間」って呼んでいたんです。大潟時間を自分たちの価値だと。昨日のワークショップで最後のほうでみんなが気づいちゃった。「大潟時間いいよね」「普通ありえないです」と。

東京あたりで火曜日の10時に思い立ったから「昼飯食べたらみんなで山行こうぜ」と言って山に行くといっても「今日ちょっと会議がある」「仕事普通にやっています」という人がほとんど。だけど、みんな農地で働いているから、その日の水の状況や風や天気を見て「今日はやることねえな」と思ったら、急にLINEでみんなバーっと話して、遊びに行っちゃうんです。

こういう時間の過ごし方が当たり前と思っていたし、3世代で同居して回していくのも、なんか古臭いし普通だと思っていたけど、今、「地域包括ケア」とか名前をつけて一生懸命なんかやろうとしていることが、もうできていたり、その時間の使い方とか、すごいリッチだよ、みたいなことを話していたら、「これ、なんか我々の唯一無二かもしれないな」という感覚になってきています。

おもしろいことがいろいろ発見できる。地域ってやっぱりそういうことがいろいろ発見できる場所だという気がします。

:時間、大丈夫ですか?

山崎:あと8分ぐらいですね。

本当の豊かさは「時間」

:さっき会津の話が出てたけど、やっぱり僕、奥会津に行ったときに非常に感動した。冬に行くと、冬の時間というのがあるんです。雪国って、冬はなんにもないって言うけど、冬のほうがいろんなお祭りが集中している。夏は忙しいから。

自分の正月と、今度は小正月がある。小正月というのは、道具を全部道具に出てもらって、道具の年越しがあるんです。なんかそんなことをやっているんですよ(笑)。

山崎:すばらしいなあ(笑)。

:ものすごくリッチでしょ?

山崎:そうですねえ。

:そしていろんな社会的な活動や、つきあいが非常に濃密なんです。冬に結婚式があったり。

だから、そういう意味では、時間に対して僕たちはすごく疎くなっている。もちろん『スロー・イズ・ビューティフル』というのは、僕はそういう思いで書いたけど、それからもうずいぶん時間がたった。

山崎:だって15年ぐらいたっていますよ。

:でも、本当にその点では、まずいですね。

山崎:まったく進んでいないですね。

:むしろ悪くなっている気がする。本当の豊かさは時間だと思うんです。考えてみれば、人生で本当の意味で「自分のもの」と言えるのは時間だけでしょ。時間だけなんです。この今の時間。

そういう意味では、もうすごいですよ。僕ら今、なんの縁があってか、ここで貴重な人生の時間を、こうやってこういうメンツで過ごしている。本当に考えてみたらそれ以外ないんです。

山崎:そうですね。

:その時間をどうやって過ごしていくのか? それが豊かさのような気がします。

山崎:じゃあ、僕は今年から小正月やろうかな。自分の道具、パソコンとかスマホとか置いて、磨いて一緒に年越そうかなみたいな。

山伏はヨーロッパ的

:あと僕ね、山伏なんです。

山崎:山伏なんですか!?

:一応、名前も持っているんです。山伏修行をやるとわかるのは、僕は月山とか出羽三山だったけど、あそこで1週間、8日間修行をやると、大の大人の男たちが、山を駆けずり回ったりさ、ちょっとバカげたことをやって過ごすんです。

そこで出会った人が福島のわりと原発から近い地域から来ていた人たち。なんとその地域から、江戸時代からずっと人を送り続けている。その山伏修行に。

山崎:へえ。

:それで僕の先達、僕の先生の話によると、女人禁制って、女性はやらないことになっているみたいに見えるけど、昔はそういうことじゃなくて、昔はただ女性はやる必要がなかったんです。

要するになんのために男たちが毎年やらないといけないかというと、男の場合はすぐ枯れちゃう、自然との一体感みたいなものが。自然のエネルギーが枯れていく。女性は枯れないんだって。

山崎:おお。

:でも、今の女性はダメだよという。

山崎:なるほど。

:今の女性は必要だよというので、今は女性のための山伏修行もやっている。昔は、コミュニティから代表団を選んで、山伏修行に行っていたそうです。

山崎:江戸時代から。

:そう、例えば福島の南相馬からだとすると、出羽三山まで往復プラス修行で40日以上かかるんです。だって歩いていくんだから、1週間ぐらい山伏修行をやって、また帰ってくる。その行き帰りが楽しいらしい。

温泉に寄ったりしながら帰ってきて、40何日ぶりに帰ってくると、自分が得てきた気、エネルギーをコミュニティの人とシェアする。それで「これで1年間また大丈夫だ」みたいな感じ。

山崎:すばらしいなあ(笑)。

:でも、これって考えてみたら40数日間のバカンスでしょ?

山崎:バカンスですよね。

:毎年、毎年、夏にこんなことやってんだから……。

山崎:そうですよね。忙しい時期にね(笑)。

:江戸時代は悲惨だったって教科書で習ったのに。

山崎:ぜんぜん違うな。

:いまだに現代日本人は10日間も休暇を取れないでいる。

山崎:取れないですね。

:ヨーロッパではまだ例外的に一ヵ月以上の夏休みとかあるけど、それ以上のレベルですよ。

山崎:それはいいなあ。

:そう考えると、本当に僕らはどこかで豊かさを間違えっちゃったんだね。

山崎:そうですね。ちょっと「山伏修行に行きます」って言ってみようかな。45日休み取るために。「これ江戸時代からやっていることなので、大学からとやかく言われたくない」って。45日行ったんですか?

:いえいえ、僕は新幹線で行く(笑)。

山崎:行っちゃったんだ(笑)。

:行き帰りは(笑)。

山崎:行き帰りはね。じゃあ現実は1週間ぐらいやるみたいなことですよね。

:みなさん3日間でもいいですから、ぜひ。おすすめです。女性も。もう今、女性に人気で、男性たちは横で小さくなっていますよ。

山崎:そうですか、ありがとうございます。おっ、時間がちょうど来ているみたいですね。

司会者:ありがとうございます。初めて話すとは思えない、血のつながった親子のような息の合い方といいますか。

山崎:なんとありがたいことを。そうありたいです。

司会者:時空を超えてとても豊かなお話でした。本当に辻信一さん、山崎亮さん、ありがとうございました。みなさん大きな拍手をお願いします。

(会場拍手)

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