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ロバート・ウォルター氏講演(全4記事)

「現代が孕む問題は、1人の英雄の力では解決できない」ハリウッド映画でわかる、キャンベルの神話学

各界で活躍しているヒーローたちが講演した「HERO'S JOURNEY CONFERENCE JAPAN(ヒーローズ・ジャーニー・カンファレンス・ジャパン)」。ジョーゼフ・キャンベル財団の創設者であるロバート・ウォルター氏は、名著『千の顔をもつ英雄』などで知られるキャンベルの神話学について語りました。

私たちの未来は常に他人と一緒にある

ロバート・ウォルター氏:覚えていますか? キャンベルは、社会学的なビジョンというものは、私たちを社会につなぎとめているものだ、と言いました。私たちには地平線というものなんてない。なぜなら、溶けて消えてしまうんです。

象徴的な私たちの社会、私たちの21世紀のすばらしさ、22人の哲学者によって書かれた本、というもののなかでは、私たちの現代の社会の中では、そこで終わり、というものはない。なぜなら、消えてしまうものはそこら中に溢れているから。

そして私たちの未来というのは常に他人と一緒にあるものです。自分とは違う、他人と。彼らはそのなかで文明をもっていて、天使や悪魔や、ジキルやハイドや神や、人間といったものがすべてその中に含まれているんです。でも私たちは、地球を1つの大きな宇宙船として見るんです。なぜなら、月のうしろに地球という宇宙船が浮かんでいるんですよね。そこから見ると、私たちはもうそういった部族や国といった小さなくくりでは表せないのです。

私たちは地球市民なんです。私たちは宇宙の中の砂漠の中で地球という神聖なオアシスに住んでいます。もしかしたらある日私たちは、地球人と火星人の争いに直面してしまうかもしれません。でも、それは起こるべくして起こることなのです。でも同時に、そこに現れる英雄もまた私たちであるということなんです。

キャンベルは、「どんなコミュニティに今自分がいるのかを見てほしい」と言いました。自分たちのことを、唯一選ばれたコミュニティだと思うことは、もうすでに古臭いものです。それこそ古代バビロニア時代のような世界観をもっているということです。私たちが本当に、宇宙の市民であるということ。それこそアレキサンドリア時代、古代ギリシャの頃の時代に信じられていたことが、もう現代では現実となっているのです。

そして、私たちの意志全てがそこにすべて行きつくべきだと思っています。私たちの神話というものは、そのの象徴です。

私たちのシンボルは商業化されている

そこでまた新たに現代社会ならではの問題が出てきます。何年か前に、インタビューをしました。私たちにとっての共通的シンボルは何か、と。第1にあがってきたのは、コカ・コーラですね。2番目はマクドナルドの黄色のアーチです。そして3つ目がApple社です。4番目が、NIKEのロゴですね。

そして、5番目がキリスト教の十字架です。イスラム教を象徴するものなどは、多くの問題を引き起こしているのですが、それらの宗教的なシンボルはトップ10にすら入っていません。ですので、シンボル的な言語というものは、今ではすべて商業化されているのです。そして私たちは、すでにそれらをもちあわせていないのです。

では、私たちはどこに向き合っていけばいいのでしょうか。テレビスター? 映画スター? 雑誌の表紙に出てくるような人たち? それともメディアのセレブリティ? それとも想像上のスーパーマンや、またはそういう悪役? バットマン? ダークヒーロー? X-MEN? そういったものに向き合うべきなんでしょうか? 違います。今こそ現実にあるものと向き合うべき時期なのです。

それらすべてはもう機能していないからです。そこに、白い騎士が颯爽と現れて私たちを助けにきてくれるわけではないのです。私たち自身が、私たちを助けなければいけません。私たちは自身の映画を一コマ一コマ生きているのです。

ですので、意味のあるシンボル、または英雄の姿というものをつくらなければ、私たちは今日の私たち自身をつくることができないのです。

それにはまず、ヒーローズジャーニーを見直すことから始めないといけません。なぜなら、ヒーローズジャーニーは、そういった神話の起点にあるものだからです。そのなかからシステムが浮かび上がるのです。

ではちょっとスライドを見ていただけますか? このスライドです。これが、いわゆる基本的なパターンです。ここで、分離が見られます。そして荒野。魔法での飛翔、龍との闘い、これらすべてのものが冒険なわけです。

キャンベルが選んだ、基本的な概念です。私たちは、今日では、もしかしたら違うもの出会うかもしれませんが。もしかしたらそれらは私たち個人個人によって全く違うものに見えて、そこから勇気をもらっていけるのかもしれません。

現代が抱える問題は、1人の英雄では解決できない

では、ジョーゼフ・キャンベルが提唱した定義に戻ります。

英雄の定義をみてみましょう。英雄とは、宗教的、神話的姿、そして神によって与えられた能力や信仰をもち、神聖さを兼ね備えていると考えられる存在です。

では振り返ってみましょう。神話的、宗教的な存在とは何なのか。覚えておいてほしいのは、みなさんはこの影響を直にをうけているんです。あなたや私たちが、人生という神話的な映画の一瞬一瞬をつくりだしているのです。

自分以外の誰が、この映画の神話的、伝説的な姿になることができるというのでしょうか。誰が、そういった能力や力を持っていると言えるのでしょうか。1人1人が、それぞれ固有の能力をもっています。それはあなたも一緒なのです。

