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AV出演強要・性被害。私たちの取り組みとこれから(全5記事)

「AV出演強要問題はまだ終わっていない」 当事者らが語る、性暴力被害で残された課題

今、AV出演強要問題も含め、性暴力被害に関する刑法などが見直されています。そのための活動を続けてきた認定NPO法人ヒューマンライツ・ナウが、AV出演強要問題の解決へ向けた取り組みを伝えるトークイベント「AV出演強要・性被害。私たちの取り組みとこれから」を開催しました。ヒューマンライツ・ナウがAV出演強要被害調査報告書を公表したのは2016年3月ですが、それから状況はどのように変わったのでしょうか。性暴力被害問題に取り組む当事者らとともにこれまでの活動を振り返り、残された課題などを語り合いました。

AV出演強要をさせられる人たちが後を絶たない

伊藤和子氏(以下、伊藤):みなさま、本日はお忙しいところお集まりいただきまして、本当にありがとうございます。今日はAV出演強要問題、それから性暴力被害の問題に関するシンポジウムです。

昨年3月に私たちがAV出演強要問題に関する調査報告書を公表して以来、今日まで本当にさまざまなご支援をいただきまして心より御礼申し上げます。この1年半ぐらいどのような成果があったのかについて少しご報告をさせていただきながら、挨拶とさせていただきたいと思います。

(スライドを指して)こちらにパワーポイントが出ておりますが、これは私たちがよくイベントをやるときに使っている説明書です。このような表紙の調査報告書を、2016年3月に発表いたしました。

前年頃からアダルトビデオの出演強要被害という問題の調査を始め、私たちもこのような被害が日本において発生していると知りました。その時「この日本でそんなことが?」と大変驚いたわけです。これはきちんと話題にしていかなければならない問題だと思いまして、取り組んでまいりました。

「モデルにならないか?」「タレントにならないか?」ということで騙されて、そして事務所に行き契約をし、入った仕事がアダルトビデオの出演だった。膨大な違約金を課され、「親にバラす」「仕事だから拒絶できない」といったことを言われて、出演強要をさせられる人たちが後を絶たない、ということが明らかになってきたわけですね。

最初はたくさんの夢があってスカウトに応じた。けれども、入ってしまうと抜けられない。そして違約金を取られる、親にバラされるというようなことを言われて、非常に虐待的な行動も含むAV出演を強要させられる。

そして逃げられない。そうやって撮影された性行為の一部始終が撮影されて公開されてしまい、ずっと二次被害、三次被害に苦しむ状況がまだ続いています。

被害者たちの声によって社会問題にできた

私たちは、これは女性に対する重大な人権侵害、そして女性に対する深刻な暴力であるということを訴え、法律問題、社会的問題として国に対策を求めてまいりました。

最初はこの調査報告書を出した途端に、とくに関係する業界の方からバッシングと言われる非常に厳しい批判を受けました。「そんな被害は聞いたことがない」というご批判をたくさんいただいたわけです。

しかしながら、人権問題はなんでもそうなんですけれども、誰にも相談できずに苦しんでいらっしゃる方がいる。自分の周りにないからといって、マジョリティではないとしても、少数派の方々がとても苦しんでいらっしゃる。それが人権侵害なんですね。

「自分が見たことがないから」という理由で否定するということに、私たちとしては負けるわけにはいかない。ということで、いろいろなかたちで取り組んでまいりました。それを後押ししてくださったのが、今日もたくさんいらっしゃっていただいてるメディアの方ですね。たくさん取り上げていただきました。

また、今日お見えのくるみんアロマさんをはじめ、勇気ある被害者の方にとっては本当に勇気が必要だったかと思います。カミングアウトをされて「私も被害に遭いました」ということを公の場で訴えられた。もしくは匿名ではあるけれども、やっぱり声を出すというようなことで取材に応じてこられました。

そういう被害者の方々の声があったからこそ、社会問題として日に日に大きくクローズアップされてきたんだと私たちは考えております。

多くの協力者を得て広まる啓発活動

これはNHKの「クローズアップ現代+」に出演した際の映像です。最近ですと、NHKの「週刊 ニュース深読み」というところにも出演させていただきました。

(映像を指して)こちらはくるみんアロマさんですね。くるみんさんは、昨年夏ぐらいに私のところに来てくださいました。「これまでの被害を解消したいというよりも、2度と同じ被害に遭う人が出てほしくない」「自分の経験を伝えたい」ということで、ご一緒にキャンペーンに参加をしていただき、その後いろいろな活動をしてきました。

実は、今日の後半のパーティでお披露目したいと思いますけれども、ジェイツという会社の方にご協力いただきまして、出演強要被害をなくすプロモーションビデオを作成することができました。

本日お見えになっていただいた方々の中にも、このプロモーションビデオを撮影するための費用をクラウドファンディングで寄附してくださった方がたくさんいらっしゃいます。心より御礼申し上げます。

(会場奥を指して)また、あちらのほうにポスターが3つあります。これは、女性に対する暴力の被害をなくしていくということで、電通様のクリエイターの方々にご協力いただき、ポスターを作成するというプロジェクトも進めてまいりました。

内閣府、省庁、警察、国民生活センターも取り組みを開始

こうやって啓発を進めてまいりまして、2016年夏ぐらいから、内閣府、警察、国民生活センターなどで、AV出演強要問題に関して調査研究をする、警察として取り組みをする、国民生活センターが注意喚起をするという変化が生まれてきました。

