2024.10.01
自社の社内情報を未来の“ゴミ”にしないための備え 「情報量が多すぎる」時代がもたらす課題とは?
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瀬尾傑氏(以下、瀬尾):今、もう(谷家氏が柳沢氏を呼ぶ)マネして「まささん」と呼ばせていただきますけど(笑)。まささん、谷家さんにカミングアウトしようと思ったのはなぜなんですか?
柳沢正和氏(以下、柳沢):そうですね、私はゲイの当事者なんですけれども。ちなみに、「LGBTってなんぞや」というところをちょっと整理しますね。今日初めに「LGBTを知ってる?」というときにはけっこう自信を持って手が上がっていたんですけど、そのあと「意味を知ってますか?」というと(手の高さを下げて)このあたりになってですね。
1回整理したほうがいいかな、と思ったんで整理させていただきます。
「性には3つある」と思っていただくと、わかりやすいと思います。みなさん、ご自身の心に聞いてみてください。みなさんの体は、男性ですか、女性ですか? 次に、みなさん自分の心は、男性だと思いますか、女性だと思いますか?
この、体と心の性が一致しないで生まれてきた人のことを、一般的にトランスジェンダーと言っています。
先ほどの文野くんが、女性で生まれてきたけれど自分のことを男性だと認識していた、ということですね。心と体の性が一致しないことをトランスジェンダーといいます。
3つ目、みなさんの性のなかで、相手を好きになる性は、なんですか? 男性ですか、女性ですか、両方ですか? それともあまり、好きにならないですか? 相手を好きになる性というところが、私のゲイというセクシュアリティの部分に当たります。
私は男性で生まれてきて、心も男性だと思ってるんです。しかし、ある時「自分は女性が好きなんじゃなくて男性が好きなんじゃないかな?」と気付きました。
一般的に3つの山があると言われています。10代の思春期、20代、40代前半。(会場に向かって)ここには30代の方々がいらっしゃるので、まだもしかしたら気付いてないというか、その気付きの前なのかもしれません。
私は1つ目の山で気付きました。自分自身がゲイだというふうなことに気付いてから、もうひたすら隠してきたんですね。
例えば、職場では当時付き合っていた彼氏を、すべて女性に置き換えて会話をするわけです。なので年齢は一緒なんですけれども、名前は当然、女性風に変えますね。昭和だったらマサ子さんみたいな感じに変えるわけです(笑)。
昨日どこかに行ったという話も、男性同士でどこかに行ったという話になっちゃうとちょっと狂ってきちゃうんで、女性と行ったような感じの話をするわけですね。
そうすると、だんだん辻褄が合わなくなってくるわけです。嘘をずっとつき通すのは、けっこう体力がいることです。しかもですね、嘘をついていると、どんどんカスタマイズした嘘になっていく。この人にはこういう嘘だったのかな、あの人にはああだったのかな、とわかんなくなってきたわけですね。
谷家さんって、みなさんおわかりになるかと思うんですが、自分の心の底から自分の思っていることを話される。本当に自分をぶつけられるんですよ。
そういう方に嘘をついてるって、実はすごく苦しくて。人としても苦しいし、ビジネスとしても、ちゃんと心の通じ合うところでお話できなくなっちゃう。やっぱりそこが、この人にはちゃんとお話したほうがいいと思ったきっかけでした。
瀬尾:確かに、谷家さんはそういう方なんです。
今、柳沢さんはどういう活動をされているのでしょうか?
柳沢:はい。私は、ドイツ証券という銀行に勤めておりまして。まず会社を変えようと思ったんですね。
私自身、パートナーと付き合って、借上社宅に入ろうとしたんです。しかし借上社宅には、家族しか入れませんと言われたんです。私の同性のパートナーは、日本の法律上は家族ではないので入れないという回答を得たんですね。
その当時、どうしようかなと悩んだんですけれども、ここで言わないとなにも変わらないだろうと思って。そこで会社に直訴したところ、会社のほうが「わかりました」と、いろいろあった挙句に変えてくれたんです。
変えてよかったな、と思ったら次は、谷家さんのようなお客様にどうやって話をするかというところで悩んだわけですね。例えば、飲み会にお客様と行ったときに、みんなで話してて「柳沢さん、結婚してないの?」と聞かれると、すでにカミングアウトしてる周りがすごく気を遣っちゃって気まずいわけですね。
これはもう、お客様を変えるしかない。ということで、日本の企業を変えるためにいろんな人事部を集めて「work with Pride」というイベントをやっています。今年で5年目になるんですけども。1年目は50人の参加者だったのが、去年は念願のお客様の会場での開催。第一生命で開催して600人来ました。
そこでは、到達度アワードみたいなものをやりまして、先進的な企業さんに表彰などをさせていただきました。日本中にこういった動きをすすめていくという活動をしています。
瀬尾:なぜ今、企業がLGBTに関して一生懸命取り組むようになったんですか?