キャンベルは、「人生の特権、そう、人生で最も長く持ち続けられる特権というものは、それはあなたがあなた自身であることだ」と。あなたへの贈り物とは、あなたがあなた自身であるということ、そしてそれは他のすべての人にとっても共通のことなのです。

ですので、神によって与えられた力や能力、宗教的または伝説的な姿というものは、文学、西洋、東洋問わず、それこそ神の王など、さまざまな形で表現されます。けれども、私たちもまたその1つなのです。ですので、伝説の英雄の姿というものは、それ自体が特別な能力といえます。

キャンベルは、「私たちの生物学的研究、科学というものは、私たちがこの美しい惑星の子どもであるということを証明している」と言いました。「私たちはなんらかの神によって送り込まれたものではない」と。そしてその事実を受け入れ、「個人による英雄的な行いというものは、現代の荒野に対する問題の解決には十分ではない」というふうに言ったんです。なので、私たちが英雄とはなにかを、いま再度考える必要があるのです。

英雄とは何か。それこそつまりみんなで集まってなにかを為せるような英雄を今考える必要があるのです。それは今、X-MENを観たりアベンジャーズやマスターズ・オブ・ザ・ユニバースなどの、そういった映画を観ればわかると思います。個人個人の英雄がいて、それぞれが、自分だけの特殊な力を持っていますが、彼らはあのようにみんなで集まって力を合わせることではじめて問題を解決することができるのです。

私はスタートレックファンについてを理解するため、ウィリアム・シャートナーという人と一緒に、ドキュメンタリーをつくった人へインタビューしました。彼はこう言っていました。ヒーローとは、エンタープライズ号(スタートレックにでてくる宇宙船)だ、と。なぜなら、それは普通ならば、到達できない深さまでたどり着くことができているからだ、と。

私たちが直面する問題や、倒さなければいけない龍というものは、地球市民1人ずつが抱えるにはにとても大きすぎる問題なのです。

次の冒険のステージに向かう合図

それは、我々が与えられているすべての贈り物を寄せ集める必要があります。私たちは、自分の持っている責任を、すべてそこに集約させなければいけません。これはもしかしたらおかしく感じられるかもしれません。

けれど、こんな話を聞いたことはありませんか? 1人が海でおぼれて、そしてその時海岸にいた90人の人が、人間の鎖となってその人を助けたという話です。

その90人の中の一人ひとり、そしてそのグループそのものが英雄だったのです。1人を助けるために、団結する英雄の姿。それこそが、まさに私が話していることです。

また、もう1つの事例をお見せしましょう。これは短い動画になるんですが、とてもいい事例だと思っています。ヒーローズジャーニーがいかに集団でこそ発揮されるのか、という事例です。

(動画が流れる)

私たちのトレードマークでもあるイーライ・リリーに、ヒーローズジャーニーアートプロジェクトのために提供をお願いしたんです。出発、創業、でそのあと帰還になってくるわけですね。それぞれの始まりはとても小さくて、個人個人によって成されています。また、多くの人たちが今もそれに携わっています。

これは私にとっても素晴らしい例です。他にも、例えばさっき言ったような、宇宙船が月に行ったというような例があります。その宇宙飛行士の人たちは、月に行くために色々なことを犠牲にしてきたはずです。そのなかの本当に素晴らしいストーリーというのは、彼らは、自分自身の利益のためだけには動いていないということなのです。これこそが、集合的ということなのです。

ジョーゼフ・キャンベルは、「人生の意味とはなにか?」と問いかけています。私たちが欲していることは、いま生きているという経験そのものである、と。そしてそれは、一瞬でもいいから、誰かと一体になって集団のために働くことで、新しい現実を生み出すことだと言っています。

夜に、電話が何回も何回も鳴り続けます。必ず応答しなければいけない電話が、何回も何回も鳴り続けます。そして私たち一人ひとりが、自分のその呼び声に応えないといけないのです。でも一番重要で、気が付かなければいけないことは、私たちは1人ではもう抱えきれない、ということなんです。

もしかしたら、この電話はいろいろな方法でくるかもしれません。例えば、真夜中にあるかもしれません。もしかしたら、お皿を洗っているときに泡の中から、あるかもしれません。または、本当に電話が鳴るかもしれません。

どこからどのような感じで呼びかけてきたとしても、それがあなたの、次の冒険のステージにいくという合図なのです。そうすると、もちろん別離が生じてきます。けれど、今まで慣れ親しんだ土地から離れていく、そしてもうダメだと思う土地から逃げていく、または出発するということは、より高い場所に行くということなんです。そして為すべき目的を達成していくということなんです。

でも、自分が、毎日のタスクのみにとどまっていると、頂上に行きたいというビジョンが見えなくなってしまうんです。でも忘れないでほしいのは、世界を動かすためには、内側にいるだけではいけないということです。「寝るのに戻ってはいけない」という言葉を聞いたことがありますか。つまり、欲しいものは追い続けなければいけない、まだ眠ってはいけない、ということを表しているのです。

魂というのは、こっちに行こうか、どっちに行こうかと思っていて、まだまだ眠りに落ちてはいけないんです。扉は今常に、開いているんです。だからまだ眠ってはいけないんです。眠りに戻ってはいけないんです。そして、その戦いの次の手で、それを見失ってしまうかもしれません。「ここはもう、いてもいい場所ではないんだ」と。

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