2024.10.01
自社の社内情報を未来の“ゴミ”にしないための備え 「情報量が多すぎる」時代がもたらす課題とは?
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秋山:あとは残り時間、会場からのみなさんのご質問に対してお答えいただくという感じのセッションにしていきたいと思いますが、どなたかご質問はいかがでしょうか?
質問者1:秋山さんに。今、最後にまったく違う意見だとおっしゃいましたので、それをトークしていただけたらと。
(会場笑)
秋山:すいません。手短に言います。私は自分の思考回路や行動様式をほとんど自覚できているのです。なんていうと偉そうですが(笑)。どういうふうな状況になって、どういう変化があれば、どういうふうに行動するかということは、あらかじめ式で表現できると思っているんです。
だから、人間というもののほとんどの人が、自分もそうですけど、こういうシチュエーションでこういう掛け算して、こういう変数入れたらこうなるって、プログラミングできるのではないかと思っているので、おそらく自分クラスのレベルの知的労働者というのはもうほぼ全滅するだろうと認識しているのです。
そんなことで、みなさんのようにあまり楽観的な意見はまったく持っていないということでございます。
すいません。それでよろしいでしょうか(笑)。
(会場笑)
秋山:あと、他はいかがでしょうか?
質問者2:貴重なお話をありがとうございました。質問は1つなのですが、今日の最初のお話の中で、日本における同一労働同一賃金は非正規と正規の格差是正の文脈というお話は非常に理解ができました。
ただ、その大前提として、じゃあ正規の賃金体系が適正なのかというところで、今日も出ていましたが、やっぱり職能で同一労働同一賃金にいくということは、基本的に職務給にならないといけないと思うのですが、職務給にするためにはジョブ・ディスクリプションがきちんと書けないとならなくて、それが難しいからこそ、役割給が普及しているという理解なのです。
その辺はどのようなアプローチをしていけばいいのかということを教えてください。
山田:これは山本さんへ。
秋山:あとで専門家がいますので。あちらに振りますので。
山田:賃金はすごく難しいのです。いろんな要素があって、少なくとも最低クリアしないとダメなのは、1つはまさにその仕事に対しての対価ですよね。でも一方で、生活できないとやっぱりうまくいかない。
やっぱり生活を……生活というのは、家族として生活していくということです。もちろん1人で生活しているケースもありますが、それも含めた家族が成り立っていくためということじゃないと、賃金の役割を果たさないのです。
そう考えると日本の年功賃金は実は合理的なのです。それは社会の仕組みとして、男性が働いて、女性が家にいるのが当たり前だったころは。基本的には子どもの教育コストや生活費など、いろんなコストは男性が稼ぐ。それで全体が成り立っていたので、実はものすごく合理的にできていた。
ところがこれが、やっぱり社会の変化によって、男女が働いていかないとダメになってきたので、同一労働同一賃金の話が出てきているという、そういう文脈なのだと思うんですね。
それで職務給でないとダメかというと……結局、日本のあり方というのは、まさに個人が生活していくためのコストを誰が払っていくのかという部分ですね。そこに対して社会としてどのように仕組みを作っていくかという話をしていかないと、たぶん職務給を入れてやったとしてもうまくいかないのです。
これを言うとあれですが、成果主義というのはそういう発想だったのです。そこだけを取り上げてやっていく。でも、生活があるからうまく回らない。
山田:それともう1つは、やっぱりおっしゃるように、賃金制度もそうなのですが、ベースにあるものは、今日の話にもありましたが、ある程度労働移動があって初めて本当の意味での職務給が成立すると思うのです。
これを言うと本当にお叱りを受けるかもしれませんが、日本の今の風土で、少なくとも外資系の世界と一部の企業を除くと、名前は職務給といっても、これは本来の職務給ではないと思うのです。役割給という言い方でもいいのですが、要は職能給ベースで、これは、昔はポストと資格で分けてやっていたのを、ポストに連動される仕組みにしたということです。
だから、その分というのは、賃金制度のところをやっぱりおっしゃるように変えていく、それでジョブ・ディスクリプションをやるということも大事なステップの1つなのでしょうが、ただ、それよりはもうちょっと社会全体が変わっていかないとワークしない。本当の意味で職務給がワークするには、ジョブ・ディスクリプションの問題というよりも、労働市場ができあがってきて。