これまでいろんな省庁のたらい回しだった状況がしばらく続いてきましたので、私たちとしても大変焦っていたところでありますが。3月末に政府がすべての関係省庁を集めて局長級の会議を開き、緊急対策を方針決定することになりました。

(スライドを指して)これが緊急対策の際の会議の風景です。各省庁の方がいらっしゃって、官房長官が中心になってこの問題に取り組んでいくと宣言されました。

ただ、被害根絶はまだまだこれからだと思います。

みなさんのお手元に政府方針の1枚の紙がございますので見ていただければと思います。そこには取締りの強化、被害防止のために教育・啓発、そして相談体制の充実といったことがうたわれております。とくに、都道府県警察ごとにこの問題に特化した専門官を配置すると決め、そして強姦罪・強要罪等を取り締まっていくということが決まりました。

また、私が注目しておりますのは厚労省が業界団体に対してきちんと指導をしていくということ。それからもう1つは消費者庁ですね。

私たちは、消費者庁に何度も行って「AV出演強要は消費者被害として取り扱ってください」と言ったんですけれども、ずっと門前払いされてきたんです。けれども、ようやく一部消費者被害だということが認められ、少し対策が進みつつあるのではないかと思います。

AV出演強要問題はまだ終わっていない

さらに私たちは、法的対応、つまり法整備を求めています。その動きもこれから広まっていくということで、内閣府・関係省庁の中で法整備について動きが出てまいりました。

私たちとしては、まだまだ対策が足りないということで、もっと被害者がきちんと相談できる仕組み、それから発売されて追い込まれてしまう前に販売停止ができる仕組み、そしてシェルター、被害防止のための啓発などを求めております。

そして今、若い人たちへの啓発を政府がやっていますけれども、私たちも独自で行っていこうということで活動を進めております。

この問題は、まだまだ被害が続いております。私のところへの相談が絶えません。やはりこの重大な人権侵害の問題をなくしていくために、包括的な被害防止をするための法律が必要だと私たちは考えて提言をしております。

この問題、まだ終わりではありませんので、立法化を含めて私たち今後ともみなさんとご一緒に取り組んでいきたいと思っております。

これまでのみなさんのご支援に心より感謝しています。まだ課題は解決しておりませんので、引き続きご一緒に活動していければと思っております。どうもありがとうございました。

(会場拍手)

そして、当事者らによるパネルディスカッションへ

司会者:続きまして、パネルディスカッションに移ります。パネリストの紹介をさせていただきたいと思います。みなさん向かって右側、伊藤の隣にいらっしゃいますのが藤原志帆子さんです。

藤原志帆子さんは人身取引被害者サポートセンター・ライトハウスの代表を務められており、売春やポルノ出演の被害等の性的搾取を目的とした人身取引をなくすための活動に取り組まれていらっしゃいます。

その左にいらっしゃるのがくるみんアロマさんです。くるみんアロマさんは、このAV出演強要問題が取り沙汰される中、自ら被害者であると勇気を持って名乗り、熱心に活動に取り組んでいただいております。

その左手にいらっしゃるのが山本潤さんです。山本潤さんは、ご自身が性暴力の被害に遭われた経験があるということなんですけれども、現在、性暴力被害者支援看護師の資格を持つとともに、Springという組織を立ち上げてこの問題に取り組んでいらっしゃいます。

その左におりますのが、ヒューマンライツ・ナウ副理事長の後藤弘子です。本日のパネルディスカッションのコーディネーターを務めていただきます。

親から性被害を受けても、性犯罪として裁くことができなかった

それではまず最初に、山本潤さんのほうからこの問題の全体像を、当事者の立場からご報告いただきたいと思います。よろしくお願いいたします。

山本潤氏(以下、山本):みなさん、こんばんは。山本潤と申します。よろしくお願いします。本日、私は刑法性犯罪の改正を後押しした「ビリーブ・キャンペーン」についてお話しさせていただきます。

10分という短い時間の中で9ヶ月間のキャンペーンの内容のすべてを話すのは難しいので、補足資料を用意しています。そのキャンペーンの中で私が果たした役割と、どうして成功したのかということをお伝えしたいと思います。

私自身は看護師です。今から10年前に、性暴力被害者支援看護師の研修を受けました。研修を受けたのは、13歳から20歳まで私自身が父親からの性被害を経験したからです。その経験は、私自身の心身、そして人生を損ないましたし、とても大きな影響を与えました。その経験から、必要な支援を伝えるための講演や自助グループの運営などをしてきました。

(スライドを指して)スライドにありますように、日本は1907年明治40年に公布された刑法が、大きくは変わっていなかったんですね。諸外国、例えばフランスの場合、加害者が聖職とか権威を持つ場合は懲役刑とするというものが1830年に成立したり。カナダでも、未成年者の場合にはより厚い保護規定があったり、大きく刑法が変わっていったという事情があります。

(スライドを指して)赤い部分が私が被害に遭っていた時代です。今回この監護者性交等罪が成立しましたが、もしもっと前に変わっていたら、私の人生はすごく変わっていたのではないかと思っています。

2015年8月に、私自身は「性暴力と刑法を考える当事者の会」を立ち上げました。それは、刑法改正を話し合うために法務省が設置した専門家の議論があり、2015年7月にその議論を聞いたのですが、その中で「親子であっても真摯な同意のある性行為はないとは言えない」というような話がされていたんですね。

「『これ、性的虐待でしょ?でも、それは犯罪ではない』というふうに日本の法律家たちは考えているのか」と、ものすごくショックを受けました。

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