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カイル・メイナード氏講演(全4記事)

手足がない冒険家を南米最高峰へ導いた瞬間的集中力「取り組むべきは“この1メートル”を進むこと」

生まれつき両手両足がない障がいを持ちながら、格闘や登山など数々の偉業を達成し続ける男の背景にあるものとはなにか。各界で活躍しているヒーローたちが講演した「HERO'S JOURNEY CONFERENCE JAPAN(ヒーローズ・ジャーニー・カンファレンス・ジャパン)」に、冒険家でありアスリートでもあるカイル・メイナード氏が登壇しました。2012年にキリマンジャロ、2016年にはアコンカグアの登頂に成功した彼を支えてきたものとは? また、障がいがあるからこそ見えてきた生き方について語りました。

アコンカグアで学んだ「集中すること」

カイル・メイナード氏:「比喩的な死」というものがあります。それを経験するのは、すごく難しいことでもあります。

私はそれを、自分が山に登ることで学びました。キリマンジャロを登山した時、私は這って登っていきました。しかし、どうなるかも想像がつかず、非常にゆっくりとしか進めませんでした。

だいたい1日6〜7時間くらい登りました。自分の腕と脚用のカスタムシューズを作ってもらっていました。バスタオルなどで対応しようとも思ったのですが、ぜんぜんうまくできなかったのです。だから、カスタムシューズを作ってもらいました。最終的に、素晴らしいカーボンファイバーの靴を作ってくれる人を見つけることができました。

もっと若い頃……フットボールやレスリングをしていた時は、前向きに夢を追っていました。なので、キリマンジャロの登山は、自分にとって前進でした。

キリマンジャロは非常に壮大で、上には雪や氷がありました。すごく恐怖に駆られましたが、数日後にはその雪や氷の中を通り過ぎていました。後ろを振り返り、今まで自分がどんなに前進したか、出発した森を見て思うのです。前に進む強さをくれるのです。

しかしついこの間、2016年2月にアコンカグアに行きました。みなさんも聞いたことがある山かもしれないですね。

およそ7,000メートルくらいの山です。キリマンジャロは1,200メートルなので、それよりも高いことになりますね。そこで4〜5日間、キリマンジャロより高い場所で夜を過ごしました。そこでもっと集中することを学んだのです。

体が動かない中、問い続けた「自分とはなにか」

例えば、今よりも「今この瞬間」に集中すること。

その時は屈強でした。本当に体中が疲労困憊していて、ゆっくりしか動けなかったのです。その時は、頂上まで残すところ700メートルくらいでしたが、体がめちゃくちゃになってしまって……。高度で空気も薄いですから、血液も大変なことになり、体は完全にシャットダウンモードになっていました。なにか食べようと思っても、体がそれを受け付けない状態でした。ギリギリでシェイクくらいあったら食べられるのではと思いましたが、無理でした。

アコンカグアへ行った理由は、キリマンジャロへ行った理由とは違います。

キリマンジャロへの挑戦は、アフガニスタンの戦争で、アメリカ兵士がちが腕や脚を失ってしまった人々を勇気づけ、亡くなった兵士の遺灰を山に持っていくというミッションがあったからです。

また、別の目的もありました。先ほど、祖母について話しましたよね。私を、ずっと目をかけてくれていた人です。その人が亡くなりました。山に行く10ヶ月ほど前でした。そこで、私はいろいろ問い始めました。「自分はどうなるんだろう」「自分にとって人生とはなんだろう」「なにをやっているんだろう」と問いかけ続け、探求しました。

自分に近しい人を亡くしたのは初めてのことした。そして山に登ろうと思いました。アコンカグアへ行くことは誰にも言わず、ただFacebookで発表しました。メディアを呼ばなかったのですが、クチコミで広がり、そしてアルゼンチン政府も知ることとなりました。栄誉ある障がい者の初登頂とニュースになったわけですね。

特別なイニシアチブをとり、障がい者のアウトドア活動を奨励していこうと思いました。そして政府の人と、観光客用のインフォメーションオフィスへ行く途中、義足をつけている人に出会いました。私は若い頃に義足をつけていました。しかし彼は旧式のもので、ホームレスのようにも見えました。なにかものを詰めていたように見えました。

彼は私を見て、私は彼を見ました。世界がそこで止まりました。そんな瞬間でした。彼は「マエストロ」と言いました。スペイン語では「先生」という意味です。私は彼を見て泣き始めました。