柳沢:そうですね、1つは人材を考えたときに、少子化とか活用という話があるわけですね。LGBTの人は今、5パーセントから8パーセントいると言われています。5パーセントから8パーセントの人がずーっと毎日自分に嘘をついて、人に嘘をついて、無駄なエネルギーを仕事の外で使っている。
例えば、私の友人でよくあるんですけども、同性2人で社宅を借りて、片方が使ってないわけです。無駄なんですね。本当にひどいケースになると、2人で住めない社宅だから、両方空いていて自分でお金を払っている。
そうするとだんだん、「だったら認めてくれる外資系で働こう」ということになって、人材を失っていく。今こういった、ビジネスに人材活用の上で直結する一種として、まずLGBTが挙がってきていると思います。
もう1つは、創造性ということですね。別に、LGBTの人がクリエイティブだと言っているわけではないんです。ただ、嘘をついていたら自分らしい発言や自分が思っていることがなかなか言えないと思うんですね。
私は、この問題は企業におけるリトマス試験紙だと思っています。みなさんの会社でLGBTという言葉を、はにかまずに、ちょっと笑わずに、お話しできるかどうか。こういうことが言えるということは、はみだした意見を言えるとか、上司に反論できるとか、普通と違ったことを言える基準になっているんじゃないかと思うんですね。
すごく良い例で言うと、ディズニーという会社があって。この会社は、みなさんご存知の通り90年代から急速に復活しました。この会社がなんで復活したかという1つの理由として、私が考えてるのは、いろんな人がいる会社になったからですね。
家族とか、プリンセスのような、すごく伝統的な価値観の会社から、カリフォルニアの最先端のいろいろな人たちが働ける会社に変わっていった。だからディズニーランドは、一番最初にLGBTを前向きに受け入れたレジャーランドなんです。東京でも、レズビアンのカップルが結婚して最近話題になったんですけれども。
こういった、違う人の多様な価値観を認めるような会社にする力を大切にするというのが、今、日本の会社が取り組んでいる2番目の理由じゃないかと思います。
瀬尾:文野さんも、レインボープライドという大きなイベントやって、そこに参加してる企業もたくさんあって。この何年間かやってきて、企業側の対応というのは相当変わってきているんですか?
杉山文野氏(以下、杉山):はい、もうぜんぜん変わってきていて。さっき、5〜8パーセントと言っていたんですけど。その5〜8パーセントってどんな数字かというと、だいたい左利きの人とかAB型の人と、さほど変わらない数と言われてるんですね。
あと、未だに「いやあ、LGBTの友達いないなぁ」「うちの会社にはいません」と言い切っちゃう人がいるんですけれども。だいたいどんな数字と一緒かというと、日本で最も多い名字トップ4の、佐藤さん、鈴木さん、高橋さん、田中さん。だいたいこの方たちが5〜6パーセントと言われてるんですね。
「LGBTの友達はいないなぁ」と言っても、佐藤、鈴木、高橋、田中さんという友達はいると思うんですよ。だから、みなさんが今までともに過ごしてきた、今現在も共に過ごしている、佐藤さん、鈴木さん、高橋さん、田中さんよりも、多い人数のLGBTの人たちと、共に暮らしてるんだというと少し体感していただけると思うんです。
一番のセクシュアリティの課題、LGBTの課題は、目に見えないことだと思うんですね。そこには、「いない」じゃなくて「言えない」という現実がある。でも、電通総研さんが7万人を対象に調査を行ったら7.6パーセントという数字が出てきたと。
そうすると、だいたい市場規模が5.9兆円ぐらい。アルコール市場とそんな変わらないんじゃないかと。具体的な数字が出てきたことによって「あれ?」と。企業としては「これはもしかしたら、いいマーケットになるのかもしれない」という視点が入ってきた。
当事者としては、「今まで散々あんなに差別だ偏見だがあったのに、金になりそうと思ったら急に手のひら返してきやがって!」ということもなくはないんですけれども。
(会場笑)
でも、それは別に喧嘩をする話ではなくて。やっぱり、一生活者として一緒に生活しているんだよ、と。「どこかの変わった人たちではなくて、みなさんのすぐ隣にいるんだよ」ということが、少しずつ伝わってきたということもあるのかなと思います。
