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がん予防が切り開く新しい社会(全4記事)

大腸がんに有効な予防策とは何か アスピリンを用いた“先制医療”の未来

2016年11月3日〜6日の3日間にわたって、「サイエンスアゴラ2016」が開催されました。キーノートセッション「がん予防が切り開く新しい社会」に登壇した石川秀樹氏は、「がん予防研究の学術的な進歩」をテーマに講演を行いました。

がん予防研究の学術的な進歩

石川秀樹氏:京都府立医大の石川と申します。今日、私からはがん予防の臨床試験の現場についてご紹介したいと思います。よろしくお願いします。

私どもは厚生労働省の研究費を中心にして、20年以上前からがん克服・第3次対がんというかたちで、10年単位で研究をやってきました。

最初の頃は食物繊維や乳酸菌を投与する臨床試験、その後はアスピリンを用いた二重盲検の臨床試験などをやってまいりました。今日はまず最初に、二重盲検の試験からご紹介したいと思います。

アスピリンを用いた二重盲検の臨床試験

アスピリンを用いて大腸腫瘍の予防ができるかどうかという試験をJ-CAPP Studyで行いました。

やはりがん予防の研究でもきちんとしなければいけないので、二重盲検試験をやらなくてはなりません。

プラセボを使って、本物か偽物かわからないものを患者さんに飲んでいただいて、このアスピリンが効くかどうかを見るということで、ドイツのバイエル社から薬を輸入して試験を行いました。

カレンダーシートを作って、本物か偽物かわからない状態にして、患者さんに1日1錠ずつ2年間飲んでいただきました。

実際には、このような箱に入れました。これで患者さんの2年分の薬になります。これを本当のアスピリンなのか、偽物のプラセボなのかわからないというかたちで患者さんにお渡しいたします。

鈴木貞夫先生に試験統計家になっていただき、データセンターと倫理モニタリング委員会を設置して、試験を始めました。

対象は、早期癌・腺腫を持っていて、それらをすべて切除した40〜70歳の男女の患者です。アスピリンまたはプラセボを2年間飲んでいただいて、新しい腫瘍が出てくるかどうかを確認するわけです。

患者さん390人に声をかけました。除外条件等がありまして、患者さん384人に2つのグループに分かれていただきました。

アスピリン群が188人、プラセボ群が196人です。2年間きっちり飲んでいただいた152人と159人で解析しています。

喫煙・飲酒を好む人に対するアスピリンの効果

結果は、非常に効きました。わずか2年だったのですが、アスピリンを飲んだ方では、腺腫の発生が0.60ということで、3分の2ぐらいになりました。非常に効果的だったと思っていますが、さらにサブ解析でタバコを吸う人と吸わない人で分けてみました。

タバコ吸わない人ではさらに減りまして、アスピリンを飲みますと、わずか2年の服用で、腺腫の発生が3分の1になります。逆にタバコを吸っている人は(腺腫の発生が)3倍に増えてしまいました。非常に驚いた結果です。

また、お酒をたくさん飲まれる人にはアスピリンが効かない。それに対してお酒をあまり飲まない方にはアスピリンがよく効くという結果になりました。

欧米ではいくつか報告があったのですが、東洋人でもアスピリンが効くことを世界で初めて証明したということと、タバコを吸うとアスピリンの効果が逆に働くということで論文を報告することができました。

追試をいくつかの国がされましたが、やはりタバコはアスピリンの効果を逆転するという報告がされています。アメリカやヨーロッパでも、同じようにアスピリンを使うと大腸腫瘍の発生が抑制されるということが言われています。

このデータはあくまでも良性の腺腫なんですけど、実際にがんにおいても、長期間の追跡をすると大腸がんの発生が抑えられるということがわかりました。

先制医療による大腸がん予防

これは今年(2016年に)出されたものなのですが、アメリカでは40〜69歳で、心筋梗塞などのリスクのある人は大腸がんの予防のためにもアスピリンは飲んだほうがいいと勧告されています。

ただこれは、「一般の人もみんな飲みなさい」というわけではなくて、「心臓の悪い方はアスピリンを飲むと大腸がんの予防にもなりますよ」ということです。

アスピリンが大腸がんを予防することはほぼ確実なんですけれども、これをみんなが飲むべきかどうかということを次のステップで研究すべきだと考えました。

それで平成26年から、「がん化学予防薬の実用化をめざした大規模臨床研究」というものを始めました。その中でのキーワードは、「先制医療」です。

先制医療というのは、個人の遺伝子などを調べて、将来起こりうる病気を前もって診断・予測して、そこで介入を行うということで、病気になる前に病気になりやすい人を絞り込んで、その人たちに予防しようということです。

大腸がんに関しては、遺伝子を調べて、大腸がんになりやすい人に、腺腫が出る前にアスピリンを飲んでもらうことができるかどうか研究しようと考えたわけです。コントロールは、ヒストリカル・コントロールで「Japan Polyp Study」という3,000人規模の試験を行っています。

これは内視鏡検査をして1年ごとに大腸を見るのがいいのか、それとも3年あけたほうがいいのかという研究で、これはもう終わっています。今、長期追跡をしているところです。

これ(スライド上の図)と同じ集団7,000人にアスピリンを飲んでいただいて、こちら(スライド上の図)のグループよりも腫瘍の発生が抑制できるかを見るとともに、全員の遺伝子を濾紙法によって集めて、SNPs、遺伝子の多型を調べます。

SNPsは体質を調べるものなんですけれども、飲酒とか喫煙、アスピリンなどの体質を調べていくことで、全員の遺伝子を集めて調べていく予定にしています。

全国の大腸を専門にしている先生方に参加していただいて、現在7,000人のエントリーをしている最中です。今日現在で1,500人以上のエントリーが終わっています。

10年後に実現したい大腸がん対策

こういう試験をして、実際に大腸がんになりやすい人を遺伝子で調べて、その人たちに予防していくということなんですけども、最終的にどのような戦略を考えているかを最後にお示しして終わりたいと思います。

大腸がんにはリンチ症候群とか家族性大腸腺腫症など、遺伝性の病気がいくつかありますので、30歳頃に追跡できる家族歴を調査し、場合によって遺伝子検査を行います。

それでその遺伝子情報に応じて、便潜血や内視鏡検査を行って、50歳頃で全員に内視鏡検査を1回ぐらいは受けていただいて、腺腫の有無でリスクも評価して、場合によっては内視鏡検査をする、場合によってはアスピリンを飲んでいただくということです。

大腸がんになる前にこのような仕組みで進めていけば、今、日本で一番多いがんである大腸がんは、女性では亡くなる方も一番多いがんですけれども、これを対策できるのではないかと考えて研究を続けています。以上でございます。ありがとうございました。

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