その17日後にはアコンカグアの最高峰に登るというタイミングでした。そしてあと数百メートルで頂上だという地点で、私の体は完全にシャットダウンしました。その時、先生のような気分にはなれませんでした。

山の一番大事なところで起きた、超自然の支援

しかし、その超自然の支援というなにかが、そこにあったのです。私を助けてくれたものが、そこにありました。説明しがたいなにかです。

最高峰に登頂する数日前です。私のガイドが変な行動をしていました。彼はなにか特別なスナックを作り、くり返し言っていました。「あなたのスナックあるよ、スナックあるよ」と。「まあ、いいよ」と聞き流していたのですが。

そして一番厳しい日、「どうやって最高峰まで登れるんだろう」と思っていた時、彼がスナックを差し出したんです。それは、今まで見たことがなかった。というより、祖母がよく持っていてくれたものが、いきなり出てきたわけです。

最高峰に登る時、ガイドは言いました。「20年の中で、最も美しい夏の日だよ」「あなたは本当に幸運だよ。この最高峰にカイルと一緒に登れるなんて、こんな幸せなことはないじゃないか」とほかのガイドたちも言ったんです。

でもその超自然の支援というなにかがそこにあったのです。私を助けてくれたものがそこにありました。説明し難いなにかが。

最高峰に登頂するという数日前です。私のガイドがなにか変な行動をしてたんですよね。そして変なことをくり返し彼は言ってました。なにか特別なスナックをつくってくれて、「あなたのスナックあるよ、スナックあるよ」という感じで言われました。「まあ、いいよ」なんて聞き流していましたが。

わかったんです。神様かなにかがそこにいて、もしくは祖母が助けてくれたのか。問題もある。体はボロボロで、私の道具もいろいろ壊れていました。登山では氷の上に突き刺すようにして歩くスパイクがありますが、右足の方が壊れていて、クリップになっていたものがすべておかしくなっていました。

私の心拍数も毎分130くらいでした。すごく怖かった。一緒に行った私のガイドが友達に「彼は最高峰まで行けないかもしれない」「カイルは4時までに行けなかったら戻るかもしれない」と言っていたんですね。山の一番大事なところで、ここぞという時に引き返さなければいけないかも知れなかったのです。

「暗くなったら死ぬ可能性もあるよ」とガイドは友達に言っていました。私はガイドを信じなければならない。けれど「チャンスはこれしかないじゃないか」と思ったんですね。そのために準備してきたじゃないか。今ここにいるために来たのに、その努力がすべて無駄になるのか? 友達は先に最高峰へ向かっている。彼らは行くけれど、私は祝福をすべて台無しにしちゃうのか?

そして、これは実際に起きたことです。後ろにいたガイドが私を元気づけるために大きな声で叫び、「登れ、登れ、登っていけ!」と言いました。1日中、私の真後ろで叫び続けてこれたのです。それは4〜5時間だと思います。それに励まされながらも、もういい加減に疲れたという感じでした。私のアイススパイクをどこかに刺したくなるような気分でしたね。

「この1メートルが大事。次の1メートルも大事」

でもある瞬間がきました。最高峰へ向かっていく友達を見て、そしてこれまでの道のりを見て、もうそんなの関係ないと思ったんです。私の後ろにいるガイドは、励ますために叫んでいる。これも関係ない。

最高峰に登るというポジティブな考え方すら、関係ない。そんなことを考えたからって、最高峰に近づくわけじゃない。どれだけ登ってきたのかも、関係ない。だって、すでに終わったことだから。

そして気づいたんです。今大事なことは、自分の下にある地面を見ること。氷を見ること。それはきれいな景色ではないです。私は1メートル先しか見えなかった。でも気づいたんです。この1メートルが私にとって大事なことなんだ。自分が取り組まなきゃいけないのは、これだけ。この1メートルが終わったら、次の1メートルがやってくる。そうしたら、それに取り組む。

ゆっくりとしたペースであろうとも、1メートルにとにかく取り組む。1メートルで止まる。そして1メートルが終わると「1メートル、行ったぞ!」と思う。そうやって認識するたびに、だんだん笑顔が出てきたのです。「この1メートルが大事なんだよ。次の1メートルも大事なんだよ」。

そう思うようになってから、1時間後のことです。あと15分で頂上だと気づきました。そして、世界最高峰のヒマラヤに次ぐ高い場所に立ったのです。

その時、誰も最高峰であるヒマラヤに登っている人はいないはず。ということは、この瞬間、私が世界で一番高いところにいたと思います。私の大好きな出来事の1つは、全裸になって用をたすことです。それをしたのですが、おそらく世界で一番高いところにいた裸の男だったと思いますよ(笑)。