なので、単なる人権課題として手を差し伸べるというよりも、ともに過ごしていくことも含めて、企業の方たちが注目をするようになってきたのかなと感じています。
瀬尾:いわゆる、人権問題とか、労働問題以上に、企業から言えばもう1つの課題ですけど。マーケットを広げていく、機会をもっと広げていく部分はあるわけですよね、やっぱり。
杉山:そうですね。企業さんがこういったLGBTの課題に取り組む理由は、ざっくり分けると2つあると思います。
1つは、LGBTのお客様。お客様の中にも必ずいるであろうLGBTの人たちに対して、どういった商品開発をするか、サービスの向上をしていくか。もう1つは、社内にも必ずいるであろうLGBTの当事者の人たちが働きやすい職場環境です。
マーケットという話だと、例えば、最近はウエディングの業界は本当にわかりやすくやっていますよね。日本ではまだ同性婚という、いわゆる同性同士が婚姻関係をとることは、法律上はできないんですけれども。「せめて式だけでも挙げようよ、でもどこで挙げたらいいんだろう?」というときに、わかりやすく「うちは同性パートナーでも」と広告を打ち出してもらえると「じゃあそういうところで結婚式を挙げようよ」となる。
ペアリングも、男女のカップルであれば中学生だって買いに行けるのが、同性同士だと買いに行ける場所がないんですよね。
でも、ティファニーさんは同性同士のCMを使ったんで、「こういうところに買いに行けるんだ」となる。今までなら取りこぼしていたそういったお客様のところにもちゃんと商品を出していきましょう、というのが1つ。
それと、当事者が働きやすいということ。どうしてもこういう話をすると、「いやいや、いいですよ。同性愛の人がいてもいいんですけど、職場にまで持ち込まないでくださいよ」と言われることもあるんですね。
「いわゆる大人のベッドの上の話でしょう?」という見られ方をされるんですけども、これはアイデンティティの話なのです。
さっき正和くんが言っていたみたいに、自分が何者であるか、という大事なアイデンティティになにかしらの嘘がある。そうすると、やっぱりスムーズなコミュニケーションはできないですよね。
とくに、今はグローバルに活躍するなんて当たり前になってきてますけど、未だにLGBTであるということで犯罪として扱われたり、死刑になってしまう国があったりもする。そんな中で、例えば、会社に相談ができなくてそんな国に転勤に行かされたらどうしよう、といった不安を抱えていたりする。
あと、もっと柔らかいところでいうと、「うちの奥さんの実家でこんなことがあって」と言えば上司にも相談しやすいけど、LGBTの人はそれが言えない。だからいざというときに、大切な人のなにかに駆けつけてあげられない。そういった不安で、たくさん嘘をついている間にストレスになって辞めてしまう。
そういった2つと、もう1つ言うのであれば、企業リスクもあるかなと思います。
例えば、あるパスタ会社の社長さんが「ゲイなんてうちのパスタ食べなくていいよ」と言って、もうバーッと炎上してしまって不買運動が起きてしまったり。とある市議会議員の人が「同性愛なんて異常だ」と言ってワァっと炎上してしまったり。そういったこともある。
そう考えると、僕個人としては、多様性ってある程度スキルの話だと思っていて。やっぱり知識とスキルなんじゃないかな、と。いちビジネスパーソンとしては、当たり前のビジネススキルとして、こういったことを教養として身につけておく。知識として身につけておく。
僕なんかが小さいときは「とんねるずのみなさんのおかげです」という番組で、保毛尾田保毛男ってキャラが流行ってたんですよ。青ひげ塗ったタカさん(石橋貴明)が「ホモホモ!」ってね。それで「キモイなぁ」「なんだお前こっちか」「俺に病気移すなよ」とか、そういった会話が当たり前のようにされている中で「自分もいじめられたらどうしよう」と思って怖くて言えなかった。
周りの人たちにとって、そういう人ってなんとなく気持ち悪い変な人と刷り込まれているものがあるんですよね。それを1回話を聞いたぐらいで、パチッと切り替えるというのは難しいと思うんです。
個人的にどう思うかという話とは別に、こういった時代にパブリックな場所で、そういったことに対してどういうスタンスで発言をするのか。それはもうマナーとかスキルの話なんじゃないかな、と思います。
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