たぶんジョブ・ディスクリプションは、外資でもみんな入れていないですよね。入れているケースもありますが、実はやっていないケースもけっこうあります。教科書的にはそう言われていますが、私としては、本質はそうではなく、賃金制度というより雇用制度というか、そこでどう流動的なものができるのか?それから実は裏側にある生活のコストを誰がどう賄っていくのかなど、その問題があって初めて本当の意味で成り立ってくる。
だから、私はそういう意味では、社会改革などがこの先、人口動態という話をしましたが、そこからそういう方向に持っていかざるをえない。だから、流動的なものができあがってこない。ですから、こういうのを作るのが必要だということですね。
まあ、スウェーデンの話をちょっと言えば、もうちょっと社会全体で子育てしようといった、やっぱりそういう議論を本当にやらないと、同一労働同一賃金の世界には近づいていかないのではないかなと考えています。
中村:まさに正社員の賃金体系を変えていくということがとても難しいと思っていまして。「どうやったら変わるんだろう?」と考えた時に、大手の製造業など、日本的雇用環境を堅牢に、かつ、国際的にも極めて競争力高く成立させている企業群が、今、職能資格制度であることを職務等級に変える必然性は実はないと最近思っているのです。
そういった意味でいくと、例えばIT、サービス、介護といった成長産業と言われている第三次産業、これから日本で伸びていく業種や企業群のところで、より将来性があるような、職務等級も含めた制度が入っていく可能性があるんじゃないかと思っています。
要は、日本的雇用といって全部の話をまとめてするのではなく、業種や職種に分けて、賃金制度の改革など新しい制度の仕方を議論していくということがありえるのだろうと最近考えています。
ここら辺で山本先生にバトンを渡したいのですが。
秋山:元プライスウォーターハウスの人事コンサルティング部門のパートナーの山本さん、お願いします。
(会場笑)
山本紳也氏(以下、山本) :たまたま3人とも知り合いなので、私に振られたのだと思いますが。
まずは、ためになるお話ありがとうございました。一つひとつの話はとても面白かったし、勉強にもなりました。ただ、正直言うと、3人のお話を聞いて、私の頭の中で整理できていないこともありまして。すいませんが、ご質問に答える前に質問なのですが。
秋山:職務等級……ご質問は、職務ベースの例えば評価とか、その等級レベルの設計が難しいものに対してはどうしたらいいですかという、まずその簡単なところから。
山本:いや、多分、それが僕の質問とおそらくセットだと思います。まず、その同一労働同一賃金という議論は、要はマクロのもので国として政策的に同一労働同一賃金を入れたいという話をしているのか、会社として「お前らしっかり考えろよ」という話を、個々の会社の閉じた中で「同一労働同一賃金は守らないとダメでしょ」という話をしているのでしょうか。
秋山:今までの話でいくと、きっと山田さん的には今回の同一労働同一賃金の世界観を入れることを通じて、ある種この国の中の労働慣行そのほかのシステム自体を全面転換したらどうかというご意見だと思います。
中村さんのほうは、今、中村さんがどうかではなく、まず厚労省側で進めているプロジェクトの中で、主流の意見となっているのは「それは話としてはあるかもしれないけど、難しいから……という段階においては、それぞれの会社の中で、特にメインのところは、正規と非正規みたいなところは、もういくらなんでもそこの部分はちゃんとしてよ」という感じの意見に収斂しそうだと、司会のほうでまとめますとそんな感じのご意見の状況ではないでしょうか。
山本:まず先のご質問について、私の知見から言うと、人事の方はおわかりだと思いますが、日本以外の国では同一労働というのを職務等級で統一しています。でも、それと賃金とは切り離された話なのです。
日本の場合は、等級をセットしたら、それで給料が決まります。だから、同一労働を等級化すると、それで給料が決まるというのが日本の考え方じゃないですか。ほかの国へ行くとそれは違うのです。
職務等級というのは、市場や世の中的にどのぐらいのレベルであるかを決めるものであって、それがいくらかという値札をつけるのは市場であって会社ではありません。そこが根本的に日本と他の国とでは違っています。
日本の場合は、同一労働という等級を決めると、その値札を会社が付けにいくことになるので、ここがもう根本的な違いがあると思います。