そして戻った後、みなさんとそのストーリーを分かち合っています。オリンピックでも、NIKEのコマーシャルに起用されました。友達のジェフと私は、会社を始めました。すごくうまくいっていました。Instragramではペイトリオッド&シェードと呼ばれる、サングラスの会社です。世界中に旅をして、ストーリーをみんなにシェアしています。

「どんな戦いをすべきか」は誰にもわからない

私の人生が今現在このようになるなんて、過去に挑戦に目覚めた瞬間でも、アコンカグアの頂上にたどり着いた瞬間でさえもわかりません。無事に目的地にたどり着き、こうやってみなさんに経験を話していることすら想像していませんでした。

みなさんがどんな戦いをしなければならないかは、わかりません。どんなビジョンを自分の人生にもたらせるべきかもわかりません。それぞれ異なっているでしょう。もしかすると登頂するのではなく、ビジネスをすることかもしれない。世界のどこかを旅することかもしれない、あるいは誰かと恋愛することかもしれない。自分の健康を変えることかもしれない、ファイナンスを変えることかもしれない。

それがなんであれ、あなたが創造したいものです。あなたはクリエイターで、ストーリテラーなのです。あなたの人生、あなたの神話。それは本の中で読むことではないかもしれない。

デビッド・ソーローが「ある時点では止まって考えるのも止めて、読むのも止めて、そして本を置いて、(現実の)世界に入らないとダメだよ」と言いました。人生を作り出しなさい、と。

私は「なんでも可能だよ」とよく言いました。私は、そのスピリットを信じています。NLPの前提も信じますよ。その背景にあるものも。

道具を作れるし、なんでも可能にできると思います。もっといい言い方があると、今は思っています。私たちは自分がいるところに関する真実を語らなければいけないということです。

そして今、人間として、現時点での肉体的物理的な限界がなにかを語り、知らなければなりません。どんなことであれ、私たちの肺の中にどれだけの空気があろうが、山を登っている時、厳しい試練を乗り越えている時、「死んでなければ辞められない」「これは死ではない。そこでやめることはできない」と、私の中でマントラをいつもくり返しています。

ドアはあなたのためだけに開いている

私の親友のジェフは10年間の米軍の訓練を終えました。彼は海軍にいました。私たちはこメンターとかガイドについて話しました。モンキーマインドについても話しました。

このマインドは、頭にさまざまな雑念が入ってきて、自分が追求したいと思うものから気持ちを逸らしてしまう状態です。その雑念はひっきりなしにやってきて、どこから出てきたんだろうと思うほどです。それに気付いた瞬間に、レスリングのようにその雑念と向かい、倒していくんです。あるいは、カーボーイのようにロープを持ってバーンと掛けて引っ張り込み、戦うわけです。

雑念に対し、「あっ、それクレイジーな考え方だよ」と言ってみたり、その考え方をきちんと考えずに「やりたくないよ。怖いよ」と急に違う感情が出てきます。あるいは「難しすぎるじゃないか」「準備ができていないじゃないか」という気持ちも湧いてきます。

でもその考えが出てきても、最初に思い浮かんだことを止められません。本当のあなたは、その考えに対する考えなんです。

時に、その考えは言い訳になることもある。あるいはその考えはなにか人生を変える種になることにもなるんです。そして未知の世界に続いていく種になることがあるんです。

ですから、あなたがメンターになることもあるんです。あなたを待っている人がどこかにいるんですね。ジョセフ・キャンベルは言います。「ドアはあなたのために開いている。他の人のために開いているのではなくて、そのドアはあなたのためだけに開くんだ」と。

つまり、あなたのドアはあなたのために開くのであり、ロバートやジュディやカイルのために開くわけではない。他の誰のためでもなく、そのドアはあなただけのものなのです。したがって、あなた自身のヒーローズ・ジャーニーを始める必要があるということですね。

それを止めるような大きな言いわけなんて、1つもないのです。限界を知ってください。でも、それを打ち破ろうとすることを決してやめないでください。そして自分が本当に深いところで試されたとき、なぜやっているんだろう、なぜこれが大事なのかという大きな理由を見つけてください。そ

して気付いてください。おそらく、すべてが可能になるかもしれないということを。私が心の底から思うことは、みなさんが自分自身を刺激し、奮い立たせるものを見いだすことができれということです。みなさん、ありがとうございます。

(会場拍手)

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