先ほど「マクロですか、各個会社ですか?」と聞いたのは、例えば、山崎パンでパンの焼き方を、どういうトースターでどのぐらいどう焼けばどういうふうに焼きあがるかというのを決めるプロフェッショナルは、たぶん研究開発の部署ですごく重要なポジションでしょう。
ところが、わかんないですよ、作り話ですが、今度は味の素さんが新しいバターを生み出そうとした時にパンを焼ける人間が必要になると、やることとやれることは山崎パンと一緒だとしても、その会社における相対価値はぜんぜん違って当然です。
それぞれが同じ等級制度を使っていたとしても、山崎パンでその人には高い等級がつくんですよ。でも、味の素でそれを始めた時には、そんなものこの先どうなるかわからないのに高い等級をつけることはできません。だから、給与の差はそこに出ます。
しかし、労働市場の成熟化した他の国に行くと、この人たちはリプレイスがきく労働市場があると市場内を動くので、これは社内的にはどれだけの価値であろうとも同じ給料、すなわち市場価格を払わなくちゃいけないのです。だから、他の国でいう同一労働同一賃金という概念は少し違う話なんですよね。
秋山:マーケットバリューということですよね。
山本:そうなんですよ。
秋山:市場価値的にそれらの同一賃金みたいなものが制定されていきますという。
山本:だから、そのイメージを持ってこれを語るとたぶん違っていきます。政府が言っているのは、まさに「正規・非正規で同じ仕事をやっているのであれば……」というところに限定して話をするのであればもう少しわかりやすいのですが、現状はなんの話をしているのかというのがわかりにくくなっちゃったなというところがあります。
山本:あとは最後におっしゃっていた、エグゼンプト・ノンエグゼンプトという言葉が正しいかどうかわかりませんが、やっぱり食べれる・食べれないという給与水準の人と、ホワイトカラーで1,000万円もらうという人の話とはやっぱり別議論だなというのを感じるところはあります。
秋山:最初のところにちょっと戻ると、社内的な重要性はそこそこで決めたらええやんみたいな感じですよね。むしろ等級ベースみたいなものが本当に決まってくるのは、本来であればそれは市場が決めるものであって。別に社内的に精緻にきちんとした評価があるから、どっちのほうが上とか何等級とか決める必要が本来はないのですという話をされているという意味ですか。
山本:もう1つ追加でいうと、それで納得がいかなければ、ほかの国では辞めるのですよ。だから、従業員が納得できないことは会社はできません。けれども、この国では文句を言うけど辞めないので、会社が勝つんですよ(笑)。その難しさがあります。
でも、そのままでいいと言っているわけではありませんよ。そこで市場原理が働かない難しさというのは、私以上に山田さん……ご存知ですよね。
山田:だから、中村さんがおっしゃっているように今回はね……そこからやっぱり入れるしかないと。
山田:そういうところが、実際にやっぱり中村さんも入られていた議論というのがね、やっぱり実際の企業の中でどうするかということになってくると、そことちょっとずれてくるわけです。
でも、これまで非正規の人の賃金が上がらないものだから、政府が介入して、そこの格差を是正していこうと。
こういうとあれなんですけど、かなり短期的な、良いとか悪いという意味ではなくて、まさに今の問題への対応なのですよ。
でも、たぶんまさにキーワードの同一労働同一賃金と言った時の本来の意味というのは、山本さんが先ほどおっしゃったように、もうちょっと流動的な、市場でもって賃金が決まっていくような方向に日本をもっていかないと、いろんな問題が解決しないのではないかなというのが僕の問題意識で。
秋山:もともとマクロ経済の方ですもんね。
山田:「本来の文脈でやっぱり考えていかないとダメなんじゃないの?」というのが、この今回の本の趣旨なのです。
ただ、それは賃金制度だけの問題ではなくて、本当にまさに職業別労働市場を作っていくとか。でも、それは欧米とはまったく一緒にはならないので、日本のあり方を考えながら設計するといいのではないかと。だから、あまりにも実務的な観点からこの本を読まれると、ちょっと違うなということです。ただ……。
秋山:マクロ的社会変革のすすめですよね。
山田:そうなんです。でも、同一労働同一賃金など、いろいろと働き方改革がテーマになる背景には、やっぱりそういう問題が底流にあると思うので。人事の方、働く人々として、あるいは企業の人事としても、そこの底流にある問題に関してはやっぱり考えていただきたいなというのがこの本を書いた趣旨だと思っています。
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